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【 健 康 日 記 】

【目次】

◆有名人の言葉
◆生活習慣病
◆心の健康
◆健康食品/サプリメント
◆肌と健康
◆有名人の死因
◆最先端医療
◆食育/子育て
◆水と健康
◆肝臓病
◆運動と健康
◆睡眠と健康
◆アルコール類
◆パラドックス
◆医薬品
◆食べ合わせ健康法
◆肥満・ダイエット
◆タバコ
◆環境問題
◆胃腸の病気
◆疲労感
◆感染症


◆メタボリックシンドローム
◆健康食品問題
◆ガンについて
◆心臓病
◆日本人の寿命
◆食品問題
◆食品/食事と健康
◆病気一般
◆介護の問題
◆アレルギー
◆入浴・温泉/放射線
◆糖尿病
健康ブーム
◆血液と病気
◆健康ことわざ
◆感覚器官
◆脳の病気
◆免疫力
◆カゼ・インフルエンザ
◆医療費問題
◆代替医療
◆サプリメントQ&A

◆  有名人の言葉


学ぶ心(松下幸之助)

 学ぶ心さえあれば、万物すべてこれわが師である。
 語らぬ石、流れる雲、つまりはこの広い宇宙、
 この人間の長い歴史、
 どんなに小さいことにでも、どんなに古いことにでも、
 宇宙の摂理、自然の理法がひそかに脈づいているのである。
 そしてまた、人間の尊い知恵と体験がにじんでいるのである。
 これらのすべてに学びたい。

松下幸之助の言葉
事にあたって、行き詰るということはない。行き詰るということは、行き詰るようなものの考え方をしているからである。
素直な心があれば、おのずから謙虚な気持ちも生まれてくるし、人を許す心も生まれてくる。
些細なことを、おろそかにしない心がけが、人生を大きな成功に導く。
われわれはプロである。その本業に全身全霊を捧げて、そこに喜びがわかないような者は、その本業から去らなければいけない。
いまが最善だと思っても、それは今日の最善であり、明日の最善ではない。
考えて行動し、行動してまた考えなさい。その繰り返しによって、きみは成功するだろう。
人生にはいつ何時、どういう情勢の変化が起こるかもわからない。だから私たちは、現在の恵まれた生活に感謝すると同時に、常に「治にいて乱を忘れず」という心構えを養っておかねばならない。
商売を始めて、最初に作ったものをお客様が買って下さったとき、受け取ったお金そのものよりも、商品を買って下さったことに大いに喜びを感じ、涙がこぼれる思いで、そのお客様の後ろ姿に思わず手を合わせたものだった。ものを作るときには、これでいくら儲かるというよりも、これを作ったら皆が喜ぶだろうなぁという思いで作っていた。

小泉信三の言葉
人生において、万巻の書を読むより、すぐれた人物に一人でも多く会うほうが、どれだけ勉強になるか。

小林一三の言葉
下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ。
出世の道は、信用を得ることである。第一の条件は、正直でなければならぬ。第二の条件は、礼儀を知っていることである。第三の条件は、物事を迅速、正確に処理する能力があるかどうかである。

本田宗一郎の言葉
自分が犠牲になるつもりで勤めたり、モノを作ったりする人間はいるはずがない。口先で結構なことはいくらでも言えるが、どっちみち人間は自己保存から抜けられない。だから、会社のタメだなどとカッコイイことを言わずに、自分のために働け。
嫌いなことは逃げ回ってやらない。そのほうがいいんだよ。どうせ身につかないことで悪戦苦闘しても、卑屈になったり時間をムダにするだけで、愚かしい努力なんだから。
金は使えばなくなるもんだ。しかし信用があれば、金がなくても銀行は金を貸してくれる。金が欲しければ、信用を先に取るのが本当だ。
心機一転、やり直せばよいのである。長い人生の中で、そのための1年や2年の遅れはモノの数ではない。
成功は華やかに見えるけれども、実は99%の失敗に支えられた1%なんだ。われわれはその99%を大切にしているが、残念ながら世間はそれを見ようとしない。
失敗するとなぜ失敗したかと考え、そこに進歩が生まれる。成功すると俺はエライんだと錯覚しがちだ。だから成功は、人間を形成しない。
一番気をつけなくちゃいけないことは、嘘を言わんということ。自分にしたら些細なことでも、相手にしたら大きいかもしらんしね。

盛田昭夫の言葉
会社にとって大事なのは、学歴という学校の名前ではなく、その人の実力なんだ。コーチなしで、自分で苦労して、努力して伸びろ。

川上哲治の言葉
企業に勤めると、冷や飯を食わされる時もある。その時にグチをこぼしたり、腐ったりして、仕事をろくにしない人が多い。成功する人とは、この冷や飯を上手に食べた人であるといってよい。

高原慶一郎の言葉
企業は、リーダーの"器量"以上には成長しない。

伊藤雅俊の言葉
お客様、取引先に、いつも謙虚で感謝の気持ちを持ち続けないと、会社はいつか崩壊します。

稲盛和夫の言葉
人生における「真の成功」とは、この世に生まれたときより、少しでも美しく善い人間になれるよう、その魂を高め、浄め、磨き上げていくことにあると、私は信じている。決して、高い地位に上りつめ、高名を馳せ、財を成していくような、世俗的なものではない。
そのような成功は、いわば「虚の成功」であり、命がついえ、この世を去るときには、すべてを脱ぎ捨てていかなければならない。
権力によって人間を管理し、または金銭によって人間の欲望をそそるような経営が、長続きするはずがありません。一時的に成功を収めることができたとしても、いつか人心の離反を招き、必ず破滅に至るはずです。
日本は第二次世界大戦後の廃墟の中から復興し、現在、世界で最も豊かな国になったといわれています。しかし、それでも日本には「豊かさを実感できない」と不満を述べている人が大勢いるのです。なぜなのでしょうか? それは日本人がその豊かさを実感できないような貧弱な精神構造に陥っているからなのです。すでに手に入れた豊かさは棚に上げ、さらに他のものを求める。客観的な豊かさの基準がアルと信じ、自分には「何かが不足している」と常に不満を抱いている。だから「豊かさ」を実感できないのです。
「この世に何をしにきたか」と問われたら、私は「生まれたときより、少しでもましな人間になる。すなわち、わずかなりとも美しく崇高な魂を持って死んでいくためだ」と答えます。その日々を磨砂として、人間性を高め、精神を修養し、この世にやってきたときよりも少しでも高い次元の魂を持ってこの世を去っていく。私はこのことよりほかに、人間が生きる目的はないと思うのです。

北野たけしの言葉
努力しても叶わない夢があるって教えるのが親の愛。
遼クンや祐ちゃんみたいになれるのは、どう考えたってごく一部なんだよ。人間は決して平等じゃない、努力したって報われないことの方が多いっていう現実を、子供の頃から親の責任で叩き込んでおいてやることなんだよ。
父親に出来るのは、いつか子供がうまくいかずに傷ついた時に、それでも生きていけるようなタフな心を育ててやること。だから、子供の心を傷つけることを恐れちゃいけないと思うんだ。
普通に働いて、結婚して子供を作って、普通に死んで行くってことが、いかに大変で素晴らしいことかって教えた方がいいと思うんだよ。そんな当たり前の生き方を、どこかでバカにしてきたヤツは多いんじゃないか。

野村克也の言葉
うまくいっているときは、周りに人がたくさん集まる。
だが、一番大切なのは、 どん底のとき、誰がそばにいてくれたかや

澤穂希の言葉
「頑張っても頑張っても、なかなか夢がかなわない……」
もしそう思ったとしても、「神様は私のところには来てくれなかったんだ」と、あきらめるのは絶対に早いと思います。100回やれば達成できることを、99回目であきらめちゃったとしたら、もったいないです。
神様は明日、あなたの扉をノックするかもしれません。かく言う私だって、サッカーの神様に出会えるまで、18年もかかったんですから。

創業の心:峠の釜めし
昭和30年代当時の駅弁は、折詰め、冷めたご飯、どこも同じようなおかず……それが当たり前でした。そんな昭和33年2月に、おぎのやの「峠の釜めし」が誕生します。しかし、「こんな重たい弁当は扱いづらい」「こんな容器を捨てられたら困る」「値段が高すぎる(ラーメン一杯30円、駅弁は高くても100円の時代に釜めしは120円)」と散々に言われました。
しかし、おぎのやの田中トモミさんは、以前一箸つけて捨てられ冷たくなった駅弁を手にした時、「温かいご飯の駅弁を作ろう」と決意し、列車が横川駅に到着する時間に合わせ、見込み生産で温かなご飯を詰めた駅弁を作りました。その時、温かい駅弁を手にした若い女性が「このお弁当、あたたかーい」とお弁当を胸に抱き、連れていた子供の手に触らせました。その時の親子の笑顔、そして駅を離れていく車窓から何度も手を振って御礼をしていたその姿が、忘れられなかったそうです。
私も子供の頃に横川駅で峠の釜めしを買った記憶があります。列者が出発すると売り子の人たちが一列に並び、帽子を脱いで深々とお辞儀し、走り去っていく列車を見送っていた……そんな情景は、今でも目に浮かびます。
安売り合戦が続く世の中。だからこそ、モノを売るのではなくて心を売る。そんな商売が見直されてもいいのではないだろうか。


◆  メタボリックシンドローム

特定健康診断スタート
 2008年4月より「特定健康診断」及び「特定保健指導」がスタートしました。これは、40〜74歳の被保険者と被扶養者(約5700万人)を対象に実施されるもので、健康診断でメタボリック該当者と診断されると、面接による食事や運動のアドバイスなどの「特定保健指導」を、また症状のレベルに応じて最長6ヶ月間指導を受けることが義務付けられます。
 平成19年に発表された「国民健康・栄養調査」によれば、40〜74歳におけるメタボリック該当者は920万人、その予備軍は980万人と言われ、これまでの保健指導と違い、健康指導の受講が義務化されるため、仕事を休んででも出席しないといけなくなります。
 しかし、メタボリックシンドロームの判定基準には、いくつかの問題点があります。まず診断基準の一つに「男性の腹囲85センチ以上」があります。しかし、中年男性のウエストの平均値が85センチ前後ですので、半数はメタボの予備軍に入れられてしまいます。またこれまでの疫学調査によれば、BMIでいうと欧米人では25〜29の死亡率が最も低く、日本人では24〜27ぐらいが最も死亡率が低い。例えば、循環器疾患基礎調査対象者(男女10513人対象)を1980年から14年間追跡した調査(日循協誌、1997年)によれば、男女ともBMI24.0〜27.9が最も低い死亡率となっています。米国では「男性の腹囲40インチ(102センチ)以上」となっていますが、日本における「ウエスト85センチ以上」には科学的根拠はなく、厳しくすることでわざと病人を増やしているのでは、との批判が出ています。
 また高血圧の人の栄養指導に「減塩指導」が行われることが予想されますが、食塩感受性の人の割合は「高血圧患者の4割」程度。つまり6割の人は、減塩をしても血圧は下がらないという結果が予想され、その指導に無駄な税金が使われることが懸念されます。
 今回、「総コレステロール値220以上」がメタボリックの対象となっていないのが唯一の救いです。総コレステロール値も260までは問題ないとの研究発表もあり、遺伝性家族性高コレステロールでない人は、卵の摂取も必要以上に心配することもありません。
 医学常識は、日々刻々と塗り替えられています。旧来の常識にとらわれた栄養指導だけでは、追いついていけないのが現状です。

肥満のタイプ
 太っていても病気にかからない人とか
かってしまう人とがいます。その理由は、肥満の仕方に2つのタイプがあり、皮下脂肪型肥満より内臓脂肪型肥満の人は糖尿病や高脂血症、動脈硬化など生活習慣病になりやすいことがわかりました。現在メタボリックシンドロームの目安として、へその周囲が男性で85cm以上、女性は90cm以上となっていますが、この基準だと中年男性の2人に1人はメタボということになってしまいます。
 脂肪細胞は、単なる脂肪の塊ではなく、遊離脂肪酸やグリセロールが大量に放出され、高脂血症の原因となるばかりか、アディポサイトカインというものが分泌されます。このサイトカインの中でもTNF-αはインスリンの働きを阻害、PAI-1(パイワン)は血栓を起こしやすくする、など生活習慣病を促進する要因となります。
(メタボリックシンドロームの経緯)
 1980年代、すでに動脈硬化を進展させる要因として「高コレステロール血症」が確実視されていました。その後、1988年にアメリカのリーブンという研究者が「糖尿病、高脂血症、高血圧が一個人に集中しやすい」ことが指摘され、"シンドロームX"と名づけられました。その一方で、カプランという研究者により、これらの危険因子は「上半身肥満とともに動脈硬化を早める」という考えが提唱され、"死の四重奏"と名づけられました。これらの研究を総合して、1998年、WHOにより「メタボリックシンドロームの診断基準」が作られたというわけです。2001年には、アメリカのNCEPが作成した診断基準が注目を集めましたが、いずれも欧米での基準は日本人の実情にそぐわない面もあり、2005年に現在の日本独自の「メタボリックシンドローム診断基準」が作られたという経緯があります。

標準体重は理想体重か
 「標準体重」という基準は、一体いつ作られたのでしょうか。それは、1950年代のこと。米国のメトロポリタン生命保険会社が、適正な保険料を決めようとして分析した結果得られたものです。その決め方というのは、1935〜53年に同社で保険契約をしていた男女500万人分のデータを男女別、身長別に分け、死亡率が最も低い「標準体重」の表が作成されました。そして、標準体重よりも重い人は「死亡率が高め」という理由から、保険料の掛け率も高くなったという話です。
 ところが、これに問題があります。まず1959年に最初に発表された「標準体重表」ですが、すでに米国人の平均体重より7〜11kgも低かったという事実。また1935〜53年に生命保険に入れた人とは、所得が極めて高い層の人たちで、サンプリングそのものに問題がありました。その後のフレーミングハム調査でもデータの集め方に問題があったことが明らかにされています。
 フレーミングハム調査では、男性の死亡率が上昇を始めるのは、標準体重より25%以上から。女性の場合は、24%以上になって死亡率が大幅に上昇することが判りました。またドイツのデュッセルドルフで6千人を対象とした調査では、BMIが32までの女性は平均体重の女性と死亡率が変わらず、男性の場合もBMIが32までは死亡率の大幅な上昇は見られないとの結論に至りました。

メタボリックの問題点
 日本医療データセンターは、2006年4月〜2007年3月に健診を受けた男女5万2265人(30〜59歳)を対象にデータの大規模解析を行ったところ、肥満度を示す体格指数(BMI)が「やせ」(18.5未満)でも、血糖値など血液検査のいずれかの数値が特定健診(メタボ健診)の基準値を超えている割合が4人に1人いることがわかりました。
 それによると、「やせ」の人のうち血糖値、血中脂質、血圧のいずれかが特定健診の基準値を超えた人は25.6%。BMIが18.5以上25未満の「標準」で51.3%。「肥満」(25以上)では81.6%でしたが、基準値を超える人の合併症発症率を正常値の人と比べると「やせ」は5倍、「標準」は3.4倍、「肥満」は3.1倍と、やせている人ほど検査値の異常が影響を及ぼしていることもわかりました。
 40〜50代の全国約4万人を対象に調べた厚生労働省研究班によると、男性はBMIが26くらいまでは目立った死亡リスクの上昇は見られない。またリスクが一番低かったのは、BMIが22ではなく23〜24.9でした。主任研究員の津金昌一郎・国立がんセンター部長は、「太っているより、やせて亡くなる人の数が多かった。BMI22が理想というのは、根拠が弱い」と語っています。
 今春始まった特定健診は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を重視していますが、腹囲の異常を特別視する健診に新たな問題を投げかけています。

メタボの腹囲基準には無理がある
 厚生労働省研究班(主任研究員=門脇孝・東京大教授)は、全国40-74歳の約3万1千人を対象に、メタボリック症候群の基準となる腹囲と脳卒中、心筋梗塞の発症との関係を調べました。その結果、3つの検査値(血圧、血糖、脂質異常)の異常が重なっているグループは、腹囲が基準値(男性85センチ、女性90センチ)未満でもリスクは男性2.2倍、女性3.0倍で、腹囲が基準値以上の場合の男性2.5倍、女性3.2倍と大きな差がありませんでした。
 現在、メタボリック健診は「腹囲測定」が必須条件ですが、そもそも腹囲でグループ分けすることに無理があるのでは、というような結果が出たわけです。

メタボと生活習慣病の危険
 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の診断基準は、「腹囲が男性85センチ以上、女性90センチ以上」であることを必須条件としているのに対して、「単に腹囲が大きいだけでは生活習慣病の危険要因としては不十分」という調査結果を厚生労働省研究班がまとめました。
 まず研究班では、無作為に選んだ愛知県内の40〜82歳の男女3253人について、内臓脂肪の断面積をコンピューター断層撮影法(CT)で計測。内臓脂肪面積が100平方センチ以上の肥満の人とそれ未満の人で、2000年から6年間、心臓病や脳卒中を引き起こす動脈硬化の進み具合を6項目で比較しました。
 その結果、肥満の人はそうでない人に比べ動脈硬化のある人の割合が、心臓の冠動脈は女性では約1・2倍だが男性では差がみられず、脳内の細い血管では男性は約1・2倍だったが女性では差があまりなかった。6項目すべてで差は1・5倍未満にとどまり、「全体としての関連はそれほど強くない」という結果に。
 メタボの基準では、内臓脂肪面積が100平方センチ以上の場合に危険が高まるとして、それに該当する腹囲(男性85センチ以上、女性90センチ以上)が定められた経緯があります。しかし、今後の見直しが必要になりそうです。


循環器疾患とメタボリック
 メタボリック症候群の関連要因を併せ持つ人は、循環器疾患(心臓・脳疾患)で死亡するリスクが高いことが厚生労働省研究班の大規模疫学調査で分かりました。
 研究班は、全国11地域の40〜69歳の男女約3万4000人の健診データを登録し、2005年末まで追跡しました。その結果、メタボリック症候群に該当する人は「心疾患による死亡のリスクがそうでない人に比べ1.9〜2.6倍」と高い傾向が見られました。
 肥満がなくて2つ以上のメタボ要因を持つ人の循環器疾患死亡リスクは、全くない人に比べ男性2.1倍、女性1.8倍。しかし、肥満があって、さらに2つ以上の場合でも男性2.2倍、女性1.8倍とほぼ変わらなかったということです。


コレステロールと死亡率

 近年、数多くの研究で、総コレステロール値は240〜260未満のときに総死亡率が最も低く、数値が下がると返って脳卒中やガンを招きやすいという報告が出ています。また国立がんセンター津金昌一郎氏が、40〜59歳までの男女約4万人を対象に10年間に渡る追跡調査を行ったところ、肥満度の基準であるBMIが22の人よりも「23〜24.9のやや太めの人が最も長生きであった」という報告を紹介しています。さらに軽度肥満である25〜26.9の人よりも理想に近い21〜22.9の人の死亡率の方が高率であったというから驚きです。

マグネシウムとメタボリック
 現在、1日あたり50〜100mg不足しているというマグネシウム摂取量。糖代謝に関しては、糖尿病の患者ではマグネシウムの血中濃度が低いことがすでに50年以上前から知られていました。当時は、糖尿病症状の一つである多尿が原因と説明していました。その後、糖尿病患者にマグネシウムを投与する研究が行われましたが、今まで糖尿病の結果と思われていた「低マグネシウムを改善すると糖尿病の病態が改善されること」がわかり、また血糖の低下に伴い脂質代謝が改善されて、中性脂肪も低下することが判明しました。最近では、糖尿病を発症してない人では「マグネシウムの摂取量が多いと2型糖尿病の発症が少ないこと」も知られています。
 アメリカの報告ですが、マグネシウムの摂取量とメタボリック症候群の関係について、20代の成人を15年間追跡したコホート研究があります。これによると、マグネシウム摂取が多いほど腹囲、血圧、中性脂肪、HDL-コレステロールの各項目において良くなる結果となりました。つまり、マグネシウムの摂取が多い食生活を送っているとメタボリック症候群になりにくいというわけです。

長生きの条件とメタボ
 がんや心筋梗塞などの循環器疾患を起こさないで今後の10年間を生きる可能性が最も高いのは、「禁煙、月1〜3回の飲酒、BMI(体格指数)25〜27」の人であることが、厚生労働省研究班による約9万6000人の調査結果で判明しました。
 調査は、全国8県に住む40〜69歳の約9万6000人が対象。生活習慣に関するアンケートを実施し、約10年追跡調査。その結果、調査対象年齢の人が10年間にがん、循環器疾患を起こすか、死亡する可能性が最も高いのは、男性が「1日40本以上喫煙、週に日本酒2合相当以上の飲酒、BMI30以上」、女性は「喫煙、同1合相当以上の飲酒、BMI30以上」でした。例えば、50〜54歳の男性で最も不健康な条件の人が10年間にがんを発症する割合は、健康な人の2.8倍、循環器疾患は4.8倍で、がんや循環器疾患にならないで生存している割合は81%に留まりました。
 主任研究者の津金昌一郎氏(国立がんセンターがん予防・検診研究センター予防研究部長)は、「がん、循環器疾患を減らすには、肥満対策よりまず禁煙、節酒を推進することが重要。国民全体の健康対策として取り組む場合、肥満中心の手法は適切ではない」と、肥満改善を重視する現在のメタボ健診に疑問を投げかけています。

太り気味の人の平均余命
 40歳時点での余命には「体格」によって差があり、「太り気味の人が最も長命」であることが厚生労働省・研究班の大規模調査で分かりました。
 同研究は、宮城県内の40歳以上の住民約5万人を対象に12年間、健康状態などを調査したもの。過去の体格も調べ、体の太さの指標となるBMIごとに40歳時点の平均余命を分析した結果、普通体重(BMIが18・5以上25未満)が男性39・94年、女性47・97年なのに対し、太り気味(同25以上30未満)は男性が41・64年、女性が48・05年。「肥満」(同30以上)は、男性が39・41年、女性が46・02年でした。
 一方、やせた人(同18・5未満)は男性34・54年、女性41・79年にとどまり、太り気味の人より「6〜7歳早く死ぬ」という衝撃的な結果になりました。
 「太り気味の人が一番長生き」という説は、すでに30年も昔に生命保険会社の統計から明らかになっていましたが、「BMI22が理想」とする説が広まったことでメタボ=短命という図式が出来上がってしまったようです。

体重の増加より減少が心配
 20歳の頃に比べ体重が減った人は、「がんなどで死亡するリスクが高い」ことが厚生労働省研究班の大規模疫学調査で分かりました。欧米の研究では、体重増加と減少の両方でリスクが高まるとされていますが、体重増と死亡との関連は見られませんでした。
 研究班は、全国11地域でがんにも脳・心疾患にもなっていない40−60代の男女約9万人の生活習慣を2005年末まで追跡調査し、体重の変化と死亡との関連を調べました。その結果、20歳の頃から最初の調査時までに体重が5キロ以上減っていた人は、体重の増減が5キロ以内の人と比べ男性で1.44倍、女性で1.33倍死亡リスクが高く、特に40代男性で1.61倍と顕著でした。
 生活習慣病対策の特定健診は、体重の増加のみをリスク要因としています。しかし、男女とも「体重が5キロ以上増加した人の死亡リスク上昇」はなく、男性ではむしろ低下していたということです。

いつの間にか肥満が「病気」扱い
 日本人間ドック学会の調査によれば、2009年に人間ドックを受けて「異常なし」と判定された人は約9.5%で、過去最低だった08年(約9.6%)とほぼ同じだったことが分かりました。調査は、全国の約800の施設で人間ドックを受けた約301万人を対象に実施。結果を分析したところ、異常なしの「A」と軽度異常だが心配なしの「B」の合計が約28万4400人で、約9.5%でした。
 異常項目をみると、高コレステロール(26.5%)が最多で、肥満(26.3%)や肝機能異常(25.8%)が続く。男女別にみると、男性は肝機能障害(31.4%)と肥満(30.9%)、女性は高コレステロール(26.2%)と肥満(19.1%)がそれぞれ上位を占めました。
 ところで、肥満は「病気」なのでしょうか。確かに肥満が糖尿病や高血圧の誘因にはなりますが、肥満そのものが病気というのはおかしな話ですし、またいつ誰が「肥満」を健康診断で「異常」項目に決めたのかがはっきりしません。

基礎代謝測定検査
 日本人を含め、モンゴロイドは他人種より肥満になりやすい民族です。というのも……内臓脂肪を溜め込む「倹約遺伝子」を他人種より2〜4倍高頻度に持っているからです。内臓脂肪からは、身体の代謝機能に影響する様々なホルモンが分泌されるため、糖尿病や動脈硬化の進行が加速するので注意が必要です。
 例えば、欧米人は肥満から糖尿病を発症するまで20〜30年の期間がありますが、日本人はその半分の10〜15年で糖尿病になってしまいます。飢餓時代を生き延びた倹約遺伝子が、飽食の現代では仇となっているわけです。
 ダイエットを始めるには、食事から取る総カロリー量と自己の消費カロリー量を知ることが必要です。消費カロリー量の内訳は、基礎代謝+生活活動(運動)代謝+食事誘発性体熱。全体の7割を占める基礎代謝は、男性で1500キロカロリー前後ですが、個々の体格で大きく変化します。正確に知るには、呼気ガス分析による「基礎代謝測定検査」を受診しましょう。肥満症治療の必要ありと診断された場合は、3割負担の数百円で受けることが出来ます。


◆  生活習慣病

生活習慣病は胎児期から 
  近年、出生時の体重が2500g未満の子供が急増。1990年の6.1%から2004には9.4%にまで増加しました。その理由として注目されるのが「若い女性のやせ志向」です。やせ形の女性は、低体重の子供を出産する確率が高く、特に妊娠中に体重を余り増やさないで出産した場合に多い傾向が見られます。
 実は、 低体重の子供は、将来肥満などの生活習慣病を発症しやすいということが言われています。その理由は「母体からの栄養補給が少ないと、胎児はわずかな栄養で生きるための代謝系を作り上げる。そのため、体内にエネルギーを溜め込みやすく、太りやすい体質になる」ということです。この考えは、すでに20年も前に英国サウザンプトン大学のデイビット・バーカーが「成人病胎児期発症説」として発表している理論です。
 メタボリックシンドロームの影響で、「肥満は敵だ」みたいなブームになりつつありますが、妊娠中の母親のダイエットが子どもの肥満につながるという説は、一目置く価値があるでしょう。つまり「子供を肥満にさせるのも親の責任」ということでしょうか。

コレステロール値と脳卒中
 コレステロールや中性脂肪の値が高い人の方が、「脳卒中を起こしにくく、発症した場合も状態が良い」とのデータを東海大学・大櫛陽一教授らが日本脂質栄養学会誌に発表しました。
 同教授らは、脳卒中患者のデータベースに登録された男性約2万8000人、女性約2万人のデータと福島県郡山市の一般住民のデータとを比較。計約4万8000人のうち、脳梗塞を起こした患者を見ると、高脂血症でない人と高脂血症を治療している人の比率が一般住民より高く、高脂血症(未治療)の人の割合は低かった。さらに年齢や性別の影響を除いて解析したところ、高脂血症(未治療)の人の脳梗塞発症リスクは、高脂血症でない人の約4分の1にとどまり、治療している人のリスクは未治療の人の4.6倍という結果を得ました。
 同教授らは、「(悪玉とされる)LDLコレステロールも中性脂肪も実は善玉なのにリスクが強調され、無駄な治療がなされている」と問題点を指摘しています。
 また別の調査では、動脈硬化が一因とされる脳卒中(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)で入院した患者計1万6850人を対象に、高脂血症の有無と死亡率、症状の強さを比較しました。その結果、脳梗塞で入院した患者のうち、高脂血症でない9851人が入院中に死亡した割合は約5・5%。しかし、高脂血症の2311人の死亡率は、約2・4%に留まりました。脳内出血やくも膜下出血でも、高脂血症があると「死亡率が半分から3分の1」程度でした。
 一般には、高脂血症は「動脈硬化を引き起こす要因」と考えられているため、今後、議論が高まりそうです。

高血圧と糖尿病に注意
 厚生労働省が公表した患者調査で、「入院患者の27%が高血圧症、16%が糖尿病を持っている」ことが初めて分かりました。入院のきっかけになった病気(主傷病)としては、両疾病とも入院患者全体の2%未満ですが、脳卒中や心臓病などの誘因ともなるため注意が必要です。
 今回の調査は、全国約1万4000カ所の医療施設の外来・入院患者計235万人から推計。調査日の入院者数は139万人で、精神疾患や外傷以外の主傷病では、脳血管障害(20万人)、がん(16万人)、心疾患(6万人)などが多く、糖尿病は2万6000人、高血圧症は9000人に留まりました。しかし、主傷病のほかに持っている疾患(副傷病)も合わせて調べたところ、糖尿病の入院患者は23万人、高血圧症は37万人にまで増加。高脂血症も主傷病では400人だが、副傷病も合わせると11万人に上りました。

不規則な生活と高血圧
 京都大学大学院薬学研究科・岡村均教授らの研究チームは、「不規則な生活をしながら塩分を摂ると高血圧症になる原因」を動物実験で突き止めました。
 研究チームは、遺伝子を改変して生体リズムを壊したマウスを使い実験を行ったところ、副腎から塩分量を一定に保つホルモンが過剰に分泌されていることが判明。副腎の遺伝子解析で、このホルモンを作る酵素「水酸化ステロイド脱水素酵素」が通常の5倍以上産生されていることが分かりました。このことから、不規則な生活が高血圧への準備段階になっており、岡村教授は「この酵素は人にもあり、同じ作用をする可能性が高い」と語っています。

痛風の原因遺伝子
 防衛医大や東大など11大学・機関の共同研究チームは、世界で初めて「痛風の主要な原因遺伝子を突き止めた」と発表しました。
 防衛医大・松尾洋孝助教と東大病院・高田龍平助教らは、腎臓や小腸で体外へ毒物を排出するポンプとして働く「ABCG2」というたんぱく質に着目。患者と健康な人計1093人について、ABCG2を作る遺伝子の配列を比較しました。その結果、ポンプを作れない遺伝子変異やポンプの数が半分にしかならない遺伝子変異が、痛風患者の8割で発見。変異遺伝子を両親から受け継いだ場合は最大26倍、どちらか一方だけを受け継いだ場合でも3〜4倍痛風を発症しやすくなることがわかりました。  


◆  健康食品問題

大豆イソフラボン問題 
 厚生労働省は、大豆イソフラボンを含む健康食品について「摂取目安量を1日30mg以下」に設定するよう食品業界に指導する方針を決めました。この理由として、まず食品安全委員会は、「1日当たり150mg(アグリコン換算)の大豆イソフラボンを5年間に渡り女性に摂取させたところ、子宮内膜症の発症率が増加したというイタリアでの実験」に注目しました。そこで安全のために150mgを2で割り、「通常の食品をも合わせた安全量」の上限値を1日75mgと設定。さらに普通の食事をしている日本女性に、1日57mgずつ追加摂取させると「血中女性ホルモンが減少した」という研究に着目。そこで安全のために57mgを2で割り、「健康食品など通常の食事以外に摂っても安全な目安量」を30mgと算定しました。

 大豆イソフラボンは、すでにトクホ(特定保健用食品)の認可を受けたものがあります。許可されている表示は「骨の健康が気になる方に」というものです。しかし、米国心臓協会は、2006年1月、「大豆イソフラボンが血圧やコレステロールを下げる効果は乏しく、更年期障害の改善効果、乳がんや前立腺がんなどの予防効果も科学的証明なし、また閉経後女性における骨量減少阻止は、効果的という研究と無効という研究が混在していた」と発表しました。
 トクホ(特定保健用食品)は、いわゆる健康食品との差別化のために厚労省から"お墨付き"を貰った健康食品。"安全性""有効性""品質"について、厳しいチェックをパスしたという前提があります。今回の報道は、その科学的根拠や安全性の根本を揺るがすようなニュースであっただけに、今後の成り行きが心配されます。

白いんげん豆ダイエット
  2006年5月、某テレビ番組が紹介した"白インゲン豆ダイエット法"により、下痢や嘔吐といった食中毒症状を訴える事件が起こりました。ある記事によれば、体調を崩したという連絡は1149件、うち入院は122件に上ったとのことです。
 テレビ番組の内容は、「2〜3分ほど炒った白インゲン豆を粉にして、ご飯に振りかけて食べるとヤセる」というものでした。原因として考えられるのは、白インゲンに含まれるたんぱく質の"レクチン"。レクチンは、生や加熱が充分でないと食中毒を引き起こす危険性があります。一方、ダイエットに効果的な成分は"ファセオラミン"。消化酵素の働きを抑えて糖質の吸収を抑制する作用があります。

 世の中には、目敏い企業もあり、白インゲンに含まれるレクチンを取り除き、有効成分のファセオラミンを抽出したサプリメントがすでに出回っているそうです。白インゲンがダイエット素材に取り上げられた背景には、「ファセオラミン1gで2250kcalの吸収抑制効果」という根も葉もない話が、一人歩きしてしまったのではないかという意見をよく耳にします。今回の騒動は、「わずか1gで2250kcalのダイエット」というより具体的な数字のマジックに引っかかってしまった例といえるでしょう。

アガリチンは「シロ」だった
 2006年、厚労省はラットを用いた発がん性試験で、アガリクスに含まれるアガリチンに発ガンプロモーション作用があると発表し、アガリクス市場に大打撃を与えた。しかし2008年3月、食品安全委員会ワーキンググループが行った追加試験が発表され、ラットの生体内試験で「遺伝子突然変異を誘起しないこと」が確認された。
 米国国立がん研究所・アガリクス臨床開発責任研究員のインス・P・リー氏は「一連の試験は、ヒトのリスク評価としてまったく意味がないといえる。ヒトの体にあれほど多量の発ガンプロモーション物質が、あれほどの長期間入る機会は一切ない」と実験そのもの不手際を批判するコメントを出している。

αリポ酸、低血糖症に注意
 サプリメントのαリポ酸で、震えや動悸を引き起こす「自発性低血糖症」を招くケースが相次いでいます。厚生労働省研究班がまとめた全国調査では、2007年から3年間で少なくとも17件起きていたことがわかり、注意を呼びかけています。
 自発性低血糖症とは、血糖値を下げる薬を使っているわけではないのに低血糖になるものをいい、重症になると昏睡状態に陥る危険があります。原因は様々ですが、特定の白血球の型を持つ人がSH基と呼ばれる構造を持つ薬やサプリメントを服用すると発症しやすいことが分かっています。実は、αリポ酸にもSH基があるのです。
 この白血球の型を持つ人は、日本人の約8%。研究班によると、全国の主要病院207施設で、2007年から3年間に自発性低血糖症と診断された患者187人のうち、サプリメントとの関連が報告されたのは19人で、うち17人がαリポ酸でした。サプリメントは健康増進をうたっていますが、使い方によっては薬と同じような作用が起こる恐れがあるので注意が必要です。場合によっては、栄養情報担当者のような専門家にアドバイスを求めることが必要です。

健康食品と医薬品の飲み合わせ
 「食品の摂取が、医薬品の吸収や代謝に影響を及ぼす」。このことが海外でクローズアップされたのは、1989年に遡ります。当時、カナダのBaileyは、飲酒がフェロジピン(カルシウム拮抗薬)に影響を与えるかどうかの臨床試験中、アルコールの併用が味覚により被験者に識別されぬよう、フェロジピンの溶解液として「水の代わりにグレープフルーツジュース(GFJ)」を用いました。ところが、GFJの併用により「降圧効果の増強」が発生したのです。
 このように、薬と食品との飲み合わせで問題が発生する場合、「薬理効果の増強」と反対の「薬理効果の低下」に大きく分かれます。
(薬理効果の増強例)
 フェロジピン、シンバスタチン&グレープフルーツジュース。ワーファリン、アスピリン&イチョウ葉エキス、ニンニク、ビタミンA、ビタミンE。アクロマイシン&ビタミンA。アセタゾラミド、アスピリン、エストロゲン&ビタミンC。ジゴキシン&ビタミンD。
(薬理効果の低下)
 ワーファリン&ビタミンK(納豆、クロレラ、ケールなどの青汁)、コエンザイムQ10、高麗人参。シクロスポリン、シンバスタチン、アミノフェリン、ジゴキシン、カルバマゼピン&セント・ジョーンズ・ウォート。マレイン酸フルフェナジン&ビタミンC。テトラサイクリン、セフジニル、D-ペニシラミン&鉄、マグネシウム。ジアゼパム&西洋カノコ草。

健康食品と薬事法
 健康食品は、医薬品のような効能・効果を表示することが出来ないため、たびたび薬事法違反で捕まる業者が後を絶ちません。例えば、健康食品に「血糖値を下げる」と表示した場合、この健康食品は一旦「医薬品」と見なされます。医薬品の製造・販売には承認・許可が必要なため、この健康食品は「無承認無許可医薬品」という位置づけとなり、薬事法第68条に違反するということで取締りの対象になります。
 これまで東京都が薬事法上「不適」と見なした表示例としては、次のようなものがあります。「目に良い」「視力回復」(ブルーベリー)、「お肌つるつる」「美肌」(コラーゲン、ヒアルロン酸)、「二日酔い予防」「肝臓に良い」(ウコン)、「アンチエイジング」「体の抗酸化」(CoQ10)、「体脂肪の燃焼」(L-カルニチン)、「疲労回復」(酸素水)、「おしっこスッキリ」(カボチャ種子)……など。
 しかし、ここまでくると表示がまったく出来なくなってしまうため、「何に使ったらよいのか」かが消費者にまったく伝わりません。厚労省サイドは「表示が欲しければトクホを取ればいい」と切り返しますが、トクホを取得するには1億円以上の投資が必要なため、中小企業では難しいといった問題点が山積しています。

年金たまごで逮捕
 健康食品を買えば毎月ボーナスを得られる「年金たまご」と称する会員システムで、ねずみ講を開設していたとして、2011年11月、警視庁生活経済課は無限連鎖講防止法違反の疑いで東京都墨田区の健康食品販売会社「ライフ・アップ」の元社長・田沢吉美容疑者(74)を逮捕した。同課は、田沢容疑者が約4万8000人から約110億円を集めたとみている。
 田沢容疑者は、「会員−子会員−孫会員」から成る1組7人のピラミッド型組織を作るなどして、資金を集めていたとみられる。この会員システムでは「孫会員」も自分が「会員」となり、「子会員」「孫会員」から成るピラミッド組織を作り続けなければ最終的に破綻してしまうシステム。ブルーベリーなど健康食品の販売名目で1回につき1万3500円程度を集めていたが、こうした健康食品の実際の値段は1000円程度だった。
 田沢容疑者は、警視庁の聴取に対して「摘発を逃れるために、商品販売をする形のねずみ講を考案した」と説明している。
▲up

◆  心の健康

2008年度の自殺者
 警視庁の発表によると、2008年度の自殺者は3万2249人で、11年連続で3万人を超えました。
 自殺者全体のうち、男性が2万2831人と約71%を占め、女性は9418人。月別では、金融危機のきっかけとなった米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻翌月の10月が3092人と最も多く、次いで3月の2939人、4月の2854人。
 遺体が発見された都道府県別では、東京都が2941人と最も多く、最少は徳島の202人。
 特徴としては、硫化水素による自殺が増加し、前年比36.4倍の1056人でした。現在、警察庁は、硫化水素の製造方法など自殺を誘発する恐れのある情報を「有害情報」に指定して、接続業者(プロバイダー)に削除依頼できるようにしています。

自殺白書
 警察庁は、「2009年中における自殺の概要」を発表しました。それによると、同年中の自殺者の総数は前年比1.8%増の3万2845人。自殺原因の概要を見ると、「健康問題」が48.3%で最も多く、以下は「経済・生活問題」25.5%、「家庭問題」12.5%、「勤務問題」7.7%、「男女問題」3.4%の順。「家庭問題」のうち、「介護・看病疲れ」による自殺者は6.9%でした。
 「介護・看病疲れ」の自殺者のうち69.9%が無職者で、全自殺者に占める無職者の割合に比べ12.9ポイント高い。内訳は、年金や雇用保険の受給者が44.2%、主婦が16.1%、失業者が5.0%、その他の無職者が34.7%でした。
 また男女別に見ると、男性は全体の61.8%。年齢別では60歳代が31.9%で最も多く、以下50歳代19.6%、70歳代18.9%、40歳代15.4%、80歳代9.8%、30歳代3.9%の順となっています。

自殺が最も多い日、少ない日
 内閣府は、自殺者の年齢や職業、自殺時期などに関する調査結果を発表しました。調査は、厚生労働省と警察庁とがそれぞれまとめた自殺に関する統計を照らし合わせる形で実施。それによると、2004〜08年に最も自殺が多かった日は3月1日の138.0人で、以下4月1日、6月1日、5月31日の順。3月1日の自殺者数は、最も少ない12月30日(55.2人)の2.5倍であることも分かりました。また月ごとの平均自殺者数は、3月が91.0人でトップ。以下4月(87.5人)、5月(86.6人)と続き、最も少ないのは12月(72.9人)でした。曜日別では、月曜日の92.8人が最も多く、土曜、日曜の週末は減少傾向。月と曜日を組み合わせると、最も"危険日"といえるのが「3月の月曜」で、平均105.3人と最多。逆に最少は「12月の土曜」63.1人でした。
 地域別では、東北地方で農林業や漁業従事者、自営業者の自殺が多い一方、都市部では若い世代の被雇用者の自殺が目立ちます。最も要注意なのは、妻と死別か離別した35−54歳の男性で無職の人。その自殺率は、職に就いている妻帯者の20倍にも達しました。また有名人の自殺や多人数の無理心中が報じられた直後にも「自殺者が急増する傾向」が見られ、マスコミによる影響も少なくありません。
 今回の調査結果について、内閣府は「自殺の実態を知ることで、自殺対策に役立ててほしい」と呼びかけています。


自殺を図る男性の兆候
 自殺を図る若い男性の多くは、8歳の時点で重度の情緒的問題が現れることがフィンランドの研究で明らかになり、医学誌「Archives of General Psychiatry」に掲載されました。
 同研究は、1981年に生まれた5302人を対象に追跡調査。その結果、女性は服毒による自殺を試みることが多いが、男性はより致死性の高い方法で自殺を図る傾向があるとしています。また自殺を図る人がたどる過程として、男性の78%は8歳の時に破壊的な気質や攻撃性、他者への残酷さなど、教師や親にも分かる問題を示す傾向が見られました。一方、女性にはこのような傾向が見られず、情緒的問題が出てくるのは思春期以降だったそうです。
 この研究を指揮したフィンランド・トゥルク大学病院のAndre Sourander医師は、「青年期や成人早期に真剣に自殺を図る人でも、男性と女性では異なる過程をたどることが分かった」と結論付けています。


家族構成と自殺率
 国立がん研究センターは、「家族構成と自殺との関連」について調査結果をまとめました。この研究は、1990年と93年に岩手、秋田、茨城、新潟、長野、高知、長崎、沖縄各県の9保健所地域に住んでいた男女約10万人(40-69歳)について、2005年まで追跡調査。この間に男性290人、女性116人が自殺によって死亡。これらについて、年齢のほか、自殺リスクを高める要因を調整し、家族構成との関連を調べたものです。
 調査結果によると、「一人暮らし」「同居者が親のみ」「同居者が子どものみ」「同居者が親と子」という男性は、同居者に妻がいる男性に比べ、自殺リスクが2倍も高くなりました。一方、女性で自殺リスクが上昇するのは「同居者が親のみ」というケース。「夫婦二人暮らし」の女性と比べると約3.8倍も高くなりました。
 リスクが高まった「一人暮らし」との関連は女性では見られず、「夫との同居」による差もありませんでした。また女性の場合は、「子どもとの同居」でリスクが低下する傾向が見られました。

自殺者と向精神薬
 国立精神・神経センターの加我牧子医師らの研究グループは、「生前に精神科などを受診していた自殺者の半数が、向精神薬を過剰摂取していたこと」を発表しました。
 調査対象は2008年1月〜09年12月の自殺者のうち、遺族が調査に応じたケースで、死亡前1年間に精神科か心療内科の受診歴があった人が約半数でした。うち2人に1人が「死亡時に向精神薬を医師の指示より多く服用」していました。埼玉県立精神医療センター・成瀬暢也副病院長は、「向精神薬は癖になりやすく、乱用すると量が増える。追加処方には応じない、薬を家族に管理してもらうなど、医師側の対応が必須だ」と話しています。
 最近は、精神科の専門医ではない医師が心療内科を掲げて開業しているケースが多く見られます。カウンセリングなしでただ薬だけを処方するというやり方は、かなり問題だと思います。


うつ病患者増加の原因
 うつ病患者が100万人を超え、この10年間で2・4倍に急増しているとの記事を見つけました。国の調査でも、うつ病など気分障害の患者は2000年代に入り急激に増加していますが、一概に不況だけが原因とも言えそうにありません。
というのも、それに比例して売り上げを伸ばしているのが、新規抗うつ薬「SSRI」。 年間販売高が170億円台だった抗うつ薬市場は、1999年にSSRIが登場してから急伸。2007年には900億円を超えました。SSRIが発売されたのに伴い、製薬企業による医師向けの講演会やインターネット、テレビCMなどのうつ病啓発キャンペーンが盛んになったことも要因の一つです。
 また従来は精神科での受診でしたが、心療内科という科が出来てからは患者の抵抗感が減った一方、精神科の専門医でない医師が「心療内科」を掲げ、カウンセリングなどをせずに安易に薬だけ投与するといった診療が行われてきたことも原因の一つです。検査数値で測れる身体疾患と違い、うつ病の診断は難しいため、「抑うつ気分」などの症状があれば「即薬の投与」となってしまっている現状があります。安易な薬の投与は依存症を作り出し、薬を飲まずには生活できないといった悪循環を生み出すことを忘れてはいけません。

新型うつ病が急増中
 これまで「うつ病」といえば、几帳面でまじめな人がかかりやすく、落ち込みや自責の念にかられ自殺に至るケースが多いというイメージでした。しかし、近年急増している「新型うつ病」は、仕事中だけうつ病で、帰宅後や休日は普段通りに活動。自分を責めるのではなく、身近な人間や社会に対して攻撃的な態度になるというもの。年代では20〜30代に目立っています。
 厚生労働省の調べでは、うつ病や躁うつ病の患者総数は1999年の44万1千人に対して、2005年には92万4千人に増加。ファイザー社が4,000人を対象に2007年に行った調査では、「一般生活者の約12%がうつ病またはうつ状態の可能性」があるという結果が出ています。


うつ病の新しい検査法
 日本人が一生涯のうちに「うつ病」を患う率は20%ほどですが、通院する率は6〜7%と言われています。内科では「気分がめいる」「眠れない」と訴える患者に対し、うつ病と診断しますが、診断が難しく、医師の個人的な主観が入ってしまうのは否めません。そこで今、注目されているのが「光トポグラフィー検査」です。
 光トポグラフィーは、頭に近赤外線を当てて反射してくる光から、脳血流の変化を読み取って脳の活動状態を数値化する装置です。実際の検査では、患者は頭に光源と光検出機を内蔵したヘッドセットを着け、最初の10秒間は「あ・い・う・え・お」を繰り返すよう指示。次の10〜70秒間は、同じ頭文字で始まる言葉を声に出して言い続けます。脳を使う際の血流の変化がポイントで、血流量がどう変化するのか、あるいはしないかをグラフ化して疾患を判断します。
 健常者の場合は、脳の使い始めにどっと血流量が増え、活動中は高値で維持されます。これに対し、うつ病患者は課題の始まりに反応しますが、血流量がなかなか増えないという特徴があります。誤診されやすい躁うつ病や統合失調症にも特有のパターンがあるので、客観的な鑑別が可能です。
 なお一般的な問診による診断名との一致率は、7〜8割。残り約2割の判断は専門医に委ねられますが、臨床データが蓄積されれば精度はさらに高くなると思われます。

リュミノテラピーとは
 うつ病の原因の一つとして、脳内ホルモンであるセロトニンの減少が挙げられます。セロトニンは太陽光を浴びることによって生成されるため、太陽光の代わりに専用の照射器の光を浴びることによってうつ病を克服する療法がリュミノテラピーです。
 リュミノテラピーは、体から30〜40cm、視界45度の位置に専用器具を置き、一日30分、一万ルクスの光を浴びるものです。視界45度というのは、目が光をとらえ、その明るさによって脳がホルモンの分泌量を調整するため、目にそれほど負担がかからない角度ということです。専門の治療室では、ベッドに横たわり、両側に置いてある器具から照射される光を浴びます。通うのが困難な患者は、器具のレンタルが出来、たいてい3日後には症状の改善が見られるということです。

ストレスがあると女の子が生まれやすい
 「妊娠前に母親にストレスがあると女子が生まれやすい」という研究結果が、イギリスのニュースサイト『Mail Online』で報告されました。妊娠する数週間もしくは数か月前に、家庭や職場もしくはパートナーとの関係においてプレッシャーがかかると娘を授かりやすいという内容です。
 オックスフォード大学等の研究によれば、不況になると女の子が生まれやすく、また大事件の後には男の子の数が少なくなることが知られています。例えば、2001年に起こった9・11同時多発テロの後、ニューヨークでは男の子の新生児数が減少。また1991年、ベルリンの壁崩壊に伴って経済的混乱が起こると、東ドイツでも男の子の出生が減りました。
 アメリカ生殖医学会の年次報告によれば、妊娠前にコルチゾールレベルの高い女性の50%は、明らかに女の子を産みやすいのだそうです。
 またフロリダ州オーランドの学会の報告でも、ストレスの高い女性はストレスが低い女性よりも75%も男の子を産みにくくなるとのこと。
 赤ちゃんの性別は、受精時における父親の精子の染色体によって決定されますが、コルチゾールが増えると男になる胎芽(妊娠初期の胎児)が子宮に根付くのが難しくなる。また男の赤ちゃんは女の赤ちゃんよりもコルチゾールに弱く流産しやすい可能性があるとも考えられていますが、詳しい理由はまだわかっていません。

イタリアでも引きこもりが急増
 イタリアの有力紙「コリエレ・デラ・セラ」は、「イタリアの引きこもり(hikikomori)、東京のよう、何年も孤立する少年たち」と題された記事を社会面に大きく掲載しました。
ミラノ発の記事で、「昼は寝て、夜に冷蔵庫をあさり、インターネットと漫画だけの生活」「過去半年、親に話したのは『ほっといてくれ』の一言」と事例を紹介。相談を受ける複数の精神科医が「100万人を数える日本ほどではないが、外のひどい世界から逃れ、閉じこもる子が多い」、またある精神分析医は「私が知る事例では、過去2年で5倍に増えた」とその広がりを強調しています。さらに「日本では厳しい学校制度、親の過剰な期待が一因だが、イタリアでは学校で友達との関係を築けない子の逃避が多い」などと結んでいます。


ひきこもりと精神疾患
 ひきこもりの若者を厚生労働省・研究班が調査したところ、専門施設に相談してきた「ひきこもりに悩む人」の3分の1が統合失調症など薬物治療を必要とする精神疾患を抱えていたことが分かりました。
 調査は平成19〜21年度に行われ、精神科医ら専門家が在籍する全国5カ所の精神保健福祉センターに本人が直接相談にきた184件(16〜35歳)を検討。その結果、診断が確定した149件のうち、49件が統合失調症や不安障害、気分障害など薬物治療が必要とされる精神疾患だったことが判明。さらに48件が広汎性発達障害や精神遅滞と診断され、51件は専門家のカウンセリングなどが治療の中心となるパーソナリティ障害や適応障害など。残る1件は、前記3分類に当てはまらず。
 今回の調査結果を受け、厚労省は「診断や治療を受けないまま、症状を悪化させる恐れがある」として、ひきこもりの背景に精神疾患があるケースが多いことを明確化。ガイドラインでは、現在全国の約26万世帯でひきこもりの子供がいると推計し、ひきこもりの長期化を防ぐため、出来るだけ早く当事者が専門機関に赴いて受診をすることが重要としました。また専門機関は長期的な関与を続け、精神疾患の有無を判断すべきだとしています。


恐怖体験の記憶を消す仕組み
 脳が短期の記憶を留める部分では、神経細胞を次々に作り出すことで「恐怖体験などの記憶を消し去っていること」を富山大学・井ノ口馨教授らが動物実験で突き止めました。
 記憶は、脳の「海馬」と呼ばれる部分に一度保存された後、整理されます。マウスは1か月、人間は半年〜3年で大脳皮質へと移り、長期記憶になることが分かっています。井ノ口教授らは、海馬で神経細胞の新生が盛んなマウスとそうでないマウスを実験に用い、恐怖を感じる程度の電気ショックを加えて記憶を調べました。その結果、細胞新生が少ないと恐怖体験が海馬に留まり、細胞新生が盛んだと大脳皮質へ移りやすいことがわかりました。
 恐怖体験の記憶がいつまでも海馬に留まっていると、何かにつけてその記憶を思い出しやすくなるため、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が長引くものと考えられます。今後、海馬の神経新生を活発にする薬剤が開発されれば、PTSDの治療に役立つものと思われます。


PTSDの治療に血圧降下剤
 米国では、外傷後ストレス障害(PTSD)を持つ帰還兵や自動車事故の生存者、レイプ被害者などを対象に、血圧降下剤を使用して「悪い記憶を良い記憶に置き換える研究」や行動療法によって修正する研究などが現在行われています。
 ハーバード大学のピットマン教授とマギル大学のアラン・ブルネット教授は、銀行強盗に銃で頭を殴られ、生命の危機を感じる体験をした後、PTSD症状に悩まされるようになった男性を対象に「血圧降下剤を用いた治療」を行いました。男性は事件の後、不安感に襲われて外出もままならなくなり、やがて家に引きこもるようになってしまった、とのことです。
 ブルネット教授によると、男性が受けた治療は全部で6回。毎回、高血圧の治療薬を投与された後、記憶を思い起こす作業を行いました。高血圧の薬は、心拍数の増加や過剰な発汗など、恐怖感に襲われた時の一般的な症状を緩和する効果があります。その結果、治療開始から2年経った今では、男性は以前の生活を取り戻したとのこと。今でも銀行での出来事を思い出すことはありますが、もう恐怖感は感じなくなったと話しているそうです。


家庭内暴力と子供の脳
 子どもの頃に両親の家庭内暴力(DV)を見て育つと、脳の発達に悪影響を及ぼすことを熊本大・友田明美准教授らが日本小児科学会で発表しました。
 研究は、米国ハーバード大との共同研究で、米国人を対象に実施。3〜17歳時に自身は虐待を受けず、日常的に父親が母親に殴る蹴るなどの激しい暴力をふるう姿を目撃した18〜25歳の男女15人と、虐待のない家庭で育った33人を選び、MRI(磁気共鳴画像装置)で比較したところ、目撃経験者は目からの情報を処理する「右脳の視覚野の容積が、目撃したことのない人に比べ平均20・5%も小さい」ことが分かりました。また視覚野の血流量を調べると、目撃経験者の方が8・1%も多く、これは神経活動が過敏になっている特徴の現れです。
 なお児童虐待防止法では、暴力を目撃することも「心的外傷」を与えるとして児童虐待に当たるとされています。


キレる小学生が増加
 文部科学省の担当者は、小学校で校内暴力が増加している理由として、感情のコントロールがきかない子供が増加傾向にあり、忍耐力や自己表現力、人間関係を築く力が低下していることが原因と指摘しています。その一方で小児医療に携わる医師たちからは、「低血糖症も要因の一つ」という意見が出されています。
 低血糖とは「血液中の血糖値が低下してしまうこと」で、脳のエネルギー源であるブトウ糖が枯渇した状態が長く続くと、動機、貧血、無気力、めまい、頭痛、不安感、非社会的行動、集中力の欠如、うつといった症状が出てきます。さらに脳は低血糖状態を補うために、アドレナリンというホルモンを分泌して糖の分解を促進し血糖を維持しようとします。しかし、アドレナリンが過剰分泌されると、興奮状態になって攻撃的になってしまいます。大人でも、空腹状態になるとイライラして怒りっぽくなる現象と同じです。
 血糖値の特徴として、その値が急激に上昇すると下がるときもまた急激であること。ご飯などのでんぷん類は、血糖値をゆっくりと上昇させまず。しかし、炭酸飲料、スナック菓子類、ファストフード類の取り過ぎは、血糖値の上昇下降を急激にさせて、低血糖状態を作りやすくするというわけです。


乳幼児にはほめる教育を
 乳幼児期に親からよくほめられる子供は、「他人を思いやる気持ちなどの社会適応力が高くなる」ことが科学技術振興機構の長期追跡調査で明らかになりました。
 筑波大の安梅勅江(あんめときえ)教授らの研究チームは、2005〜08年、大阪府と三重県の計約400人の赤ちゃんに対し、生後4か月、9か月、1歳半、2歳半の時点で成長の度合いを調査。分析は、自ら親に働きかける「主体性」や相手の様子に応じて行動する「共感性」など、5分野25項目で評価しました。
 その結果、生後4〜9か月時点で父母が「育児でほめることは大切」と考えている場合、その子供の社会適応力は1歳半時点で明らかに高くなり、1歳半〜2歳半の子供に積み木遊びを5分間させた時、うまく出来た子供をほめる行動を取った親は半数程度でしたが、その子供の適応力も高いことが分かりました。
 また「規則的な睡眠習慣が取れている」「母親の育児ストレスが少ない」「親子で一緒に本を読んだり買い物をしたりする」ことなども、子供の適応力の発達に結びつくことが示唆されました。


クラゲの癒し
 週末になるとサラリーマン風の男性が、1時間ほどクラゲの水槽の前にたたずみ、ほっとした表情で帰っていく。日本大学生物資源科学部の廣海十朗教授が、クラゲを研究しようと思ったきっかけは、新江ノ島水族館に勤務するスタッフの話でした。
 現在、同館は成人女性向けの宿泊イベント「クラゲヒーリングナイト」を開催。クラゲの水槽の回りで食事や睡眠を取り、ゆったりとした時間を過ごしてもらおうという企画だが、30〜50人の定員に対して、多いときは3倍近い応募があるとのことです。
 廣海教授の実験によると、複雑な計算をしてイライラした状態の人にクラゲの映像を見せると、ストレスの度合いを示す唾液クロモグラニンAが約7割も減少、脈波測定装置では8割に安定効果が表れたそうです。さらに脳の活動状況を調べる光トポグラフィーを使って実験したところ、ほぼ9割の人に血流量の低下が認められたとのことでした。
 廣海教授の実験結果は、イライラした時は「動作が緩慢な生き物を見るとその動きにつられて心が落ち着く」という心理学の常識を裏付ける結果となりました。


悲しい時は涙を流そう
 悲しいことがあると、人は涙を流します。この涙の成分を調べたところ、副腎皮質刺激ホルモンであるACTHという物質が涙の中に溶け込んでいることがわかりました。ACTHは、ストレスを感じた時に脳内で作られる物質ですが、涙にはどうも「この成分を排泄するための手段」としての働きがあるようです。
 沢山涙を流すとスッキリした気分になりますが、それは悲しみによって生まれたストレスを流し出したからなのです。悲しくない時に出た涙には、ACTHは含まれていません。その意味では、辛い時に泣くのを我慢することは健康上よくありません。日本人は特に「悲しみを外に表さない傾向」がありますが、健康的に見ると悲しい時は「上を向いて歩こう、涙がこぼれないように」ではなく、思い切り涙を流した方がよさそうです


笑いの効用

 最近、「笑うことは免疫力を高め、NK細胞を活性化される」という話をよく耳にします。笑いの効果について注目されたきっかけは、1976年のこと。当時、米国の雑誌『サタデー・レビュー』の編集長であったノーマン・カズンズ氏の「体験報告」が発表されたことによります。それによると、カズンズ氏が50歳のある日、体に痛みや炎症が起きて手足が動かなくなるという膠原病(強直性脊椎炎)を患いましたが、病室に映写機を持ち込んで、テレビ番組の『どっきりカメラ』のVTRを見たり、ユーモア全集を読んだりして「笑うこと」で難病を克服。数ヶ月後には、元の仕事に復帰したという話が始まりです。さらに1980年には、心筋梗塞に見舞われましたが、これもプラス思考とお笑い療法で克服しました。
 2年後の 1982年には、「笑い療法研究学会」が結成されました。カズンズ氏は、1990年に心不全で亡くなりましたが、彼が提唱した「お笑い療法」は、現在は"ユーモアセラピー"という名称で、がん患者の治療などに用いられています。。
 笑いの効用として考えられるのは、笑うと免疫力が高まる、脳内ホルモンのβエンドルフィンが分泌され気分が爽快になる、アドレナリンなどのストレスホルモンの分泌が低下する、など。 また感動する映画を見て涙を流したときには、血液中のATCHなどストレスホルモンが減少、はっきりとしたα波が脳波に現れやすいことがわかっています。

ストレスと白血球
 白血球は、顆粒球、リンパ球、単球に分かれますが、このうち6割を占めているのが「顆粒球」です。顆粒球は名前のごとく、細胞の中につぶつぶがあり、染色すると染まります。中性の色素で染まるのを好中球、酸性の色素で染まるのを好酸球、塩基性の色素で染まるのを好塩基球といいますが、その多くは好中球です。
好中球は、体内に細菌などが進入した時、それを食べ、食べてお腹一杯になると死んでしまいます。例えば、好中球が細菌を食べて死んだ状態が"膿"です。またニキビの赤いぷつぷつは、そこに感染した細菌を好中球が食べて死んだ状態です。問題は、食べて死ぬ時に「活性酸素」を出すこと。またストレスなどで交感神経が緊張すると好中球などの顆粒球が増え、リンパ球が減少しやすいので、感染症にかかりやすくなります。

亜鉛不足と暴力
 米国イリノイ州で行われた研究によれば、暴力行為で刑務所に収容された男性囚人は、一般の男性に比べて「血液中の亜鉛濃度が低い傾向にある」ということです。
 ストレスが加わると体内ではそれに対抗する物質が作られますが、その一つが肝臓で作られるメタロチオネインというたんぱく質。このたんぱく質は、ストレスに対する感受性を下げて、緊張や不安を和らげる働きがありますが、メタロチオネインの合成に欠かせないのが亜鉛です。亜鉛不足の結果、メタロチオネインの合成がうまくいかず、ストレスに対して過敏となっている可能性があり、最近の若者がキレやすくなったのも実は亜鉛不足が一因しているのかもしれません。

低亜鉛食でうつ状態に
 鞄n辺オイスター研究所は、静岡県立大学薬学部などの共同研究で、「うつ様行動を示すラットに亜鉛を補給すると、うつ様行動が改善される」ことを発表しました。
 実験は、ラットに低亜鉛食を2週間投与。するとストレス応答を担う視床下部などのHPA系が活性化し、血中のコルチコステロン濃度が上昇。次いで海馬細胞外グルタミン酸の過剰放出が起こり、うつや不安行動が確認されました。そこで亜鉛補給のエサに変えると、4日後にうつ様行動が回復したということです。

うつ病とセントジョーンズワート
 ストレスに良いとされるサプリメントの一つにセントジョーンズワートがあります。セントジョーンズワートに含まれるハイパーフォリンには、シナプスから放出されたセロトニンが「再び同じシナプスに取り込まれるのを防ぐ働き」があります。またヒペリシンは、セロトニンを分解する酵素である「MAOの活性を阻害する働き」があり、これらの成分がシナプス間のセロトニン濃度の低下を抑えて、うつ病などの改善に効果をもたらすと考えられています。
 ドイツではうつ病の他、自律神経失調症や情緒不安の医薬品として使用されていますが、医薬品としては「ヒペリシン類を0.3%」含有しているものが使用されていますので、健康食品として購入する際も「ヒペリシン類0.3%含有で、1日の目安量300〜900mg」を参考にして下さい。ただし、効果は緩やかで、医薬品のような即効性は期待出来ませんのでご注意を。

DHAとセロトニン
 脳内には、セロトニンを利用している神経細胞、すなわちセロトニン作動性ニューロンが存在します。このニューロンでセロトニンが利用されますと「5HIAA(5-ハイドロキシインドール酢酸)」という物質が生成されますので、脊髄液中の5HIAAを測定することで脳内セロトニンの利用率がわかります。凶悪な犯罪者では「5HIAA」が少ないことが知られていますので、脳内のセロトニンが少なく、セロトニン作動性ニューロンの働きが悪いと攻撃性が高まるのではないという報告があります。
 魚の油に含まれるDHAの血中濃度が低い人は「5HIAAが少ない傾向にある」ことが知られています。そこで富山医科薬科大学の浜崎智仁教授は、2ヶ月間に渡って医学部の学生にDHAを摂取してもらったところ、ストレスホルモンである「ノルアドレナリンの量が減少した」という結果が出ました。また2000年に開催された国際脂肪酸・脂質学会では、フィンランドの学者が「週に2回以上魚を食べない人は、そうでない人に比べ自殺企画率が高い」ことを発表し、魚の摂取はうつ病や自殺の予防になるのではないかといわれています。

離婚遺伝子は存在する
 スウェーデン・カロリンスカ研究所や米国エール大などの研究チームは、ハタネズミ類の夫婦関係(一夫一婦制)を左右する遺伝子がヒトにもあり、男性ではこの遺伝子が特定タイプの場合、そうでない場合に比べて「離婚や別離の危機を経験する確率が2倍高い」ことが分かりました。
 この遺伝子とは、「AVPR1A」というもので、脳神経において神経伝達物質であるアルギニン・バソプレシン(AVP)を受け取るたんぱく質(受容体)を生み出す機能があるもの。ハタネズミ類ではAVPが多かったり、受容体がよく働くタイプだと、社会性が高く一夫一婦制を好むようになることが確認されており、ヒトでは自閉症の発症リスクに影響する可能性が示唆されています。
 研究チームは、パートナーがいるスウェーデン人男性約900人を対象に、2本ある12番染色体中のこの遺伝子におけるDNA塩基配列が特定のタイプかどうかを調査したところ、2本とも特定タイプの男性が「過去1年に離婚や別離の危機を経験した割合は34%」と、2本ともそうでない場合(15%)の約2倍であることがわかりました。

夫婦円満の秘訣
 円満な夫婦の秘訣は『夫が家事を手伝うこと』であることが、英国ロンドンにあるスクール・オブ・エコノミクスの研究で明らかになりました。この研究は、1970年に最初の子供を持った夫婦3,450組についての追跡調査。その結果、夫の半分以上が「家事を全く手伝っていない」ことが判明。買い物や掃除、洗濯など率先して家事を手伝う夫は、全体の4分の1に留まりました。
 また妻が仕事を始めると「離婚の危険性は約2倍近く増加」しますが、夫の家事参加によって「危険性が最小限に抑えられる」ことが判明。研究をまとめているサイグル・ラシュトン博士は、「夫の家事参加は、妻が働き始める時に生じる離婚の危険性をほぼ相殺する」と説明。また博士は、「『夫は働き、妻は家を守る』という伝統的な家庭の形態が変わり始めている。夫の仕事に関係なく、『家事を共有すること』が夫婦の円満には必須である」と主張しています。

ドーパミンと過食行動
 遺伝子が「過食や体重増加を招く一因」である可能性が、新しい研究によって示唆されました。アメリカの科学誌「Science」2008年10月17日号で発表された「ドーパミンを利用して食物に対する脳の反応を調べた研究」によれば、食事を摂ると脳の"報酬(reward)"中枢細胞はドーパミンを放出し、快感を引き起こします。これまでの研究では、脳内のドーパミン受容体が少ない人は、他の人と同じ満足感を得るためにより多量に食べる人がいることが報告されていました。
 今回、米国オレゴン研究所では、エール大学およびテキサス大学の研究者とともに、女性の脳の快感中枢のスキャンを実施。その結果、一部の女性の脳ではドーパミン反応が低いことが示されました。また特定のドーパミンD2受容体遺伝子を持つ女性は、ミルクセーキを飲んだときの快感反応が低く、同じ快感反応を得るにはより多くのミルクセーキが必要でした。さらに追跡調査では、これらの女性がその後、過体重になる確率が高いことも示されました。

脳内たんぱく質と積極性
 「X11L」という脳だけに存在するたんぱく質がないと、仲間と競争して餌を取り合ったり、侵入者を撃退したりする積極性が低下することがマウスの実験で分かり、理化学研究所と北海道大の研究チームが米科学誌『ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス』に発表しました。
 X11Lは、神経活動を制御する様々なたんぱく質を「必要な場所に適切なタイミングで運ぶ役割」を持っています。自閉症や統合失調症の患者の脳内におけるX11Lとの関連性はまだ未解明ですが、治療につながる可能性がありそうです。

アスタマニアーナ
 心臓疾患を引き起こしやすい性格として、心理学では「タイプA」が一般に知られています。タイプAとは、短気でせっかち、怒りやすい、攻撃的な性格をいいます。逆に心臓疾患になりにくく、またストレスを溜めにくいのんびりとした性格の人を「タイプB」といいます。以上のことから、近年ではタイプBのような「アバウトな気質」が注目されるようになりました。
 外国人の代表では、メキシコ人。メキシコ人にものを頼む時は、少なくとも3回は繰り返して念を押さないと忘れられてしまうという話さえあります。彼らの気質を表す言葉には、「アスタマニアーナ」があります。意味は、明日になればなんとかなるさ。
 続いて日本人代表では、沖縄県民。沖縄人の気質を表す言葉に「テーゲー主義」というのがあります。意味は、「たいがい」「だいたい」といった大雑把なこと。またメキシコ人のアスタマニアーナに似た言葉には、「ナンクルナイサー(なんとかなるさ)」があります。

孤独な高齢者ほど早死にしやすい
 家族や友人、隣人に恵まれた高齢者は、孤独な高齢者に比べ「生き延びる確率が1.5倍高い」ことを米国ブリガムヤング大などの研究チームが発表しました。この研究は、過去に行われた148種類、計約30万8900人を対象とする長期調査をまとめて分析したもので、対象者の平均年齢は約64歳。男女はほぼ半々で、地域別では北米51%、欧州37%、アジア11%、オーストラリア1%。
 研究の結果、人付き合いがある人の方が「生存率が1.5倍高い」ことを指摘。逆に孤独であることは、アルコール依存症やタバコを1日15本吸うのと同じぐらい健康に悪いそうです。


◆  ガンについて

がんの原因
 国立がんセンターの発表によれば、がんの原因の約8割は、食事とタバコだそうです。例えば、胃がんの原因の一つに「ニトロソアミン」という発がん物質があります。ニトロソアミンは、肉や魚に含まれるたんぱく質であるアミンと野菜などに含まれる亜硝酸とが、胃の中で反応し生成されます。ニトロソアミンには、胃の遺伝子を傷つける働きがあるため、胃がんの原因となるわけです。なおビタミンCには、亜硝酸を硝酸に変えて尿中に排泄し、ニトロソアミンの生成を防ぐ働きがあります。またシイタケなどに含まれるチオプロリンというアミノ酸は、胃の中で亜硝酸と結合してニトロソアミンの生成を抑制します。
 食べ過ぎによる肥満が、大腸がんや乳がんの原因となることが知られています。肥満して体に脂肪がつくと、脂肪に含まれるアロマターゼという酵素が男性ホルモンを女性ホルモンに変換してしまいます。その結果、高エストロゲン状態が続くことになり、乳がんなどを促進させてしまうわけです。
 タバコをまったく吸わない人が肺がんになる確率は、男性の場合100人に1人ぐらい。しかし、喫煙者の場合は100人中10〜20人が肺がんになりますので、タバコを吸うことは肺がんになる確率を10〜20倍高めることになります。また喫煙者の夫を持つ妻が肺がんになる確率は、そうでない人の約2倍。(筆者のように)子供時代に親から受動喫煙させられていた人は、すい臓がんになる危険度が約8倍高まります。

がんのリスクを減らす生活習慣
 国立がん研究センター(東京都中央区)は、禁煙や塩分控えめの食事など五つの生活習慣を実践すると「がんのリスクが4割程度減少する」という研究結果をまとめました。
 研究班は、1990年代後半に45〜74歳だった7万8548人(男性3万6964人、女性4万1584人)を2006年まで追跡し、がんのリスクを下げると言われている五つの生活習慣とがんの発生率との関係を調べました。
 その結果、禁煙、節酒(1日日本酒1合以下を週6日以内)、塩分控えめの食事、活発な活動(1日に男性でスポーツ1時間以上、女性で立ったり歩いたり3時間以上)、適正な体重(体格指数=BMI=が男性で21〜27、女性で19〜25)、以上の五つの生活習慣のうち、二つを実践しているグループは、ゼロまたは一つだけ実践しているグループに比べ「がんのリスクが男女とも14%低下」していました。さらに実践している生活習慣の数が多いほど、男女ともリスクが直線的に低下し、五つすべてを実践すると「男性で43%、女性で37%低下する」ことが分かりました。

がんの早期発見
  以前、「PET検診は、超早期胃がんを含めると85%ものガンを発見できない」との報道がありました。国立がんセンター・がん予防検診センター長森山紀之氏によれば、「有効性が証明されているガン検診は、胃のX線検査、子宮頚部の細胞診、視触診とマンモグラフィーを合わせた乳がん検診、胸部X線と喀痰細胞診を合わせた肺がん検診、大腸の便潜血検査、肝炎ウイルス検査の6つだけ」ということです。しかも肺がんに関しては、胸部X線と喀痰細胞診を合わせた肺がん検診だけでは見落としも多く、40歳以上はヘリカルCTによる検診を受けた方が有効とも。またマンモグラフィーについては、マンモグラフィ検診精度管理中央委員会がホームページ上で認定医師を公表しているので、しっかりとした医師を選ぶこともポイントです。
 どんなガンにも必ず前触れがあり、体のちょっとしたサインに気づくことが最大の予防ですが、多くのガンに共通した前触れは3つです。1つは「全身の倦怠感」で、朝起きた時から一日中だるさを感じる。この理由は、サイトカインの分泌に伴う影響ではないかといわれています。2つ目は「食欲の低下」。今まで好物だった食べ物や脂っこいものが食べられなくなった場合は要注意。3つ目は「37度前後の微熱」。特に肺がん、大腸がん、すい臓がん、白血病に多い傾向が見られます。
 1990年代以降、米国ではガン死亡率が低下しました。その理由の1つとして、1975年にスタートした「ヘルシーピープル」というがん予防政策があります。この政策の最大のポイントは、野菜と果物を多食すること。それから生まれたキャンペーンが「5ADAY」。1日5皿以上の野菜と果物を取りましょうと呼びかける運動でした。

唾液でがんを発見
 慶応大・先端生命科学研究所は、米カリフォルニア大ロサンゼルス校との共同研究により、唾液で膵臓がん、乳がん、口腔がんを検出する方法を開発したことを発表しました。
 膵臓がん、口腔がんは、進行してから見つかることが多く、生存率が低いがんとして知られています。マーカーでがんを診断する方法もありますが、口腔がんに有効なマーカーはなく、膵臓がんはあるものの、他の病気でも異常値を示すため識別が難しい欠点があります。
 同研究所は、三つのがんの患者と患者以外の計215人の唾液サンプルに含まれる物質を網羅的に解析。約500種類の物質が検出され、このうち54物質の濃度が、がん患者とそれ以外で異なることが分かりました。この方法により、膵臓がん、乳がん、口腔がんをそれぞれ99%、95%、80%の精度で検出出来るということです。

生体を傷つけないがん検診
 光を当てるだけで「体の組織の立体映像」が得られるオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー(OCT)の新たなソフトウェアの開発に、北里大学・大林康二教授と潟Vステムハウスつくば・池田練造事業所長らが成功しました。
 OCTは、反射してくる光の干渉を利用することで立体映像を表示出来ます。コンピューター断層撮影(CT)、超音波、核磁気共鳴画像法(MRI)、ポジトロン断層法(PET)など組織を切り取らずに診断出来るものはすでにありますが、いずれも分解能が低く、バイオプシーのように初期の小さながんを発見することは出来ません。 一方OCTには、膨大な測定データの処理に何時間もかかるという弱点がありました。しかし、新たに開発されたソフトウェアでは、12分の1秒で取得された縦横1.5センチ、深さ4ミリの3次元立体断層画像をわずか1秒で処理出来るということです。これまでの組織を切り取らなければならないバイオプシー(生検)とは異なり、患者の負担が小さいがん診断法となることも期待されています。

がん検診の受診率問題
 過去2年間にがん検診を受けた人は「わずか3〜4割」にとどまり、受診率がほとんど向上していないことが内閣府の世論調査で分かりました。肺がんは前回調査(19年)より3・2ポイント増の42・4%で4割台に達しましたが、それ以外は、胃がん38・1%(0・6ポイント増)、子宮がん37・2%(1・8ポイント減)、大腸がん34・6%(2・2ポイント増)、乳がん32・3%(0・1ポイント減)……と3割台にとどまりました。
 政府は、平成24年までに受診率50%以上を目指していますが、依然としてがん検診の受診率は低迷気味。厚生労働省は「症状がないときに検診を受けないと手遅れになる」として、早期の検診を強く求めています。

死よりも治療費が心配
 調査会社「日本能率協会総合研究所」(東京都)のアンケートでは、がんになった場合に心配なこととして「治療費(経済的負担)」を挙げた人が72%と最多で、「死」の56%を上回ることが分かりました。
 調査は、全国の20〜69歳の男女計1000人を対象にインターネットで実施。6割強が、健康状態は悪くないと回答。がんになった場合に心配することを複数回答で尋ねたところ、治療費(経済的負担)が72.3%で最多。その他では、死(55.5%)、痛み(53.3%)、家族(45.9%)、就労(失職:20.9%)。
 がんになった場合の対応を複数回答で尋ねると、「かかりつけの医師・担当医がすすめる治療を受ける」が44.1%でトップ。その他、「自分で良いと思う治療を受ける」(41.5%)、「費用がかかっても先端治療を受ける」(18.7%)など。
 将来がんになる可能性については、「非常にあると思う」が17.5%、「ややあると思う」が37.8%で、半数を超える人ががんになる可能性を感じ、さらにがんは治る病気と思うかどうか尋ねたところ、「非常にそう思う」が5.3%、「ややそう思う」が38.8%で、全体の4割強ががんは治る病気と考えていました。

がん保険は、本当に必要か?
 生命保険会社の宣伝文句、「一生の間に2人に1人は、がんになる」。確かに……一生涯で考えれば、男性の54%、女性は41%ががんになっています。
 では、50歳までに罹る確率は?……というと、わずか2%。それというのも、がんは生活習慣病。一部の遺伝性のがんを除けば、基本的に50歳を過ぎてからなる病気なのです。がんの罹患率は、60歳でもまだ7%以下、80歳でも37%以下。それ以上長生きした人を全部含めて、ようやく2人に1人となります。
 しかし、自分がいつがんにかかるのか……なんて、誰にもわかりません。保険はあくまでも安心料だと思ってお付き合い下さい。

がんの新治療
 医学は、日進月歩です。近年でも胃潰瘍薬のシメチジンにガン転移を防ぐ作用があることがわかったり、骨に転移したガンには骨粗鬆症治療薬のビスホスホネート製剤が有効であることがわかってきました。また抗がん剤の1回の投与量を少なくし、回数を多くすることでガンの増殖を遅らせ、出来るだけ長期間、がん細胞を休眠状態にして延命効果を図ろうといった"ガン休眠療法"なども試みられています。
 近年、注目されているものに "自家ガンワクチン療法"、"ハイパーサーミア"があります。
 自家ガンワクチン療法とは、手術で摘出したガン組織をもとに抗原を作り、それをワクチンとして体内に注射し、がん細胞を攻撃する白血球を活性化させようとする治療法です。今まで試みられてきた"養子免疫療法"などでは、せっかくリンパ球を増やして体内に戻しても、がん細胞にリンパ球がうまく集まらなかったり、ガン殺傷力が弱かったりする場合が多く、治療効果に個人差が現れやすいという難点がありました。 しかし"自家ガンワクチン療法"では、自分のがん細胞を原料としているため、より高い治療効果が期待できるというものです。
 ハイパーサーミアは"温熱療法"とも呼ばれ、がん細胞が熱に弱いことを利用したものです。がん細胞は毛細血管が充分張り巡らされていないため、酸素不足によりがん細胞内は酸性に傾いています。細胞は酸性に傾くほど熱に弱いため、患部を温めることでがん細胞を死滅させようというもの。サーモトロンという装置を用い、そこからラジオ波を発生させて分子を振動させ、摩擦熱で体温を上げる仕組みです。
 素晴らしい治療法ではありますが、問題点もいくつかあります。ハイパーサーミアの場合、脳、目、血液のガンでは対応できません。また単独では効果が期待できないため、抗がん剤や放射線治療との併用が原則です。
 自家ガンワクチン療法の問題点は、健康保険の適応外なので、治療費は自己負担となり、140〜150万円ほどかかります。また自己のがん細胞を使用するため、がん細胞が病院に残されていない場合は治療を受けられないといった難点があります。

がんのバイオマーカー候補を発見
 北海道大学・西村紳一郎教授らの研究グループは、塩野義製薬と共同で早期発見が難しい肺がんや膵臓がんなどの初期段階の目印となる「生体指標(バイオマーカー)候補を発見した」と発表しました。
 西村教授らは、ヒトの体内で免疫力にかかわる血清から取り出した糖鎖を大規模・短時間に解析できる自動分析装置を開発し、1滴の血液から肝臓がんを判定できる糖鎖の組み合わせをすでに発見。今回は、新たに肺がん、膵臓がん、さらに関節リウマチに関しても指標となる糖鎖を見つけたということです。

血液検査から消化器がん発見
 少量の血液から遺伝子群の変化を調べ、極めて高い確率で消化器がんを診断出来るシステムを金沢大・金子周一教授らのグループが開発しました。これまで血液(腫瘍マーカー)を用いた方法でがんを検出する確率は20%程度でしたが、9割にまで精度を高めることが可能で、さらに人間ドックや健康診断に導入すれば早期発見につながるとのことです。
 金子教授らは、胃、大腸、膵臓がんの患者約50人の血液を解析。一定の遺伝子群に働きが活発になるなど変化が見られることを突き止めました。この遺伝子群に着目し、別の消化器がん患者53人の血液を検査したところ、9割にあたる48人の遺伝子群が同様のパターンを示していました。検診で応用する際には、約800種類の遺伝子群に的を絞って血液のRNAに蛍光試薬を加え反応パターンを調べますが、必要な血液は2・5CCで済み、結果は3、4日で出せるそうです。

がんを誘発するたんぱく質
 がんを抑制する遺伝子「p53」は、異常な速さで増殖するがん細胞などを根絶するため、細胞自身を自滅(アポトーシス)に導く働きがあります。しかし、がん細胞と同レベルの速さで著しく増殖する胎児期の細胞はp53の影響を受けていないため、その理由は謎とされてきました。
 今回、九州大学生体防御医学研究所の中山敬一教授らは、「p53」の働きを妨げるたんぱく質を特定したことを発表しました。
 研究グループは、胎児期に多く生産されるたんぱく質「CHD8」に着目。胎児期のマウスによる実験で、CHD8が結合したp53が機能しなくなることを突き止めました。またこれまでの研究では、培養したがん細胞ではCHD8の発現量が多く、マウスにCHD8を皮下注射するとがんを発症する傾向も出ているとのことです。
 中山教授は、「CHD8はがんを誘発する"がん遺伝子"といえる。CHD8の機能を抑える薬を開発すれば、新しい抗がん剤になると期待できる」と語っています。

がんを直接防ぐ遺伝子
 国立がんセンター研究所の大木理恵子研究員らは、正常な細胞ががん細胞に変わるのを「直接防ぐ遺伝子」を特定した、と米国科学誌「セル」に発表しました。
 すべての正常細胞は遺伝子「Akt」の働きが異常になるとがん化することは、すでに知られていました。通常、がん抑制遺伝子「p53」が司令塔となって、Aktががん化するのを防いでいますが、指示を受けて働く遺伝子の正体はこれまで謎。
 そこで研究チームは、がん細胞が死ぬことなく異常に増殖することから、細胞死を引き起こす遺伝子「PHLDA3」に注目。ヒトの肺がん細胞を調べたところ、この遺伝子が欠けていることを発見。またAkt遺伝子の働きも異常に活発化していたことを確認した、とのことです。


iPS細胞の作製効率高まる
 がんの発生を抑えるP53遺伝子の働きを調節することで、iPS細胞(新型万能細胞)の作製効率を大幅に高めることに京都大学・山中伸弥教授らのチームが成功しました。
 p53遺伝子は、発がん物質などによって細胞のDNAが損傷を受けると、細胞を修復またはアポトーシスさせてがんの発生を抑えます。山中教授らは、細胞に四つの遺伝子を入れてiPSを作る際、p53の働きが活発になることから「p53がiPS細胞の作製を阻害しているのでは」と考えました。そこでp53を欠損させたマウスや、その働きを弱めた人の細胞で試すと「iPS細胞の作製効率が10〜100倍高まった」ということです。
 また米国ソーク研究所のチームも、p53の働きを弱めたマウスの細胞から二つの遺伝子だけでiPS細胞を作ることに成功したそうです。


iPS細胞からNKT細胞を作成
 理化学研究所のチームは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から強力な抗がん効果のある特定のリンパ球のみを大量に作成することにマウス実験で成功。さらに作ったリンパ球をがんマウスの体内に入れて活性化させると、抗がん効果を発揮することも確認したとのことです。
 リンパ球の一種である「ナチュラルキラーT(NKT)細胞」には、他の免疫細胞にも働きかけてがん細胞を直接または間接的に殺す作用があります。そこで、マウスのNKT細胞に4種類の遺伝子をウイルスに運ばせ、NKT細胞由来のiPS細胞を作成。これをリンパ球に分化させると、すべてNKT細胞になりました。そこで、生まれつきNKT細胞を持たないマウスにがんを移植し、続いて作成したNKT細胞と活性化物質を静脈に注入すると、がんは大きくならず、マウスは1年後も生き続けたそうです。
 これまで人間の体内のNKT細胞を活性化させて、がん細胞を攻撃する新たな免疫細胞療法は開発されています。しかし、もともとNKT細胞が少ない患者では効果が低いという弱点がありました。今回の研究で、「将来、患者のNKT細胞を基にiPS細胞を介して大量のNKT細胞を作り、患者に戻すことが出来れば、より効果的な治療法になる」とのことです。


抗がん剤治療に大きな差

 がんセンターや大学病院などのがん専門病院で、抗がん剤治療を受けた進行胃がん患者の平均生存期間に約9カ月から約14カ月の差があることが、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の分析で分かりました。
 JCOGは、2000年〜07年に手術できない進行胃がんや再発した胃がんの患者、計約700人を3グループに分け、それぞれを別の抗がん剤で治療して生存期間などを比べる臨床試験を実施しました。さらにこの試験で、各グループそれぞれ2人以上を治療した22病院(患者計658人)を対象に、同じ薬でも患者の生存期間が病院ごとにどう違うかを分析したところ、患者の半数以上が生存するとみられる期間はティーエスワン(抗がん剤)の場合、最も長い病院では14.2カ月だったが、最短の病院では9.0カ月にとどまり、5.2カ月の差があることがわかりました。
 一方、がんの進行や重い副作用で、最初の抗がん剤が使えなくなるまでの期間は、最長2・7カ月、最短1.9カ月で、差は1カ月足らず。その後の治療方針は病院ごとにばらばらで、この違いが生存期間の差につながったとみられます。なお各病院の年間胃がん患者数や抗がん剤治療を担当するスタッフ数などは、生存期間と関係ありませんでした。

乳がんに関するアンケート調査
 女性のがん罹患者のトップは、乳がん。実は、9割近くの女性が乳がんに関心を持つ一方、実際に自己検診をした人は、4割程度にとどまっていることがNTTレゾナント(東京)の調査で明らかになりました。
 調査は、2008年に30代と40代の女性約2万7400人を対象に実施。アンケートの結果、87.1%の人が「乳がんに関心がある」と回答したが、「日本人女性の20人に1人がかかる」「30−64歳の女性がん患者の死因トップ」という現状を知っていた人は、それぞれ24.3%と18.1%でした。
 さらに「乳がん検診を受けたことがない人」は42.9%で、2005年の調査より12.4ポイント減少。また「自己検診を行った人」の割合は、同年の25.6%から38.9%に、乳房エックス線撮影検査(マンモグラフィー)を受けた人の割合は、同様に15.6%から27.4%に上昇していました。

アルコールと乳がんリスク
 酒を多く飲む女性ほど「乳がんになりやすい傾向にある」ことが、愛知県がんセンター研究所・研究グループにより分かりました。同研究グループは、愛知県がんセンター病院で乳がんと診断された1754人と、乳がんと診断されなかった女性3508人を分析。全般に酒量が増えるにつれて乳がんの発症率が高くなり、この傾向は閉経の後で著しく、閉経前の女性でははっきりしませんでした。
 研究によれば、閉経後の乳がん発症率は「酒を飲まない女性」を1とすると、「少し飲む女性」は1・24倍、「時々飲む女性」は1・39倍、日本酒換算で「週に7合以上飲む女性」は1・74倍だったということです。
 また毎日ビールを1本以上飲むような女性は、乳がんになる可能性が高いことが厚生労働省研究班の大規模調査で分かりました。研究は、9府県に住む40〜69歳の女性約5万人を対象に13〜16年間に渡る追跡調査で行われました。飲酒習慣については、1、飲んだことがない 2、ときどき(月1〜3回) 3、週にエタノール換算で150グラム(日本酒約7合、ビール大瓶約7本などに相当)以下、 4、週に同151グラム以上、 5、過去に飲んでいた……と、5群に分類して発症率との関係を調べました
 その結果、最も飲酒量が多い群が乳がんを発症する割合は、飲まない群の1.75倍になることが分かりました。また肥満や飲酒によって赤くなる傾向、喫煙の有無とは関係なく、飲酒量が多い群の発症率が最も高かったそうです。

乳がんの発症と大豆製品
 京大医学部附属病院・戸井雅和教授と東大大学院医学系研究科・大橋靖雄教授らは、「10代から40代にかけて大豆製品や乳酸菌を含む飲料を頻繁に取っていた女性は、その後の乳がん発症の危険性が低かった」とする調査結果を発表しました。
 戸井教授と大橋教授らは、40〜55歳の早期乳がん患者306人と、年齢・地域を対応させた乳がんでない662人を対象に調査。その結果、乳酸菌飲料を「週4日以上」摂取していた女性は「週3日以下」の女性に比べ、乳がんになる危険性が34%減少。大豆製品もイソフラボン換算で17.6mg/日未満の「あまり食べない女性」(木綿豆腐6分の1丁以下)に比べ、それ以上摂取している女性では乳がん発症の危険性が37〜55%低下していました。また大豆製品の摂取量が同じでも、乳酸菌飲料を「週4回以上」飲んでいた女性は「週3回以下」の女性に比べ、乳がんになる危険性がさらに低いことも分かりました。
 大橋教授は、すでに乳酸菌摂取量が多い集団では膀胱がん発症が少ないことも報告しており、「がんの予防には、正しい食生活を送ることが基本」と語っています。


肺がんの原因と放射線

 アスベスト(石綿)の吸引や喫煙などにより、強い放射線を出す「ラジウムが濃縮されて肺に蓄積する」ことを岡山大・中村栄三教授らが突き止めました。
 中村教授らは、悪性中皮腫の患者から切除した肺組織から鉄を含んだ直径数十マイクロ・メートルのたんぱく質の塊(フェリチン)を採取。塊に含まれる成分を調べたところ、海水の数百万〜1000万倍も高い濃度のラジウムが含まれていることを発見。アスベストやタバコの煙に含まれる鉄分が、肺の中に吸入されることでフェリチンの生成が促進されて、体内にラジウムが濃縮されたと推測されます。
 放射線が細胞のDNAを傷つけることで、悪性中皮腫や肺がんを引き起こすものと考えられます。

肺がんとイレッサ治療
 特定の遺伝子が変異した進行性の肺がん患者に治療薬「イレッサ」を使うと、通常の抗がん剤治療より「生存期間が2倍になる」ことが、東北大などの臨床試験で分かりました。
 研究チームは、遺伝子変異が見つかった非小細胞がんの患者230人を2グループに分け、半数は最初からイレッサを使い、残る半数は抗がん剤が効かなくなった後にイレッサを投与しました。その結果、最初からイレッサを使った場合の平均生存期間は30.5カ月で、抗がん剤のみの13.9カ月と比べ2倍に延命出来たことが分かりました。なお抗がん剤後にイレッサを使用した患者の生存期間は、23.6カ月でした。
 2008年、日本において肺がんで死亡された方は、6万8847人。うち約80%が腺がんなどの「非小細胞肺がん」で、細胞のがん化にかかわる遺伝子「EGFR」の変異が原因とされています。その変異は、日本人女性の肺がん患者の3分の2、男性の15%で見つかっており、今後の研究が期待されています。

大豆食品と肺がんのリスク
 タバコを吸わない男性の場合、大豆食品に含まれるイソフラボンの摂取量が多い人は「肺がんになるリスクが、摂取量が少ない人の半分以下」という結果を厚生労働省研究班が発表しました。
 研究班は、岩手、秋田など8県に住む45〜74歳の男女約7万6千人を平均約11年間に渡り追跡調査。また食事内容のアンケートから、イソフラボンの摂取量を算出して肺がんの発症率を比較しました。その結果、男性のうち非喫煙者では、イソフラボン摂取量が最も多いグループ(豆腐換算で1日約203グラム)の発症率は、最も少ないグループ(同約37グラム)の43%。女性でも統計学的に有意差はなかったものの、同様の傾向が見られました。
 研究班によると、肺がんと女性ホルモンとの関係を指摘する報告があり、女性ホルモンと構造が似ているイソフラボンの摂取が肺がん発症に影響することに関して、今回と同様「イソフラボンの摂取で肺がんリスクが下がる」ことを示唆する海外での報告があるそうです。

食道がんの予防
 野菜と果物を多く食べる男性は、あまり食べない男性に比べて食道がんになる危険度がほぼ半減することが、厚生労働省研究班の調査で分かりました。調査方法は、1995年と98年、45〜74歳の男性約3万9000人を対象に食事に関するアンケートを実施し、「野菜と果物の1日あたりの摂取量」から推計しました。
 その結果、野菜と果物の合計摂取量が1日平均544グラムのグループが食道がんになる危険性は、170グラムのグループの52%にとどまり、また摂取量が1日100グラム増えると危険度は約10%減少。野菜の種類では、キャベツや大根などのアブラナ科の野菜の摂取量と危険度低下に関連性が認められました。
 喫煙や飲酒習慣がある人でも、野菜と果物を多く食べると危険度が減少。喫煙習慣があり、日本酒を1日2合以上飲む人では、多く摂取する人の危険度が少ない人より6割以上も低い結果が出ました。
 この研究に参加した山地研究員は「食道がんの予防には、禁煙・禁酒が第一だが、野菜と果物の摂取にも予防効果が期待できることが分かった。アブラナ科の野菜は、がんを抑制するとされる成分イソチオシアネートを多く含むため、効果があるのではないか」と話しています。

βカロテン不足と胃がん
 βカロテンが不足すると胃がんの発生リスクが高まることが、厚生労働科学研究班が40〜69歳の男女約3万7千人を対象に実施したコホート研究で明らかとなりました。
 同研究班では、血漿中のカロテノイドなどの抗酸化物質の値と胃がん発生率との関連を調べたところ、血中のβカロテン濃度が高いグループでは「胃がんの発生リスクが低くなる」ことがわかったということです。なお本研究内容は、イギリスのがん医学誌「Carcinogenesis」に掲載されました。

コーヒーと子宮体がん
 厚生労働省研究班の大規模疫学調査によると「コーヒーをよく飲む女性ほど子宮体がんになりにくい」ことがわかりました。
 研究班は1990年から94年にかけて、全国10地域の40〜69歳の女性約5万4000人を対象にコーヒーの摂取頻度などのアンケート調査を実施。その結果、週2日以下しか飲まない人に比べ、毎日1、2杯飲む人は約4割、毎日3杯以上の人は6割ほどがん発症リスクが低かった。一方、緑茶ではこうした関連が見られませんでした。
 子宮体がんの要因として、インスリンや女性ホルモンであるエストロゲンの関与が知られていますが、コーヒーを飲むことで「これらの濃度が低下する」とのデータがあり、今回はそれを裏付ける結果となりました。

すい臓がんと清涼飲料水
 米国ミネソタ大学のマーク・ペレイラ博士によると、1週間にコップ2杯以上の清涼飲料水を飲む人は「膵臓ガンのリスクが通常の約2倍になる」とのことです。博士は、シンガポールに住む60,524人の男女の14年間の推移を調べた結果、1週間にコップ2杯以上の清涼飲料水を飲んだ人は、飲まなかった人に比べて87%も膵臓ガンになるリスクが増加していることが判明。理由として考えられるのは、清涼飲料水の飲み過ぎによる糖分の過剰摂取がインシュリンを増加させ、その結果膵臓ガンを生むということです。
 膵臓ガンは、早期発見が困難な上に進行が早く、進行がんの場合、5年生存率は5パーセントしかありません。ただ果物のジュースはこれに当てはまらず、リスクの増加は見られなかったそうです。

野菜の摂取はがんを防ぐ
 国立がんセンター研究所とJA長野厚生連4総合病院は、長野県民を対象に「食事と生活習慣病の調査」を実施し、その内容を第62回日本癌学会で発表しました。
 例えば、ブナシメジ・ナメコを「ほとんど食べない」人が胃がんになる確率を1とした場合、「週1回以上食べる」人はいずれも0.56。エノキタケも「週1回未満しか食べない」人に比べ、「週3回以上食べる」人は0.66.と減少する傾向が見られました。
またブロッコリーを「週1回未満しか食べない」人が胃がんまたは大腸がんになる確率を1とした場合、「週3回以上食べる」人は胃がんが0.60、大腸がんが0.18と減少する傾向が見られたそうです。キノコを含め、野菜類をしっかり取ることががんの予防には良さそうです。

赤み肉の食べ過ぎでがんに
 いわき明星大・竹中章郎教授らの研究グループは、胃や腸のがんを誘発する原因遺伝子の一つの立体構造を解明したと発表しました。牛肉などの赤身には、体内で活性酸化窒素を生成する働きがあるタンパク質「ミオグロビン」が多く含まれています。活性酸化窒素は、グリシンというアミノ酸を変質させ、変質したグリシンが遺伝子の突然変異を引き起こして胃がんなどを誘発すると推測されています。
 研究グループは、人の体内で起きる一連の作用を実験室で再現。実際に遺伝子を突然変異させ、X線解析法で立体構造を解明しました。立体構造が分かったことで、新薬開発や活性酸化窒素の生成量を抑える食肉加工技術の確立などに役立つと期待されています。なお竹中教授は「日本人はそれほど赤身の肉を食べないので、常識的な摂取量であれば健康上の問題はない」と話しています。

肉類の食べ過ぎは大腸がんに
 肉を多く食べる日本人は「大腸がんになるリスクが高い」ことが、約8万人を対象にした約10年に及ぶ国立がん研究センターの追跡調査でわかりました。
 調査は、岩手や長野、茨城、沖縄など9県在住の45〜74歳の男女約8万人を対象に1995〜2006年まで追跡調査。このうち大腸がんになった1145人(結腸がん788人、直腸がん357人)について肉類の摂取量との関連を調べたところ、摂取量と結腸がんに関係が見られました。
 男性は、肉類全体の摂取量が最も多いグループ(1日当たり約100グラム以上)のリスクが、最も少ないグループ(同約35グラム未満)の1・44倍。女性でも、赤肉(牛と豚肉)の摂取量最大のグループ(同約80グラム以上)が、最少グループ(同約25グラム未満)の1・48倍に上ることが分かりました。

焦げを食べても問題なし
魚や肉に含まれる動物性たんぱく質が焦げると、へテロサイクリックアミンなどの発がん性物質が作り出されます。しかし、その量は体重60kgの人が毎日1トンの焦げを食べなければがんを発症しない程度のごく微量に過ぎません。
「魚や肉の焦げを食べるとがんになる」。これは、昭和51年に大手新聞が一面で「焼き魚の焦げに発がん性の疑いがある」というニュースを報じたことから広まったようです。しかし、その後、様々な実験を行った結果、細菌レベルでは突然変異を起こすことはあっても、マウスを用いた動物実験などでは実際にがんが発生することはありませんでした。それでも気になる方は、発がん性物質の抑制作用を持つカタラーゼを含んだ食材、例えば焼き魚に大根おろしを添えるとか工夫すれば良いのではないでしょうか。

骨粗鬆症薬が白血病を予防
米軍放射線生物学研究所(AFRRI)は、骨粗しょう症治療に使われるビスフォスフォネート剤が、放射線被ばくによる白血病を予防するという研究結果を発表しました。
実験では、マウスに放射線を照射し、薬を投与されなかったグループすべてが白血病を発症したのに対し、薬を投与されたグループの約半数は白血病を発症しませんでした。また薬を投与されて白血病を発症したマウスについても、発症を遅らせることができたということです。
同研究所では、軍関係者や宇宙飛行士らを放射線被ばくから守る方法を研究してきましたが、今回の研究結果は「放射線治療を受けるがん患者の白血病対策」にもつながる可能性があるとしています。

慢性白血病にインターフェロン
肝炎などの治療に用いられるインターフェロンに、造血幹細胞を増殖させたり減らしたりする作用があることを秋田大と東京医科歯科大の研究チームが突き止めました。この作用は、慢性骨髄性白血病の根治療法に応用出来るとのことです。
造血幹細胞の多くは休止状態にあり、一部が自己複製しながら赤血球や白血球などの細胞などに分化しています。研究チームは、インターフェロンに過剰に反応するよう遺伝子操作したマウスにおいて「造血幹細胞が減少する」ことを発見。さらに詳しく調べたところ、インターフェロン関連物質を1回投与した場合は休止状態の造血幹細胞が活性化されて増殖し、持続的に投与した場合は分化するだけで自己複製せず、結果的に減少することが分かったそうです。

感染性白血病の増加
母乳を通じて母子感染し、白血病などを引き起こす危険性のあるウイルスの感染者が都市部で増加していることが、厚生労働省研究班の調査で分かりました。
ウイルスは、成人T細胞白血病ウイルス(HTLV−1)と呼ばれ、感染すると50年前後の潜伏期間を経て3〜5%の人が白血病を発症。毎年約1千人が発症しているとみられ、発症すると半分近い人が1年以内に命を落とす危険があります。
研究班は、平成18〜19年の献血者約120万人の血液から各地の感染者数の割合を推計し、昭和63年から平成2年の前回調査と比較。国内の感染者を108万人と推計しました。全体における地域別の割合は、関東が前回に比べ6・5ポイント増の17・3%、中部が3・4ポイント増の8・2%、近畿が3・3ポイント増の20・3%。半分を占めた九州・沖縄は9・5ポイント減の41・4%でした。
感染経路は母子感染が多く、感染者の母親から母乳などで子供に感染する割合は約20%。このため、抗体検査で感染が判明した妊婦は、母乳を中止する予防措置が必要となります。


◆  健康食品/サプリメント

レスベラトロール
 レスベラトロールは、ブドウの果皮、落花生の薄皮などに含まれるポリフェノールの一種。老化の原因の一つにテロメア仮説があります。テロメアとは、人体の染色体末端部位のことで、ヒトは細胞の新陳代謝に伴い、細胞分裂ごとにテロメアが短くなり、テロメアがなくなると細胞の寿命が尽きます。テロメアDNAは、ヒストンと呼ばれるたんぱく質に囲まれており、このヒストンがアセチル化されるとテロメアDNAは表面に露出するため、酵素の働きで短くなります。しかし、Sir2(長寿遺伝子とも呼ばれるサーチュイン遺伝子)という酵素は、このアセチル化を防ぐ働きがあります。
 Sir2は、カロリー制限により活性化しますが、レスベラトロールにも同様の作用があることを2003年、ハーバード大学の研究チームが酵母細胞による実験で突き止めました。2006年、「ネイチャー」に発表された研究では、レスベラトロールを摂取されたマウスは、そうでないマウスに比べ、生存を有意に延長させたという発表があり、レスベラトロールを配合したサプリメントが注目されるようになったわけです。

シトルリンが人気
 昭和5年、日本でスイカから発見されたシトルリンというアミノ酸。歴史は長いが、厚生労働省が食品への利用を認めたのは2007年8月のことでした。
 シトルリンの働きとして従来から知られているのは、「血管を広げるNOの生成を高める」「肝臓でのアンモニアを解毒する作用を促進する」「血液循環をよくし、代謝が促進される」「動物実験では、動脈硬化を抑える効果」といったところでしょうか。
 シトルリンの原料を提供している協和発酵では、2007年に中高年の男女に1日800ミリグラムのシトルリンを3週間摂取してもらった実験で、「冷え」「むくみ」「顔の血色」などの改善が確認されたそうです。またシトルリンを原料にしたアサヒ飲料「シトルリンウォーター」(500ミリリットル147円)は、発売2カ月余りで720万本も売れたそうで、新しいアミノ酸ブーム到来を予感させるような状況です。


サプリメントと健康増進
 米国MPF(ナチュラルプロダクトファンデーション)会長であるランディ・デニン氏によれば、「米国人がサプリメントの利用によって、今後5年間で201億ドル(2兆700億円)以上の医療費削減が可能となる」との試算を発表しています。この試算は、米国DSEA(ダイエタリーサプリメント教育連合)が、カルシウム&ビタミンD、葉酸、オメガ3系脂肪酸、ルテイン&ゼアキサンチンの4品目を対象とした文献の系列的レビューから試算したもの。デニン氏は、「米国国民の60歳以上の医療費が3割を占める中、サプリメントによる予防的な健康増進は医療費削減の立場からも好ましく、経済的な意味は大きい」と主張しています。
 米国では、葉酸欠乏による二分脊椎症などの胎児奇形が、葉酸の健康強調表示と強化食品の認可等によって激減しているのに対し、日本の場合、過去30年間で6倍も増加している(東京慈恵会医科大学・大井静雄教授発表による)との報告もあり、不足しがちな栄養素については「サプリメントの補助的効果は大きい」と考えらます。しかし、その実現のためには"サプリメント法"などの新しい法制度が必要となるでしょう。

ナットウキナーゼ
 約20年前、納豆50g(1パック)に含まれるナットウキナーゼは、ウロキナーゼ換算で8万IUに相当すると発表され話題となりました。しかし、2007年11月9日に行われた日本ナットウキナーゼ協会主催の講演会で、二宮淳一氏は、t-PA(アクチバシン)換算で1200万〜1500万IU/50g、ウロキナーゼ換算で170万〜220万IU/50gに相当する、と大幅な修正案を発表しました。その理由として、従来はフィブリン平板法を用いていたが、ナットウキナーゼ活性度測定法の方がより精度が高く、測定の結果、従来報告されていたものよりも25倍以上もの高い活性を持つことがわかったため。またワーファリン服用者30名を対象に、ナットウキナーゼを摂取してもらったところ、両者の併用は血栓予防に有効な可能性を示唆したとのこと。
 医薬品と食品との併用は、薬の服用量と副作用を減らし、医療費節減にもつながるものであります。厚労省の試算によれば、年間医療費は32兆円を超え、今後さらに医療費拡大が予想されます。米国DSEA(ダイエタリーサプリメント教育連合)は、サプリメントを上手に活用することで、今後5年間に240億ドル(約2兆9千万円)以上の医療費が削減できると発表しました。医療費削減のためにもサプリメントを含めた食品の活用が期待されています。

EPA/DHAに関する臨床試験が開始
 島根大学医学部の橋本道男准教授らによる「物忘れと栄養、脂肪酸分析に関する研究(2004〜2006年:65歳以上の地域在住老年者286人対象)」において、認知機能と赤血球膜脂肪酸組成の関連を解析した結果、認知機能と脂質栄養が密接に関連している可能性が示唆されました。この結果を受けて、マルハニチロホールディングスはEPA/DHAが認知機能などに及ぼす影響を調べるため、島根大医学部と連携して臨床試験を開始しました。
 調査内容は、島根県在住の認知症と診断されていない65歳以上の高齢者を対象に、DHA850mg、EPA200mgを含むマルハニチロ食品の魚肉ソーセージ(特定保健用食品)と普通の魚肉ソーセージをそれぞれ食べてもらう「二重盲検・並行群間比較試験」で、国内では初めての試み。
 EPA/DHAに関しては、動脈硬化などの生活習慣病を予防。特にDHAは脳神経を活性化させコレステロールを下げる効果、EPAは中性脂肪を減少させる効果が高いとされ、トクホ商品にもなっていますが、脳機能に関する大規模な調査は初の試みとなります。

コラーゲン摂取への疑問
 「コラーゲンは食べてもアミノ酸に分解されて吸収されるので、コラーゲンを直接食べても美肌には影響しない」。このような疑問は後を絶ちませんが、1962年にProckop博士らは、コラーゲンに特徴的なアミノ酸であるヒドロキシプロリンを指標として、経口摂取したコラーゲンの消化・吸収・排泄の過程を追跡したところ、ヒドロキシプロリンの3〜4割は、アミノ酸に分解されておらず、他のアミノ酸と結合した形で吸収されることを論文で発表しました。
 その後、2005年に京都府立大学の佐藤健司教授は、このヒドロキシプロリンの大部分がプロリンとヒドロキシプロリンとが結合したジペプチド(Pro-Hyp)であることを発表しました。そして、2007年及び2008年の日本栄養・食糧学会で複数の研究機関から、「Pro-Hypは直接皮膚や骨の細胞に働きかけること、またコラーゲンを合成する細胞の増殖を促進すること」が発表され、従来の疑問が払拭されるような報告が相次いでいます。

マルチビタミンとテロメア
 栄養疫学調査により、マルチビタミンの摂取によって「染色体末端部分にあるテロメアの長さが維持される」という研究結果が、米国臨床栄養学雑誌(AJCN)に掲載されました。
 同研究は、NIHの研究助成を受け、女性586人を対象とし、食事調査とDNA検査を実施したもの。分析の結果、マルチビタミン摂取群では「非摂取群に比べ、テロメアが5.1%長い」ことが確認されました。またビタミンCやEを摂取している人でも、テロメアが長いことが分かりました。
 なおテロメアは、酸化ストレスや慢性的炎症によって短縮することから、老化やがんに深く関わっているものと考えられています。

がん予防につながるケール開発
 長野県とキリンホールディングスは、がん予防につながる成分グルコラファニンの含有量が従来種より数十倍多いケールの新品種を共同開発しました。ケールは、青汁の原料に使われるアブラナ科の野菜で、成分の大量摂取が期待出来るかもしれません。
 グルコラファニンは、人の体内でスルフォラファンというものに変化します。スルフォラファンは、80年代に「発がん物質を無毒化する酵素を活性化させる」と発表され、ブロッコリーの発芽数日後の新芽(スプラウト)に多いことから米国でブームとなりました。各国の研究では、ケールの含有量はブロッコリー・スプラウトの40分の1以下(100グラム当たり約6ミリグラム)ですが、キリンHDと長野県野菜花き試験場は、従来種を大幅に上回るグルコラファニンを含んだ種を発見。さらに数値の高いケール同士を掛け合わせ、ブロッコリー・スプラウトと同等の100グラム当たり約400ミリグラムを含む新種の開発に成功したということです。

▲up

◆  心臓病

虚血性疾患の新治療
 1970年代、急性心筋梗塞で入院した患者の救命率は約30%。ところが現在は90%にまで高まっています。「一に安静、二に安静、三に不整脈対策」と呼ばれていたかつての消極的な治療法は、過去のもの。医学は、年々進歩しています。
 例えば、血栓を出来にくくするためにワーファリン(経口抗凝固剤)が用いられていますが、使用の際には"トロンボテスト"をして服用量の微調整をしなくてはいけません。ところが近年、微調整の必要のない新薬(第X因子阻害薬)が登場し、臨床試験が開始されています。
 また一刻を争うような心臓疾患の場合、発作の鑑別診断のために心臓のCT検査が行われますが、最近は解析度が高く、撮影速度も速い"64列三次元CT装置"を導入する病院が増えてきました。これを使うと、わずか8秒で検査が済むという優れものです。
 このような医療の進歩は、患者にとって有り難いものですが、問題点も残ります。例えば、前述のような最先端の治療を行える専門医の不足です。日本では、心臓病の手術が出来る施設は約500ヵ所、カテーテルインターベンションが実施できる施設は約1500ヵ所ありますが、実際に行われる手術数は多くても年間1000例未満。このように「設備だけは整っている」が、手術数が少ないために「専門医が足りない」といった課題を抱えています。
 さて、虚血性疾患の予防として「松葉サイダー」なるものは、いかがでしょうか。京都・美山町の料理旅館「つるや」のおかみさんが長年作り続けているという松葉を発酵させたサイダー。作り方は、梅雨明け頃に摘んだアカマツの葉と湯冷ましの砂糖水を一升瓶に入れて日なたに置くと2〜3日で発酵してサイダーになるもので、特に高血圧や脳梗塞の後遺症の方にお勧めとか。
 植物には、様々な発酵を促す菌がついています。例えばミズキ科のサンシュユの枝を牛乳に入れておくとヨーグルトが出来ますが、これはサンシュユに乳酸菌が付いているため。松葉には、炭酸発酵を促す菌が付いていて、水に入れて発酵させるとサイダーのように炭酸ガスを発生させます。また松葉の成分には、コレステロールや血栓を溶かすテルペン類が含まれており、血流を良くするそうです。

狭心症の新しい治療法
 狭心症の患者に体外から低出力の衝撃波を当てる新しい治療法を、東北大病院が開発しました。
 新しい治療機器は、循環器内科の下川宏明教授が中心となり、スイスの医療機器メーカーと共同で開発。弱い衝撃波を心臓の大動脈が狭くなった部分に当てると、その衝撃が引き金となって周囲に細かい血管が作られ、心臓の血流が改善します。衝撃波を体外から当てる治療は、尿管結石などで広く行われているものです。衝撃波は1回につき200発を50か所に当て、それを1日おきに3回繰り返す。1回3時間ほどかかりますが、治療前に麻酔などの必要なく、痛みもまったくないそうです。
 これまで2回にわたり、計17人の狭心症患者に臨床試験を行ったところ、狭心症の重症度が大きく下がったほか、発作用の治療薬がほとんどの患者で不要になったとのこと。このたび厚生労働相が指定する「高度医療」に承認され、現在は保険外で26万5500円ほどかかりますが、将来的には公的医療保険の適用が期待されています。

タイプAとは
 アメリカでのこと。心臓病の患者が訪れる病院の待合室のソファが、なぜか膝裏のあたる部分だけ擦り切れていることに気づいた医師は、待合室での患者の行動を観察してみました。するとソファに腰掛けずに「せわしなく体を揺り動かしている人たちが多く見られたこと」を発見。そこから「タイプA」という概念が誕生したといわれています。
 「タイプA」とは、常にイライラし、負けず嫌いで闘争心が強く、せっかち型の性格をいいます。これに対し、おっとりしていてマイペース、人との競争をあまり好まない性格を「タイプB」といいます。
 タイプA型が心臓疾患になりやすい理由は、いつも交感神経が高まっており、アドレナリンの分泌により血圧や心拍数が高まりやすいからではないか、と言われています。
 将来、心臓病になりたくなければ、もう少し心にゆとりを持ったほうが安心です。そこで問題。あなたは赤信号でも落ち着いて待っていられますか、それともイライラしますか。

心疾患の1/3はジャンクフードが原因
 カナダにあるマクマスター大学のサリム・ユースフ博士らは、「心疾患の35%は、揚げ物や塩分の多いスナック菓子、肉といった食品が原因となっている可能性がある」という研究結果を専門誌「Circulation」に発表しました。
 ユースフ博士らは、初めて心臓発作を起こした患者5700人を含む1万6000人を対象に、血液検査と食生活に関するアンケート調査を実施。その結果、肉や卵を基本とした西欧の食事やジャンクフードを多く摂取したグループは心臓発作を起こしやすく、果物や野菜を多く摂ったグループは心臓発作のリスクがより低かったことがわかりました。
 なお同チームでは、ヘルシーフードと呼ばれる豆腐を使った料理については「ナトリウムが多く含まれている」ため、心疾患の予防という観点からは良くも悪くもないとしています。  


◆  肌と健康

日焼けの単位
 雲一つないような真夏の快晴の日に日光に当たると、およそ20分ほどで肌が赤く日焼けします。この20分の日焼けを1MEDという日焼け度合いの単位としていますが、欧米の研究によれば、1MEDの10分の1程度の日焼けでも紫外線は真皮にまで届くことがわかっており、過度の日焼けはシミ、シワの原因となります。

絹の粉末
 最近、ミミズ、ヒル、カイコ、ハチの子といったゲテモノ健康食品が話題を呼んでいますが、肌に良いという事で注目されているのが「絹の微粉末」の健康食品。何でも絹には、皮膚のコラーゲンやエラスチンの構成成分であるグリシン、プロリン、アラニンなどのアミノ酸が豊富に含まれているとのこと。また絹の主成分はフィブロインというたんぱく質ですが、フィブロインには人間の体を作る20種類のアミノ酸中18種類が含まれています。

ボトックス注射
 瞼や顔面のマヒなどに使用されているボトックス注射。最近では、眉間のシワ取りといった美容整形でも人気を呼んでいます。
 ボトックスとは、食中毒の原因菌の一つであるボツリヌス菌が作り出すA型ボツリヌス毒素を有効成分とする医薬品。米国アラガン社が開発したもので、ごく少量を緊張している筋肉に直接注射すると、その筋肉が緩んで緊張や痙攣が治まります。日本でも1997年以降、医療機関で使用されていますが、最近、価格の安い外国産のものや中には偽物が出回っているといううわさもあり、すでに米国ではアレルギーなどの問題も発生しています。ボトックスは偏頭痛にも効果があると言われ、注目される医薬品だけに注意も必要です。 

白髪や脱毛予防にコラーゲン
 白髪や脱毛の防止には、毛穴にあるコラーゲンの一種が不可欠な役割を果たしていることが東京医科歯科大、金沢大、北海道大、弘前大などの研究で分かりました。
 様々な種類のコラーゲンのうち、17型は皮膚では表皮をその下の真皮につなぎ留める役割があります。さらに毛穴では、中ほどのやや膨らんだ部分「バルジ」に毛包幹細胞をつなぎ留めるほか、毛包幹細胞が自ら増殖するとともに角化細胞を生み出す機能の維持にも必須なことがマウスの実験で分かりました。また17型コラーゲンは、別のたんぱく質「TGFベータ」を介して、毛包幹細胞に隣接する色素幹細胞の働きも維持していたそうです。
 17型コラーゲンを作れないように遺伝子操作したマウスでは、若いうちに白髪になり脱毛。人間でも先天的に17型がなく、脱毛する疾患が知られていましたが、これまでメカニズムが不明でした。この17型コラーゲンは、毛髪の角化細胞を生み出す毛包幹細胞で作られ、脱毛を防止するとともに髪を黒くする色素幹細胞の働きを維持するということです。

◆  日本人の寿命

日本人の平均寿命
 日本人の平均寿命が伸びたのは、ここ数10年の話で、昭和36年当時の平均寿命は男性が65歳、女性が70歳前後でした。現在、日本の男性の平均寿命は78歳、女性が85歳と世界でトップの平均寿命ですが、昔の日本人の平均寿命はどのくらいだったのでしょうか。
  調べてみると、縄文時代の人は15歳前後、奈良〜平安時代は30歳前後と短命でした。一方、藤原氏など貴族の男性の平均寿命は60歳前後、女性は52歳前後と一般人に比べて栄養状態が良いせいか、当時としては長生きの傾向が見られます。鎌倉〜室町時代では、35歳前後。北条執権の平均寿命が47歳、戦国大名は60歳前後。江戸時代の平均寿命は38歳前後。徳川将軍の場合は、51歳です。明治〜大正時代は、43歳前後でした。
 1901年当時の戸籍調査によれば、男性の平均寿命が44.0歳、女性は44.4歳となっています。また男性の平均身長は155センチ、体重47キロ。女性は142センチ、44キロと 今の日本人に比べてかなり小柄でした。因みに明治25年(1892年)生まれのきんさん、ぎんさんの身長は136センチ、体重30キロ。二人とも農家に嫁ぎ、きんさんは11人の子供を、ぎんさんは6人の子供を出産。70歳ぐらいまで農作業をしており、好物はさしみ。塩分は1日5グラム以下で、間食はせず、500メートルほどの距離を15〜30分かけて散歩するのが日課だったそうです。 

徳川将軍の平均寿命
 将軍の平均寿命は、当時の平均寿命よりも長かったのでしょうか?
「栄養状態が良かったので、当然長かった」という意見もあれば、「過保護に育てられたので、虚弱体質で感染症に弱かったのではないか」といった意見など様々です。
 正解は?……というと、将軍の平均寿命は51.4歳。それに比べ、一般庶民の平均寿命が38歳ですから、「長いといえば、長かった」と言えるでしょう。しかし、基本的に将軍は赤ん坊や子供からは選ばれません。当時の平均寿命の低さは、幼少期における死亡率の高さが原因しています。それを考慮すると庶民とそんなに違いはありません。因みに21歳以上の庶民の平均寿命は男性61.4歳、女性60.3歳(江戸後期100年間)でした。余談ですが、徳川15代のうち一番長生きした将軍は、15代目の慶喜で享年77歳です。
( 徳川将軍も脚気で死亡)
 13代将軍・徳川家定は、元来病弱だったといわれていますが、1858年の春、脚気にかかり床に伏していました。奥医師・松本良順の吟味が行われ、将軍復帰は無理と診断。17歳の家茂が将軍となりました。
 脚気は当時欧米にはなく、米食をする東南アジアや日本特有の病気で、また「江戸煩い」とも呼ばれ、玄米ではなく白米を主食とする武士階級に蔓延した病気です。家定は7月3日に危篤状態となりましたが、死の知らせは1ヶ月間伏せられ、公表されたのは8月8日。
 後を継いだ家茂は、皇女和宮を正室に迎えた将軍として知られていますが、1866年、長州征伐の途中、大坂城内で21歳の生涯を終えています。松本良順の自伝には「主公脚気に罹り、心臓の内膜炎にして四肢指頭に麻痺あり」とあります。治療には、利尿剤と胸に膏薬を貼ったとありますが、特に回復する様子もなく死去されました。後に正室である皇女和宮も脚気にかかり、伊豆で療養しましたがその甲斐もなく死去しています。
 将軍ばかりではなく、驚くことに明治天皇も脚気に病んでいました。1877年、大阪において西南戦争で傷ついた兵士たちを慰問していた際、脚気の症状である下肢の浮腫や倦怠感に襲われ、夜半には頻繁にこむら返り(転筋)が起こりました。「脚気には転地療養がいい」という洋方医からの提案もありましたが、彼はこれを拒否しています。その理由は定かではありませんが、「明治天皇記」には、天皇は洋方医嫌い、漢方好きだったという記述があります。

天皇の病気
  2007年6月12日、皇太子さま(47歳)が東大付属病院を退院。十二指腸の良性腫瘍の摘出手術に成功されました。十二指腸腫瘍といえば、昭和天皇が亡くなられたご病気(十二指腸乳頭周囲腫瘍、すい臓がん)でもあり、また平成天皇が2003年に東大病院で前立腺がんの手術を受けたことは、記憶に新しいことと思います。
 「天皇は現人神」という話は過去のもので、現在の天皇陛下は、前立腺がんや大腸ポリープ、前庭神経炎などに悩まされ、皇后さまも子宮筋腫やヘルペス、失声などのご病気を患いました。
 歴代の天皇の病気について調べると、次のようなことが分かりました。
・ 天然痘に罹った可能性が高い…敏達、用明、推古、醍醐、朱雀、村上、一条、白河、堀河、鳥羽、崇徳、近衛、六条、高倉、後鳥羽、土御門、順徳、後嵯峨、亀山、後宇多、光厳、崇光、後水尾、東山、桜町、光格天皇など
・ マラリアに罹った可能性が高い…円融、後白河、後深草天皇など
・ 肺炎に罹った可能性が高い…堀河、後醍醐、大正天皇など
・ 糖尿病に罹った可能性が高い…後一条、後白河、明治天皇(糖尿病性腎症、敗血症)など
・ 脚気に罹った可能性が高い…花園、霊元、桜町、桃園、明治天皇など
・ 心不全に罹った可能性が高い…花園、桜町、桃園天皇など
・ 脳卒中に罹った可能性が高い…正親町、光格天皇など
 さて歴史上、一番長生きした天皇は?……というと、景行天皇と仁徳天皇が143歳、神武天皇127歳と続きます。しかし、これは物語上でのお話。実際には、昭和天皇の87歳がトップ、続いて後水尾天皇の85歳です。

死ぬ確率
  「死ぬ確率」という本があります。あまりタイトルは良くありませんが、知識として知っておくこともよいのではないかと思い、内容を抜粋してみました。
(家庭内の事故死)
年間1万2千〜3千人と交通事故死(因みに全日空の十亀洋氏によれば、毎日飛行機で1往復しても死亡事故にあう確率は1400年に一度だというが…)の1.5倍というから驚く。死因の1位は窒息(餅を喉に詰まらせるなど)、2位は溺死・溺水(浴槽で溺れるなど)、3位は転倒・転落(階段から落ちるなど)。そしてこの3つで全体の約8割を占めています。乳幼児の死因のトップは、誤嚥による窒息。間違ってタバコなどを食べぬよう親の管理が必要。また高齢者では、浴槽での事故死が年間3千人と多い。季節は12月〜3月がダントツで、つい暑い風呂に長時間入ってしまうことが原因らしい。また火災で亡くなる人は、年間2千〜3千人で、全体の4割を高齢者が占めています。
(その他の死)
フグ毒にあたる人は年間40人前後で、うち3人は死亡する。ハチに刺されて死亡する人は、年間30人前後。特にスズメバチに刺されて起こるアナフラキシーショックが怖い。
配偶関係別生命表によれば、妻がいる男性の平均寿命に比べ、未婚男性の平均寿命は約8年短く、妻と離別した男性は11年短いという結果が出ています。またデンマークにおけるデータではありますが、子供を亡くした母親の死亡率は、そうでない女性に比べ、病気による自然死で1.26倍、事故や自殺などの外因死では2.45倍高まる。一方、父親の場合は全体で1.09倍とほとんど変わらない結果が出ています。

長寿村の研究
 100歳を超える人を「百寿者(センチュリアン)」といい、1970年に300人前後だったのが、現在は3万人を超えています。そのうち、約85%が女性です。問題なのは、認知症がなく「自力で暮らしている百寿者が全体の18%のみ」ということ。女性の半数と男性の1/3は寝たきりで、6割が高血圧、3割が心臓病の持病を持っています。
"長寿"と"長命"とは、違います。ボケや寝たきりでも長生きなのは"長命"、健康で長生きなのが"長寿"です。さて長寿村の研究者といえば、元京都大学教授・家森幸男氏が有名で、WHO(世界保健機構)の調査研究に参加し、世界60カ所余りの長寿村、短命村における食事調査に長年従事してきた先生です(詳しくは『長寿の秘密』(法研)、『長寿食世界探検記』(講談社))。
 一般に言われる「世界3大長寿村」とは、グルジア共和国にあるコーカサス地方(トルコの北東部)。エクアドルのビルカバンバ、パキスタンのフンザですが、戸籍そのものが怪しく信憑性は余りありません。日本では、これまで沖縄が長寿村として有名でしたが、近年は若者を中心にアメリカ風の食生活に変わってきたため、男性の長寿日本一を長野県に奪われてしまいました。沖縄の人の遺伝子が急に変化することはないので、このことは「食生活により寿命は変化する」「食事が健康の基本である」ことを物語っています。

長寿と性格
 これまでの長寿研究では、性格的に「楽天的である」ことが長寿要因の1つであるといわれてきました。しかし、カリフォルニア大学・フリードマン教授とラ・シェラ大学・マーティン教授は、『長寿プロジェクト』の中で「楽天的過ぎるとかえって短命に終わる可能性」を示唆しました。
 このプロジェクトは、1921年当時、10歳前後であったカリフォルニア育ちの小児1500人以上を追跡した研究が基。その結果、小児期に陽気でユーモアのセンスを持ち合わせた人が、あまり陽気でなく冗談を言う性格でもない人に比べ、平均的に短命であることが分かりました。
 これまでの長寿研究では、100歳まで元気に生きた人を対象にしてきた百寿研究が主流です。元気に100歳を迎えた人は嫌なことを忘れる傾向が強く、何事に対しても前向きで、いわゆる「ポジティブ思考」の人が長寿に適した性格であると結論づけています。しかし、フリードマン教授は「陽気で能天気な小児は、その後の人生において健康を危険にさらすような行動を取りやすい」点を指摘。つまり楽天的な性格は、人生の後半期においては人生を前向きに生きるための「生きがい」などにつながり長寿のプラス要因になりますが、若い頃は冒険に挑んだり、危険なスポーツを選択する可能性があり、寿命が短命で終わる可能性を秘めているということです。

栄養バランスのベストは、1980年代
 
第二次大戦直後は「タンパク質の不足」、平成に入ると「脂肪の取り過ぎ」。では、日本人の栄養バランスがベストだったのは、一体いつ頃だったのか。実は、それを知る手掛かりがあります。
 「学校保健統計調査」は、満5歳から17歳までの児童を対象に「身長や体重、肥満傾向」などについて毎年実施しているものです。平成23年度の調査結果によると、17歳男子の平均身長は170.7cm、17歳女子の平均身長は158.0cmでした。
 因みに13年前の1998年(平成10年)と比べると、17歳男子は170.9cm、17歳女子は158.1cmで今とほとんど差がありません。他の年代を比べてみても、男女問わず変化は微小で、日本人の身長は10年ほど前から「伸び止まり」しているようです。
 身長は遺伝的要因が強く出ますが、戦後右肩上がりに伸びてきた理由は「栄養やライフスタイルといった環境要因」が大きく影響したと考えられています。しかし、日本人の栄養状態がよくなった1980年代に身長の推移も横ばいとなり、2000年代に入ってからは数字がほとんど変化していません。その点から見て、日本人の栄養バランスがベストだったのは、1980年代という考えがあります。

理想は1975年頃の食事
 東北大と岡山県立大の研究チームは、日本の家庭の標準的な1週間の食事メニューを1960年から15年おきに再現して凍結乾燥し、マウスに与え続けたところ、1975年当時の食事が最も内臓脂肪を蓄積しにくく、糖尿病のリスクが低いことが分かりました。
 研究は、厚生労働省の国民健康・栄養調査に基づき、管理栄養士の指導で60年、75年、90年、05年の朝昼夕計21食分を再現。凍結乾燥、粉砕し均一にした粉末をマウスの通常の餌に3割分混ぜました。
 その結果、75年の血糖値は05年の82%、血漿中のインスリン濃度は29%にとどまり、インスリン濃度が低くても血糖値が正常に保たれていました。肝臓で脂肪の分解や燃焼を担う遺伝子の働きも、75年のグループが最も良い結果でした。
 因みに75年の食事は、現代と同様の2005年の食事に比べ、たんぱく質や脂質を魚介類や植物から多く摂取し、相対的に肉類や牛乳・乳製品が少ないほか、ワカメやヒジキなどの海藻が多く、バランスが取れているそうです。


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◆  有名人の死因

ナポレオンの死因
 1961年、科学雑誌『ネイチャー』において「ナポレオンの遺髪から通常の13倍に当たる砒素が検出された」ことで話題となりました。セント・ヘレナ島へ流されたナポレオンは、少しずつ砒素を食事の中に盛られて死亡したという毒殺説や、幽閉先の部屋に貼られていた壁紙に含まれる砒素を吸って死んだという中毒説があります。
 昔の中国では、女の子の肌を白くするために毎日ごく少量の亜ヒ酸を飲ませる風習がありましたし、西洋でも美顔用化粧水の中に亜ヒ酸を混ぜて販売されていたという歴史があります。
 1994年のこと。ロンドンのオークションでベートーベンの毛髪の束が落札されました。価格は7300ドルでしたが、その毛髪を鑑定したところ、通常の100倍もの鉛が検出されて話題となりました。その原因についてははっきりしていませんが、当時使用されていたグラスハーモニカに使われた鉛ではないかとする説があります。
 毛髪には、血液に含まれるミネラルが含まれており、水銀、鉛、カドミウム、砒素などの有害ミネラルの鑑定にも使われています。体内に摂取された有害ミネラルの排泄経路は、75%が便、20%が尿、3%が汗、その他2%が毛髪や爪だそうです。

ツタンカーメンの死因
 1922年、英考古学者ハワード・カーター氏によって王墓が発見されたツタンカーメンの死因については、これまでミイラの頭蓋骨にある損傷などを根拠に他殺説が指摘されてきました。しかし、エジプト考古学チームによるDNA鑑定やコンピューター断層撮影装置(CT)の調査により、ツタンカーメンの死因は「骨折にマラリアが重なって死亡した可能性が高い」ことがわかりました。研究内容は、すでに米医学誌「ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション」に発表済みとのことです。
 10歳で即位し19歳で早世したとされるツタンカーメンの父親は、唯一神信仰をもたらした異端の王アクエンアテン(アメンホテプ4世)とされ、ツタンカーメンはその姉妹の1人との間に生まれました。しかし、母親の名は特定されていません。またツタンカーメンには2人の女児が出来ましたが、いずれも母親の胎内で亡くなったようです。
 荘厳で華麗な黄金マスクに象徴されるツタンカーメンですが、「腐骨や内反足を患い、転倒して足を骨折し、マラリアが命取りになった」ということ。なお同誌は、「歩くのにも杖をついていた虚弱な王だった」としています。 


◆  食品問題

青汁と硝酸イオン
 現代人の野菜不足と健康志向が重なって、人気を呼んでいるのが"青汁飲料"ですが、一つ心配な面があります。それは「硝酸イオン」というもので、化学肥料や農薬に含まれている窒素成分が、野菜の葉の部分に溜め込まれ「硝酸イオン」となるものです。
 硝酸イオンは、摂取すると体内で亜硝酸というものに変化し、さらに肉や魚に含まれるアミンと結合するとニトロソアミンという発がん物質に変わります。また血液中のヘモグロビンと結合すると、メトヘモグロビン血症の誘因ともなります。
 硝酸イオンは、茹でたりすると茹で汁の中に溶け出しますが、生の葉をそのまま絞った青汁では硝酸イオンを高濃度で摂取してしまう可能性があります。以前、名古屋市消費生活センターが発表した商品テストでも「12銘柄中1銘柄から100グラム当たり4116ミリグラム」の硝酸イオンが検出されています。硝酸イオンのADIは3.7。例えば、体重50キロの人の場合、1日に飲んでも害が出ない量は185ミリグラム。仮に上記の銘柄の商品をスプーン2杯(6g)毎日飲むと、硝酸イオンの摂取量は247ミリグラムとなり、ADIの1.3倍以上となります。
 硝酸イオンの含有量は、どのように栽培されたかによって変化するので、きちんとしたメーカー、例えば栽培方法について解説している青汁とか……を選んで購入することが大切です。

食品のプラス面・マイナス面
 英国の医学雑誌『ランセット』に紹介された論文によれば、1日に7杯以上のコーヒーを飲む人と2杯以下しか飲まない人の糖尿病の発症率を7年間に渡り追跡調査したところ、7杯以上飲む人は、2杯以下しか飲まない人に比べて、糖尿病発症率が約半分であったということです。まだ有効成分は解明されていませんが、コーヒーに含まれるカフェインやクロロゲン酸ではないかと考えられています。
 そのせいか、すでに難消化性デキストリンをプラスした粉末コーヒーが商品化されています。デキストリン自体にも「小腸において糖の吸収を抑える働き」があることから、血糖値の上昇抑制に対して、ダブル効果を期待した商品と考えられます。
 テレビ番組の問題点は、食品のプラス面だけをクローズアップして紹介すること。食品にはマイナス面もあり、例えば「妊婦が1日3杯以上のコーヒーを飲むと死産のリスクが高まる」というデンマークでの研究報告があリます。どんなに健康に良いからといっても、コーヒーを1日7杯も飲めるのかといった点や長期摂取によるカフェイン中毒や胃痛などマイナス面もあることを知る必要があります。

粗悪な堆肥で食中毒に
 堆肥の流通量は年々増加の一途を辿り、2004年には400万トンとここ10年で1.5倍に増えました。化学肥料や農薬の使用を減らした環境保全型農業でも重用されています。農水省が持続農業法により推進してきた農法で、担い手として認定された農家・法人は2008年度には16万件を超えて、ここ5年間でも6.4倍に急増しています。
 しかし、ブームとは裏腹に粗悪な堆肥が多く出回るようになりました。堆肥の原料となる家畜のフンや残飯には、サルモネラ菌や病原性大腸菌O-157などの食中毒を引き起こす病原菌が含まれていることがあります。きちんと発酵さえしていれば、60〜70度の発酵熱で病原菌は死滅しますが、発酵が不十分だと菌は生き残ってしまいます。
 佐賀大学農学部・染谷孝准教授の調査では、堆肥約30点中2割弱からサルモネラ菌が発見された、との報告もあります。野菜を生で食べる時は、流水でよく洗って食べればそれほど心配は入りません。しかし、国内で発生したO-157による食中毒中25%が野菜によるものだった、という点からすれば、しっかりと管理された農家で生産された有機野菜でないと安心は出来ないといえましょう。

有機野菜の勧め
 サヤエンドウは5〜6月、トマトは7〜9月、カボチャは8〜9月、ダイコンは11〜1月というように、作物には旬があります。それに比べ、ビニールハウスで栽培された物は、香りも味も薄く、栄養価も落ちています。
 またデンマークの学者の研究によれば、食べ物の25%以上を有機栽培食品にしている男性は、普通の食品を食べている男性に比べて精子数が多い、とのこと。これは、普通の野菜よりも有機野菜の方が「ダイオキシンなどの環境ホルモンによる影響が少ない」ことを意味します。
 環境ホルモンは、その9割が食べ物から入ると言われています。もちろんダイオキシンなどをなるべく含まない食品を選ぶに越したことはありませんが、それと同時に大切なことは「環境ホルモンを排泄する食べ物」を積極的に摂取することです。具体的には、ダイオキシンを吸着する食物繊維や葉緑素などがお勧めです。また亜鉛やセレンなどのミネラルには、カドミウムや砒素、鉛などと結合してその毒性を弱める働きが知られています。

野菜のネット通販に対する意識
 アイシェアは、「インターネット通販における野菜購入経験や興味」について、20代から40代を中心とするネットユーザーを対象に意識調査を行い、男女441名(男性53.5%、女性46.5%)の回答を集計しました。
 初めに「野菜が好きか」という質問に対しては、「とても好き」と回答したのは全体の29.5%で、「まあまあ好き」と回答した人の38.8%と合わせると68.3%が「野菜が好き」。男女別では、「とても好き」は男性が19.9%、女性は40.5%となっています。
 日常での野菜摂取については、43.8%が「意識して摂取している」と回答。男女別では、男性が34.3%であるのに対し、女性は54.6%と高くなっており、また年代別では「高齢者ほど野菜を意識して摂取している」ことがわかりました。
 次に「野菜をネット通販で購入したことがあるか」という質問に対しては、「購入したことがある」と回答したのはわずか8.8%。「購入したことはないが、興味はある」とした人も27.4%に留まりました。一方で「購入したいと思わない」人は63.7%に上り、野菜が「とても好き」な人でも62.3%が「購入したいと思わない」と回答。さらに「ネット通販で購入したいと思わない人」にその理由を聞いたところ、圧倒的に多かったのが「鮮度」に関するもの。特に生鮮食品は「手に取り目で確かめて買いたい」と答えている人が多く、消費者の食に対する安全意識の高さが、ネット通販での購入をためらう要因にもなっているようです。

クローン動物の安全性
 クローン動物食品の安全性を検証している内閣府食品安全委員会の専門家ワーキンググループは、2009年1月、成長した体細胞クローン牛と豚について「従来の牛と豚に比べて、差異はない」として安全性を認める報告書をまとめる方針を出しました。今後は、食品安全委が報告書を検証した上で正式にクローン牛関連食品の安全性を認める見通しです
 これまで体細胞クローン牛と豚については、死産率や生まれた直後の死亡率が高いことなどから、安全性が議論になっていました。専門家グループは「6カ月を超えると従来の牛と同様に健常に発育する」と分析。食用に回される成長したクローンは「従来の牛や豚と差異のない健全性が認められる。肉質や乳成分、子孫についても差異は認められない」と結論づけました。
 現在、クローン動物は国内の研究機関などで飼育されていますが、農林水産省の通知で出荷が自粛され、海外からの輸入も確認されていません。今後、安全性が確認されれば、流通を規制する法律はないため、厚生労働省と農水省は出荷や輸入について検討を始めることになります。
 クローンとは、いわば「同じ肉質のコピーを可能にする技術」。国内では研究段階だが、実用化すれば高品質の牛を増やして大量生産できるため、高級和牛を安く供給することも可能。今後の動向が注目されます。

クローン牛は果たして安全か
 クローン牛は、果たして食品として安全なのかどうか? それも、体細胞クローンは、どうなのか?
 この問題について、簡単に結論は出ないというものの、多く学者は次のような分かりやすい理屈で説明しています。植物では、われわれ人類は昔から体細胞クローンで増殖し産出されたものを食べ続けてきたという歴史があり、これまで何の問題も起こっていないこと。それどころか、われわれ人類は短期間の内に同一のスペックのものが大量増殖できるという特徴を利用して、数多くの作物を作り続けてきたという歴史があります。
 一例を挙げるならば、ジャガイモに代表されるイモ類。そして、イチゴや多くの果物類など。これらは、最初こそ自然か人為的かは別として交配で産出されますが、「おいしい」「大きい」「豊産」といった人間にとって優良な性質を利用するために、球根を分けたり、株を分けたり、接ぎ木や挿し木といった体細胞クローンの手法を使って増殖し栽培してきました。
 安福号のクローン牛肉も、今我々の食卓の上に盛られている男爵も、理論的には同じ体細胞クローンの産物であり、クローン牛の安全性を問うのであれば、これらクローン作物の安全性をも疑わなければならないという指摘です。

ペットフードに関する法律
 犬や猫などペットの食の安全を確保するための法律「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」が、2009年6月1日に施行されました。違反した法人には、最高1億円の罰金が科せられるほか、法人代表者らに対して1年以下の懲役や100万円以下の罰金が設けられています。
 この法律は、ペットフードの安全性を確保する日本初の法律です。米国でメラミンが混入した中国産原料使用のペットフードを食した犬や猫に健康被害が発生したことに端を発し、日本においてもペットフードの安全性確保が求められてきました。
 同法律では、ペットフードの基準や規格の設定に基づき、これに合わないものの製造を禁止しています。またペットフードの製造、販売、輸入業者は、販売したペットフードの名称、数量などを帳簿に記載しなければならず、農林水産大臣や環境大臣は「製造、販売、輸入、運送、倉庫業者に報告を求める権限」を持つほか、農林水産大臣は独立行政法人農林水産消費安全技術センターに対し、問題業者を立ち入り検査するよう指示することが出来るなどの権限を設けています。

改正JAS法
 食品の原産地偽装表示に対する罰則規定を強化した改正JAS法が、2009年5月30日に施行されました。同様に健康食品に対しても、原料の産地偽装が発覚した場合、国は直ちに罰則を科することが出来るようになりました。
 旧JAS法では、表示違反が見つかった場合、行政機関が「指示」や「命令」を行い、これに従わない業者に対しては「罰則」が科せられました。いわゆる「3段階方式」で行われてきたわけです。しかし、行政指導の段階で改善に応じるのが通常のため、今までに罰則が適用されたケースはゼロ。このため、法改正によって「直罰方式」を導入。例えば、産地偽装を行った場合、いきなり罰則を適用できるようになったわけです。さらに個人の罰則は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」から「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」に引き上げ(法人は、1億円以下の罰金:現状のまま)。さらに「業者名・違反事実の公表」という規定も設けています。

新しいノロウイルスの検出法

 東京都健康安全研究センターは、嘔吐、下痢などの急性胃腸炎症状を引き起こす食品中のノロウイルスを「高率で検出する検査方法を開発した」と発表しました。
 ノロウイルスは、主に手指や食品などを介して経口で感染しますが、「G1とG2」の2つの遺伝子群に分類され、さらにそれぞれが「14と17あるいはそれ以上」の遺伝子型に分類されます。同センターによると、食品中のノロウイルスの検査は、厚生労働省が2003年に通知した検査法で実施されていますが、実際にノロウイルスが検出される事例は非常に少ない点が問題となっています。その要因としては、食品中の成分が検査に影響することや、食品中に含まれる微量のノロウイルスを効率よく回収することが難しいことなどが挙げられます。
 このため、同センターは、細菌の生物活性を利用することでウイルスの回収率を高める検査方法を開発しました。まず添加用ウイルス液を生食用マガキから作成した10%食品乳剤に添加して検出を試みたところ、今までのウイルス回収率が遺伝子型G1/8では0.3%、G2/13では0.5%だったのに対し、新しい開発法ではそれぞれ8.6%と11.6%で、G1/8では約29倍、G2/13では約23倍の回収率となりました。
 また、マグロの刺し身や蒸し鶏などの食品15検体で同様の実験を行ったところ、従来の方法では平均の回収率がG1/8で1.9%、G2/13で7.9%だったのに対し、新しい方法ではそれぞれ13.9%と19.6%になったということです。

卵の賞味期限
 農林水産省によれば、卵の賞味期限表示は、サルモネラ菌による食中毒防止から「サルモネラ菌の増殖が起こらない期間を基準にして『生で食べられる期限』として設定」されています。その期間は保存温度によって異なり、保存温度による生食できる日数(理論値)と過去5年間の平均気温など、英国のハンフリー博士の研究に基づいて算出された科学的根拠により決められます。
 海外では、日本に比べ賞味期限がもっと長い国が多く、また賞味期限表示がない国もあります。そういう意味では、日本は衛生管理が大変行き届いている国だとも言えます。
 賞味期限を多少過ぎても、数日ぐらいは日持ちがするようです。一般に茹で卵にするよりも生卵の方が日持ちします。その理由は、卵の中に雑菌が侵入してしまった場合、白身に含まれる酵素が菌を殺してくれます。しかし、熱を加えるとこの酵素の働きがなくなるため、より腐りやすくなってしまうからです。従って、なるべく食べる直前までは熱を通さず、賞味期限を若干過ぎた卵は加熱調理した上で食べるとよいといえます。


◆  最先端医療

白血球除去療法
  リウマチなどの膠原病や潰瘍性大腸炎などの難病治療に「白血球除去療法」が注目されています。
 白血球除去療法とは、片方の腕の静脈から導き出した血液を直径0.8〜2.9μmという極細の繊維で作られた布が入ったフィルターに通します。するとフィルターを通過する際に白血球だけが極細の布に吸着されるため、例えばリウマチの原因にもつながる好中球は、ほぼ100%濾過できるというものです。全国14の病院が参加し、既存の薬が効かないリウマチの患者さんにこの治療を行ったところ、腫れた関節の数が2割以上減ったり、痛みや手のこわばりが改善したりした人が全体の73%にも達しました。
 約1時間かかる治療を週1回行い、これを5回繰り返します。全体的な治療は、約1ヶ月で終了。副作用としては、吐き気や血圧降下、発熱などの軽い症状が報告されているくらいで、特に重症なものは出ていないとのこと。また一度行うと、効果的なケースでは1年ほどの持続が期待できるというものです。
 ただし、長年に渡るステロイド剤の副作用で血管が脆くなっている方の場合は、治療を行うための血管確保が難しい場合もあるそうです。薬が効果的でなかったり、副作用の後遺症で悩んでいる患者さんにとっては画期的な治療法といえるでしょう。なお健康保険の適応が受けられるのは、「腫れた関節が全身で6箇所以上あること」「ESRが1時間で50ミリ以上、あるいはCRPが3ミリグラム以上あること」が条件。一度主治医と相談されることが良いのではないかと思います。

PET健診の問題点
 がん細胞の増殖スピードは、正常細胞より数倍速いため、エネルギー源であるブドウ糖をより多く取り込みます。この性質を利用したものが「PET健診」というもので、ブドウ糖に放射性同位元素(フッ素18=半減期110分)を加えたFDGというものを静脈注射した後、ガンマ線を画像処理して映像として捉える仕組みです。代謝が亢進している再発がんのようなものは数ミリの大きさで捉えられる一方、ブドウ糖の取り込みが少ない早期がんは集積画像の判別が困難との問題点もあり、また部位(臓器)によって見つけやすいがんと、見つけにくいがんがあります。
 国立がんセンターの発表によると、2004年から1年間に当センターでがん検診を受けた約3千人中、約150人にがんが発見されましたが、このうちPETで陽性となったのは15%ほど。……というのも胃や大腸など消化管に出来るがんは、粘膜表面に広がって成長しますが、早期の段階では3センチの大きさでもさほど栄養分を必要としません。このような場合、内視鏡では簡単に見つかっても、PET単独での検出は難しいのです。
 2004年11月、PETの専門医を中心に構成する日本核医学会は「FDG―PETがん検診ガイドライン(2004)」を発表し、「効果に関する誇張広告は慎むべき」と付記しました。どんな検査でも100%というものはありません。PET健診もがんを発見する検査の一つと心得ておくべきでしょう。

画期的ながん検診
 東京大学、米国国立がん研究所(NCI)、オリンパスの研究チームは、体内に注射すると「生きているがん細胞だけに取り込まれて蛍光を発する分子を開発した」と発表しました。
 現在、がん診断に使われるのは、陽電子断層撮影装置(PET)や磁気共鳴画像診断装置(MRI)ですが、これらに比べ微小ながん細胞の検出精度が高く、胃や肺、乳がんなどの早期診断・治療が進むと期待されています。
 体内でがんが生じた際には、「抗体」が形成されますが、これらががん細胞に取り込まれた後、たんぱく質の分解・再生を担う小器官「リソソーム」に運び込まれます。そこに注目し、リソソーム内は周囲と違って弱酸性であることから、抗体と結合した後、弱酸性の場合にだけ蛍光を発する分子を開発したそうです。さらにがん患者では、内視鏡を使った検査や手術にこの蛍光分子を使うことも可能。がん細胞が死ぬとリソソームが弱酸性でなくなるために光らなくなり、治療効果も目で確認できるとのことです。

耳鳴りの新治療法
 最近、"耳鳴り"の症状を訴える人が急増しています。厚生労働省が行った「国民生活基礎調査」(2001年)では、慢性的に"耳鳴り"を感じている人の割合は26.8%と4人に1人の割合です。単に"耳鳴り"といってもいくつかのタイプがあり、ゴーゴーという低い音の耳鳴りは「外耳や中耳などの障害」、キーンという高い音の耳鳴りは「内耳や聴覚神経などの障害」、ザーザーという拍動性の耳鳴りは「脳血管などの障害」が影響しています。
 一般的な治療は、内耳や脳の血流を促す末梢神経拡張剤やビタミンB12剤を服用する方法ですが、十分な改善効果が期待できません。そこで新療法として、ステロイド剤を中耳に直接注入する「中耳腔注入療法」が注目されています。
 中耳に薬物を注入するという治療法は、オーストリアのノーベル賞学者・バラニーが、内耳から起こるめまいに対して始めたものです。彼は、メニエール病の患者に麻酔薬を注入して大変な成果を上げました。しかし、麻酔薬の注射は、激しい吐き気やめまいなどの副作用が強く、患者の入院が必要。そこで、麻酔薬の代わりに"ステロイド剤"を使用することで、外来でも治療が出来るようになったわけです。
 ご存知のように、ステロイド剤には抗炎症作用があります。耳鳴りは、音の振動を電気信号に変えて脳に伝える「内耳と聴神経の興奮」によって引き起こされると考えられており、注入したステロイド剤が内耳に染み込むことで、内耳・聴神経の興奮が抑制され、耳鳴りが軽減できるという訳です。
 ステロイド剤による"中耳腔注入療法"では、1〜2週間の間隔で4回の注射を行います。改善率は、原因により異なりますが5〜8割程度。効果が期待できない患者には、入院による"麻酔薬の注入"が行われます。この治療法は、突発性難聴以外はかなりの改善率とのことですが、残念ながら耳鳴りが完全に消失するわけではありません。治療を受ける前の耳鳴りの大きさを10とすると、治療後は2〜5程度の耳鳴りが残ります。「完治ではなく緩和」と考えた方が良さそうです。また現在のところ、健康保険の適用にはなっておりません。すでに病院に通院されている方は、担当医に"中耳腔注入療法"を行っている病院を紹介してもらうか、インターネットなどで調べてみると良いでしょう。

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◆  食品/食事と健康

食事でかかる新型栄養失調
 現代社会は、飽食の時代。栄養不足なんて考えられない?!
そんなあなたにぜひお勧めしたい本は、小若順一・国光美佳著「食事でかかる新型栄養失調」(三五館)。
 例えば、近年増加しているのが買い物難民の老人。近所のスーパーが閉店し、最寄のスーパーまで買い物に行くには30分もかかってしまう。自転車では危ないし、歩くには膝も痛くて遠過ぎる。そんな老人に喜ばれているのが宅配弁当。例えば、ワタミが手作りと和食の献立にこだわっているという高齢者向け「まごころ御膳」。一見おいしそうに見え、バランスも良さそうで、1日3食分のミネラル不足は心配なし?
 そこで、3食分のミネラル量と70代男性の推定平均必要量と比較すると……カルシウム=必要量の31.2%、マグネシウム=同33.0%、鉄=同30.0%、亜鉛=同40.0%、銅=同0%(検出できず)……という結果に。

カロリー制限と長寿1
 低カロリー食で寿命が延び、より健康的に生きられる可能性があることを米国ウィスコンシン大学などの研究チームが発表し、科学誌「Science」2009年7月10日号に発表されました。
 研究は、研究開始時点で成体(7〜14歳)だったアカゲザル76頭を対象に実施。制限なく好きなだけ食べさせる群と、カロリーを30%減らした食餌を与える群とに分け、その後の経過を観察。1989年に開始された研究は、20年に及んだ。
 飼育されているアカゲザルの寿命は27年ぐらいで、現在も生存しているのは33匹。自由に食餌をとった群で生存しているのは約半数で、37%(14匹)が糖尿病やがん、心疾患、脳萎縮など加齢と関連の深い病気で死亡。一方、カロリー制限した群では80%が生存しており、加齢に関連する病気で死んだのは13%(5匹)で、制限なしのグループの3分の1にとどまった。またがんと心疾患の発症率が半分未満に減り、糖尿病や血糖の調節異常も発見されなかった。
 米国ウィスコンシン大学マディソン校医学部のRichard Weindruch教授は、「カロリー制限食により老化プロセスを減速出来ることが霊長類で示された」と述べ、「低カロリー食が寿命を延ばし、歳を取ったときの生活の質も向上する。加齢にともなう病気の発症や生存率の増加をみると、カロリーの制限が強い影響を持っていることは明白だ」と話しています。


カロリー制限と長寿2
 この研究は、カロリー制限協会(Calorie Restriction Society:ノースカロライナ州)のメンバー28人が参加し、米国ワシントン大学医学部のルーイジ・フォンタナ博士らによって実施されたもので、内容は医学誌「Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism」電子版に発表されたものです。
 カロリー制限協会は、1日1400kcal〜2000kcalに管理した食事を続けることを目的に活動しており、また精製された穀物や砂糖、加工食を避け、野菜、豆類、全粒穀物、魚、果物を十分に取り、栄養バランスにも注意している食生活を推奨しています。
 今回の実験の参加者は、平均6年間、1日のカロリー摂取量を平均1800kcalに抑え、蛋白質やビタミン、ミネラルなど微量栄養素は推奨量の100%を摂取し、デスクワーク中心で1日2700kcalの平均的な欧米食をとり続けた28人と比較したもの。
 その結果、低カロリー食をとり続けた人では、血圧、LDLコレステロール、血糖値、血中インスリン値が低く、善玉のHDLコレステロール値が高いことが示され、また超音波検査で心臓の老化が遅いことも確認されました。研究では、カロリー制限が「酸化ストレスによるダメージと身体の代謝率を低下させる」ことで長寿につながる可能性が示唆されました。
 カロリーを減らしながら、必要な栄養素を十分に取っていれば、2型糖尿病、脂質異常症、動脈硬化症の予防や対策になるという科学的な調査は多いようです。


オーガニックに注目集まる
 2007年に行われた農林水産省による「有機農業をはじめとする環境保全型農業に関する意識・意向調査」によれば、9割以上の消費者、8割以上の流通加工業者が、有機農産物を「購入したい、取り扱いたい」と回答しており、オーガニック関連食品に対する期待度が高まっています。
 オーガニック関連食品宅配大手の"らでぃっしゅぼーや"は、ここ2年で急速に売り上げを伸ばし、宅配世帯数は9万件を超えました。売り上げも200億円を突破して、日本レストランシステムとの業務提携も進み、2008年12月にはジャスダックでの上場も達成。またオーガニック関連食品通販の"オイシックス"は、「ふぞろいな野菜たち」などの新しいコンセプトで事業を拡大しています。
 食品の安全・安心が揺らいでいる今日、こだわりを持った食品作りや販売に力を入れている企業が注目されています。


新鮮な野菜の選び方
<大根は、ツヤと張りで選ぶ>
「葉がピンとしている」「色が白く、ツヤと張りがある」「ひげ根が少なく、表面が滑らか」なのが選ぶポイントです。なお葉付きの大根は、そのまま冷蔵庫で保存すると水分を葉が吸収してしまいます。葉を切り落としてから、新聞紙に包んで保存します。
<人参は、肩・尻・茎を見る>
「肩が緑色になっていない」「尻がしなびていない」「茎の切り口が黒くなっていない」のが選ぶポイントです。人参はポリ袋に入れてから、冷蔵庫の野菜室に立てて保存します。
<ネギは、弾力感で選ぶ>
「葉先まで鮮やかな緑色をしている」「白い部分と緑の部分とのコントラストが、はっきりしている」「白い部分がしまっていて、ツヤと弾力がある」のが選ぶポイントです。長い場合はカットして、ポリ袋に入れてから冷蔵庫の野菜室で保存します。
<レンコンは、しっとり感が大切>
「自然な淡黄色で、ふっくらとしている」「表面がカサカサせず、しっとり感がある」「中が黒くなく、穴の大きさが揃っている」のが選ぶポイントです。乾燥しないよう、ラップか濡れた新聞紙に包んで冷蔵庫の野菜室で保存します。
<キャベツは、緑色が濃いものを>
「外葉の緑色が濃い」「重さがずっしりとしている」「カットされたものは、芯に変色やヒビ割れがない」のが選ぶポイントです。丸ごと保存する場合は、芯を包丁で切り抜き、そこに水を含ませたキッチンペーパーを詰めてからポリ袋に入れ、冷蔵庫の野菜室で保存します。


菜食主義者は長生きか
 菜食主義と寿命に関する研究は、アメリカ、イギリス、ドイツなどこれまでいくつかの前向きコホート研究が行われてきました。その結果、菜食主義者はそうでない人に比べ、心筋梗塞による死亡率が24%も低いことがわかりましたが、脳卒中、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、前立腺がんについては一般の人と死亡率に差がありませんでした。
 ドイツのハイデルベルクにおける調査でも、心筋梗塞による死亡率はそうでない人に比べ、55%も少なかったのですが、その反面、脳卒中になる率は69%高く、胃がんと前立腺がんになる率は約2倍と平均寿命に変わりはなかったそうです。長生きしたいのであれば、やはり1日30品目をバランスよく取ることが大切なのでしょう


粗食は長生きか
 米国ウィスコンシン大などの研究チームは、カロリー摂取量を大幅に減らすとがんや心疾患、糖尿病など加齢に伴う病気の発症が抑えられることを、アカゲザルを使った20年間の追跡調査で明らかし、その内容が米科学誌「サイエンス」に発表されました。霊長類で、こうした効果が実証されたのは初めてのことです。
 研究チームは、7歳から14歳の大人のアカゲザル(飼育下の平均寿命27歳)を30匹使い、1989年に研究を開始。94年にはさらに46匹を追加しました。これらを2つのグループに分け、片方はカロリー摂取を30%減らし、血圧や心電図、ホルモン量などを測定。死んだ場合は、解剖で死因を詳しく調べました。
 その結果、カロリー制限をしないグループでは、5匹が糖尿病を発症、11匹が予備軍と診断されましたが、制限したグループでは兆候は見られず、がんと心疾患の発症も50%減少。また脳は加齢とともに萎縮することが知られていますが、制限したグループでは、運動や記憶などを司る部分の萎縮が少ないこともわかりました。


高脂肪食は健康に良くない
 短期間でも、高脂肪の食事をしていると「運動能力や記憶力が損なわれる可能性がある」ことを英国ケンブリッジ大学の研究者が発表しました。
 この研究では、ラットに高脂肪のエサを与えたところ、10日足らずでラットの運動能力が衰え、短期記憶が大幅に損なわれたという内容のもの。
 実験では、低脂肪のエサ(脂肪分7.5%)と高脂肪のエサ(脂肪分55%)をそれぞれラットに投与したところ、高脂肪のエサを4日間食べたラットは、酸素を使って運動に必要なエネルギーを発生させる能力に衰えが見られ、9日後には低脂肪のエサを食べたラットと比べて「迷路から抜け出すのに長時間かかる」ようになり、ミスも増えたということです。
 ラットの細胞を調べたところ、高脂肪食のラットは「脱共役タンパク質3レベルが上昇」しており、このために酸素を使って必要なエネルギーを得るプロセスを効率的に処理出来ない可能性がわかりました。

塩分の取り過ぎに注意
 塩漬け食品の取り過ぎや塩分の多い生活習慣を続けると「がんや循環器疾患(心筋梗塞、脳卒中など)を発症しやすい」ことが、厚生労働省研究班の大規模調査で分かりました。これまで塩分の取り過ぎと胃がんなど一部の疾患では知られていましたが、塩分の取り過ぎが多くの生活習慣病に影響するとのデータが示されたのは初めてです。
 調査は、8県に住む45〜74歳の男女約8万人を対象に実施。対象者を食事全体の塩分摂取量、塩辛や漬物、イクラなど塩漬け食品の摂取量によって5グループに分け、6〜9年間の追跡調査を行いました。その結果、塩分全体の摂取量が多い群(1日当たり平均17.8グラム)は、少ない群(同7.5グラム)に比べて循環器疾患の危険性が約2割高く、また塩漬け食品の摂取量が多い群はがんを発症する危険性が11〜15%高い結果に。なお塩漬け食品の摂取量が多い群の循環器疾患の危険性は高くはありませんでしたが、これは魚や野菜に循環器疾患を予防する栄養素が含まれるためとみられます。


葉酸不足が心配
 女子栄養大学副学長の香川靖雄氏によれば、脳卒中、胎児の二分脊椎症、高齢者の認知症、骨粗しょう症などを予防するには「葉酸を1日当たり400μg」摂取する必要があるということです。しかし、日本人が実際に摂取している量は1日当たり300μg前後。また葉酸には吸収のよいモノグルタミル酸と吸収の悪いポリグルタミル酸とがあり、利用効率で見ると実際の摂取量は200μg程度に過ぎません。
 米国やカナダでは、1998年にシリアルや小麦粉への葉酸添加が義務付けられ、これにより胎児の脊椎障害や脳卒中も減少しました。また米国では、要介護老人も減少傾向にあり、2009年度における高齢者医療費は当初43兆円の予算から35兆円に減らされる予想が出ています。
 日本は要介護者や認知症患者が年々増加。脳卒中患者も130万人と世界的に見て高率なため、これらを予防するには葉酸推奨量を「現行の240μg/日から400μg/日」に引き上げる必要性がありそうです。

腎結石にレモネード
 40歳以上の男性が「腎結石のリスクを低減する」には、アイスティーをやめてレモネードに変えるべきだ、という話があります。腎結石とは「腎臓や尿管内に形成される結晶」のことで、発現リスクは女性に比べて男性が4倍と多い傾向があります。
 腎結石の原因として、シュウ酸塩がありますが、アイスティーにはこれが高濃度に含まれています。米国Loyola大学のJohn Milner博士は、「アイスティーは、腎結石ができやすい人にとっては最も悪い飲料の1つである」と述べています。
 米国では、アイスティーは「炭酸飲料やビールよりもより健康的である」と考えられていますが、Milner博士は「適切な水分補給を保つには、水を飲むのが最も良いが、腎結石ができやすい人は、レモンを多量に入れたレモン水やレモネードが有用。レモンには、腎結石を阻害するクエン酸が高濃度に含まれているため。実際に腎結石ができやすい人に人工的に風味を付けたレモネードを投与すると、腎結石の発現が遅くなることが示唆されている」ということです。
 また腎結石ができやすい人は、シュウ酸塩を高濃度に含むほうれん草やチョコレート、ナッツなどを避け、カルシウムの多い食品を摂取することが大切です。


コーヒーと子宮体がん
 厚生労働省研究班は、コーヒーを1日3杯以上飲む女性は、ほとんど飲まない女性に比べて「子宮体がんになる危険度が約6割も低い」との疫学調査結果を発表しました。調査は、岩手、大阪など9府県の40〜69歳の女性約5万4000人を最長で15年間追跡。調査開始時にコーヒーを飲む習慣について聞き取りを行い、摂取量によって4つのグループに分けて分析したところ、飲む頻度が週に2日以下のグループと比較すると、毎日1、2杯飲む人で約4割、毎日3杯以上飲む人では約6割、発症のリスクが低かったそうです。
 一般に子宮体がんは、肥満や糖尿病の人、女性ホルモンの働きの活発な人がなりやすいとされていますが、研究班のメンバーである島津太一(国立がんセンター)氏は「コーヒーが血糖値を下げたり、女性ホルモンの働きを調整したりすることで危険度を下げているのではないか」と推測しています。

ポリフェノールの4割はコーヒーから
 飲み物100ミリリットル当たりに含まれるポリフェノールの量は、赤ワインが230ミリグラム、コーヒーは200ミリグラム、緑茶は115ミリグラム前後。お茶の水女子大大学院・近藤和雄教授は、日本人のポリフェノール摂取量を調べたところ、1日に取るポリフェノールの8割が飲み物で、2割が食べ物から。さらに飲み物から摂取しているポリフェノールの半分が、コーヒーによるものだったことが分かりました。
 全日本コーヒー協会によると、缶コーヒーやインスタントコーヒーを含めたコーヒー飲料全体の飲用量は、1週間で1人平均10・6杯(平成20年)。コーヒーにはクロロゲン酸などのポリフェノールが含まれ、抗酸化作用が期待されています。しかし、体内に摂取されたポリフェノールの働きは2時間程度で、4時間後には効果がなくなってしまうため、飲むのであればこまめに取るのが理想。また赤ワインの場合はアルコール、ココアの場合はカロリーが心配。コーヒーの場合も、ミルクと砂糖の取り過ぎに注意しないといけません。

メタボ対策に酢の効果
 酢を毎日大さじ1〜2杯飲み続けると「内臓脂肪や血中中性脂肪が減少する」ことが、ミツカン中央研究所が行った臨床試験で分かり、日本栄養・食糧学会大会で発表されました。
 臨床試験は、25〜60歳の男女175人を対象に実施。リンゴ酢の摂取を1日大さじ2杯分(30ミリリットル)、1杯分(15ミリリットル)、摂らない、の3グループに分け、12週間内の経過を観察して内臓脂肪や血中中性脂肪を比較したところ、大さじ2杯のグループでは、内臓脂肪が平均で4・95%減少、血中中性脂肪は23・21%減と効果が見られました。また体重(2・64%減)や皮下脂肪(2・79%減)、腹囲(2・02%減)の数値でも肥満改善の効果が見られたが、摂取しなかったグループは変化がなかったそうです。
 同研究所によると、主成分である酢酸には「血圧や血中コレステロール値を下げる効果」があり、出来るだけ継続的に摂取してほしいと話しています。


ショウガエキスに美白効果
 ポーラ化成工業は、ショウガから抽出したエキスが「シミの元になるメラニンの生成を抑制」する研究内容を日本薬学会で発表しました。
 シミは、メラニンを生成するメラサイト内にあるチロシナーゼという酵素が活発化することで、メラニンが過剰に生成して起こります。同社の研究では、ショウガ抽出エキスをメラノサイト細胞に添加したところ、内部のpHが酸性化してチロシナーゼ活性が低下することが分かりました。
 化粧品市場では、シミや日焼けなど色素沈着を防ぐ美白関連が「スキンケア市場の4分の1」を占めています。今回のように「メラノサイト内のpH変化」に着目した研究は初めてで、今後は美白素材としての応用が期待されています。

梅は胃がんと糖尿病によい
 梅に含まれる成分が「胃がんの原因となるピロリ菌を抑え、また糖尿病の予防にもつながる」ことが、和歌山県みなべ町と近畿大、県立医大など9機関の共同研究で分かりました。
 同研究グループは、梅の成分でポリフェノールの一種シリンガレシノールにピロリ菌の働きを阻害する効果があることを確認。また小腸で糖を分解する酵素α−グルコシダーゼの作用を妨げ、食事後の血糖値上昇をゆるやかにすることを解明しました。研究グループによると、梅干を1日1個以上食べると「胃がんや糖尿病などの予防効果」が見込めるということです。


緑茶パワーに注目
 2011年1月12日放送のNHK『ためしてガッテン』で取り上げられた「緑茶パワー」。人口10万人以上の市区町村中がん死亡率が日本一低く、高齢者医療費も全国平均より20%も低いという静岡県掛川市。その理由の秘密が、毎日10杯以上は飲んでいる地元名産の緑茶だそうです。
 番組では、悪玉コレステロールの低下、動脈硬化の改善、腸内の善玉菌が25%以上増加、といった内容も取り上げられました。なんとがん死亡率の低い上位15市区のうち、藤枝、磐田、浜松、所沢、津、鈴鹿、鹿屋の各市がお茶の産地であることも紹介されました。
 緑茶が健康に良いことは、これまでの疫学調査で知られてきましたが、ネックはカフェインの取り過ぎによる興奮作用。どうしても多量の摂取が難しい場合は、カフェインレスのサプリメントなども併用しながら、生活習慣病の予防につなげたいものです。


カテキンは肝臓によい
 お茶に含まれるカテキンが、肝臓で重要な働きをすることがわかってきました。酒の飲みすぎで肝臓に脂肪がたまり、肝機能が低下することは知られていますが、酒を飲まない人でも同じ症状が起こります。そんな非アルコール性脂肪肝の患者が高濃度のカテキン飲料を飲んだところ、脂肪が減り肝機能が改善することが花王と久留米大学医学部との共同研究で判明しました。
 久留米大学医学部・坂田隆一郎医師によれば、「非アルコール性で肝疾患が起こるのは、体内で過剰に発生した活性酸素が原因と考えられ、改善にはカテキンの抗酸化力が作用したと推測される」とのこと。アルコールだけではなく、糖や脂肪なども代謝し、同時に解毒作業を担う肝臓は、活性酸素が多く発生する場所。そこにカテキンを届けることで、肝臓の代謝機能をサポート出来るわけです。「そのためには、濃いお茶を食事と一緒に飲むのが効果的」と坂田医師。
 肝臓に働きかけてダイエットにも効かせるには、最低でも1日500mg以上、出来れば1000mgのカテキンを取りたいところ。「茶葉に含まれるカテキンは、80℃以上の高温の湯で溶け出す。基本は5gの茶葉に熱い湯100mlを入れて、1分間待つのがポイント」。この方法ならば、茶葉に含まれるカテキンの約60%が抽出でき、同様に同じ茶葉で2煎せん目を入れれば、合わせて80%のカテキンが摂取可能。朝食とともに2杯飲めば、400〜500mgのカテキンが取れます。

ペクチンがセシウムを吸着
 ベラルーシ共和国・ベルラド研究所のネステレンコ博士は、2009年に「チェルノブイリ地区の放射性物質からの開放」という題名の論文を発表しました。
 その中で、2001年にチェルノブイリ発電所事故で内部被ばくした子ども615人を対象に調査したものを紹介。内容は、リンゴの搾りかすなどから作ったアップルペクチンを食品と合わせて21日間連続投与した結果、放射性セシウム137の体内の濃度が当初より63.6%低下し、ペクチンを含まない食品だけ与えた場合は13.9%の低下に留まったというものでした。
 アップルペクチンは、リンゴに含まれる食物繊維ですが、体内に入った放射性セシウムの排出を促進するのであれば、今後はそれをうまく有効利用することも考える必要があるのではないかと思います。


テレビの見過ぎとジャンクフード
 米国ミネソタ大学・運動生理学助教授のD.B.Anderson氏らは、中学生564人と高校生1366人を対象に「1日当たりのTV視聴時間と5年後の食生活との関連」を追跡調査しました。その結果、1日5時間以上TVを見ていた高校生は、5年後、果物や野菜、全粒穀物、カルシウムの豊富な食品はあまり摂らず、スナックや揚げ物、甘味飲料、トランス脂肪酸を含む食品を多く摂取していた結果となりました。
 Anderson氏は、「ファストフードやその他の不健康な食品のCMを見る時間が長過ぎることが関与している。TVを見ながらの食事は、CMで見る食品を摂取する可能性を高める。子どもの食生活を健康的にするには、親がTVを見る時間を制限し、健康的な食習慣を身につけさせることが必要。TVは1日2時間以内にすべきである」と主張しています。

鮭は白身魚or赤味魚

 魚には、白身魚と赤身魚がありますが、その違いは筋肉の種類で決まります。白身魚の白い筋肉は"速筋"と呼ばれ瞬発力が高く、一方、赤身魚の赤い筋肉は"遅筋"と呼ばれ持久力が高い特徴があります。人間でいうと短距離型と長距離型との違いです。
 鮭は赤味ではなく、白身魚の仲間に入ります。その証拠に産卵後の鮭の死骸は真っ白。では、なぜ生きている間は赤いのか? これには、アスタキサンチンという赤い色素が関係しており、餌となるオキアミは藻を食べていますが、この藻に含まれる赤い色素成分が身に蓄積して、美しいサーモンピンクになるからです。
 同様に、カニやエビの殻、鯛や深海魚の表面なんかもアスタキサンチンを含むので、赤い色をしています。しかし、鮭だけは筋肉組織にまでアスタキサンチンを取り込むので身まで赤くなります。
 その理由として考えられるのが、鮭が川を遡るために持久力が必要なこと。運動すると体内で活性酸素が増え、筋肉組織を破壊して疲労感を感じます。この活性酸素を消去して筋肉損傷から守るのが、ビタミンCやベータカロテンなどの抗酸化成分。その中でも強力なのがアスタキサンチンです。鮭が他の魚と違って川の上流に辿り着けるのは、アスタキサンチンを筋肉内に取り込めるからだとも言われています。

旨味の成分
 人の舌の細胞表面には、味を感じる「味覚受容体」と呼ばれるたんぱく質があり、うまみ、苦み、甘みを感じる受容体が見つかっています。最近の研究によれば、昆布だしに含まれるグルタミン酸とかつおだしに含まれるイノシン酸を合わせると、うまみが増す「相乗効果」が起きる仕組みを米国の研究グループが解明しました。
 研究グループは、まずグルタミン酸とイノシン酸が「T1R1」という受容体に作用すると推測。この受容体は、二枚貝のような葉を閉じて虫を補える食虫植物の「ハエトリグサ」に形が似ており、受容体のどの部分に結合するかを人やラットで調べたところ、グルタミン酸は「ハエトリグサ」が開く際のちょうつがいの部分に、イノシン酸は先端の開閉部にそれぞれ結合することを突き止めました。イノシン酸が結合すると閉じた構造になり、グルタミン酸が安定して中に留まるため、うまみを増強させることが分かりました。
 味覚には「甘み」「苦み」「酸味」「塩味」「うまみ」の5味があります。うまみ成分のグルタミン酸、イノシン酸、椎茸のグアニル酸はいずれも日本人が発見したため、うまみという言葉は「umami」として国際的に使われています。

季節によって違うアイスクリームの味
 アイスクリームの主原料である牛乳の成分は、季節によって異なります。従って牧場などで作る手作りアイスクリームは、同じアイスでも季節によって味が異なります。
 一般に日本で飼育されている乳牛は、元々寒冷地に適した品種で冬の方が元気。冬は飼料をモリモリ食べるため、原料である乳に含まれる乳脂肪分が高くなります。一方、夏は体温調整のため飼料を減らすので、乳脂肪分は低くなります。アイスクリームは、乳脂肪分が適度に高いほどコクのあるまろやかな風味ときめ細かな組織になるので、乳脂肪分が高い冬の方が美味しく感じるわけです。
 ただし工場で生産されるアイスクリームは、年間を通じて味が変わらないように作られているため、季節によって味が変わることはありません。

米の味はたんぱく質で決まる
 米の味は、タンパク質の量だけでなく「特定のタンパク質がどこにあるか」によっても変わることが京都府立大学などの研究で分かりました。
 研究チームは、新潟県魚沼産などと並んで食味ランキング「特A」の丹後産コシヒカリのおいしさの秘密を探ろうと研究をスタート。一般に米は、タンパク質の量が多いと味が落ちるとされています。府立大の田中國介特任教授らは、タンパク質の一つで水をはじくプロラミンの顆粒が米の表面に多いと水が粒の中までしっかりと入らないので、ふっくらと炊けずに味が落ちるとの説を出しましたが真偽は不明。
 そこで増村講師らは、コシヒカリと味がやや落ちるとされる他品種でタンパク質顆粒中のプロラミンの比率と米粒内での分布を調べたところ、他品種はプロラミンの比率が高い上に米粒の表面に偏在していることが分かりました。米の味は、デンプンの一つであるアミロースやミネラルの量などでも変わりますが、プロラミンの量や偏在も味を決める大きな要素となり、田中特任教授の説が裏付けられた形となりました。

地球温暖化と山田錦
 日本酒用の稲で知られる山田錦の主要産地は、兵庫県の東南部。米粒には酒の雑味となるタンパク質や脂質が少ないのが特徴で、コメの表面を磨きデンプン質以外の成分を削り落として酒造に使います。
 山田錦の8割を生産する兵庫県東南部は、室町時代から酒の名所として知られる土地。六甲山系の内陸に位置して昼夜の寒暖差が大きく、またミネラル類の多い粘土質土壌が酒米の栽培に適しています。しかし近年、心配されるのが「山田錦の小粒化」。その原因として、地球の温暖化が指摘されています。
 稲の穂が出る「出穂期」は8月下旬ですが、1998年以降、これが確実に早まっているそうです。夜の気温が高いと稲が栄養分を消費してしまい、デンプンの詰まった大きな米粒が出来なくなります。また、デンプンの品質も低下するということです。
 酒米のデンプンの80%は、アミロペクチンと呼ばれる枝分かれ構造を持つ高分子。高い気温の下で合成されたものは、結合が長く延びた状態になる。結合が長いと麹菌による分解が手間取るので、日本酒を搾り出す前のもろみの状態になりにくくなるわけです。

ふなずしの乳酸菌
 日清食品ホールディングスの食品安全研究所は、滋賀県名産の"ふなずし"の乳酸菌の1種が「悪玉コレステロールを低下させる作用がある」ことを臨床試験で確認したと発表しました。試験に使用した乳酸菌はふなずし特有のもので、マウス実験ではすでにコレステロール低下作用が判明していましたが、人間での検証は初めて。
 臨床試験は、31−56歳の男女30人を対象に実施。ふなずし由来の乳酸菌「NLB163」を6週間摂取し続けた結果、悪玉コレステロールは試験前よりも平均13・4%減少し、副作用もなし。同研究所は、「動脈硬化が原因の心筋梗塞や脳梗塞の発症リスク低減が期待できる。またふなずしと他の発酵食品の乳酸菌との違いが、今後の研究課題」と語っています。

炭火焼の美味しさの秘密
 うなぎの蒲焼でも焼肉でも「炭火で焼く方がおいしい」っていいますが、その理由はなんでしょうか。一言でいうと「炭から発せられる赤外線」に秘密があるようです。
 ガス火で調理した場合は、火は周りの空気を温めるので、それにより生まれる水蒸気が食材に付着して水っぽい焼き上がりになります。ところが、赤外線は空気を温めるのではなく、それ自体が高温の熱線として放射されるため、水蒸気などの影響を受けずにカラっと焼きあがります。赤外線とは、紙や金属、植物、動物などあらゆる物質が放つ電磁波で、物質が高温になるほど強く放射されます。炭が赤くなったときの温度は、およそ800℃。かなり強い熱を発します。
 また炭は、他の物質より近〜遠赤外線まで幅広い波長において放射率が高い。これらの赤外線は、まず食材の表面を素早く焼いて旨みを閉じ込めます。次に表面の熱が内側に伝わり、水分が蒸発することで旨みが凝縮される。つまり"じわじわ焼く"ことに美味しさの秘密があるようです。

ペットにあげてはいけない食品
 犬の場合、有名なものに玉ネギ(ネギ、ニラ、ニンニクも同様)があります。理由は、ネギ類に含まれるアリルプロピルジスルフィドという成分が赤血球を壊してしまうため。死に至るケースもあるので、注意が必要です。火を通してもダメです。例えば、すき焼きの肉を与えた際に玉ネギのエキスがしみ込んでいた場合、問題となることがあります。
 チョコレート、ココア、アボカド、キシリトールも犬にあげてはいけません。チョコレートやココアにはテオブロミンが含まれており、代謝が悪い犬にとっては中枢神経を刺激して害になることがあります。アボカドにはペルジンという成分が含まれており、胃の粘膜を刺激して嘔吐や炎症を引き起こすことがあります。また甘味料のキシリトールは、犬の血糖値を低下させて肝不全などを引き起こす原因となります。
犬にとって骨は大好物ですが、与える際には注意が必要です。特に鶏の骨は先が尖った状態に割れるため、喉や食道の粘膜を破いてしまう危険があります。
 猫の場合は、犬と同じく玉ネギ、チョコレート、ココア、アボカドはダメです。あとアワビ、トリガイ、サザエなどの貝類も気をつけた方がよいでしょう。特に3月〜5月は貝に含まれる毒素が強くなるため、毒素によって引き起こされる光線過敏症のリスクが高まります。発症すると、耳などの毛の薄い場所に腫れやかゆみが生じ、壊死することもあります。イカ、タコ、エビ、カニなどを大量に与えるのもダメです。チアミナーゼという酵素がビタミンB1を破壊して、ビタミンB1欠乏症を引き起こす原因になります(犬も同様です)。「猫にイカを食べさせると腰を抜かす」というのは、ビタミンB1欠乏症から起こる身体のふらつきともいわれています。またスルメは胃の中で水分を吸って膨張するため、腸管が詰まってしまう危険があります。
 最後に、猫にとっては大好物の魚の話。アジ、イワシ、サバなどの青魚には不飽和脂肪酸が多く含まれており、そればかり与えることはいけません。理由は、皮膚の下にシコリが出来る黄色脂肪症という病気の原因になるからです。


◆  食育/子育て

子供の食が危ない!

 2005年6月10日、第162回国会において"食育基本法"が成立しました。その背景には、"子供の食生活の乱れ"(朝食を食べない、スナック菓子中心の食生活など)が指摘されています。
 4〜6歳の幼児を対象とした嗜好調査(幼児の食の嗜好と親の影響について)によれば、甘味については20品目中、母親と男児では14品目、母親と女児では13品目に相関が見られ、酸味についても母親と男児女児ともに11品目に相関が見られました。一方、父親との関係では、母親のような強い関係は見られず、子供の食の好みが「母親の好き嫌いに大きく左右されている」ことがわかりました。
 また男女大学生を対象とした調査(食の好き嫌い調査)では、好きな食べ物の約70%は小学生までに決まっており、「なぜ好きになったのか」という質問では、母親の手作り、小さい頃からよく食べていたなど、食事における"頻度"との相関が認められました。逆に嫌いな食べ物については、その80%が小学校低学年までに形成されており、嫌いな理由として、4分の1は「食べず嫌い」、特に納豆は、親の嗜好に強く影響していることがわかりました。また「給食で強制的に食べさせられた」経験が、嫌いになった原因の20%を占めることもわかりました。
 我々は、舌や上あごにある味蕾という場所で、味を感じていますが、この味蕾は妊娠5ヶ月の胎児にすでに認められています。妊婦にニンニク入りのカプセルを飲ませますと、羊水の中にもニンニクの味が染み込んできています。妊娠中の食事は、胎児の栄養源である臍帯血ばかりでなく、羊水の中にも浸透しているわけです。母親がニンニクを食べると、ニンニクの成分が母乳に移り、8人中7人の乳児がいつもよりお乳を沢山飲んだという実験報告があります。母乳は、牛乳よりも乳糖で2倍、旨味成分のグルタミン酸は20倍も多い栄養食ですが、母親が口にする食事が胎児や母乳にも影響することは、食育を考える上で重要なテーマとなっています。
 若年型生活習慣病の増加が問題視されている昨今、子供の頃からの食事のあり方を今一度考える必要があります。

デイビスの実験
 離乳食の時期、赤ちゃんは非常にムラのある食行動をします。今日は魚を食べたかと思うと次の日は食べなかったりする。そこで、クララ・デイビスという小児科医が面白い実験をしました。食卓にミルク、パン、チーズ、魚、果物、野菜……といろいろ並べ、好きなように食べさせてそれを観察しました。半年間実験を行いましたが、その結果、糖質、脂質、たんぱく質共に非常にバランスよく食べていたことがわかりました。心理学では、ネズミに好きなように食べさせる「カフェテリア実験」というものがありますが、ネズミも同様にバランスよく食べます。
 元々バランスよく食事することは「本能」の中にインプットされているのでしょう。しかし、成長するに従い「好き嫌い」が出てきますので、偏った食事に移行してしまいます。食事の内容は健康面ばかりでなく、人の心を司る脳内ホルモンや神経伝達物質の合成にも関与しますので、十人十色といった個人差が発生するわけです。
ある学者が「ネズミにトウモロコシばかり食べさせる」実験を行いました。その結果は、ものすごく凶暴になったこと。トウモロコシにはセロトニンの材料となるトリプトファンがわずかしか含まれていません。トリプトファンには過剰に分泌されたカテコールアミン(興奮性物質)を抑制し、精神を安定化させる働きがあります。
 最近増えた切れやすい若者は、セロトニン不足なのかもしれません。埼玉医科大学教授・野村正彦氏の意見では、切れやすい子供のおやつによいのはバナナとのこと。バナナには、セロトニンの材料となるトリプトファンが多く含まれているからです。

朝食を取らない若者が増加
 若い男女を中心に「朝食を取らない人の割合が増加傾向」にあり、30代男性では10年前に比べ約10ポイント上昇し、30%を超えたことが、厚生労働省「2007年国民健康・栄養調査」で分かりました。
 今回の調査は、全国約8900人を対象に実施されたもので、「朝食を取らない人の割合」が最も多かったのは30代男性の30.2%で、10年前と比べ9.7ポイント上昇。20代男性では28.6%、20代女性では24.9%でした。また1−6歳でも男児で5.3%、女児で7.3%に上り、20代男性を除くすべての年代で10年前と比べ上昇していました。
 さらに朝食を取らない人の方が「野菜摂取量が少ない傾向にある」ことも判明。厚労省は「野菜は、がんなどの生活習慣病予防に効果的。そのため、朝食をきちんと取ることが望ましい」と語っています。

科挙とクルミ
 その昔、中国には"科挙"という官吏登用の難しい国家試験がありました。その受験生たちが「頭を良くする食べ物」として珍重したのがクルミです。クルミの栄養価の中で注目すべきなのはレシチンで、レシチンは神経伝達物質の一つであるアセチルコリンの材料となる成分でもあります。アセチルコリンは、特に脳の海馬に多く含まれていますが、老化に従い合成力が低下して記憶力の低下を招きます。脳内のアセチルコリンの量が減少する代表的な病気がアルツハイマーであるとも言われています。
 漢方の世界では、「似たような形のものは五臓をよくする」という考えがあり、クルミの形は脳みそに似ているので、「クルミは脳によい」という話につながった経緯もあります。長野県では、古くから「赤ちゃんが生まれると庭にクルミの木を植える習慣」がありました。頭のよい子に育って欲しいという親心ですが、長野県が教育県とも言われる所以は、このあたりにあるのかもしれません。

旬の食材を知ろう
 今日では、スーパーに行けば1年中様々な食材が豊富に売られていますが、ビニールハウスや品種改良もなかった昔では、その季節にしか取れない食材に舌鼓を打ったものです。今一度「旬の食材」を見直してみませんか。
<春が旬の食材>
菜の花、竹の子、春キャベツ、ソラマメ、タラの芽、ニラ、セロリ、カリフラワー、ハッサク、イチゴ、マダイ、サワラ、アサリなど
<夏が旬の食材>
キュウリ、トウモロコシ、えんどう豆、オクラ、トマト、ニガウリ、スイカ、ビワ、メロン、桃、カツオ、アジ、アユ、スルメイカなど
<秋が旬の食材>
玉ねぎ、ナス、人参、ほうれん草、キャベツ、レンコン、サツマイモ、ジャガイモ、里芋、ユズ、ブドウ、梨、柿、サンマ、サケ、サバなど
<冬が旬の食材>
白菜、コマツナ、ブロッコリー、カブ、ダイコン、ネギ、リンゴ、みかん、レモン、ユズ、ブリ、フグ、アンコウ、カニ、牡蠣など

幼児教育と父親
 「父親が休日に幼児期の子供と過ごす時間が長くなれば、子供が良好に育つ傾向がある」。このような研究結果が、厚生労働省「21世紀出生児縦断調査」で明らかになりました。
 調査は、子育て支援などの参考のため、平成13年生まれの子供の家庭を対象に毎年継続的に実施していますが、今回、これまでの調査で回答のあった5歳半の子供約3万5000人の結果を再分析しました。
 その結果、休日に父親が1歳半の子供と過ごす時間が「1時間未満」だった場合、「我慢」「集団行動」「約束を守る」といった子供の発育状況について、4年後の5歳半に成長した時点で「できる」と答えた割合は、それぞれ66.8%、88.4%、74.6%。
 一方、過ごす時間が「6時間以上」の場合では、それぞれ75.5%、93.0%、79.9%と割合が増加。幼児の早い時期に父親と過ごす時間が長くなるほど、子供の発育状況に関して「できる」と答える割合が、高くなる傾向が見られたそうです。

子供は親にどのくらい似るのか
 親から子へと受け継がれる遺伝は、染色体がもたらします。染色体の2本が対になっており、これが23組あるため合計46本。そのうち、2本が男女の性を決める性染色体で、残りの44本が体の特徴などを決定する常染色体といいます。
 対になっている2本の染色体は、一本は父親から、もう一本は母親から受け継いだもの。従って、子供の顔や体は父親と母親から、半々の要素を受け継ぐことになります。血友病のような病気は、1個の遺伝子で決まりますが、目や鼻、口などの造作は5〜10個の遺伝子の組み合わせで決まります。例えば、母親の目が二重まぶたで、父親が一重まぶたの場合、子供が二重まぶたになる遺伝子を母親から8個、一重まぶたになる遺伝子を父親から2個受け継いだならば、結果的には母親と同じ二重になります。
 「女の子は父親に似て、男の子は母親に似る」という説もありますが、残念ながら、これは俗説。遺伝子の配分はアトランダムなので、男女に関係なく親の特徴を受け継ぎます。また同性の兄弟であっても、兄が母親に似て色白になり、弟は父親に似て色黒になることもあり得るのです。


◆   病気一般

都道府県別年齢調整死亡率
 高齢者の割合など年齢層による影響を取り除き、地域や年ごとの死亡率の比較に利用される「年齢調整死亡率(2010年度)」が、最も高かったのは男女とも青森県。最も低かったのは男女とも長野県であることが、厚生労働省の調査で分かりました。 
 同省は、1960年から5年ごとに都道府県ごとの調査を実施。男性の年齢別調査死亡率が最も高かったのは、青森(人口10万人当たり662.4人)で、以下秋田(613.5人)、岩手(590.1人)と東北3県が上位を占めました。最も低かったのは、長野(477.3人)でした。
 一方、女性の死亡率は青森(304.3人)が最も高く、以下栃木(295.7人)、和歌山(294.5人)、大阪(289.9人)の順で、最低は長野(248.8人)でした。
 また同省は、死因を限定した死亡率も公表しました。三大死因のうち、がん(悪性新生物)による死亡率が高かった都道府県は、男性は青森(人口10万人当たり215.9人)、秋田(205.7人)、北海道(199.1人)、女性は青森(105.6人)、大阪(100.3人)、北海道(99.2人)の順でした。
 心疾患では、男性は青森(98.8人)、愛媛(92.6人)、福島(88.7人)。女性は愛媛(49.4人)、奈良(48.6人)、埼玉(47.4人)の順でした。脳血管疾患による死亡率が高かったのは、男性が岩手(70.1人)、青森(67.1人)、秋田(65.7人)、女性が岩手(37.1人)、栃木(35.5人)、青森(34.0人)などでした。

500円健診が人気
 「血糖値」「総コレステロール」「中性脂肪」「血圧・体重・身長・BMI(肥満度)・骨密度」といった検査メニューが、それぞれ500円で受けられる民間の健診ショップが話題を呼んでいます。ブームのきっかけを作ったのが、2008年11月に東京・中野にオープンした「ケアプロ中野店」。利用者は、健診を受ける機会が少ないフリーターや派遣社員、結婚前に健診を受けていた主婦、現在通院中で補足的に同店を利用する高齢者などが多いとのことです。
 代表の川添氏は、元看護師。「病院の健康診断は、自分で行こうと思うと費用が高かったり、また時間もかかったりとなかなか行けない人が多い。その結果、気づいた時には病気が進行していたというケースをたびたび見てきました。もっと利用者に適したサービスにすれば、健診を受ける人も増えるのではないかと思ったのがきっかけ」と語っています。また「検査機器は、医療機関でも使用されている信頼性の高いものを使っています。針や試薬はディスポーザブル(使い捨て)を使っており、検査ごとに交換しています。低価格が実現できたのは、糖尿病の患者さんが使うような簡易検査機器を使ってご自分で検査していただくからです」(同氏)。

病気と時間帯

 1日のうちでも病気が起こりやすい時間帯というものがあり、これを医療に応用できないか、といった研究(時間医学)が始まっています。
 ぐっすりと眠っている午前2時頃は「血中の成長ホルモンが最大」になる時間帯、子供の成長にとって大切な時間です。夜中の2〜3時にかけては「胃・十二指腸潰瘍の痛みが多発する」時間帯、午前3〜4時頃は「喘息発作が多発する」時間帯です。朝の7時頃は「アレルギー性鼻炎の症状が悪化」しやすい時間。午前8時頃は「関節リウマチが悪化」、7〜8時は「脳梗塞が起こりやすい」、8〜12時にかけての午前中は「狭心症、心筋梗塞が起こりやすい」時間帯です。午前11時には「血中の尿酸値が最高」になりやすく、痛風発作が起こる危険があります。午後15時〜16時にかけては「血中のアドレナリン値が最高」になる時間帯で、その結果、血圧や心拍が上がりやすい特徴があります。夜間の21時は、「脳出血のリスクが最大」となる時間帯、23時頃は「血中の好酸球やリンパ球数が最大」になる時間です。
時間医学は、薬をいつ飲めば副作用が少なく、効果的かといった研究にまで及ぼうとしています。例えば、抗がん剤をいつ飲むかによって、副作用が異なってきます。
 「卵巣がん治療のためにアドリアシンを午前6時と午後6時に患者さんに投与したところ、午後6時投与の方が骨髄毒性が強く表れました。副作用を避けるには、朝投与の方が望ましい。しかし、シスプラチンの腎毒性の副作用は、逆に朝投与する方が高くなること」が知られているそうです。

18の倍数
 「赤ちゃんは満ち潮の時に生まれる」という話があります。その理由は、お母さんの子宮は満ち潮時に開かれやすいということだそうです。海の生物であるサンゴは、満月の時に産卵します。「人が息を引き取るのは、干潮時に多い」という話もあり、人の生死は地球と月との引力に支配されているのかもしれません。
 人が1分間に呼吸する回数は、平均18回。これは、1分間に波が寄せては返す回数でもあります。さらに18の2倍は、36。36は、人の体温。その2倍の72は、心臓の脈拍数。その2倍の144は、正常な血圧の範囲。さらに2倍の288は、人が誕生するまでの日数。偶然の一致かもしれませんが、人の生命は神秘に包まれています。これからも一人ひとりの命を大切に考えて生きたいと思います。

天気と体の痛み
 関節リウマチの方が嫌うのは、雨の降る前、雨が降っている時、いつもより寒い時。こういう天気の日は「痛みが出やすい」からです。「古傷が痛むと雨」ということわざもありますが、偏頭痛や膝の痛みなども低気圧の通過時に痛みが激しくなる傾向があります。
 天候や時間、気温や気圧・湿度などの変化が、発症の引き金になる疾患を「気象病」と呼ばれ、研究が進められています。
 ラットを使った実験により、「気圧が低いこと」「温度が下がること」「湿度が高いこと」、このような条件下では「自律神経がアンバランス」となり痛みを感じやすくなることが証明されました。
 一般に「気温が下がると交感神経が優勢になること」は知られています。また気温が下がると「ヒスタミンという物質が増えること」もわかってきました。ヒスタミンは外部からの刺激に反応して増え、アトピーや喘息などアレルギーや炎症を引き起こしますが、他に血管を拡張させる作用や血管から水分などが周囲の組織にしみ出させる作用により、血圧を急低下させたりします。その一方で、交感神経を刺激します。気圧の低下に合わせてバランスが取れるまでは、身体の各部が大気を押し返す圧力の方が気圧より優勢になるため、血中に物質が溶け込みにくくなり、また細胞内が膨張ぎみになります。このとき血中の肥満細胞からヒスタミンが放出されやすくなります。
 交感神経の作用で痛みが増すのは、筋肉や関節周辺では血管が収縮して血行が悪くなるため、疲労物質が溜まりやすくなるのが主因です。一方で脳の血流は逆に増えるため、血管の拍動が主因の偏頭痛が起きやすくなります。また気圧の低下では「副交感神経が優勢」になるところに、ヒスタミンの作用で交感神経への指令も来るため、自律神経がアンバランス状態に陥ります。また気圧が下がると組織の膨張で、神経と周囲の器官とが触れやすくなって、痛みが増すという説もあります。

病気と体臭
 病気を患っている患者が特有の臭いを発している、そんな話を聞いたことがありませんか。その理由は、病気が進行するとともに体内に特有の代謝産物が発生して、汗と一緒に排泄されるために臭いが出てくるせいです。
 例えば、リウマチを患っている人は「すっぱい臭い」がしますし、結核患者は「油が腐ったような臭い」がします。腸の病気を患うと「腐敗臭のような臭い」がしますし、ジフテリアにかかった子供は口からは「甘いような臭い」を発します。
 また腎臓病の患者は「尿やアンモニア臭のような臭い」がしますし、糖尿病の人は「腐った果物やアセトンの臭い」がします。肝硬変にかかると「かび臭」が発生したりしますので、体臭が"健康のバロメーターの一つ"であることは否めません。

尿の色と健康
 白濁した尿は、塩類尿が多い証拠。尿酸塩、硝酸塩、リン酸塩などが溶け込んでいるため、尿路結石の疑いがあります。また膿尿ということも考えられます。あまりにも透明な尿も要注意。水分の取り過ぎならば問題ありませんが、腎機能が低下している可能性もあります。やはり気になるのは、血尿。痛みがある血尿は尿路結石の可能性がありますが、自覚症状がない場合だとガンのことも……。
 目で見て赤っぽくなくても、血尿が出ていることもありますので、検査は定期的に行った方がよさそうです。

動物園のゾウは短命
 イギリスやケニアなどの研究チームは、「動物園のゾウは野生に比べて短命」との分析をまとめ、米科学誌「サイエンス」に発表しました。
 調査対象は、アフリカゾウとアジアゾウの計約4500頭。欧州の動物園のゾウと、ケニアの国立公園やミャンマーで放し飼いされている野生に近いゾウとの寿命を比較調査しました。
 まず繁殖にかかわるメスを分析したところ、動物園生まれのアフリカゾウの寿命が16.9年だったのに対し、野生は56.0年。アジアゾウは動物園生まれが18.9年、放し飼いは41.7年でした。またアフリカゾウの大人のメスの死亡率は動物園の方が野生より2.8倍高く、アジアゾウの妊娠率は動物園生まれの方が放し飼いのほぼ半分でした。
 野生ゾウの行動範囲は、数百キロに及ぶと言われており、研究チームは「閉鎖空間がストレスとなって、母性の喪失や短命につながりかねない肥満を招く。動物園への新たな搬入をやめ、動物園のゾウが抱える問題を把握すべきだ」と訴えました。

乳幼児突然死に遺伝子関与
 出生1000人当たり約2人の割合で発生し、1歳未満の乳児の死亡原因の第3位でありながら、これまで原因が謎とされてきた「乳幼児突然死症候群(SIDS)」について、ヒト21番染色体上で神経接着因子をコードするDSCAM遺伝子の異常が関与している可能性があることが、理化学研究所と米国ユタ大学の共同研究で明らかになりました。 
 研究グループは、まずDSCAM遺伝子を人工的に欠如させたヘテロ接合体マウスを作製。これらを掛け合わせたところ、野生型、ヘテロ接合体、ホモ接合体が1対2対1の割合で生まれました。
 このうち、ホモ接合体マウスは出生後、ほぼすべてが24時間以内に急死。呼吸を測定したところ、野生型に比べてヘテロ接合体は「呼吸のリズムや深さに乱れ」が見られ、ホモ接合体では「その乱れがさらに激しくなり、無呼吸」も見られたとのことです。
 同グループは、「DSCAM遺伝子の欠損が、呼吸中枢の1つである呼息先行型ニューロンネットワークをかく乱し、そのネットワーク同調の異常をもたらすことで、呼吸リズムに異常をきたし、出生後間もなく急死を引き起こす」のではないかと分析しています。

健康を害するリスク要因
 世界保健機関(WHO)の報告によると、2004年時点の分析で「死に至るリスク」が最も高かったのは高血圧で死者全体の12.8%、次いで喫煙(8.7%)、高血糖値(5.8%)となりました。また先進国では喫煙がトップで、高血圧、肥満など心臓疾患やがんにつながる要因が上位を占めました。
 高血圧の状態が続くと、心臓は過重労働に対応しようと心筋を増やし、大きくなります(心肥大)。また血管(主に動脈)は、高い圧に負けまいとして壁を厚くします。これにコレステロールが加わるなどして動脈硬化が起こってくるわけです。心臓の冠動脈(冠状動脈)が硬くなると血流が滞り、そこに血栓が出来やすくなります。こうして血管が詰まり心筋が血液不足になるのが、虚血性心臓病(狭心症や心筋梗塞)。また脳の動脈が硬くなると、心筋梗塞と同様のプロセスで脳梗塞が起こってきます。
 高血圧は、腎臓にも影響を与えます。腎臓の本質部分が毛細血管のかたまりのようになっているため、動脈硬化が起こって血液の流れが悪くなると、腎臓の働きが低下。これが腎不全です。現在、人工透析を受けている人の原因の第3位が高血圧などによる腎硬化症で、1993年から10年間に2.5倍増加しています。

ロコモティブシンドローム
 近年、「ロコモ」という言葉が注目を集めています。ロコモティブシンドロームの略語で、日本整形外科学会が提唱したもの。骨や関節などの運動器障害のため、要介護状態になる危険性が高いことを示す概念です。
 平成19年の国民生活基礎調査によると、介護が必要になった主要因として、脳卒中(23・3%)、認知症(14%)が上位を占めています。その一方で、関節疾患(12・2%)4位、骨折・転倒(9・3%)5位と5人に1人は運動器障害で要介護状態になっており、要介護を防ぐためには運動器の健康維持が大切だということです。
 ロコモの要因となる主な病気は、3種類。骨の強度が低下する骨粗鬆症、関節の軟骨がすり減る変形性関節症、そして脊柱管が狭くなり痛みを生じる脊柱管狭窄症です。点検項目としては、「片脚立ちで靴下がはけない」「家の中でつまずいたり、滑ったりする」「階段を上るのに手すりが必要」「横断歩道を青信号の間に渡りきれない」「15分くらい続けて歩けない」の5つ。うち、1項目でも当てはまればロコモの可能性があるそうです。
 そこで、ロコモにならないための運動「ロコトレ」も提唱されています。「開眼片脚立ち」と「スクワット」の2種。日本整形外科学会や日本ロコモティブシンドローム研究会のホームページに詳しく紹介されているので、参考にされるとよいでしょう。

血液検査でCFSを診断
 大阪市立大・木山博資教授らは、原因不明の激しい疲労が半年以上も続く「慢性疲労症候群(CFS)」を診断できる血液中のたんぱく質を発見しました。CFSには「自覚症状を中心に判定する診断基準」はありますが、血液の検査値など客観的な指標(マーカー)はなく、今回の発見は健康診断などに活用出来そうです。
 木山教授らは、5日連続の運動で極度に疲労させたラットの脳下垂体の中葉と呼ばれる部分を分析。「α-MSH」というたんぱく質が異常に分泌され、血液中のα-MSH量も上昇していくことを突き止めました。α-MSHの分泌は神経伝達物質ドーパミンが抑制していますが、ラットでは疲労が溜まるに従いドーパミン産生能力が低下していました。
 一方、CFSと診断された患者57人と健康な30人の血液を使い、α-MSHの量を測定したところ、発症後5年未満の37人の平均値は健康な人に比べ約50%も高いことが分かりました。また一晩徹夜した人の血液を調べても「α-MSHの量に変化がない」ことなどから、短期間の疲労とは関係がないことも分かりました。CFS患者は潜在する人も含め、国内に200万人以上いるとされています。

B型の人は貧血リスク低い
 理研ゲノム医科学センターと東大医科学研究所の研究チームは、医科研に登録されている患者1万4700人分の遺伝情報と臨床検査の情報を解析。1人当たり計50万カ所の遺伝子の個人差(一塩基多型=SNP)と血液検査結果との関連を統計的に調べました。その結果、ガンマGTPやコレステロール値など20の検査項目について46個の遺伝子に新たな関連性が見つかったそうです。
 中でも血液型の違いをもたらす遺伝子がヘモグロビンの濃度と関連を示すこと、細胞の老化に関連する遺伝子が赤血球の数と関連することなどが判明。特にB型の女性は、貧血のリスクが全体の平均より約21%低いことも分かりました。

長寿遺伝子
 米国ボストン大の研究チームは、100歳以上の人に共通する遺伝子の特徴を発見したことを発表しました。
 研究チームは、米国東海岸に住む95〜119歳の白人801人の遺伝子を解析し、データベースにあった一般の926人と比較。その結果、両者の遺伝子の塩基配列に多くの違いがあることを発見しました。このうち、150カ所を目印に100歳以上まで長生きするかどうかを別の集団のデータベースで検証すると、77%の精度で見分けることが出来たそうです。
 その一方で、認知症や心疾患などになりやすいとされる遺伝子の特徴では、100歳以上とそれ以下の人で目立った差はありませんでした。研究チームは、「長寿遺伝子には、寿命を縮める要因を抑える働きがあるのかもしれない」と語っています。

▲up

◆  水と健康

水素に注目
 2007年11月20日、マイナスイオン応用学会第7回フォーラムが行われ、日本医科大学太田成男教授が水素水に関する研究発表を行いました。
 まず培養細胞を用いた実験では、培養液に水素と酸素を溶かし込んで活性酸素を発生させる方法で実施。その結果、水素はヒドロキシラジカルを消去することが分かりました。また水素が生体膜を透過して細胞質やミトコンドリアまで入り込んでDNAを守ることも分かりました。
 動物実験では、脳に酸化ストレスを与えたラットに水素ガスを120分吸引させたところ、梗塞体積が水素濃度に依存的に減少することが確認。水素による脳梗塞治療法の有効性が示唆されました。
 その他、SOD遺伝子欠損マウスの出産は、母親マウスが水素水を飲用することで改善されること。水素水により、マウスの動脈硬化が抑制されること。抗がん剤シスプラチンの副作用による腎障害を低減することなどが確認されたということです。
 水素は身近にあるものであり、また潜水病の予防と治療に使われ安全性が確認されています。濃度4.7%以下であれば燃える心配もなく、今後、医療への応用が期待されます。

水素水の効果
 最近、水素を多く含んだ水が体内の活性酸素を取り除いてくれる、という触れ込みで浄水器などが販売されています。果たして効果は、あるのか。日本医大の太田成男教授らは、「水素水を飲むことで、記憶力(認知機能)の低下を抑えられる」ことを動物実験で確認し、科学誌「ニューロサイコファーマコロジー」電子版に発表しました。
 一般に「ストレスによっても記憶力が低下すること」は、よく知られています。そこで太田教授らは、マウスを狭い空間に閉じ込めて餌を与えないストレスを加えた上で、マウスの記憶力が「水素を大量に溶け込んだ水と通常の水を飲ませた場合でどのくらい違うのか」、このことを10匹ずつ、3つの方法で6週間かけて比較しました。
 その結果、いずれの場合も水素水を飲ませた方が記憶力が顕著に高く、ストレスのないマウスとほぼ同等でした。また記憶をつかさどる脳の領域(海馬)における神経幹細胞の増殖能力も同様の傾向だったということです。
 太田教授らの研究チームは2007年、水素が活性酸素を取り除き、脳梗塞による脳障害を半減させることを実験で確認。認知症の原因として「活性酸素などによって神経細胞が変性すること」が一因とされますが、太田教授は「水素水が活性酸素によって低下した神経細胞の増殖能力を回復させ、記憶力低下も抑制したと考えられる」と語っています。

トリハロメタンの問題
 水道水に行う塩素処理の問題として、発がん性物質であるトリハロメタンを生成させてしまう危険性が指摘されています。トリハロメタンとは、塩素と原水中の有機物フミンとが反応して出来る有機塩素化合物のことで、クロロホルム、ブロモジクロロメタン、ジブロモクロロメタンなどの総称です。
 トリハロメタンは、濾過しても取り除くことが出来ないので、微量ではありますが水道水中に含まれています。また水道水の中には、微量の農薬が混じっている危険性もあります。これらを防ぐには、まず浄水器を使うこと。トリハロメタンは分子が小さいので、普通の浄水器では完全に取り除くことは難しいですが、それでも水道水をそのまま飲むよりは安全といえます。またビルやマンションでは、浄水場から送られてきた水をポンプで屋上の給水塔まで汲み上げてから各室へ配水するシステムなので、朝一番の水ほど「鉄、鉛、カドミウムなどが多く溶け出している」とのデータもありますので、注意が必要です。

養老の滝
 鎌倉時代に書かれた『十訓抄』第六、十八頁に「養老の孝子」の話があります。
 昔、元正天皇の頃、美濃の国(今の岐阜県)に貧しい男が住んでいた。家には老父がおり、父親は酒好きなために男はひょうたんをぶら下げて町に酒を買いに行っていた。ある時、山に入って薪木を取ろうとした際に転落したが、気がついてみると酒の香りがし、よく見ると岩の間から酒が流れている。男はそれをひょうたんに汲み入れて、毎日家に持って帰り父親に飲ませた。
 この孝行息子の話を聞いた帝は、霊亀3年(717年)9月にそこへ行幸になり、「神が孝行息子を哀れんで、水を酒に変えたのだろう」と話され、その年の11月に年号を養老と変えられた。
 このエピソードは『続日本記』にも記されていますが、一般には「養老の滝」伝説として知れ渡っているものです。一説には、良い酒を造るには"水が命"なので、その湧き水が酒作りの水になったのでは、との説もあります。昔から「水は命」と申しまして、朝早く汲んだ水は「井華水(いばなみず)」ともいい、一日で最も清らかな水であり、邪気を払い、腹の中を整え、熱気を下す効果が高いと言われてきました。特に元日の朝一番に水を汲むことを「若水汲み」ともいって、正月行事のスタートとしました。

水の性質と酒造り
 古来より「酒造りは水が命」といわれてきました。当時、酒造りの技術が未熟であった時代は、ミネラル分が豊富な水の方が発酵が進みやすいので「硬水の方が酒造りしやすい」と言われてきました。
 日本酒の生産量では全国一を誇る灘地方は、「宮水」という非常によい硬水に恵まれた地域で、江戸時代中期から銘醸地として知られてきました。これは、硬水で仕込んだ酒はアルコールも高めでキレ味がよく、長期保存に適していた為、船積みして江戸に運んだ際に風味が変わらずに販売出来た、というのが一因のようです。
 最近は、醸造学の研究が進み、軟水には軟水に適した酒造りがあるということがわかってきました。実は「軟水は発酵速度が遅く、じっくりと発酵していくためにキメ細かい綺麗な酒が出来る」という一面を持っています。硬水で仕込んだ酒の方は、がっちりとしていて厚みのある力強い酒、軟水の酒はさらりとして、柔らかい口当たりよい酒。そこで硬水の酒を「男酒」、軟水の酒を「女酒」と呼ぶこともあるようです。

種田山頭火と水
 広島国際学院大学・佐々木健教授は、全国約200箇所で水質調査を行いました。すると名水の里と呼ばれる土地で、「種田山頭火の句碑に出会うこと」に気づいたそうです。
 山頭火は、水に関する句を多く残しています。「ここまでを来し水飲んで去る(岩手県平泉)」「ひとり歩けば山の水音よろし(広島県山陽道)」「ふるさとの水をのみのみ水をあび(山口県防府)」「落葉するこれから水がうまくなる(愛媛県松山)」などが代表作です。調査の結果、山頭火が好んだ水は「ミネラル分の少ない超軟水」だったそうです。

◆  介護の問題

要介護の原因
 東京都老人総合研究所によれば、75歳以上で"要介護"となる原因のワースト5は、脳血管障害21.1%、高齢による衰弱20.5%、転倒・骨折13.6%、認知症12.9%、関節疾患10.6%だそうです(因みに65〜74歳では、脳血管障害48.1%、関節障害10.6%、パーキンソン病9.9%、転倒・骨折7.0%、認知症3.9%)。
 また同研究所が行った平均年齢81歳の高齢者データでは、約51%の人がガンを持っていましたが、直接命に影響するようなことはなく、それよりも「寝たきりにならず、自活できること」の方が重要であるようです。
 順天堂大学・白澤卓二教授によれば、「老化のスピードに遺伝が関係するのは25%ほどで、残りの75%は食生活や運動などによって自己コントロール可能」だそうです。白澤氏は、遺伝子構造がヒトと75%まで共通した線虫の寿命をコントロールしている遺伝子の研究から、「寿命をコントロールしているのは、糖代謝に関与するインスリン受容体の遺伝子や酸素の代謝に関与するミトコンドリアの遺伝子などで、これは食事や運動で代謝を変化させることが可能」、つまり寿命を延ばすには「適切な食事と運動が不可欠」であると結論付けています。例えば、インスリンは運動することで働きがよくなりますし、アディポネクチンは脂肪細胞を減らすことで分泌が増加するわけです。また「カロリー制限は、寿命を延ばすか」といった研究では、今のところ動物実験では「その可能性あり」ということです(ミジンコの場合、通常食での寿命は30日であったのに対し、カロリー制限食では51日。グッピーでは、33日対46日。ラットでは、23日対33日)。

高齢者への虐待
 家族や親族による65歳以上の高齢者への虐待が、全国で2006年度1万2575件に上ることが厚生労働省の調査で分かりました。家族・親族による虐待では、8割以上は同居の家族からで、被害者の約6割は介護が必要な認知症の高齢者。在宅介護の難しさが家族を精神的・肉体的に追いつめ、虐待に発展していく実態が明らかになりました。
 虐待を受けた高齢者は、女性が77%と多く、80歳以上が約5割。全体の67%が要介護認定を受けており、認知症の判定では62%が介護が必要な「要介護度2」以上でした。
 虐待をしていたのは、半数が息子(37%)と娘(14%)で、配偶者は19%。形態は身体的虐待が64%と最も多く、排せつの失敗を責めるなどの心理的虐待が36%、お金を渡さないといった経済的虐待や介護放棄も2割以上。虐待に気付いて市町村の窓口に通報したのは、ヘルパーなどの介護支援関係者が4割以上を占め、本人からの相談は12%にとどまっています。
 発覚後の市町村の対応では、介護施設や病院への入所・入院、自治体の緊急一時保護など「家族と分離」したケースが36%。家族の負担を減らすために「新たな介護サービス利用」で対応したケースが約3割。しかし、4割近くは「助言・指導」「見守り」でしかありませんでした。
 月の美しい夜、一度山に捨てた母親を泣きながら連れ戻す……という今昔物語「姥捨て山」の話は美談ですが、現実は介護者、被介護者ともに精神的・肉体的に疲れ果て、進むべき道を見失っているという事実が浮かび上がってきました。

介護うつの問題
 親や配偶者など高齢の家族を介護するストレスから、うつ状態になる人が少なくありません。「介護うつ」と呼ばれ、一人で介護を抱え込んで疲れ、精神的に孤立した時に陥りやすい傾向が見られます。
 ある80代認知症の母を介護する50代女性の場合は、「亡くなった父の時は、十分な介護が出来ずに悔いが残った。母は何としても自分が介護する」と、覚悟を決めて仕事を辞めたという。ところが思うように介護がいかず、「毎日眠れず、やる気も起きない。うつ気味で精神科に通院している」とのことです。大事なことは、一人で抱え込まず、デイサービスなど介護サービスを活用し、息抜きの時間を作ることが必要です。
 「介護者の4人に1人」がうつ状態になる、との厚生労働省研究班の調査報告があります。うつには、兆候があります。「毎日喜びの感情がわかない」「ただむなしく悲しい」「何事にもやる気が起きない」「口数が減って、涙ぐむ」。こうした状態が1週間以上続いたら、メンタルクリニックなどへの早めの受診を考えてほしいと思います。


◆  肝臓病

A型肝炎に注意
 A型肝炎は、2-7週間の潜伏期間の後に発熱、全身倦怠感、嘔吐、黄疸などを発症します。多くは1-2か月で回復しますが、まれに劇症化して死亡することがあります。症状は年齢が上がるほど重くなり、小児では感染しても8割以上症状は出ませんが、成人では75-90%が発症。致死率も、全体で0.1%以下なのに対し、50歳以上では2.7%と高い傾向が見られます。
 A型肝炎ウイルスは、糞便中に排泄され、糞口感染によって伝播します。発生状況は衛生環境に左右され、日本では糞便で汚染された水や食べ物による大規模な集団発生はまれで、魚介類の生食による経口感染が主です。特に生カキの摂取は、注意が必要です。予防としては、汚染された水や食べ物を口にしないこと、患者と接する際の適切な糞便処理や手洗いを心掛けることが大切です。


C型肝炎にグレープフルーツ

 米国ハーバード大学医学部の研究によれば、グレープフルーツに含まれるフラボノイドであるナリンゲニン(naringenin)に「C型肝炎ウイルス(HCV)の感染細胞内での分泌を抑制する働き」があることがわかり、医学誌「Hepatology」2008年5月号に論文が掲載されました。
 世界人口の約3%がHCVに感染しているとされますが、今のところ標準的な治療薬であるインターフェロンとリバビリンが効果を示すケースは約50%で、重大な副作用の可能性もあります。最近の研究からは、HCVがリポ蛋白(たんぱく)のライフサイクルに関連しており、リポ蛋白の代謝に影響を及ぼす化合物やサプリメントがHCVにも作用する可能性が示唆されています。
 今回の研究では、感染細胞が超低比重リポ蛋白(VLDL)に結合しながらHCVを活発に分泌することがわかりました。研究発表によると、感染細胞のアポリポ蛋白B(アポB)のmRNAをサイレンシング(過剰な遺伝子の発現をゲノムが自ら抑制する機能)すると、アポB-100およびHCVの分泌がともに70%減少するというものです。
 研究グループはさらに、グレープフルーツに含まれるナリンゲニンについて試験したところ、ナリンゲニンが感染細胞のHCV分泌を80%減少させることを解明。しかし、腸壁でのナリンゲニンの吸収率は低いため、治療量の投与には注射を用いるか、腸の吸収率を高める物質と併用する必要があるということです。
 今後の研究では、動物モデルおよびヒト肝細胞の長期培養株を用いて、ナリンゲニンや他の柑橘類に含まれるフラボノイドがウイルス量を減らす長期的な効果について検討する予定だそうです。

C型肝炎の新薬
 C型肝炎は、ウイルス感染によって発症し、国内に約200万人の感染者がいるとみられます。治療は、ウイルスの増殖を抑える働きのある「インターフェロン」「ペグインターフェロン」の注射や、抗ウイルスの飲み薬「リバビリン」を用いますが、ウイルスの型(1型、2型)と量によって使う薬の組み合わせや治療期間は異なります。
 日本人の場合、治療の難しい「1型」が70%で、うち80%がウイルス量の多いタイプ。「1型・高ウイルス量」は最も治療が難しく、ペグインターフェロン(週1回注射)とリバビリン(毎日服用)を併用する治療を48週続け、ウイルスを完全に排除できるのは49%ぐらいです。
 今回新たに「テラプレビル(商品名テラビック)」という飲み薬が登場しました。ウイルスの複製に関わるプロテアーゼというたんぱくに働きかけ、増殖を抑えるものです。臨床試験では、初めて治療を受ける「1型・高ウイルス量」患者に対し、ペグインターフェロン(商品名ペグイントロン)とリバビリンを24週併用し、テラプレビルを前半の12週間上乗せしたところ、73%でウイルスが排除されました。また従来の治療でウイルスが一度消えた後、再びウイルスが増えた患者では88%に効果がありました。
 従来の治療指針では、ペグインターフェロンとリバビリンの併用は48週から72週間ですが、新たな3剤併用治療は薬の効き目が強いことから治療期間も24週と短くなりました。

酒かすに肝機能改善効果
酒かすに含まれる成分が「肝臓を保護する効果がある」という研究結果を、月桂冠総合研究所がマウスを使った実験で明らかにしました。強い酸化力を持つ「活性酸素」が体内で増えると、臓器が傷つくなどして様々な病気を引き起こします。特に肝臓は、血液に乗って活性酸素や過酸化脂質が集まりやすく、酸化を防ぐことが重要だと考えられています。
同研究所は、日本酒を製造する過程で副産物として出来る酒かすの約6割を占めているたんぱく質に注目。これを酵素で分解してペプチドと呼ばれる断片にし、その働きを調べたところ、肝臓内で活性酸素を防御するグルタチオンと同様の酸化抑制作用があることを確認しました。さらに、マウスの腹部に肝障害を引き起こす薬剤を一定期間注射し続けたところ、肝障害の指標となるGOTとGPTの数値について、普通の餌を食べさせた場合を100とすると、酒かす抽出物の入った餌をやったグループではそれぞれ39と26。一方、酒かすをそのまま食べさせた場合は、普通の餌よりは数値が低かったが、酒かす抽出物ほどには効果が出なかったそうです。

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◆  アレルギー

金属アレルギー
 一般に人間の皮膚は、金属に触れてもアレルギー反応を起こしません。しかし、汗や唾液などで金属が溶け出した"金属イオン"が体に入り「皮膚のたんぱく質と結合する」と、それを体が"異物"とみなしてアレルギー反応を起こすことがあります。特に多いのは、ピアスの穴を開けた時。歯の治療で、今まで使っていなかった金属が口の中に入った時……など。
 どの金属にアレルギー反応を起こすかは、背中に20種くらいの金属を張って反応を観察するパッチテストで調べます。一番多いのは、身の回りで接触する機会が多いニッケル。またニッケルに反応する人は、コバルトや水銀にも反応する傾向があります。パッチテストで最初は反応が出なくても、遅れて反応が出る場合もあるため、6〜7日目の反応も重要。一度発症すると、金属アレルギーは一生続きますので注意が必要です。
 アレルギー症状が激しいときは、内服薬や軟膏などが処方されますが、治療の基本は原因金属の除去。歯科治療で使う金属は「すべてアレルゲンとなる可能性がある」ため、原因金属を取り除いた後は「非金属素材に取り替える」のがベスト。あらたに治療を受けるときの素材は、セラミックやジルコニアなどの非金属にすると安全です。またアクセサリーは、チタンなどアレルギーが出にくい金属を選ぶことが大切です。

コチニール色素でアレルギー
 食品や化粧品などに使われる赤色の着色料「コチニール色素」の摂取で、急性アレルギー症状(アナフィラキシー)が出る恐れが指摘されています。
 コチニール色素とは、中南米原産のヒラウチワサボテンに寄生するエンジムシの雌を乾燥したものから抽出される赤色色素で、カルミン酸が主成分。化学合成でない天然素材から作る色素として、ハム、かまぼこ、イチゴ牛乳などの食品に使われています。
 現在、国内の添加物メーカーでは、アレルギーの原因となるタンパク質を減らした(低アレルゲン化された)色素を開発・販売していますが、海外から輸入した色素を国内の食品メーカーが使っていることもあり、また輸入品の飲食物には内容物が明らかにされていないまま含まれていることがあるので、注意が必要です。

アレルギー対策サプリ
 日本人の3人に1人は、何らかのアレルギー疾患を抱えていると言われています。東京都が都民を対象に実施している花粉症患者の実態調査では、昭和58〜62年の第1回調査では10人に1人だった花粉症患者が、平成8年には5人に1人、平成18年には3.5人に1人がスギ花粉症であることが判明しました。
 アレルギー患者の増加と共に、年々高まりを見せているアレルギー対策サプリメント。主なものには、次のようなものがあります。
(甜茶)
中国南部地方の広西荘族自治区に自生しているバラ科植物で、甜葉懸鈎子(てんようけんこうし)と呼ばれている。甜茶は中国茶の一種で、文字通り甘いお茶のため、バラ科以外にもアカネ科の牛白藤(ぎゅうはくとう)、ユキノシタ科の臘蓮繍球(ろうれんしゅうきゅう)、ブナ科の多穂石柯葉(たすいせきかよう)の甜茶もあるが、抗炎症・抗アレルギー作用が確認されているのはバラ科の甜茶のみである。
(シソの実)
シソの実には、α-リノレン酸が多く含まれ、アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー体質を改善するということで話題を呼んでいる。α-リノレン酸には、リノール酸由来のアレルギー要因物質の働きを抑制する作用が知られている。
(花粉ポリフェノール)
ライムギ、トウモロコシ、チモシーなどの花粉を原料としたもので、イタリアやスイスで行われた花粉症患者に対する臨床試験で、有効な改善率が得られている。ヒスタミン遊離抑制や経口免疫寛容により、花粉症状を緩和させると言われている。
(乳酸菌・乳酸菌生産物質)
腸内環境を整えることで免疫機能が調整されるのではないかと言われ、抗アレルギー素材として注目されている。

アトピーのかゆみ物質
 横浜市立大の五嶋良郎教授と池沢善郎教授らの研究グループは、「アトピー性皮膚炎などのかゆみを抑制するたんぱく質の存在」をマウス実験で突き止め、その研究内容が、国際皮膚科専門誌「ジャーナル・オブ・インベスティゲーティブ・デルマトロジー」に掲載されました。
 研究グループは、神経の成長を妨げる「セマフォリン3A」というたんぱく質に着目。アトピー性皮膚炎のモデルマウスにセマフォリン3Aを皮下注射すると、投与していないマウスに比べて皮膚炎が改善し、マウスが患部をひっかく回数が減ったそうです。セマフォリン3Aは、ヒトの表皮からも分泌されており、アトピー性皮膚炎の患者は分泌量が少ないことが知られています。
 五嶋教授は「マウス実験で、皮膚にセマフォリン3Aを塗る方法も試しており、将来は、このたんぱく質を塗ることでかゆみを抑えられる可能性がある」と語っています。

抗ヒスタミン剤の副作用
 花粉症やアトピーなどによく使われるのが抗ヒスタミン剤。これは、アレルギー症状を引き起こすヒスタミンという物質の受容体をブロックして、かゆみや炎症などを抑える働きがあります。
 副作用には、口の渇き、便秘や下痢といったものもありますが、最も注意したいのが「眠気」。「抗ヒスタミン剤の1錠は、ウイスキー4杯に相当する」という話もあり、特に車の運転には注意が必要。本来、ヒスタミン神経系は、ヒスタミンH1受容体を通して大脳皮質を活性化させますが、抗ヒスタミン剤の服用でこれが阻害され、大脳皮質機能の低下、つまり眠気やだるさが襲ってくるわけです。「飲んだら乗らない」ことが原則ですが、アルコールと違い、花粉症の季節ではなかなか難しいものがあります。

花粉症による損失額
 「花粉症による仕事などの生産性の損失」を金額に換算すると、1日平均5949円。コンタック総合研究所が行った調査で、そんな数字が明らかになりました。
 花粉症の人が1日に消費するポケットティッシュの数は平均4.2個で、「春の花粉で苦しむのが平均46日間とすると、春だけで193個ものポケットティッシュが消費され、その分ごみも普段より多く出ていると考えられる」と分析。また「取引先との大事なプレゼンで、何分鼻をかんだり、目薬をさしたりせずに我慢できるか」との質問では、「10分以上30分未満」が44%と最多で、30分以上我慢できない人が半数以上だったということです。

花粉症対策
 都会では、3人に1人が花粉症だといわれています。花粉はドアや窓のちょっとした隙間から侵入し、ソファの繊維やフローリングの隙間などに入り込みます。また、外出すると髪や衣服に付いてしまいがち。洗濯物や布団を外に干すのにも、細心の注意が必要です。
 夜、布団に入ると症状が一気に悪化するという人。原因として考えられるのは、布団や枕に花粉が付いてしまうことです。最近は、花粉を通さない特殊な繊維を使った布団干し専用カバーなどがあるので便利。もう一つ見逃せないのが、給気口用のフィルター。ただ花粉を取るだけではなく、花粉を無害化してくれる素材のものがあります。
 掃除の手順といえば、掃除機→ぞうきんがけの順ですが、これではいけません。掃除機は、花粉のような細かい粒子を吸いこむのが苦手で、吸いこんでも排気と一緒に外に出してしまいます。そこで先にぞうきんがけをして、後から大きなゴミを吸い取った方が無難。また花粉を徹底的に除去するには、花粉用スプレーで花粉を取れやすくしてからぞうきんがけ、の順がよいでしょう。掃除機は、出来れば花粉やホコリを舞い上げないサイクロンタイプを使いたいものです。

子供を花粉症にしない方法
 理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターの谷口克センター長は、横浜市内で行われた講演の中で「子供を花粉症にしない方法」を紹介しました。
 まず初めに2003年度のアレルギー疫学調査について説明。同調査によると、花粉症を含むアレルギー患者は、20歳代は80%、40歳代は70%、50歳代は40%、60歳代は30%と、若い世代ほど割合が高い。きょうだいの数とアレルギー疾患発症頻度に関しては、第1子の発症頻度は6.3%だが、第2子は4.9%、第3子は3.1%と、第2子以降は発症頻度が下がる傾向が見られたそうです。
 また、生後6か月以内に麻疹、抗酸菌などの感染症にかかると、アトピーになりにくい。6歳時点でのツベルクリン反応陽性者は、喘息の発症頻度が4%、反応陰性者は16.2%。また生後3年以内に抗生物質を投与すると、花粉症や喘息の発症率が高くなるということです。
 続いて、子供を花粉症にしない方法としては、生後早期にBCGを接種させる、幼児期からヨーグルトなど乳酸菌飲食物を摂取させる、小児期にはなるべく抗生物質を使わない、猫・犬を家の中で飼育する、早期に託児所などに預け、細菌感染の機会を増やす、適度に不衛生な環境を維持する、狭い家で子沢山の状態で育てる、農家で育てる、など。
 最後に谷口センター長は、「花粉症は、ある程度不衛生でエンドトキシンの量が多い環境で育つと発症しにくくなる。逆に、下水道などインフラが完備されている所、車の交通量の多い所で育つと発症率が高くなる」と説明しました。

花粉症にじゃばらの果汁
 和歌山県北山村特産のかんきつ類「じゃばら(邪を払うことから命名)」の果汁が、花粉症を含むアレルギー性鼻炎の症状改善に効果があることが岐阜大医学部の研究で分かりました。
 岐阜大・湊口信也教授らの研究チームは、村の委託を受けて医学部付属病院に通う花粉症の男性9人、女性6人(29〜59歳)の計15人に臨床試験を実施。じゃばら果汁を朝夕2回、計1日10ミリリットルを2〜4週間継続して飲んでもらったところ、飲用前に比べて鼻づまりや目のかゆみなどが軽減。また集中力やイライラ感、作業能率の低下などの改善にも有効だったということです。なお論文は、学会誌「臨床免疫・アレルギー科(2008年9月)」で「スギ花粉症の症状とQOLに対するじゃばら果汁の効果」として発表されました。

花粉症の地域格差
 スギ花粉症に悩む人の割合は、都道府県によって「最大約20倍の開き」があることが独協医科大・馬場広太郎名誉教授らの疫学調査で分かりました。調査は、1998年と2008年の2回実施。全国約1万人の耳鼻咽喉科医とその家族にスギ花粉症かどうかを聞き取り調査し、回答者に占める患者の割合(有病率)を算出したもの。
 その結果、2008年の有病率は平均26.5%(98年16.2%)。有病率の最高は山梨県44.5%(同26.9%)、最低は北海道2.2%(同2.9%)と、両者に約20倍の開きがありました。なおこの地域差は、花粉の飛散期間と花粉量、湿度の3要素が強く影響を及ぼしているとのことです。
 気象業務支援センター・村山貢司専任主任技師は、この結果を基に地域差の原因を分析。その結果、花粉の飛散期間が長く、飛散数が多量で湿度の低い地域ほど有病率が高かいことが分かりました。中でも飛散期間の影響が、最も強い要因。大気汚染の程度と有病率との有意な関連は確認出来ませんでしたが、「症状の悪化に関しては、大気汚染が無関係とはいえない」と語っています。

花粉症の原因タンパク
 兵庫医科大学・善本知広教授らのグループは、花粉症などのアレルギー性鼻炎を引き起こすたんぱく質を動物実験で突き止めました。このたんぱく質は、インターロイキン(IL)33と呼ばれ、通常は異物が体内に侵入した際などに免疫細胞に警告を発する働きを持ち、花粉症患者の血液中に多く含まれていることが分かっています。
 研究グループは、IL33を作れないようにしたマウスに花粉症に似た症状を起こす薬品を注射。同様に花粉症を発症した通常のマウスと比較したところ、IL33を作れないマウスはくしゃみの回数が3分の1ほどで、鼻づまりの時に粘膜に集まる免疫細胞の数も半分から5分の1程度と少なかったそうです。なおこのたんぱく質が働かないようにする物質が見つかれば、治療薬の開発に結びつくと語っています。


◆  運動と健康

 運動することは、なぜ身体に良いのでしょうか。その理由は、以下のように集約されています。
1、 肥満を予防する
 一般に体重が増えると糖尿病、高血圧、心臓病などの生活習慣病が増加し、死亡率も高まります。因みに標準体重より40%以上オーバーな場合、糖尿病の発症率は5倍、高血圧が3.5倍、女性の不妊症3倍、痛風2.5倍、心臓病2倍、関節炎及び死亡率が1.5倍高まるという統計があります。
2、 筋力の低下を防ぐ
 10日間も寝たきりでいると筋力が30%低下するというデータがあります。一方、スポーツを1日当たり30〜60分やると週に3日ペースで体力維持、5日以上だと体力向上につながります。運動量としては、1日当たり300〜500kcalを消費するのが理想的。因みに「1万歩のウォーキングは300kcal消費」に相当します。
3、 運動機能、体のバランス感覚を保つ
 前述のように、運動する人、しない人の体力年齢差は15〜20歳前後。運動しない人は、歩行中に転倒しやすく、骨折で寝たきりになる人も多いといいます。
4、 体の心肺機能が高まる
 1日当たり20分以上の運動は、心肺機能を高め、呼吸器・循環器系の病気を予防します。
5、 毛細血管への血流が増える
 一般にスポーツをすると血流量が安静時の20倍も高まるといわれ、このことが高血圧、動脈硬化、脳梗塞の予防につながります。
6、 善玉コレステロール(HDL)が増加する
 運動によりリポタンパクリパーゼという酵素が活性化して、悪玉コレステロール(LDL)を分解、逆に善玉コレステロール(HDL)を増やします。
7、 細胞の新陳代謝が促進する
 血流の増加などにより、体内の新陳代謝が高まります。
8、 体内の酵素が増える
 新陳代謝が高まることにより、消化酵素や代謝酵素が増加します。
9、 栄養素の消化吸収が高まる
 胃腸の蠕動運動が高まり、栄養素の消化や吸収、また排便を促進します。
10、ストレスを解消する
 βエンドルフィンなどの分泌が高まり、運動後の快感やリラックス効果をもたらします。

スポーツ選手の遺伝子
 サッカーのように高い持久力が求められるスポーツ選手の「遺伝子の特徴」を、東京都健康長寿医療センター研究所の研究チームが発見しました。
 米国の研究では、子どもの運動能力は、遺伝的に「父親より母親の方が影響を与えている」という疫学調査が出ています。そこで研究チームは、母から子に引き継がれ、細胞内で生命活動に欠かせないエネルギーを作り出す「ミトコンドリアの遺伝子型」に注目しました。
 まずサッカーやマラソンなど「持久力が求められる元五輪選手79人」と短距離や体操など「瞬発力が必要な競技の元五輪選手60人」の遺伝子の型を分析。データベースに登録されている672人の一般人の遺伝子と比較しました。その結果、エネルギー効率を上げるのに関わる遺伝子に特徴を持っている人の割合は、持久力が必要なスポーツ選手では「一般人に比べて2.4倍高いこと」が分かりました。また筋肉の収縮を調整する遺伝子に特徴のある人の割合は、瞬発力の必要なスポーツ選手が「一般人に比べて2.5倍高いこと」も分かりました。

運動をよくする人ほど長生きする
 米国ブレア博士…8年間の追跡調査(13000人対象)で、運動をよくしている人はそのでない人に比べて男女とも死亡率が低い
 米国バージニア大学教授、ロバート・アボット…男性707人の12年間の追跡調査で、歩く距離が1日1.6km未満の人の死亡率は、3.2km以上の人の約2倍、最もよく歩く人は5年も長生きである。またハワイ住民を対象とした別の調査で、毎日2.4キロメートル歩く高齢者は、0.4キロメートル未満しか歩かない人に比べ、心臓発作の危険度が半分になる。
 文部科学省による和歌山県山村の住民423人の6年間の追跡調査…毎日30分未満しか歩かない人の死亡率は、そうでない人に比べ女性2.1倍、男性1.8倍死亡率が高い
 運動による効果として、「血圧、血糖値、中性脂肪を下げ、善玉コレステロールを増やす。女性ホルモンの分泌を促進し、更年期障害、骨粗鬆症を改善」などの働きが考えられています。

10分間の運動でも脳に効果
 「わずか10分間の運動でも、脳の認知機能を高める効果がある」ことが、筑波大学・征矢(そや)英昭教授らの研究で分かりました。実験では、成人20人を対象に軽いジョギング程度の自転車こぎを10分間続けてもらいました。運動前と運動後に色のついた文字を見せ、文字の意味に惑わされずに色を答えるテストを実施。近赤外光を使った「光トポグラフィ」という装置で、テスト中の脳の状態を調べたところ、左前頭前野の血流が増加していることが分かりました。
 軽いジョギングなどの運動を長期間続けると、「認知機能の向上が見られる」ことは以前から知られていました。しかし、短時間の運動による変化を明らかにしたのは、世界で初めてということです。

なぜ1日1万歩が健康に良いのか
 厚生労働省の発表によると「日本人が1日に摂取するカロリーは、平均2200kcal」。このうち、生命維持に必要な基礎代謝量はおよそ1300〜1500kcalです。さらに日常生活に必要な活動により600〜800kcal消費されますが、それでもおよそ100〜300kcalだぶついてしまいます。 100kcalといっても脂肪に換算するとわずか11g。しかし、これが1年積もり積もると4kg。わずか2年半で10kg太ってしまいます。
 一般に体重60kgの人の場合、1分間に100歩のペースで歩くと約3.3kcal消費します。30分歩けば3000歩で100kcalです。300kcalオーバーの人の場合は、90分9000歩歩いて300kcalをちょうど消費出来る計算になります。9000歩・90分というのも覚えにくいので、「1日1万歩・100分」という数字が生まれたようです。

ゴルフ中の突然死に注意!
 全国のゴルフ愛好家は1200万人。注意したいのは、ゴルフ中の突然死が年間200人以上とランニングや水泳を抜いてトップ。救急車で運ばれるほとんどが、プレー中に脱水、心臓病、脳卒中、日射病、熱射病で倒れています。事故は、セカンドショット、グリーン、ティーショットの順で、グリーン上のパターでは、特に2番、3番グリーン上が多い。
 突然死が多い理由は、軽い運動の割に血圧の変動が大きいこと。ショットごとに心拍数や血圧が急上昇し、打つと急降下。その繰り返しが心臓に負担をかけます。また「スコアをまとめたい」「恥をかきたくない」といった心理的なストレスが、血圧に影響し、結果が出せないことに一喜一憂することも要因となります。さらに疲れや寝不足、二日酔いなどの体調不良が重なると大変なことに。
 対策としては、十分な睡眠、準備運動、そして水分補給。水分補給の目途は、炎天下なら2ホールごとにコップ1杯は必要。とはいってもプレー中のビールはタブー。利尿作用が強く、逆に水分不足を招きかねません。

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◆  入浴・温泉/放射線

薬草風呂健康法
1、 肩こり、腰痛、冷え性など"血行促進"に良い
  ゆず湯、夏みかん湯、松葉湯、楠湯、紫蘇湯、ニンニク湯、唐辛子湯、酒湯など
2、 切り傷、擦り傷、赤切れに良い
  柿の葉湯、栗湯、裏白樫湯、忍冬湯、弟切草湯、垣通し湯、よもぎ湯など
3、 あせも、湿疹、かぶれ、虫刺されに良い
  アロエ湯、桃の葉湯、びわ葉湯、無花果湯、オオバコ湯、どくだみ湯、カジメ湯、明ばん湯など
4、 美肌に良い
  レモン湯、バラ湯、はとむぎ湯、シイタケ湯、米ぬか湯など
5、 気管支炎、咳、喉の痛みに良い
  生姜湯、ハッカ湯、ういきょう湯、タチジャコウ草湯、薄葉細辛湯、モミの木湯など
6、 不眠症、ストレス解消、リラックスに良い
  菖蒲湯、セロリ湯、クロモジ湯、ヒノキ湯、木炭湯など


大震災の後、各地の温泉地で異変
 東日本大震災の後、各地の温泉地で「異変」が起きています。例えば、急にお湯が出なくなったり、温度や色が変わったりし、中には廃業した温泉旅館もあります。一方で、住宅近くで突然、湯がわき出たケースも。地殻変動が原因とみられていますが、自噴が止まった温泉への救済措置はなく、支援を求める声が上がっています。
 新潟県・観音寺温泉にある旅館「長生館」では、3月11日の地震直後、湯があるはずの源泉の井戸が空っぽに。検査で再び湯が出る可能性は低いと分かり、3月末に廃業しました。山形県・大江町の産業振興公社が経営する温泉宿泊施設「柳川温泉」も自噴が止まったそうです。新たな源泉掘削を始めた町は、国や県の支援をと訴えています。秋田県北秋田市森吉の一軒宿「杣温泉旅館」は、自噴が止まって一時休業。江戸時代には紀行家・菅江真澄も訪れたという「秘湯」を残そうと、約100万円をかけてポンプを付けて営業再開。30度台まで下がった温度は、徐々に以前の52〜53度にまで戻ったそうです。茨城県大子町の日帰り入浴施設「袋田温泉関所の湯」は、無色透明の湯が乳白色に。これが「肌がつるつるになる」と評判を呼び、客が増えたそうです。

原発事故と放射能の心配について
 放射能の安全域ですが、放射線被害は「距離の二乗に反比例」しますので、とにかく現場から遠く離れることが鉄則です。因みに「がん発生の可能性」は、200mSv/回以上の場合です。
 放射能の中に放射性ヨウ素が含まれている場合は、ヨウ化カリウム(医薬品)の摂取で防ぐことが出来ます。放射性ヨウ素が体内に侵入すると、約1〜3割が甲状腺に集まります。そこで予めヨウ化カリウムを摂取しておくと、先にヨウ化カリウムが甲状腺に入りますので、後から放射性ヨウ素が進入するのをブロックすることが出来るためです。ネットでは「イソジン(ポピドンヨード)を飲むと防げる」といった書き込みがありますが、イソジンは殺菌剤であって、体内にいれるべきものではありません。けっして飲まないで下さい。ヨウ素は海藻に多く含まれているので、海藻の摂取は多少の効果があるかもしれません。ただし、甲状腺の悪い人は注意が必要です。
 またセシウムに関しては、ヨウ素で防ぐことは出来ません。セシウムを吸着できるミネラルはマンガンやモリブデンですが、食品での摂取は多量となりますので、やはり現実的には難しいものと思われます。また過去には、キトサンがセシウム137を吸着して排泄したという報告がありました。
 放射能が怖いのは、体内に入ると多量の活性酸素を発生させることです。従って、ぜひ積極的に取ってほしいのは、ビタミンC、E、カロテノイド、フラボノイド、ポリフェノールといった抗酸化成分です。普段よりも野菜、果物をたっぷり摂取して下さい。また飲み物では、緑茶のカテキンに抗酸化作用のほか、細胞のがん化を防ぐ働きがあります。

放射線の域値
 放射線を浴びた場合、健康に被害が出ない限界の値を「しきい値」といいます。放射線の場合は、動物実験は出来ても人に対する実験は出来ません。では、どのようにして「しきい値」を調べるのかというと、多くは原爆被爆者の調査研究が基になっています。また自然から受ける放射線量は地域によって異なり、放射線量が高い地域の人々に関する疫学調査なども参考にされます。
 例えば、大地から受ける年間放射量は、日本では約0.4ミリグレイ、世界平均は0.5ミリグレイです。しかし、イランのラムサールでは10.2グレイ、ブラジルのガラパリでは5.5ミリグレイ、インドのケララでは3.8ミリグレイなど日本の10倍以上の場所がいくつかありますので、その地域に住む人の健康調査が貴重な資料になります。
 長期に渡る被曝で最も怖いのはがんの発症ですが、がんが発生する可能性があるのは、200ミリシーベルト以上の多量の放射線を短期間に浴びた場合で、100ミリシーベルト以下なら発ガンリスクは極めて低いといわれています。
 国際放射線防護委員会 (ICRP)の勧告によれば、放射線業務従事者における許容可能な被曝線量は「5年間平均で20ミリシーベルト/年、かつどの1年間でも50ミリシーベルト/年を超えないこと」とされています。
 多量のエックス線やガンマ線を一度に浴びた場合でも250ミリシーベルト以下では、臨床的問題は確認されません。しかし、250ミリシーベルトを超えると人によっては白血球が減少するなどの症状が現れます。このように症状が現れる最小の放射線量が「しきい値」です。例えば、500ミリシーベルトではリンパ球の一時的減少、1000ミリシーベルトでは吐き気や倦怠感、2000ミリシーベルトで白血球減少、4000ミリシーベルトで骨髄障害、一時不妊、出血、脱毛が発症します。

ミリシーベルトと健康被害
 2011年3月、東北地方を襲った巨大地震により、福島第1原発から放射能が漏れ出しました。原子炉を冷却するため、自衛隊のヘリで上空から水を撒こうとしましたが、ヘリに搭乗している自衛隊員に放射線被曝の恐れがあるため、止むを得ず中止されました。
 では放射線による被曝は、どの程度から危険性が増すのでしょうか?
 これに関しては、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告があります。それによれば、放射線業務従事者における許容可能な被曝線量は「5年間平均で20mSv/年、かつどの1年間でも50mSv/年を超えないこと」とされています。つまり年間最大でも「50mSvを超えると健康被害が発生する可能性がある」ということです。
 自衛隊のヘリが向かおうとしていた上空では、放射線量が50mSvをすでに超えていました。もし実行してしまえば、搭乗員は1年間に被曝する許容量を一度に超えてしまいますので、当然中止は止む終えません。
 翌日のニュースでは、北茨城市での放射線量が15.8mcSv/時との報道がされました。これは、安全レベルの範囲なのでしょうか?
 1時間当たり15.8mcSvですので、1日では379.2mcSv被曝することになります。1年間では138408mcSv=138.408mSvの被曝。これは、許容範囲の50mSvを3倍近く超えてしまっています。では、何日間ぐらいまでならばその場所にいられるのか……というと、50÷0.3792≒132日、つまり4ヵ月半が限界で、それを過ぎてしまうと健康被害をこうむる危険性があるということです。

農産物から放射性物質
 東日本大震災による影響で、福島第一原子力発電所から放射性物質が漏れ出しました。その後、茨城県高萩市のホウレンソウから、最大で1キロ当たり1万5020Bqの放射性ヨウ素が検出されたと厚生労働省が発表しました。放射線医学総合研究所によると、このホウレンソウの数値を人体への影響を示す単位である「シーベルト(Sv)」に換算した場合、0・24mSvになるそうです。
 仮に小鉢1人前のホウレンソウを100gと仮定すると、今回のホウレンソウでは「4200人分を口にしないと人体に影響を及ぼさない」計算になります。また放射性ヨウ素に汚染された福島県産の牛乳を1リットル飲んだとしても、人体が受ける影響は約33mcSv。これは、胃のX線集団検診を1回受けた時の被爆量の20分の1程度です。放射線医学総合研究所では、「妊婦や子供など、放射性物質の影響が大きいとされる人たちについても、摂取しても問題がないレベルだ」と冷静な対応を呼び掛けています。

放射線被曝の許容量
 私たちが1年間に被曝する線量は、世界平均で約2.4ミリシーベルト/年。内訳は、宇宙から地球に降り注ぐ量が0.38ミリシーベルト、大地からは0.46ミリシーベルト、ラドンなどの吸入により1.30ミリシーベルト、食物の摂取で0.24ミリシーベルトです。なお日本の平均値は、1.48ミリシーベルト/年(科学技術庁発表)となります。
 世界には、放射線量が非常に多い地域があります。例えば、インドのケララ州。ウランやトリウムを多く含むモナザイト砂の地帯で、年間平均20ミリシーベルトを約5千人の人が、5ミリシーベルト以上を4万5千人の人が受けています。ただ平均寿命がインド全体より短いということはありません。
 かといって、必要以上に放射線を受けることは危険です。どのくらいまでが許容範囲かというと短期間被曝の場合、健康上問題がないのは100ミリシーベルト未満、また妊婦と子供は半分の50ミリシーベルト未満といわれています。一方長期間の被爆では、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告があります。これは、放射線業務従事者における許容可能な被曝量ですが、これによると「5年間平均で20ミリシーベルト/年、かつどの1年間でも50ミリシーベルト/年を超えないこと」とされています。
 以上は、外部被曝の場合です。怖いのは、食べ物・飲み水などから体内に入ってくる内部被曝です。チェルノブイリ事故では、放射性ヨウ素による子供の甲状腺がんが多発しました。それは、野菜などの暫定基準を定めていなかったために発生したものです。日本では、厳しい暫定基準を設定しておりますので、まず必要以上に放射線を浴びた野菜などは市場に出回ることはありませんのでご安心下さい。因みに内部被曝の許容線量は、10ミリシーベルト/年未満です。

放射性物質の暫定基準値とは
 厚生労働省が発表している放射性物質の「暫定基準値」は、原子力安全委員会が国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告などを基に算出・作成した原子力防災指針「飲食物の摂取制限に関する指標」を基に設定されています。実は、食品の安全基準を定めた食品衛生法の中に、「放射能の基準」がありません。そこで、これらに対処するために緊急に作られた措置ともいえるでしょう。
 指標では、摂取制限すべき放射性物質として、「放射性ヨウ素」「放射性セシウム」「ウラン」「プルトニウムなど」の4つを選定しています。その上で、食品を「飲料水」「牛乳・乳製品」「野菜類」「穀類」「肉・卵・魚・その他」の5項目に分け、それぞれの放射性物質の特性を加味して摂取制限の基準を決定しています。例えば、放射性ヨウ素の場合、「飲料水」「牛乳・乳製品」は1キロあたり300ベクレル(乳児は、100ベクレル)、「野菜類」は2000ベクレル。ただし、野菜のうち根菜や芋、また肉類や穀物はヨウ素に汚染されにくいため、除外されています。
 また一般成人の場合、1日の平均摂取量を飲料水1・65リットル、牛乳・乳製品200グラム、野菜類600グラム、穀類300グラム、肉・卵・魚・その他が500グラムと定め、放射性ヨウ素は年間約33ミリシーベルト、他の放射性物質は年間5ミリシーベルトまでなら、摂取しても安全と決めています。
 2011年3月に発生した東日本大震災では、東京・葛飾区の浄水場の水道水から乳児が飲む水の基準を2.1倍上回る「210ベクレルの放射性ヨウ素」が検出されました。これは、1リットルの水道水を約半年間ずっと毎日飲み続けた場合、基準値をオーバーしてしまう数値ですので、1〜2週間飲んだからといってすぐに害が出るものではありません。しかし、安全を考慮して「乳児」「妊娠2ヶ月以内の妊婦」は、放射能の心配がなくなるまではミネラルウォーターなどで対処した方がよいかもしれません。

放射能対策について
 放射能は、空から降ってくる、風に乗ってやってくる、雨と一緒に落ちてくる……防護の基本は、なるべく必要が無い時は「外出を控える」。外出の際には、マスク等でなるべく体を覆い、帰宅したら「衣服のチリを落とす」……ことです。
 それでも飲み水、野菜などの飲食物から、体内に入ってきてしまいます。日本では、厳しい暫定基準を設定しておりますので、まず必要以上に放射線を浴びた野菜などは市場に出回ることはありませんのでご安心下さい。また水道水の場合は、ニュースの報道をこまめに見て、「飲むのを控えるように」と報道された時はミネラルウォーターなどに切り替えましょう。
 それでもパーフェクトに防げるわけではありません。ご心配な方は、「放射性物質の吸収阻害」「体内からの早い排泄」「発ガンの予防」を心がけることがよいと思います。
1、 放射性物質の吸収阻害
放射性物質を消化管内で吸着して、体内への吸収をブロックするものには「食物繊維」があります。チェルノブイリ事故で後遺症に悩む患者に対し、動物性食物繊維のキトサンを投与したところ、セシウム137の排泄を高めたとの報告もあります。従って、食事の際には食物繊維が豊富な根菜類や海藻等の摂取を心がけて下さい。ほうれん草などの葉物野菜には放射能が付きやすいのですが、根からの吸収はそれほどでもないので、根菜類は汚染が少ないといわれています。また海中では放射能が拡散するため、海藻類が汚染される危険も少ないといわれています。ゴボウにはイヌリン、サツマイモにはセルロースとペクチン、ワカメ、コンブ、モズクなどにはアルギン酸といった食物繊維が豊富です。なおコンブにはヨウ素が多いため、放射性ヨウ素の害を防ぐ……と話題になりました。理論上多少の効果はあると思われますが、具体的な臨床データが存在しているわけではありません。特に甲状腺の悪い人は、取り過ぎに注意して下さい。
2、 体内からの早い排泄
体内に侵入した放射能は、ヨウ素の場合は尿中に、その他のものは主に肝臓で作られる胆汁に混ざり、糞中へと排泄されます。しかし、腸管循環により、再び胆汁が再吸収されるため、例えばセシウム137を摂取した場合、半減するには約100日もかかるといわれています。
そこで胆汁の再吸収を抑えるには、やはり食物繊維の豊富な食事がベストです。また胆汁の生産と排泄は肝機能に依存するので、肝臓の働きをよくするような成分、例えば牡蠣やシジミなどに多く含まれるタウリンなどを積極的に取って肝機能を高めて下さい。
3、 発ガンの予防
放射能が怖いのは、体内に入ると多量の活性酸素を発生させることです。活性酸素は正常細胞のがん化を促進しますので、広島・長崎の原爆では多く方が白血病などのがんに苦しめられました。チェルノブイリ事故では、子供の甲状腺がんが発生しました。
そこで、食事ではビタミンC・E・カロテノイド・フラボノイド・ポリフェノールといった抗酸化物の積極的な摂取を心がけて欲しいと思います。普段よりも野菜、果物をたっぷり摂取して下さい。またフルーツジュースなども、ポリフェノールなどの抗酸化成分が豊富です。中でも飲み物でお勧めなのは、緑茶です。緑茶に含まれるカテキンに抗酸化作用のほか、細胞のがん化を防ぐ働きがあります。

プルトニウムの発がん性
 福島第一原子力発電所の事故で、敷地内の土壌から毒性の強い放射性物質のプルトニウムが検出されたことが分かりました。調査は、1、2号機から500メートル〜1キロ離れた5地点で土壌を数百グラム採取し、日本原子力研究開発機構が分析。その結果、検査地点の土から原子炉内で発生するプルトニウム238、239、240が検出されました。
 過去における大気圏核実験では、主にプルトニウム239、240が大気中に放出されました。しかし、238はほとんどないことから、東京電力は今回の事故によるものとみています。プルトニウムの検出は「燃料棒に損傷」があることを示しており、地震や津波によって放射性物質が漏れたことは、今後の原子力開発に大きな課題を残すことになりました。また健康への被害も心配されます。
 セシウム137の半減期は30年で、主にγ線を放出します。放射性ヨウ素131の半減期は8日で、主にβ線を放出します。一方、プルトニウム239の半減期は24000年と長期的で、しかもα線を放出しますので内部被曝した場合は「発ガン」などの危険性が極めて高いといえます。
 例えば、プルトニウム20mgの吸入は、繊維腫を起して1ヶ月以内に死亡。10mcgの摂取では、ガンの発症リスクを20%〜30%高めるともいわれています。今回のケースはごく微量とはいえ、注意が必要です。

放射能対策のまとめ
・ 放射能に被曝すると、体内で多量の活性酸素を発生されて発ガンの原因を作る。
・ 被曝には、風や雨などによる「外部被曝」と飲食物などによる「内部被曝」がある。
・ 短期間による外部被曝では、100ミリシーベルト/回未満であれば発ガンの可能性は低い。
・ 長期間による外部被曝では、20ミリシーベルト/年未満であれば発ガンの可能性は低い。
・ 放射線量は「距離の二乗に反比例」するので、とにかく現場から遠く離れることが鉄則。
・ 外部被曝からの防護の基本は、なるべく必要が無い時は「外出を控える」。外出の際には、マスク等でなるべく体を覆い、帰宅したら「衣服のチリを落とす」こと。
・ セシウム137の半減期は30年で主にγ線を放出、放射性ヨウ素131の半減期は8日で主にβ線を放出、プルトニウム239の半減期は24000年で主にα線を放出する。
・ 放射性ヨウ素は甲状腺に集まりやすいため、子供の甲状腺がんの原因となる。またプルトニウムは呼吸の際に肺から吸い込みやすく、主に肺がんの原因となる。
・ 飲食物による内部被曝を防ぐため、「暫定基準値」が設けられている。放射性ヨウ素は、1kgあたり成人で「野菜類」2000ベクレル、「飲料水」「牛乳・乳製品」300ベクレル。セシウムは、「飲料水」「牛乳・乳製品」200ベクレル、「野菜類」「穀類」「肉・卵・魚・その他」500ベクレル。
・ 暫定基準値を超えた野菜などは、一般には市場に出回ることはない。また水道水の場合は、ニュースの報道をこまめにチェックし、「飲むのを控えるように」と報道された時はミネラルウォーターなどに切り替える。
・ 内部被曝が特に怖いのは、1歳未満の乳児と妊娠2ヶ月以内の妊婦なので、出来る限り被曝しないよう注意する。
・ 食事による対策では、「放射性物質の吸収阻害」「体内からの早い排泄」「発ガンの予防」の働きがある栄養成分の摂取を心がける。

ラジウムを万能薬として使用
 アメリカでは、1910年から1950年頃まで放射性物質を「万能薬」として使用していました。Radiation Devicesと呼ばれる放射性物質である「ラジウム」を水に含ませる機器を使い、健康飲料として飲んだり、ラジウム風呂を作ったり、あるいは性機能を増強させる薬として陰嚢に塗る行為も行われていたそうです。もちろん健康に良いわけがなく、様々な健康被害をもたらしていたようです。
 例えば、ラジウムドリンクを1400瓶飲んだと思われる男性は、激しい痛みが体全体に起き、歯は全て抜け、顎を全て取り除かなければならなくなり、最終的に死亡しました。
 ラジウムは、骨髄に残留して白血病を引き起こします。有名な科学者であるキュリー夫人も、ラジウムで命を落としています。彼女の家のドアノブでは、未だに残留放射能が測定されるとのこと。当時は、放射性物質への知識が乏しかったために起きた事故なのでしょう。

世田谷の放射能騒動
 一時は「東京の各地に高濃度汚染地(ホットスポット)があるのでは……」と騒がれる事態にまで発展した世田谷の放射能騒動。しかし、原因はこの家の床下収納に置いてあったラジウムの瓶でした。騒動の舞台となった民家は、築60年ほどの木造平屋建て。現在は空き家になっていますが、2011年2月までは92才の女性が一人で住んでいたとのことです。
 この女性が、証券会社に勤める夫とともに引っ越してきたのは昭和35年頃。瓶自体も同じくらい古いものなので、当時からあったものと見られています……ということは、ラジウムの上で50年間も生活をしていたことになるわけです。
 現在、女性は介護老人保健施設に入所しているそうですが、特に病気ということはなく、夫も10年ほど前に亡くなったそうですが、死因は白血病やがんではなかった。またこの家で育った子供たちは、3人とも50〜60代ですが、「みんな健康体」だという話です。
 計測された放射線量から推測すると、女性は1年間に約30ミリシーベルト外部被曝していた計算になります。これは震災後、国が計画的避難区域の基準とした20ミリシーベルトを上回っている数値です。この家に50年間住んでいたとすれば、これまでに浴びた総被曝量は1500ミリシーベルト。
 では、放射線はそれほど心配いらないのか?……というと、そうではありません。今回のケースは、あくまでも外部被曝のみをしていたケースと考えられます。問題なのは、鼻から吸い込んだり、飲食物から体内に入る内部被曝です。内部被曝すると、長期間に渡って細胞の遺伝子が攻撃されるので、それだけがんのリスクが高まるからです。
 学校の校庭、通学路、子供がよく遊ぶ公園……などは、乾燥した日に砂埃と一緒にセシウムなどが肺の中に入り込む危険があります。ぜひとも除染はしっかりと行ってほしいと思います。


◆  睡眠と健康

短期睡眠でも健康な人
 1日6時間の睡眠だけで健康に暮らしていける人は、通常の人とは異なった遺伝子のタイプを持っていることを米国カリフォルニア大学の研究者らが発見しました。
 研究チームは、毎日平均6時間しか眠らない69歳と44歳の母娘の遺伝子と、平均8時間眠るこの家族や親類の遺伝子とを詳細に比較したところ、この母娘にだけ生活リズムを整える体内時計遺伝子「DEC2」が変異していることがわかりました。しかし、他の250人以上の遺伝子を調べたところ、同じ突然変異は見当たらないことから非常に珍しい変異と見られています。また同じ突然変異を持つマウスやショウジョウバエを作製したところ、通常のマウスやハエより睡眠時間が短いことも確認。睡眠不足の状態からの回復時間も、通常より早かったそうです。
 今回の発見は、人の睡眠と健康との関係の解明などに役立つものと思われます。

快眠法について 
  現在、アメリカ人の3人に1人、イギリス人の4人に1人、日本人の5人に1人は、不眠症気味といわれています。心地よい睡眠を得るには、まず毎日の生活習慣や生活環境を見直すことが大切です。
1、食事
就寝の3時間前には済ませること。トリプトファンやカルシウム、マグネシウムの摂取は快眠を促しますが、カフェイン、タバコ、アルコールなどは眠りを妨げます
2、入浴
37〜38度のぬるま湯にゆっくりと浸かること。副交感神経を刺激することでリラックス効果と体温を上げる効果が期待できます
3、運動
就寝前の運動は、体操やストレッチなど軽いものがよいでしょう
4、寝室
広さは1人分4.5畳、2人6畳、3〜4人8畳がベスト。狭すぎると精神的圧迫感を感じ、広すぎると不安感を感じさせます。室温は、夏場20〜23度、冬場12〜13度ぐらいがベスト。24度以上だと目が覚めやすく、12度以下だと不快な夢を見やすい。湿度は40〜60%の間が理想。
夏場は、敷布団+ゴザ+シーツの組み合わせ。アイスノンをタオルで巻き、枕代わりにする。冬場は、電気毛布を寝る30分前に付け、寝入ってから1時間で切れるようセットする
5、寝具
マットレス…手で押して張りと弾力があるもの。お尻が沈むのは背骨が曲がり、寝返りが打ちにくい
敷布団…一晩でコップ1杯の汗をかくので、綿ものがベスト
シーツ…合繊よりも天然素材が良い。冬は綿の起毛タイプ、夏は麻、春秋は綿もの
掛け布団…最高級品は綿わた製。羽毛布団に人気があるが、理想はダウン70%、フェザー30%もの
枕…高すぎるのは、いびきや腰痛の原因に。高さは2〜8センチ以内(平均5.4センチ)。幅は横50〜60センチ、縦35〜45センチぐらいがベスト
カーテン…厚めで遮光性、防音性のあるもの。色彩は、春はグリーン、夏はブルー、秋はベージュ〜ブラウン、冬はサーモンピンクなど季節感のあるもの
目覚まし時計…ベル音よりは、音楽音。特にテンポが早く、リズム感があり、元気が出るものがよい

快眠健康法
 全国1万人以上の男性を対象に行われた文部科学省の調査によれば、昼夜交代勤務の男性は、日勤で働く男性に比べて前立腺がんの危険度が3倍も高くなることが報告され、"睡眠と健康"が改めて注目されています。
 人の体温は、日中が高く、午後7時頃をピークに就寝時間が近づくにつれて低くなります。しかし、高齢者や不眠症の人では、2時間ほど体温のピークが前にずれており、これが睡眠の質の低下につながるということ。その解消法としては、「午後1〜3時の間で30分の短い昼寝」と「午後5時頃の軽い運動」。昼間の短い昼寝は、夕方に起こる眠気を防ぐことが出来るうえ、認知症になるリスクを1/5に減らす効果があります。また夕方に軽い運動をすることで、ピーク時の体温をさらに上げ、前倒しとなっている体温のピークを修正することが出来ます。
 睡眠の乱れは、高血圧、心臓病、がんといった生活習慣病やうつ病、認知症の一因とも言われています。ストレスの多い昨今、「いかに快適に眠ることが出来るのか」。その解決法が待ち望まれています。

不眠対策サプリ
 日本人のうち、睡眠障害に悩まされている人は5人に1人。今日、ぐっすりと眠れるサプリメントの開発が望まれています。米国では、睡眠ホルモンそのものであるメラトニンがダイエタリーサプリメントとして認められていますが、日本では医薬品とみなされ、健康食品として使用できません。それに代わるものとして近年注目されているものには、次のようなものがあります。
(バレリアン)
ヨーロッパ原産の多年草植物。コミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)では、バレリアンの「不眠症」、「精神不安」などに対する使用を承認している。安全性については、過剰摂取により頭痛、動悸、筋肉の痙攣を起こし、長期に経口摂取すると習慣性を得ることがある。
(タルトチェリー)
お菓子、ジャム、パンなどの材料として使われるチェリーの一種で、天然由来のメラトニン(1g中に14ng含む)のほか、アントシアニンなどの抗酸化物を含有している。
(アキノワスレ草)
亜熱帯地域に自生するユリ科の植物で、秋にオレンジ色の花を咲かせる。別名は快眠草、沖縄ではクワンソウと呼ばれており、成分のオキシピナタリンに睡眠効果があると言われている。
(サフラン)
ヨーロッパ南部、小アジアを原産地とする多年草で、めしべに含まれるクロシンに海馬を活性化し、眠りの質を高める作用があることが知られている。
(ミルクペプチド)
バイオアクティブペプチドを含有するミルクタンパク質のことで、リラックス作用や鎮静作用があることが臨床実験で確認されている。

クワンソウの睡眠効果
 沖縄県物産公社が行なった「睡眠に関するアンケート調査」によると、約8割が睡眠に関する悩みを持ち、そのうち「眠りが浅い」と答えた人が半数以上を占めました。調査は全国のわしたショップ直営店で、2009年10月から10年2月にかけて実施。睡眠に関する悩み(複数回答)では、「眠りが浅い」54%、「寝付きが悪い」41%、「早めに目覚める」33%が上位を占めました。
 一方、対処法では「本を読む」38%、「薬を飲む」27%、「音楽を聴く」24%の順。自由回答では、「特に何もしない」「アルコールに頼る」などもあったそうです。
 今回の調査は、睡眠の質を高める効果があるとされる伝承野菜クワンソウ(アキノワスレ草)のPRを兼ねていましたが、クワンソウを知らない人が86%に達し、知っている人はわずか6%だったようです。

時差ボケの問題
 海外旅行に付きものなのが「時差ボケ」ですが、慣れているという国際線パイロットでさえ9割近くがそれに悩まされています。一般に時差ボケしやすい条件として、朝型人間、中高年者、神経質で内向的な性格、東行きフライトが知られています。
 早寝早起きが得意で、活動のピークが午前中にあるのが「朝型人間」。しかし、体内時計が正しすぎて生活リズムの変化に弱いのが弱点。一方、夜型人間の体内時計は柔軟性が高いので、時差ボケしにくいと言われています。
 年齢とともに睡眠の質が落ち、さらに時差の影響が加わると、中高年者では時差ボケの症状が強く出ます。また心身の回復力も弱っているので、症状の回復が遅れて時差ボケが長引いたりします。
 時差ボケの原因は、体内時計と現地時間に食い違いがあること。体内時計の調整には人と会話したり遊んだり、あるいは仕事をするのが大事。あまり社交的でない人は、この社会的同調性が少ないために時差ボケが治りにくいとも言われています。

時差ボケの予防法&解消法
 まず出発前に「睡眠不足の状態」にあると時差ボケ症状が強く出ます。夜の睡眠時間が確保できない時は、正午から午後3時までの間に「30分以内の昼寝をする」とよいでしょう。また出発の1週間ほど前から「東行きフライトでは早寝早起きを、西行きフライトでは遅寝遅起き」を心がけ、体内時計を現地時間に近づけましょう。
 飛行機の中では、現地時間に合わせて睡眠を取ることが大切です。現地が夜ならば眠り、朝ならば起きる。周りの音や光が気になる人は、機内に耳栓やアイマスクを持ち込むことも忘れずに。少量のアルコールは寝つきを良くしますが、機内では地上に比べて酔いが早く回るので要注意です。
 起きていたい時は、コーヒーや紅茶を飲んだり、読書をしましょう。機内食は現地時間に合わせて出されるので、少しでもよいから食べておくと「胃腸の体内時計が調節」されやすくなります。
 目的地へ日中に着いたら、屋外に出て「強い光を浴びる」と体内時計の調整が進みます。散歩でもすれば、眠気の解消にも…。どうしても眠い時は、2〜3時間だけ仮眠を取ります。あまり長く眠ると夜の睡眠に支障をきたしてしまいます。
 夕方以降に到着したら、現地時間に合わせて行動しましょう。目が冴えて眠れない時は、ぬるめのお風呂に入ってリラックスしたり、適量のアルコールを飲みます。そして翌朝は、起きたら熱めのシャワーを浴びましょう。交感神経が刺激されて目を覚ましてくれます。

睡眠時無呼吸症候群
 軽度のいびきは「単純性
いびき症」と呼ばれ、それほど危険性はありません。問題は、睡眠時無呼吸症候群です。急にいびきが止まり、またいびきをかいたりする場合、その間呼吸が止まっていたり、非常に浅い低呼吸をしている可能性があります。10秒以上の無呼吸、あるいは低呼吸が一時間に5回以上あると「病的」と判断されます。
 無呼吸や低呼吸が頻繁に起こると、睡眠が阻害されて起きてもダルさが抜けない。さらに重度になると高血圧や心筋梗塞、脳卒中などにかかりやすくなります。
 そもそもいびきの原因は、気道が狭くなっているために起こるもの。最大の理由は、肥満による喉の圧迫。また顎が小さい人は、舌の奥で喉をふさぎやすく、いびきや無呼吸が起こりやすくなります。いびきを止めたいなら、歯科医が作ってくれるマウスピースが有効。また枕の高さを調整したり、横向きに寝てみるのも手軽な方法としてはオススメです。

▲up

◆  糖尿病

日本人は糖尿病になりやすい
 アメリカに行くと相撲取りのような体型の人が多いのに、日本人に少ないのはどうしてか? その理由は、日本人の場合、カロリーの取り過ぎが肥満を招くが、それ以上にカロリーを摂取すると糖尿病にかかって逆にやせてくる、という理由からです。
 明治時代に来日したドイツの医師ベルツは、「日本人の粗食」という論文の中で次のように述べています。「人力車夫に体重80キロの人を乗せて、1日40キロメートルを走らせたら、穀物主体の食事をしていた場合は2週間完走できた。しかし、食事に肉類を追加したところ、車夫の疲労が激しくなって、わずか3日で挫折してしまった。そこで元の食事に戻したところ、また完走できた」という。
 ベルツは「植物性食品が日本人の体質を決定している」と考えていたようで、確かに白人に比べアジア人の腸は長く、また植物性食品主体の食事はインスリンなどの分泌が少なくて済む。少なくて済むということは、欧米人に比べ「インスリンの分泌量が少ない体質」を持っており、その結果、糖尿病になりやすいとも言えます。因みにアメリカへ移住した日系二世の糖尿病罹患率は、米国白人の2倍、日本人の4倍というデータがあります。

糖尿病とアディポネクチン
 平成18年度国民健康・栄養調査によれば、糖尿病の患者数は820万人、予備軍は1050万人、合わせて1870万人が糖尿病の危険を持っていることがわかりました。疫学調査からは、メタボリックシンドローム該当者は「糖尿病の発症率が5倍高い」ことも知られています。問題は、内臓脂肪の蓄積で、脂肪細胞からはアディポネクチンというホルモンが分泌されており、インスリンの働きを助け、脂質代謝異常や高血圧を起こりにくくする働きを持っています。作用としては、AMPキナーゼという糖や脂肪の燃焼に関与する酵素を活性化する働きがわかっています。
 しかし、肥満や内臓脂肪の蓄積によって、高分子量のアディポネクチンの分泌が悪くなり、またそのレセプターも肥満によって減少することが知られています。基本は、運動などで内臓脂肪を減らすことですが、野菜の中にはアディポネクチンと非常に構造が似ているオスモチンという物質を含むものがあり、最近注目を集めています。特にトマト、ピーマン、サクランボ、ブドウ、キウイ、ジャガイモなどに多く含まれています。またオスモチンと構造が似ているオスモチンファミリーというものもあり、これはアボガド、バナナ、カブ、ニンジン、ジャガイモ、大豆などに含まれている成分で、今後注目を集めるものと思われます。

糖尿病の原因遺伝子
 国立国際医療センターと理化学研究所は、日本人における2型糖尿病の発症に深くかかわる遺伝子を特定、その内容を米科学誌「ネイチャー・ジェネティクス」に発表しました。この遺伝子のDNA塩基配列に特定の変異がある場合は、ない場合に比べて発症の危険性が約1・4倍になることもわかりました。
 2つの研究チームは、数千人規模の日本人のDNAを詳しく調べたところ、「KCNQ1」という遺伝子の変異が2型糖尿病の発症に深くかかわっていることを発見。実は、日本人の8〜9割がこの変異を持つというもので、糖尿病患者の2割はこの遺伝子の変異が原因だということです。研究チームの分析によると、この遺伝子変異は「血糖値を調節するインスリンの分泌低下を招く」のではないかということです。

ヤセ型と糖尿病
 U型糖尿病の原因と言えば、食べ過ぎ、肥満、運動不足といわれています。しかし、最近ヤセている人でも「糖尿病を発症しやすくなる遺伝子」があることが分かってきました。
 東京大学・徳永勝士教授らは、膵臓の細胞でインスリンの分泌を抑えるたんぱく質を作り出す遺伝子「KCNJ15」に注目。糖尿病患者と健康な人合わせて計3268人の遺伝子を分析した結果、この遺伝子に変異を持つ人は、変異のない人に比べ「糖尿病になる危険性が1・75倍」に上昇。特に肥満でない人に限ると、危険性が2・51倍に跳ね上がっていました。
 KCNJ15という遺伝子は、膵臓でインスリンの分泌を抑えるたんぱく質を作り出します。インスリンの分泌が減ると、筋肉や脂肪の細胞が血糖を取り込まなくなるため、太りにくい反面、糖尿病になりやすくなります。今回新たに見つかった変異は、この遺伝子の働きを過剰に高めるため、インスリンが不足し、ヤセ型でも発症する危険を高めるとみられています。

肥満と糖尿病の関係
 肥満になると、なぜ糖尿病になりやすいのか。東大大学院・門脇孝教授らの研究グループは、肥満によって血管内皮細胞のインスリン作用が低下し、筋肉の毛細血管が十分に拡張しなくなるため、インスリンが届きにくくなり、筋肉内での糖の取り込みに障害が生じることを解明しました。
 肥満などによって引き起こされるインスリン抵抗性は、最初筋肉で現われます。しかし、血液中のインスリンが毛細血管の血管内皮細胞を通り、筋肉へと移行するメカニズムが詳しく分かっていませんでした。そこで研究グループは、血管内皮細胞でインスリン作用を伝達する「インスリン受容体基質2(IRS2)」に着目。IRS2を欠損させたマウスでは、食後にインスリンが分泌されても血管を拡張する酵素(eNOS)が活性化されず、正常なマウスの半分ほどしかインスリンが筋肉に届かないため、糖の取り込みに障害が生じることが分かりました。
 また高脂肪食を与えて肥満させたマウスは、慢性的な高インスリン血症により、血管内皮細胞のIRS2が半分程度に減少することを確認。欠損マウスと同じように、eNOSの活性化と毛細血管の拡張、インスリンの移行量がそれぞれ低下し、筋肉の糖取り込みに障害が生じていることが分かりました。

内臓脂肪の炎症原因
 東京大大学院・永井良三教授らは、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の原因となる「内臓脂肪の炎症が起きる仕組み」をマウス実験で突き止めました。内臓脂肪が蓄積して脂肪細胞が大きくなると、マクロファージなどの免疫細胞が集まって慢性的な炎症が起こります。これまで、炎症により「インスリンの効きが悪くなる」ことなどがマウス実験で分かっていました。しかし、炎症が起きる仕組みは謎。
 永井教授らは、高脂肪食を与えた肥満マウスと通常の食事を与えたマウスとを比較したところ、肥満マウスは「病原菌を撃退するCD8陽性Tリンパ球が、マクロファージよりも先に増加」していました。そこで、このリンパ球を減らしたり、存在しないマウスを作製して調べたところ、高脂肪食を与えても内臓脂肪組織に炎症が起きないことが判明。さらに一度炎症が起きたマウスからこのリンパ球を取り除くと、内臓脂肪の炎症が抑えられ、インスリンの効きが改善されることなどが分かりました。

糖尿病は早めの治療が大切
 糖尿病は、早期から治療に努めなかった患者の生涯医療費が5000万円超となり、治療に励んだ患者の6倍にも上ることが、富山大副学長・付属病院長の小林正氏の調査で分かりました。
 糖尿病患者は、毎年50万人ずつ増え、2年後には1000万人を突破する見込みだが、半数は未治療や治療放棄者だという。現在、糖尿病患者820万人のうち、治療を受けているのは410万人。未治療・治療放棄の410万人と、治療しても血糖制御が不調な269万人の計679万人は合併症の危険が高く、軽症段階から心筋梗塞や脳卒中、10年以上続くと透析が必要な腎障害、5〜6年で末梢神経障害が発生し重症化すれば足が壊疽して切断。また糖尿病網膜症や緑内障は、 7年以上で出ることが多く、重症なら失明するとのことです。
合併症の予防には、適切な治療が肝心です。早期なら食事・運動療法だけで改善が可能です。症状が進めば、血糖降下薬などの服用。重症になれば、服薬に加えインスリン注射を毎日2回打たなければならず、合併症の危険も高まってきます。

糖尿病に新治療の可能性
 東京慈恵会医科大は、糖尿病のマウスの膵臓に特定の遺伝子を導入し、インスリンを分泌するベータ細胞を大幅に増殖させることに成功したと発表しました。
 研究チームは、細胞分裂の周期を早める働きを持つ遺伝子を組み込んだウイルスを、生後10週の糖尿病マウスの膵臓に直接注射。注射前に1デシリットル当たり約400ミリグラムあった血糖値が、16週間後には約200ミリグラムとマウスの正常値近くまで低下。またベータ細胞の数を調べたところ、注射前の2.5倍に増えていたそうです。
 実験によれば、マウスの血糖値は約4カ月で正常値に戻り、寿命も健康なマウスと同じ。研究チームは、「ベータ細胞が少しでも残っている糖尿病患者の有効な治療法につながる可能性が高い」と語っています。

糖尿病にビタミンDとカルシウム
 厚生労働省の研究班は、「ビタミンDとカルシウムの摂取により糖尿病の発症のリスクを低減させる」とする結果を発表しました。今回発表されたのは、岩手、秋田、茨城、新潟、長野、高知、長崎、沖縄の9保健所管内に住んでいた40-59歳の男女約6万人を5年間追跡調査したもの。まず乳製品の摂取量により4つのグループに分類し、その後の糖尿病発症リスクを男女別に検討。その結果、女性は乳製品の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループに比べて糖尿病発症リスクが約30%低くなることが分かりました。またビタミンDの摂取量については、男女とも摂取量が多い群においてのみ、カルシウムの摂取量が多いと糖尿病リスクが低くなるという関連が明らかになりました。
 研究班では、「一般的に日本人の食事にはカルシウムが不足しており、その摂取量を増加させることで糖尿病を予防する可能性がある」としています。


◆  アルコール類

焼酎に血液サラサラ効果
 焼酎は血液をサラサラにする。そんな実験をしたのが、宮崎医科大学名誉教授・美原恒先生です。美原先生は、ミミズの健康食品の開発者の一人としても知られていますが、知る人ぞ知る焼酎愛好家としても有名です。
 実験方法ですが、酒を飲まなかったグループ、焼酎(乙類)を飲んだグループ、その他の酒(日本酒、ワイン、ビール、ウイスキー)を飲んだグループにわけ、一人当たりアルコール量として30〜60mlを10分間で飲み、1時間後の血中酵素活性(pyro-Glu-Gly-Arg-pNAの水解活性)について調べました。その結果、酒を飲まなかったグループに比べ、焼酎を飲んだグループでは血栓を溶かすウロキナーゼの量が2倍以上に増加。またその他のアルコールよりも焼酎が最もウロキナーゼ量を増やすこともわかりました。アルコールを飲むならば、焼酎。しかも純度の高い甲類ではなく、本格焼酎の乙類が血液サラサラには良いとのことです。

酒に強いかどうかは遺伝
 酒に強いか弱いかは、体質によって決まっています。アルコールが体内に入ると、肝臓の働きでアセトアルデヒドに分解されますが、この物質は極めて毒性が強く、顔面の紅潮、頭痛、吐き気、頻脈などの不快な症状を引き起こします。さらにアセトアルデヒドは、ALDH2という酵素の働きで酢酸に変わります。このALDH2には3つの型があり、酵素の活性が強い人と弱い人、そして活性がまったくない人がいます。酒に強い人は、アセトアルデヒドの代謝速度が速い活性型を持ち、逆に代謝速度の遅い低活性型や酵素活性がまったくない非活性型を持つ人はお酒に弱いタイプです。
 自分がどの型を持っているかは、親から受け継ぐ遺伝子の組み合わせによって決定され、後天的に変わることはありません。日本人の37〜38%は低活性型、6〜7%は非活性型であるといわれ、日本人が欧米人に比べて酒に弱いと言われるはこれが関係しています。また非活性型はモンゴロイド(黄色人種)にのみ見られる特徴で、コーカソイド(白人)やネグロイド(黒人)には低・非活性型は存在しません。
 不活性型は、アメリカ大陸の先住民の中にもいることから、彼らがアジア大陸からアメリカ大陸へ移動して行ったはるか以前に、突然変異が起こり、その遺伝子が世界に広がっていったのかもしれません。
(ALDH2の低活性型+不活性型の割合)
日本 44%、 中国 41%、 韓国 28%、 インド 5%、 アメリカ先住民 2〜4%、 ハンガリー 2%、 西ヨーロッパ 0%、 中東 0%、 アフリカ 0%

アルコール体質の簡便検査
 アサヒビールは、アルコールに強いか弱いかのチェックを簡便に行える『スピードチェック法』を開発したと発表しました。被験者の唾液からDNAを抽出し、専用機器を使ってアルコール分解酵素の働きを解析するもので、所要時間は約2時間、費用は1000円未満で行える模様。
 アルコールを飲むと、肝臓内でアルコール脱水素酵素とアルデヒド脱水素酵素により分解されます。これら酵素の強さは遺伝によって決まっており、人により遺伝子の組み合わせが異なるため、「酒に対する強弱」や「酒を飲んだ時の体調」に個人差があるとされています。これまでアルコールを浸したガーゼを肌につけて反応をみるパッチテストや、髪の毛や血液からDNAを取り出す遺伝子判別が一般的でしたが、「被験者がスポイトで唾液をDNA保存カードに滴下するだけ」という手軽さと低コストが話題を呼んでいます。

アルコール依存症と遺伝的体質
 近年、アルコール依存症のなりやすさは「アルコールを分解する酵素の型が関係する」ことから、どんなタイプかを遺伝子検査で調べて予防に役立てようとする試みが進んでいます。
 アルコール依存症は、長期間の大量飲酒で陥ります。回復しても断酒を続ける必要があり、再び少量でも酒を口にすると再発するといったやっかいな病気です。
 依存症になりやすいタイプかどうかに関わる酵素は、2種類あります。一つは、アルコールをアセトアルデヒドに分解する1B型アルコール脱水素酵素(ADH1B)。日本人の場合は、分解が遅い不活性型、比較的速い活性型、速い高活性型の3つに分かれます。もう一つは、アセトアルデヒドを無害な酢酸に変える2型アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)。これには、分解が速い活性型、遅い部分欠損型、全く分解出来ない欠損型の3つがあります。
 国立病院機構・久里浜アルコール症センターは、この2種類の酵素の9通りの組み合わせを病気のなりやすさなどからA〜Eの5つに分類しました。まず最も依存症になりやすいのが、ADH1B不活性型とALDH2活性型を持つタイプ(A型)。二日酔いせず多量飲酒しやすいが、アルコールの分解が遅いため、酔って問題を起こしやすく、酒臭さが長く残るタイプです。A型は日本人の約4%ですが、依存症患者では27%を占めています。またADH1B不活性型とALDH2部分欠損型を持つC型は、食道がんや咽頭がんに最もなりやすいタイプです。A型と同じADH1B不活性型のため、顔が赤くならず酒豪と思われやすいが、ALDH2は部分欠損型のためにアセトアルデヒドが体内に長く留まってがんを引き起こす原因となるからです。

ビール消費量と騒音
 酒場の音楽の音が大きいほど、客が飲むビールの量が増えることをフランス・南ブルターニュ大学ニコラ・ゲゲン教授らが発表しました。
 実験は、フランス西部にある12店舗のバーで、店内の音楽音を「ふつう」と「かなりうるさい」に分けて、男性客40人の行動を観察。その結果、音量が「ふつう」の場合、客はビール1杯を14.51分かけて飲み、帰るまでに2.6杯を注文。一方「かなりうるさい」では、1杯にかかる時間が11.45分と短くなり、注文数も3.4杯に増えていました。
 研究チームでは、音楽の音量が大きいと「客が目覚めた状態となり、酔いにくい」「他の客と話をしづらくなり、飲むのに専念する」などが考えられるのでは、と話しています。

アルコールは脳を萎縮させる
 米国ウェルズリー大学のキャロル・アン・ポール氏の研究チームは、「アルコールを飲めば飲むほど脳が縮小する」という研究結果を専門誌「Archives of Neurology」に発表しました。
 同研究チームでは、適量のアルコール摂取により「加齢によって進む脳容積の減少を食い止めることが可能かどうか」を検証しようとしましたが、「不可能」という結果でした。同研究によると、生涯にわたって酒を飲まなかった人々は最も脳容積の減少が少なく、続いて過去に飲酒していたが今は飲まない人、現在適度な飲酒をしている人、現在大量に飲酒する人の順。これまでは、多くの研究によって適度の飲酒は心臓に良いとされてきましたが、脳にとっては「飲酒は好ましくない」ことがわかってきました。

飲酒と死亡リスク
 国立がん研究センターでは、日本人の飲酒と死亡リスクについて合計31万人分の詳細なコホート研究を行ないました。その結果、「飲酒により、がん全体および肝がん、大腸がん、食道がんのリスクが高くなることは確実」と報告しています。
 同センターでは、健康の総合的な指標である「死亡」との関連について、平均6.9年から14.6年追跡した6つのコホートデータを併せてプール分析を行ないました。その結果は、男性では1日当たりエタノール換算で46グラム、女性では23グラムから死亡リスクが高まることが分かりました。因みにアルコール23グラムの目安は、ビール大瓶1本(693ml)、日本酒1合(180ml)、25度の焼酎(120ml)、ワイングラス2杯(200ml)、ウイスキーダブル1杯(60ミリリットル)に相当します。

酒が弱い人は食道ガンに注意
 顔がすぐに赤くなる、いわゆる酒に弱い下戸の人が「飲酒と喫煙をすると、食道がんになるリスクが飲酒も喫煙もしない人に比べ、最大190倍も高くなる」ことが、東京大学・中村祐輔教授と松田浩一助教の研究でわかりました。
 研究チームは、食道がんの患者1070人と健常者2832人で約55万か所の遺伝情報の違いを比較したところ、発がん性が指摘されているアセトアルデヒドをアルコールから作る酵素及びアセトアルデヒドを分解する酵素の2つが、食道がんのリスクに関連していることを突き止めました。
 飲酒・喫煙の影響についても調べたところ、酒に弱く2つの酵素の働きが弱い人が、1日缶ビール1本以上の飲酒と喫煙をすると、相乗効果が働いて「酒に強く飲酒・喫煙をしない人に比べ、食道がんのリスクが190倍高くなっていた」ということです。しかし、同じ体質の人でも「飲酒・喫煙をしないと、リスクは7倍程度に下がる」そうです。

飲酒は乳がんリスクを高める
 乳がんのリスクと飲酒習慣の関係を調べた米国ハーバード大医学部の研究で、週にグラス3〜6杯のワイン程度でもリスクが上昇する結果を発表しました。
 研究チームは、1976年から看護師12万人以上の健康状態を追跡している疫学研究のデータを使い、飲酒に関する質問への回答と浸潤性の乳がんと診断された7690人のケースを分析しました。その結果、1日当たりのアルコール摂取量が10グラム増えるごとに「がんのリスクが10%上昇する」ことが分かりました。
 1杯分の酒に含まれるアルコールは、ワインで11グラム、ビールで12.8グラム、蒸留酒で14グラム程度。酒を全く飲まないグループと比較した場合、1週間に飲む量がワイン3杯分を下回るグループのリスクは変わりませんでしたが、3〜6杯飲むグループではリスクが1.15倍に上昇していたということです。

白瓜がアルコール性肝炎を予防
 玉造黒門越瓜(しろうり)が、アルコール性肝疾患の予防に良いことを大阪市立大・小島明子准教授らが発見しました。
 玉造黒門越瓜は、江戸から明治期にかけて大阪市内などで栽培されていた伝統野菜。肉厚で大きく、粕漬けなどに加工して食べられていました。
 実験では、肝細胞の培養液にアルコール成分であるエタノールを加えると18%が死滅したが、瓜の可食部の抽出物を加えると死滅率が3%にとどまることが判明。瓜の何らかの成分がエタノールから細胞を保護する働きを持っていることが分かりました。
 またアルコール性肝硬変の進行の目安となる肝星細胞の活性度を調べたところ、ラットの肝星細胞の培養液にエタノールを入れた場合、肝星細胞の活性度指数となるコラーゲンが通常の3倍に増えたが、瓜の抽出物を同時に入れると通常とほぼ同じ量しか作られないことが判明しました。

飲酒後の仮眠も危険
 飲酒後に睡眠を取ると、アルコールの吸収や分解が大幅に遅れることが国立病院機構久里浜アルコール症センターと札幌医科大との共同研究でわかりました。
実験は、20代の男女計24人を対象に実施。体重1キロ当たり0・75グラムのアルコールを摂取し、直後に4時間眠った場合と4時間眠らずにいた場合の呼気中のアルコール濃度を比べたところ、眠った場合は眠らない場合の約2倍でした。これは睡眠によって、アルコールを吸収する腸の働きと分解する肝臓の活動が弱まったものと考えられます。
 また同センターが海外の文献を調べたところ、アルコール分解後、少なくとも3時間は運転技能が低下することも判明。飲酒後に「仮眠を取ったから大丈夫」と安心するのは危険だということです。

飲酒と不整脈
 心臓の脈拍が乱れる不整脈を起こす危険度が、飲酒量の増加に伴い高まることが筑波大・児玉暁研究員らの解析で明らかになりました。
 研究チームは、1980年代以降の欧米の14本の論文に掲載された「心房細動」に関するデータを統合し解析。その結果、飲酒量が最も多いグループが心房細動を発症する危険性は、最も少ないグループの約1.5倍になりました。さらにあまり飲まない人の飲酒量について、エタノール換算の数値が明記された9つの研究を解析したところ、飲酒量の増加によって心房細動の危険性が一方的に高まることが分かりました。1日の飲酒量がエタノール換算で10グラム増えると、心房細動の危険性は約8%高まるようです。
 心房細動が起きると、血栓が出来やすくなり、それが脳の血管に詰まると重症の脳梗塞につながります。一般に適量の飲酒は「心筋梗塞や脳梗塞の低下に役立つ」といわれていますが、心房細動に関しては異なる結果となりました。

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◆  健康ブーム

過去10年史
1997年。抗酸化作用があるポリフェノールが動脈硬化や心筋梗塞の予防につながるとして、ワインがブームに。アントシアニンが眼精疲労に効果的ということで、ブルーベリーがブームに。
1998年。カプサイシンが脂肪の燃焼を助けるとして、唐辛子ダイエットがブームに。
1999年。ザクロに含まれる植物性エストロゲンが更年期障害に効果的だとして、ザクロジュースがブームに。その後、国民センターの発表により下火となる。
2000年。クルクミンが肝機能を高めて二日酔いに効くということで、ウコンがブームに。ミネラルが豊富で汚染されていないということで、海洋深層水がブームに。
2001年。大豆イソフラボンが更年期障害に良いということで、豆乳がブームに。
2002年。体内の血糖値を抑えれば効果的ということで、低インスリンダイエットがブームに。またアミノ酸ダイエットも流行し、様々なアミノ酸飲料が発売される。自律神経を安定させるということでマイナスイオンがブームとなり、家電メーカーが関連商品を発売。
2003年。ダイエットに効果的として、にがりがブームに(筆者注:思いっきりテレビで某医学博士が登場し発表したが、その人がにがりの研究をしていたという形跡なし。まったく無責任な発言だった)。
2004年。アンチエイジングに良いとして、CoQ10がブームに。ホルミシス効果が期待出来るとして、岩盤浴がブームに。
2005年。体内の毒出しがダイエットには必要だとして、デトックスがブームに。ノンカロリーで食物繊維が豊富ということで、寒天ダイエットがブームに。
2006年。疲労回復やストレス解消に効果的だとして、酸素がブームに。酸素バーのほか、コンビニで携帯用酸素缶スプレーが発売。
2007年。「発掘!あるある大事典U」の影響で、納豆ダイエットがブームに。その後、データ捏造がバレて番組は打ち切りに(筆者注:新宿の某テレビ製作会社の一室で、1時間しゃべらされて、そのうち使われたフレーズは2〜3つ。番組に都合の良いところだけを切ってつなげたような"張子の虎"編集に懲り、2回目からの出演はお断りしました)

26ショック
 「26ショック」という言葉をご存知でしょうか。これまで長寿県といえば"沖縄"でした。しかし2000年、沖縄男性の平均寿命が一気に26位までダウンしてしまったのです。その背景には、戦後アメリカ占領下による食生活の欧米化(高カロリー、高脂肪)が強く影響しているといわれています。その結果か、肥満者の割合も2006年度生活習慣病予防検診データによれば、男性46%、女性26%と共に全国1位となってしまいました。
 一方、今一番注目されている県は、長野県。平均寿命は男性が全国1位、女性は3位。ガンの死亡率も男性は最下位、女性は下から2位となっています。
 しかし、長野県は1960年代まで脳卒中による死亡率が全国トップ。そこで食生活改善推進協議会が発足し、自治体ぐるみで減塩指導に取り組みました。また地元の特産品、おやきやそばなどの郷土料理における健康への効果を見直す運動も展開。さらにエノキタケ、シメジなどのキノコ類、寒天といった健康素材も生産量が全国一ということで食材の見直しが始まりました。
 この2つの県の推移を見つめていると、健康の基本はやはり「食生活」であることが分かってきます。
(100歳以上の長寿者の食生活)
 健康・体力づくり事業財団が行った調査によると、百寿者の9割の人が「1日3食きちんと食事」をしており、「夜はぐっすり眠れる」という人も9割近く。食事の内容では、やはり9割近くの人が「野菜を欠かさず食べており」、好きな食べ物のトップは「果物」。肉と魚では、ほとんど毎日食べている割合は「魚が2倍以上」となっています。
(見た目と寿命との関係)
 
最近、何かと耳にするのが「アンチエイジング」という言葉。日本語で「抗老化」という意味ですが、バランスの悪い食生活や酒、タバコ、そして運動不足といった生活習慣が重なると老化は加速します。そして、年齢を重ねると「見た目の差」として表れてきます。
 これまでの双子を対象とした研究から、人の寿命を決定づけるのは「遺伝要因25%、環境要因75%」ということが分かっています。さらに双子の研究から、『老け顔は短命』ということが分かってきました。例えば、70歳の双子の写真を41人の医療関係者に見せ、年齢を推定してもらい、さらにその後の20年間の追跡調査では「老けて見える人の方が、病気も多く早死に」という結果が出たそうです。
 「顔は心の鏡」だけでなく、「体の鏡」でもあるわけです。


◆  パラドックス

フレンチパラドックス
 ヨーロッパ諸国では、冠状動脈性心臓病による死亡率と動物性脂肪摂取量とには正の相関があるにもかかわらず、フランスでは「高脂肪摂取量にもかかわらず、心臓病による死亡率が低いこと」がわかっており、これを"フレンチパラドックス"と呼んでいます。そして、その理由として「赤ワインの摂取が、動脈硬化の予防に良い」ことが取り上げられました。実際、フランスにおける冠状動脈性心臓病による死亡率は、人口10万人当たり男性94人、女性20人。これは、死亡率トップの北アイルランド男性406人に対して4分の1、スコットランド女性142人に対して7分の1となっています。
 さて、赤ワインの効果ですが、赤ワインに含まれるプロアントシアニジン、トランスレスベラトロールにより、活性酸素の消去、酸化LDLの生成抑制、血小板凝集抑制等によるものと言われています。

ジャパニーズパラドックス
 魚の摂取は、血液中のEPA濃度を高め、うつ病や自殺未遂を防ぐ効果があると言われています。しかし、「魚の摂取が昔から多い日本人は、なぜ自殺者が多いのか」という問題です。これは、専門家の間では"ジャパニーズパラドックス"とも言われています。その理由としてまず考えられるのは、脳内ホルモンであるセロトニンの分泌量には遺伝的な要因もあり、日本人は「セロトニンの分泌量が少ない民族」であるからだろう、という推論です。では日本人のうち、どのくらいの人がセロトニン分泌量が少ない傾向にあるかというと約65%、つまり3人に2人は自殺しやすい遺伝子を持っているということ。一方、アメリカ人の場合は18%とわずか5人に1人です。アメリカ人がどちらかというと楽観主義的なのは、脳内セロトニン分泌量が豊富だからかもしれません。

 中国・大連医科大学の研究では、自殺未遂で大連の病院へ運び込まれた100名の患者と、故意ではない事故で怪我をした患者100名を混合し、血液中のEPA濃度が高い順に50名ずつに区切って4つのグループに分けました。その結果、自殺未遂者の占める割合は、EPA濃度が最も低いグループでは74%に達していたのに対して、EPA濃度が最も高いグループでは26%しかいなかったと発表。このことから、魚(EPAを含む)の摂取量が少ないと自殺未遂を起こしやすくなることが推測されました。その理由として、EPAの血中濃度が低いとセロトニン作動性ニューロンを活性化できなくなり、衝動性の亢進やうつ病が起こりやすくなると推測されます。
 
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◆  血液と病気

血流をスムーズにする食べ物
 血流をスムーズにする食べ物の合言葉は「サ・カ・ナ・ス・キ」。
  サは、魚。特にイワシやアジなどの青魚には、血液の凝集を押さえるEPAが多く含まれています。カは、海藻。食物繊維が豊富で、ヌメリの元であるアルギン酸には血糖値やコレステロール値を下げる働きがあります。ナは、納豆。ネバネバ物質に含まれるナットウキナーゼが血栓を溶かします。スは、お酢。酸味の成分であるクエン酸が、赤血球をしなやかにして血流をスムーズにします。キは、キノコ類。キノコには食物繊維が多く含まれ、糖分や脂肪の吸収を抑えてくれます。

動脈硬化の原因物質
 動脈硬化の原因物質といえば、これまで"コレステロール"が主に取り沙汰されてきました。しかし、最近では"中性脂肪"が注目されています。ストックホルムで行われた19年間に渡る追跡調査(約6200人を対象)でも、心筋梗塞などの冠動脈疾患による死亡者は「男女共に総コレステロール値よりも中性脂肪値との関連が強かった」という結果が出ています。
 中性脂肪が動脈硬化を促進させる理由として、「悪玉コレステロールを増やす」「善玉コレステロールを減らす」「血栓をできやすくする」などが挙げられています。また中性脂肪が増加する原因は、糖質などの甘い物の取り過ぎ、アルコールの取り過ぎ、運動不足、肥満などが挙げられており、当てはまる人はメタボ対策を行うことが必要です。
 その他、近年注目されているのが"ホモシステイン説"です。研究の発端は、ホモシステイン尿症といい、若い時期から動脈硬化や血栓症を引き起こす病気の研究から。この病気は、必須アミノ酸の一つであるメチオニンが代謝される際、一時的に出来る物質で、肝臓内にビタミンB6、B12、葉酸があれば元のメチオニンに代謝されますが、先天的にホモシステインの代謝がうまくいかない人は、血中にホモシステインが増加して動脈硬化や血栓症が進行します。そこでビタミンB群の「ビタミンB6、B12、葉酸」をしっかり取ること。これも動脈硬化の予防対策として必要というわけです。


隠れ脳梗塞
 50代の人は3人に1人、60代の人は2人に1人、70代の人は1人に1人。何の割合かというと「隠れ脳梗塞」の人の割合だそうです。脳梗塞は、(トワエモアの歌のように)ある日突然発症するのではなく、細い毛細血管が血栓によって少しずつ目詰まりを起こしていく病気です。以下、次のような症状がある方は、病院での診察をお勧めします。
 手や足が急にしびれる、手や足が震える、口の周りがしびれる、顔に布がかかっているような感じがする、手袋をしている/靴下を履いているような感じがする。声がかすれる、物が飲み込みにくい、むせやすい、喉に痰がからんでいるような気がする。視野の一部が欠ける、物が二重に見えるなど。
 血栓の原因となる血小板が固まりやすい病気の一つに「血小板凝集能亢進症」というものがあります。偏頭痛、めまい、肩こり、過換気症候群をよく起こすという方は、一度この病気を疑ってみることも必要です。治療薬としては、アスピリンや塩酸チクロピジンを使いますが、血液をサラサラにするような食品を積極的に取る事が大切です。

 
アスピリンと抗血栓作用

 アスピリンといえば、解熱鎮痛剤として有名。古代ギリシャ時代のヒポクラテスは、発熱や出産時の痛み緩和にヤナギの樹脂で治療したといわれ、中国でも歯の痛みにヤナギの小枝で歯を擦りました。これが爪楊枝の起源でもありますが、ヤナギに含まれる成分こそアスピリン(アセチルサリチル酸)なのです。
 医薬品としては、1899年にドイツのバイエル社が発売し、100年以上の歴史を持っています。また2001年には、バイアスピリンという名称で「虚血性疾患の再発予防薬」として登場しました。
 アスピリンの作用は、血小板の凝集を促進する"トロンボキサン"と血小板の凝集を抑制する"プロスタサイクリン"の双方を阻害します。これを「アスピリンジレンマ」などと呼んでいますが、アスピリンの作用は少量(100〜300mg/日)の場合、プロスタサイクリンよりもトロンボキサンを抑制する方が強く働くために抗血栓作用が期待できます。
 アスピリンなら病院に行かなくても薬局で買えるではないかと思われますが、市販薬のバファリンやバイエルアスピリンなどは、解熱鎮痛薬ですので容量も500mgと多く、また小児用バファリンの成分は、アスピリンではなくアセトアミノフェンですので抗血栓作用はありません。

ナットウキナーゼ
 約20年前、納豆50g(1パック)に含まれるナットウキナーゼは、ウロキナーゼ換算で8万IUに相当すると発表され話題となりました。しかし、2007年11月9日に行われた日本ナットウキナーゼ協会主催の講演会で、二宮淳一氏は、t-PA(アクチバシン)換算で1200万〜1500万IU/50g、ウロキナーゼ換算で170万〜220万IU/50gに相当する、と大幅な修正案を発表しました。その理由として、従来はフィブリン平板法を用いていたが、ナットウキナーゼ活性度測定法の方がより精度が高く、測定の結果、従来報告されていたものよりも25倍以上もの高い活性を持つことがわかったため。またワーファリン服用者30名を対象に、ナットウキナーゼを摂取してもらったところ、両者の併用は血栓予防に有効な可能性を示唆したとのこと。
 医薬品と食品との併用は、薬の服用量と副作用を減らし、医療費節減にもつながるものであります。厚労省の試算によれば、年間医療費は32兆円を超え、今後さらに医療費拡大が予想されます。米国DSEA(ダイエタリーサプリメント教育連合)は、サプリメントを上手に活用することで、今後5年間に240億ドル(約2兆9千万円)以上の医療費が削減できると発表しました。医療費削減のためにもサプリメントを含めた食品の活用が期待されています。

ワーファリンと納豆
 心筋梗塞などの再発予防に処方されるのが、ワーファリンという薬です。ワーファリンを服用されている方は、納豆や青汁などビタミンKが多く含まれる食品を控えなくてはいけません。その理由は、以下の通りです。
 体内で血液が固まるには、12種類の血液凝固因子が働きます。このうち4種類の凝固因子は肝臓で作られますが、それにはビタミンKが必要です。ビタミンKには1〜7までありますが、このうちK1とK2が血液凝固に関係します。実は、納豆菌はこのビタミンを産生しますので、納豆の中にはビタミンK1とK2が豊富に含まれています。 
 またビタミンKは、腸内細菌によっても生成されています。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんの腸には、まだ腸内細菌がおりません。産業医大・白幡聰教授によれば、100人に1人ぐらい脳内出血して生まれてくる赤ちゃんがいるそうです。命には別状ありませんが、現在は出血を防ぐ目的でビタミンKの注射が行われています。
 ビタミンKは、骨粗しょう症とも関連があります。東京大学医学部・折茂肇教授の調査によれば、「納豆の消費量と骨折」とには密接な関係があり、全国平均よりも納豆の消費量が多い東日本は西日本に比べ、大腿骨頸部骨折の発生率が低いとのこと。ワーファリン服用者は別として、骨を強化するには納豆の摂取が良いようです。

高血圧の遺伝子
 最近、高血圧の原因遺伝子の一つであるアンジオテンシノーゲン遺伝子が話題となっています。この遺伝子には、TT型、MT型、MM型がありますが、TT型の人は「塩分を取り過ぎると高血圧になりやすい」ことがわかりました。TT型の頻度は、黒人、日本人、白人の順で多くなっています。人類の起源はアフリカですから、元々はTT型であったと考えられますし、チンパンジーの場合はすべてTT型です。
 TT型は、体内に塩分と水分とを貯留するタイプで、高温で乾燥地帯のアフリカに住むには適しています。しかしその後、人類はヨーロッパ大陸などの寒冷地に移動したため、TT型の人は高血圧から病気となり、自然淘汰されてMM型が白人に多くなったのではないかといわれています。
 TT型の人は、高血圧の予防に塩分制限は必要ですが、MM型で高血圧の人が塩分制限してもあまり効果はありません。同様に卵を食べてコレステロールが上がる人は3分の1程度で、3分の2の人は卵を気にする必要はありません。

高血圧の遺伝子
 国立国際医療研究センターは、高血圧の体質を決める遺伝子を発見したと発表しました。研究は、米国や中国などの国際共同チームが実施。5万人以上の東アジア人の全遺伝情報を統計学的に解析し、血圧の体質を決める13種類の遺伝子を特定しました。
 このうち1種類は、酒に強いか弱いかを決める遺伝子で、飲酒後に生じる悪酔いの原因物質であるアセトアルデヒドを分解する酵素を作るALDH2。ALDH2が活性を示すタイプの人は、不活性型に比べ血圧が上昇する傾向を示しました。しかし、活性型の人は「悪玉コレステロールの低下と善玉コレステロールの増加傾向」も示したため、総合的にはリスク低減効果の方が大きいということです。
 現在、30歳以上の日本人の4割が高血圧と推定されており、遺伝体質ごとの健康指導や治療法の開発が期待されるところです。

ツタンカーメンは貧血で死亡
 ツタンカーメンは、紀元前1333年頃〜1324年頃まで在位したエジプト王で、19歳前後で死去。その死因をめぐっては、暗殺説などが出ています。
以前、エジプト考古最高評議会を中心とする国際チームは、ツタンカーメンのミイラのDNA鑑定やCTスキャンなどを含めた検査の結果、脚の骨折にマラリア感染が重なって死亡したと発表しました。
 しかし、ドイツのベルンハルト・ノッホ熱帯医学研究所のチームは、足の骨などを詳細に調べた結果、鎌状赤血球貧血症の痕跡を発見。この病気は遺伝性で、赤血球が球形ではなく鎌状に変形し、酸素運搬能力が低下して貧血を引き起こし、さらに慢性的な痛みや感染症、組織の壊死などをもたらします。研究チームは、死因はマラリアではなく、遺伝性の血液病「鎌状赤血球貧血症」が原因と判断しました。

プリン体と痛風
 痛風は、体内に尿酸が過剰に溜まり、足の親指などの関節で結晶化する病気で、結晶化部分に炎症が起きると激しい痛みに見舞われます。
 これまで、尿酸はプリン体から出来ているので、プリン体を制限することが通風の予防になると考えられていました。プリン体が多く含まれている魚卵やエビなどの甲殻類、そしてビールが敬遠されてきたのはそのためです。しかし最近になって、こうした従来の常識がほとんど間違っていることがわかってきました。
 実は、食べ物から得られるプリン体よりも「体内で合成されるプリン体」の方が圧倒的に多く、プリン体を制限してもその予防には必ずしもつながらない。最近では、痛風の発症に関わる原因として、カロリーオーバーやストレス、アルコール、そして急激な運動などが上げられています。
 痛風発作が発症しやすい曜日は、月曜日とか……。毎日のように酒を飲み、大食いをし、週末はゴルフ、週明けにストレスのかかる仕事をする……そんな環境が痛風の原因につながるので要注意。


◆  医薬品

時間薬理学
 投与する時間帯によって薬の効きめが違う。これを研究する学問を「時間薬理学」といいます。
 例えば、5-FUという抗がん剤がありますが、これを午前7時に投与した場合と午後19時に投与した場合とでは、腫瘍の容積がどれくらい違うのかを調べた実験があります。それによると、がん細胞が小さなうちは「夜間に5-FUを投与した方が、腫瘍が小さくなる」ことがわかりました。これは、がん細胞が夜間に分裂・増殖して活発になるからだろうといわれています。
 リンパ球が作られる骨髄細胞は、夜明けと共に活発となり、午後4時頃をピークにして夜間に下がります。同様にNK細胞やT細胞などの免疫細胞は、夕方から夜にかけて低下するというわけです。このようにがん細胞をやつける免疫細胞は昼間活性化し、免疫細胞の力が低下する夜間には、反対にがん細胞が増殖するといった関係があります。

NSAIDの副作用

  リウマチなどの炎症に良く用いられるのが非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)です。しかし、日本リウマチ財団の調査によれば、NSAIDを3ヶ月以上服用したリウマチ患者1008人の消化器官を調べたところ、胃炎を発症していた人が全体の38.5%、胃潰瘍が15.5%、胃潰瘍瘢痕が8.0%、十二指腸潰瘍が1.9%見られたということです。この原因は、NSAIDが胃の粘膜を保護するプロスタグランジンという生理活性物質の分泌を抑制するためといわれています。
 怖いのは、消化器官の潰瘍ばかりでなく、腎障害や肝障害、気管支喘息、骨髄の機能抑制、心不全、高血圧などの原因にもなることです。お年寄りに多い膝関節症にもNSAIDは使われますが、その場合は薬の多用を控え、グルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントで対応することも副作用の軽減につながることと思われます。

抗ヒスタミン剤の副作用
 花粉症やアトピーなどによく使われるのが抗ヒスタミン剤。これは、アレルギー症状を引き起こすヒスタミンという物質の受容体をブロックして、かゆみや炎症などを抑える働きがあります。
 副作用には、口の渇き、便秘や下痢といったものもありますが、最も注意したいのが「眠気」。「抗ヒスタミン剤の1錠は、ウイスキー4杯に相当する」という話もあり、特に車の運転には注意が必要。本来、ヒスタミン神経系は、ヒスタミンH1受容体を通して大脳皮質を活性化させますが、抗ヒスタミン剤の服用でこれが阻害され、大脳皮質機能の低下、つまり眠気やだるさが襲ってくるわけです。「飲んだら乗らない」ことが原則ですが、アルコールと違い、花粉症の季節ではなかなか難しいものがあります。

日本人に2つの遺伝子タイプ
 一般に「遺伝子と病気のかかりやすさ、薬の副作用などの関係」を調べる場合、病気や副作用を持つ集団と持たない集団について、遺伝子上のSNP(遺伝子多型のうち、一つの塩基が他の塩基に変わるものをいう)測定して比較する"ケース・コントロール解析"という手法が用いられています。
 理化学研究所ゲノム医科学研究センターでは、日本人7001人と中国人45人の血液サンプルについて、一人当たり約14万か所のSNPの遺伝子型データを用いた成分分析を実施したところ、日本人7001人は「本土クラスター」と「琉球クラスター」に大別されることが分かりました。「本土クラスター」には北海道、東北、関東甲信越、東海北陸、近畿、九州の6地域、「琉球クラスター」には沖縄の大部分が含まれています。
 さらに「本土クラスター」と「琉球クラスター」について調べたところ、遺伝的分化の程度は小さいものの、耳あかのタイプを決めるSNPと髪の毛の太さに関するSNPに明らかな違いが見られたそうです。
 理研では、「研究成果を生かすことで、病気と遺伝子の関連を調べる『ケース・コントロール解析』の精度が上がり、より確かな『オーダーメード医療』の実現につながる」などと話してします。

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◆  健康ことわざ

酒の燗は人肌
 我々の舌の感覚は、20〜40度の範囲で最も敏感に働きます。特に甘味、苦味、塩味は温度に左右されることが多く、常温から零度に冷やすと苦味は30分の1、塩味は5分の1、甘味は4分の1に減少します。酸味は20%前後変化する程度です。
 一般に酸味は冷たく冷やした方が美味しく感じられ、旨味の濃厚なものは温かい方が美味しく感じます。お燗の温度に関しては「温燗(ぬるかん)、上燗(じょうかん)、熱燗(あつかん)」という言葉もあり、温燗は40度前後、上燗は50度、熱燗は55〜60度前後といいます。美味しい酒ほど温燗にする方が旨味を感じやすいことから、「人肌ぐらいの温度が最適」ということわざが生まれたようです。また「冷酒と親の意見はあとで効く」ということわざもあり、冷酒はあとからジリジリ効いてくるので、つい飲みすぎて悪酔いしやすいといった点も一理あるのでしょう。

鮪の刺身は目八分
 魚屋業界には「マグロは目八分」という言葉があり、色さえ良ければ8割は跳ぶように売れてしまうという意味で使われています。
 マグロの身が赤いのは、鉄分を含むミオグロビンという色素が含まれているためです。解凍後にしばらく放っておくとミオグロビンに空気中の酸素が触れて、鮮やかな赤い色素であるオキシミオグロビンに変化します。この状態が最も値打ちのある頃で、これを過ぎるとやがては褐色に変化します。これはメトミオグロビンと呼ばれるもので、酸化が進んでしまったことを表します。

秋茄子は嫁に食わすな
 秋茄子は美味しいから嫁に食わせるな、という説もありますが、どうも「秋茄子は種が少ないので、子宝に恵まれない」という意味が正しいようです。似たようなことわざに「石首魚女に食わすな」というものもあり、これは「イシモチは子無し」という迷信から来たものです。実際にはイシモチに子種がないわけではなく、春から秋にかけてイシモチは浅海に押し寄せて産卵します。名前の由来は、頭部にある平衡器官の"耳石"が他の魚に比べて大きいことによります。

祝い膳には尾頭付きの魚
 結婚式などのおめでたい席に出てくる魚の代表がタイで、「めでたい」に通じるからと一般に言われていますが、それだけではなく姿・色・味ともに優れていること、また魚の中では長生きの魚なので縁起がよいという理由からです。実は、タイが極上の魚と言われるようになったのは江戸時代からで、それ以前はコイが一位の魚でした。その理由は、海に遠い京都で手に入る魚は淡水魚であったこと、中国の思想、コイが滝を登ると龍になるという出世魚であったこと、タイと同じく魚の中では長生きの魚であることなどによります。
 尾頭付きの魚を供するときは、頭は左手、尾は右手にするのが原則です。この理由は、日本では左側が上位であるとする古来の思想、また"一"という文字を書く際の筆の運びの順序になっていることからです。

春の料理には苦味を盛れ
 「身土不二」という言葉を残した石塚左玄は、次のような道歌を詠んでいます。
 春苦味夏は酢の物秋辛味 冬は油と合点して食へ
 春に出回るフキ、セリ、ウド、ワラビなどは、新鮮なものほど"あく"が多く含まれており苦味を伴います。夏は夏バテに良いとされる有機酸を含む酢の物を、食欲の秋には食欲を増進させる辛味成分、寒い冬は高カロリーの脂がのった食べ物を…と、その季節に合ったものを食卓に乗せるのが大切だという意味です。

宇治は茶所 茶は縁所
 京都の宇治は茶の産地として知られ、茶摘みの季節になると大勢の茶摘み女が働き、製茶に携わる男たちとの出会いから沢山の夫婦が生まれたということわざです。
 宇治茶の歴史は古く、栄西が宋から持ち帰った種子を明恵上人が栂尾に撒き、この茶を駒蹄影園に移植したのが始まりといわれています。宇治が茶の産地として知られるのは南北朝時代以降で、足利将軍や有力守護の保護を得たことにより発展しました。戦国時代末期には、森・上林両園の茶名が高まり、上林氏は特に豊臣秀吉から特権を与えられ、徳川家康からも宇治茶頭取として任ぜられ、宇治茶の品位は浮動のものとなりました。

腐っても鯛
 タイは水深30〜150メートルの海底に近い所に棲むため、強い水圧のせいか外皮が頑丈に出来ていて、少々の細菌が取り付いてもなかなか腐りません。また腐敗菌が多少付いても水を何度も取り替えながら洗ってやると塩焼きや煮物なら、なんとか使いものになります。
 一方、海の上層を回遊するイワシやサンマは肉質が柔らかく水分が多いため、陸揚げすると比較的早く腐敗し始めます。中でもサバは腐敗が早く、生食すると腹痛や下痢を起こしかねませんので、「鯖の生腐り」ということわざも生まれました。

春眠暁を覚えず
 体温は、午前1時から5時頃までが一番低く、それから午前11時頃まで次第に高くなり、午後5時を過ぎるとまた下がってきます。これは自律神経の働きによるもので、昼間は交感神経が働き、夜間は副交感神経が働いて体内リズムを調整しています。
 しかし、季節の変わり目である春先は、自律神経の調整がうまくいかないため、朝になっても体温が上昇せず、そのため目が覚めにくいといった特徴が見られます。
 熊などの動物が冬眠から覚めるときも、まず体温が上がってくる特徴がありますが、春先は自律神経の切り替えがままならず、エンジンがかかりにくいわけです。

寝る子は育つ
 人はベッドに入るとまずノンレム睡眠というものが起こり、それが1時間半ぐらい続いてからレム睡眠という夢を見ている状態が20分前後続きます。この繰り返しを一晩に4〜5回繰り返して目が覚めるわけです。
 子供の身長を伸ばすために働く「成長ホルモン」は、眠り初めに近い最初のノンレム睡眠か、2回目のノンレム睡眠時に多く分泌されることがわかっています。逆に言えば、ストレスなどで深い睡眠が得られないと「成長ホルモンの分泌不足で、身長が伸びない」ということです。
 では、「身長がストップする大人になると成長ホルモンが出なくなるのか」というとそうではなく、成長ホルモンは出ているのですが、「傷ついた細胞などを修復する働き」に変わってきます。寝不足すると肌荒れが目立つのは、皮膚細胞の修復が十分でなかったためでもあるのです。

一無・二少・三多
 良く知られている「7つの健康習慣」とは、米国カリフォルニア大学のレスター・ブレスロー教授が1965年に提唱したものです。その後、昭和62年に大阪大森本兼曩教授が、日本人を対象にストレスを加えた新たな「8つの健康習慣」を、平成3年には日本生活習慣病予防協会理事長・池田義雄氏が「一無・二少・三多」を提唱しました。
 池田氏が提唱する健康習慣の「一無(無煙)」とは、タバコのない生活。「二少(少食・少酒)」は、食事量と飲酒量は少なめの腹8分。「三多(多動・多休・多接)」の多動は身体を「できるだけ動かす」ことで、多休は休息・睡眠を十分とり、心身ともにリフレッシュ。「睡眠時間」の規定はせず、休憩や仕事をしない休日を十分取る。多接は趣味などで多くの人や物と接し、ストレスを発散することだそうです。
 


◆  食べ合わせ健康法

 昔から行われてきた「食材同士の組み合わせ」には、不足しがちな栄養素を互いに補おうとする故人の知恵が伺えます。
(寿司)
わさびのシニグリン、ショウガのジンゲロン、ショウガオールには殺菌作用があり、また酢には殺菌の他、魚の生臭みを消す効果があります。ご飯を笹の葉(バンフォリン)、竹の皮(亜硫酸、サリチル酸)に包んだり、梅干(有機酸)を中に入れるのも腐敗を防ぐのが目的です。
(酢の物)
キュウリに含まれるアスコルビナーゼは、ワカメのビタミンCを破壊しますが、酢を入れることでこの酵素の働きを抑制してくれます。また生牡蠣や生タコに酢をかけるのは、腸炎ビブリオ菌を殺すのが目的です。
(天ぷら)
大根おろしに含まれる脂肪分解酵素エステラーゼが、天ぷらの消化を助けてくれます。
(そば、うどん)
薬味のネギに含まれる硫化アリルが、胃液の分泌を促進させ、かつ食欲を高めてくれます。
(とんかつ)
脇に添えるキャベツにはビタミンUが含まれており、胃もたれや胃炎を予防してくれます。
(レバニラ)
ニラに含まれるビタミンCは、レバーに含まれる鉄分の吸収を高めます。またニラの硫化アリルは、レバーに多いビタミンB1の吸収を助けます。
(酢豚)
玉ねぎに含まれる硫化アリルが、豚肉に多いビタミンB1の吸収を助けます。酢豚にパイナップルを入れるのは、パイナップルに含まれる酵素プロメリンが豚肉のたんぱく質を分解し、消化を助けるからです。
(糠漬け)
白米に不足しがちなビタミンB1が、米糠には多く含まれています。キュウリの場合は生の5倍、ナスは2.5倍、カブには2倍のビタミンB1が含まれています。またおこわ(小豆、栗など)にすることやゴマを振り掛けるなどの知恵も不足しがちなビタミンB1を補う知恵ともいえましょう。
(とろろ飯)
山芋に含まれるジアスターゼが、ご飯のデンプンを分解し消化を助けてくれます。
(味噌汁)
味噌汁1杯に塩分が1〜1.5g含まれていますが、具のワカメ、ジャガイモなどに含まれるカリウムが塩分の排泄を助けてくれます。
(豆腐)
冷奴のみだとメチオニン不足になりがちですが、上に振り掛ける鰹節にはメチオニンが多く含まれています。
(焼き魚)
以前、魚の焦げに含まれるトリプP1、P2に発がん性があることが話題となりましたが、大根おろしやレモン汁に含まれるビタミンCには、発がん性物質を解毒する働きがあります。
(味噌煮)
青魚に含まれる不飽和脂肪酸は酸化されやすい特徴がありますが、味噌に含まれるビタミンEが酸化を防いでくれます。またウナギの蒲焼に山椒を振りかけるのも酸化防止が主な目的です。
(刺身)
わさびの辛味成分シニグリンに殺菌作用があり、腐敗を防いでくれます。また紫蘇に含まれる精油成分ペリラアルデヒドには、アニサキスの幼虫を殺す働きが知られています。

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◆  感覚器官

子供の出産と歯
 「子どもを産むたびに歯を1本失う」ということわざがありますが、米国医学誌「American Journal of Public Health」(2008年5月29日掲載)によると、「女性が子どもを多く産めば産むほど、歯を多く失う傾向が高まること」が明らかとなりました。
 第3回アメリカ国民健康栄養調査(NHANES III)において、米国ニューヨーク大学Stefanie Russell助教授は、「1回以上の妊娠を報告した18〜64歳の女性2,635人のデータ」を検討。その結果、"妊娠と歯の喪失との関連性"がすべての社会経済的レベルの女性に認められることが明らかとなりました。その主な理由として、
・妊娠は、女性の歯肉炎の発生傾向を高める。妊娠を繰り返すほど、歯肉炎発生の頻度が高くなり、歯を失う原因となる。
・子どもを産むことによる経済的懸念から、歯科治療のタイミングが遅れる。
・子どもの世話のために、自分の歯科衛生に費やす時間が減少する。
 Russell氏は「妊娠と歯の喪失との関連はさらなる研究が必要だが、複数の子どもを持つ女性は、口腔衛生に気を配るべき。社会全体としては、子どもがいる女性は歯科治療を受けるのが大変だという理解を深めることが重要である」と述べています。

顎関節症が増加
 「あごが痛む」「口が開かない」「カクンと音がする」、このような症状がある人は「顎関節症」かもしれません。原因はこれまで「かみ合わせの異常にある」とされてきましたが、現在では歯ぎしりや頬づえ、ストレスなどの要因が重なり、クッションがずれたり削られたりして起こると考えられています。また子供の患者が増加した理由として、柔らかい食べ物を好む食生活の変化で、かむ力や回数が減ったことが一因とされています。
 治療法としては、鎮痛剤の服用で関節内の炎症を鎮めたり、スプリントと呼ばれるプラスチック板を歯列にかぶせてクッションのずれを治して関節の負担を軽くします。
 また新しい治療法として注目されるのは、バイオプレート治療。バイオプレートという特殊なマウスピースで歯の高さを調整すると「下顎が正しい位置に収まり、左右対称のバランスが取れた体形を保持することが出来る」というものです。

口呼吸の問題点
 「口呼吸」が、様々な病気や障害の原因となる可能性が指摘されています。
 千葉大学・岡本美孝教授によれば、「鼻呼吸の主な役割は、吸う空気を温め、適度な湿度を与えること、また"ゴミフィルター"機能で細菌やウイルスをブロックし、肺などを守ること。一方、口呼吸ではウイルスが除去されていない上に、冷たく乾燥した空気が喉にダイレクトに入ってくる。その結果、免疫力が低下し、疲労感が高まる。様々な病気を引き起こしてしまう」ということです。
 最近増えている睡眠時無呼吸症候群も、原因の一つに口呼吸が指摘されています。鼻呼吸なら気道を確保出来ても、口呼吸は口を開けているため、口の周りの筋肉が弛緩して舌が気道を塞いでしまいます。しかも心臓に負担がかかるため、高血圧や突然死をも誘発しかねません。その上、舌の粘膜の乾燥による味覚障害、鼻の機能低下による嗅覚障害の可能性も示唆されています。

シアル酸に育毛効果
 唾液に含まれる「シアル酸」に育毛効果があることを、名古屋市立大学・岡嶋研二教授と原田直明准教授が、日本農芸化学会で発表しました。
 岡嶋教授らは、これまでにトウガラシの辛み成分であるカプサイシンが、知覚神経を刺激して毛の成長を促進するたんぱく質である「インスリン様成長因子1(IGF−1)」を増やす仕組みを解明してきました。
 他にもIGF−1を増やす物質はないかと考え、「牛に頭をなめさせると毛が生える」というドイツの言い伝えに着目。実験は、マウス10匹の背中の毛をそり、5匹には普通の餌を、別の5匹にはシアル酸を経口投与。4週間後、普通の餌を与えたグループはまだ背中の地肌が見えたが、シアル酸を投与したマウスは毛がほとんど元通りだったという。
 人での実験では、薄毛の男性10人に毎日1回、頭皮にシアル酸を塗り続けたところ、半年後、5人に育毛効果が表れた。また女性10人の頬に4週間塗り続けたところ、7人に肌の弾力性がアップしたとのことです。

男性型脱毛症の診療ガイドライン
 男性型脱毛症について、日本皮膚科学会は「治療薬や育毛成分などの対症法を5段階で評価した診療ガイドライン」を初めて作成しました。
 男性型脱毛症は、遺伝や男性ホルモンの影響が主な原因と考えられ、対象者は国内で1260万人と推計されます。塗り薬や飲み薬などの治療薬が発売される一方で、植毛術や発毛術を行うサロンや育毛剤が登場しています。しかし、その医学的根拠や有効性は検証されておらず、頭皮が炎症を起こすなどの問題が発生しています。
 東京医大・坪井良治教授らが、国内外の論文を基に効果を検証した結果、飲み薬(成分名フィナステリド)と塗り薬(成分名ミノキシジル)を「行うよう強く勧められる」をAランクと判定。一方、人工の毛を植える人工毛植毛は、炎症などの有害な事例があるとして「行わないよう勧められる」とDランクに。また後頭部の頭髪を脱毛部に移植する自毛植毛は「行うよう勧められる」でBランク、医薬部外品・化粧品ではt−フラバノン、アデノシンなど5成分について「行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない」などC1ランクと判定しました。

緑内障の見落とし率
 40歳以上の20人に1人が発症し、中途失明の原因疾患でワースト1なのが緑内障。早期発見できれば点眼薬で視野欠損を防止出来ますが、自覚症状がないために手遅れになることも…。大切なのが眼底検査。しかし、人間ドックの2割は「眼底写真の診断を眼科以外の医師が行っており、見落とされる危険が高い」ことがわかりました。
 調査を行ったのは、患者団体の一つである緑内障フレンド・ネットワーク。2007年10月に無作為抽出した人間ドック425施設から回答を得たところ、98・3%は基本検査項目に眼底検査を入れているが、明確に「緑内障検出のため」としているのは47・1%だけ。同9・6%は、診断のための眼底写真を片方しか撮影していない。さらに19・0%は1次検診の眼底写真を、眼科以外の医師が判定していたというから驚きです。
 一般に眼科医が両目の眼底写真を判定する施設は、緑内障の疑いの検出率が4・3%ですが、眼科以外の医師が片方だけの写真で判定した場合は0・5%に急落するとのデータもあり、同ネットワーク代表顧問で赤坂北沢眼科院長の北沢克明さんは、「現行の人間ドック検査指針による検査状況では、緑内障が見落とされる危険がある」と訴えます。
 「視神経が圧迫状態になっても、視野欠損まで5〜10年かかるので、その前に治療することが大切。ただ、専門医は眼底写真で初期の視神経異常を99%判定できるが、同じ眼科医でも専門医でないと判定率は3割以下に落ちる」と指摘。しかも、一方の目に視野欠損が出ても、もう一方の目で補うため、実際に「見えにくい」と感じたときには、症状はかなり進行しているという。
 治療の基本は点眼、レーザー、手術ですが、正常眼圧緑内障のほとんどは点眼治療で進行を抑えられます。「40歳を過ぎたら眼底検査を受けること」が、早期発見、早期治療につながります。また眼科を選ぶ際は、緑内障治療を標榜しているかどうかを確かめることも大切です。

緑内障の遺伝子判明
 緑内障は、目の中を流れる水分の排出が悪くなり、視神経が障害を起こす病気。日本人の後天的な失明原因の25%を占めています。京都府立医科大・田代啓教授と木下茂教授の共同研究チームは、緑内障の発症率の高さが遺伝子配列から判別できることを初めて突き止め、その内容が「米国科学アカデミー紀要」に掲載されました。
 研究チームは、約4年半前から緑内障患者と健康な人の計約1600人の血液を検査。それぞれの遺伝子配列を比較したところ、発症患者のみが持つ「6つの特徴的な配列パターンがあること」を突き止めました。さらに解析を進めたところ、特徴的な配列パターンを持つ人は「持たない人に比べ、発症率が約4倍」になっていることもわかりました。

カラーコンタクトレンズは目に悪い
 厚生労働省は、目に障害が起きる被害が相次いでいるおしゃれ用のカラーコンタクトレンズ(カラコン)について、販売規制に踏み切る方針を固めたそうです。薬事法の省令を改正し、視力矯正用コンタクトレンズと同様、都道府県知事の許可がなければ販売できないようにする方針です。
 おしゃれ用カラコンは、視力矯正を目的としないため度がありません。そのため、眼科医の処方の必要がなく、インターネットの通販やディスカウント店で3000円から5000円程度で購入でき、10年ほど前から若い女性を中心に人気を呼んでいました。日本コンタクトレンズ協会によると、おしゃれ用カラコンは、輸入品で韓国製がほとんどだそうです。
 しかし、使用によるトラブルも多く、眼科医によると結膜炎のほかアレルギー症状を起こしたり、角膜の表面に傷がつく点状表層角膜症や酸素不足による角膜びらんも確認され、中には角膜はく離で入院したケースもあったそうです。
 視力矯正用コンタクトは、薬事法で都道府県知事の許可のほか、販売店に管理者を置くことが義務付けられている点で大きな違いがあります。

強度近視に注意しよう
 近視の多くは、眼軸長と呼ばれる眼球の奥行きが異常に延び、像が網膜より手前で結んでピンボケになる症状をいいます。強度近視では、この眼軸長が正視(像が正しく網膜に結ぶ)より3・5ミリ以上長いといわれ、全国40歳以上の人口約6700万人のうち、360万人ほどが強度近視とみられています。
 強度近視は遺伝的な要因が大きいのですが、それに携帯ゲームやパソコンなどの環境要因が加わるとさらに悪化します。また緑内障に次いで、失明原因の第2位といわれています。
 強度近視により起こりやすい病気としては、水晶体の中央部の核が濁る「核白内障」。黄斑部の膜が裂けて血管が網膜に入り込む「近視性黄斑部出血」。網膜や脈絡膜が延ばされて薄くなり萎縮する「近視性網膜脈絡膜萎縮」。視神経が引き伸ばされて変形し、中心付近の視野がなくなる「近視性視神経障害」など。視野が欠けたり、目が見えづらくなったら、早めに眼科を受診することをお勧めします。

目のクマの原因
 目のクマには、「青クマ」と「茶クマ」の2種類がありますが、目の下が青黒くくすんで見える一般的なクマは「青クマ」の方。この原因は、血行不良です。目の周辺は、頬など他の部分に比べ「血液の量が多い割に流れる速度が遅い」という特徴があります。そのため血液がうまく流れないと滞留しやすく、"うっ血状態"になってしまいます。このうっ血した色が、クマとして現れるわけです。
 血行不良の最大の原因は、目元が冷えること。寒くなって冷えやすい冬には、青クマが当然できやすくなります。その対策としては、まず十分な睡眠を取って目元を休ませること。またマッサージなどで、血行を促進してあげることも効果的です。ただし、目元の皮膚は0.5mmと非常に薄いため、刺激の与え過ぎには注意が必要です。

乗り物酔いにでんぐり返し
 乗り物酔いは、体のバランスを司る内耳への刺激と、視覚情報とのズレによって生じます。車が止まったり曲がったりする時、内耳には大きな刺激が加わりますが、視界はそれほど動いていないため、感覚にズレが生じます。このズレを脳が「不快」と判断した場合、自律神経が刺激されて吐き気などが起こるわけです。
 内耳や自律神経を鍛え、感覚のズレを脳が不快と思わなくなるまで揺れに慣れれば、酔わなくなります。それには、ブランコ乗りやでんぐり返しが効果的。でんぐり返しは、まず前回りを1回。気持ちが悪くなったら1日1回でもよいので、不快を感じなくなるまで毎日続け、最大で1日5回行ないます。トレーニング効果が出るには3カ月はかかりますが、効果があることは事実です。
 乗り物酔いに効く薬は、抗ヒスタミン剤。市販の薬で嘔吐が止まらない場合は、内耳機能の検査が出来る耳鼻科で異常がないか確認した方がよいでしょう。車の中では本、DVD、ゲームを見ないこと。酔ってしまったらリクライニングシートを倒し、進行方向に平行に寝かせて、衣服やシートベルトを緩めるのがよいでしょう。

変形性関節症の原因遺伝子
 変形性関節症は、関節の軟骨が変性したり磨耗したりすることで、関節の痛みや機能の障害を引き起こす病気で、有病率は70歳以上では30%以上といわれています。
 理研ゲノム医科学研究センターでは、日本人特有のSNP(一塩基多型)をゲノム全体で調べたところ、あるSNPと膝の変形性関節症とが強く相関していることが分かりました。しかし、このSNP周辺のゲノム上には、既知の遺伝子が存在しなかったため、未知の遺伝子を捜した結果、軟骨に特異的に発現する新たな遺伝子を見つけ、DVWAと名付けたそうです。
 さらにOAの日本人962人と、そうでない1726人を対象に解析した結果、DVWAが造るタンパク質に「反応するSNP」がOAに最も強い相関を示したことがわかりました。またDVWAの機能などを検討した結果、DVWAタンパク質が「チュブリン」という軟骨細胞の細胞骨格を構成するタンパク質と結合していることが判明。そこでOAと強い相関を示すSNPによるDVWAタンパク質とチュブリンとの結合力への影響を調べたところ、OA患者に多いSNPに由来するDVWAタンパク質では、結合が低下することを突き止めました。チュブリンの減少はOAにつながることから、「DVWAは軟骨細胞の細胞骨格の制御を通じて、OAの病態に関与している」と考えられるとのことです。

半月板損傷治療に朗報
 激しい痛みや腫れを伴い、変形性膝関節症の原因にもつながる半月板損傷。東京医科歯科大学・関矢一郎准教授らの研究グループは、自分の膝の滑膜の幹細胞を取り出して培養し、それを注入して半月板を再生させる医療の実用化に乗り出しました。
 半月板は、膝の骨と骨の間で衝撃を和らげるクッションの役目を果たす軟骨組織。過度のスポーツによる損傷や加齢によって摩耗したり変形した場合は治りにくく、これまでは糸で縫合したり、傷ついた箇所を切除するなどの治療が行われてきました。関矢准教授らのグループは、滑膜が軟骨などの損傷が起きると傷を治そうと「関節液中に幹細胞を増加させ、損傷した箇所を自己修復しようとする機能」に着目。そこで滑膜を取り出し、血清により増やした幹細胞組織を注射で複数回、損傷箇所に注入する方法を考案しました。そして、膝の軟骨が損傷、欠損した20〜51歳の患者12人にこの治療を施したところ、約7割の方に軟骨が再生したとのことです。

NSAIDの副作用
 リウマチなどの炎症に良く用いられるのが非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)です。しかし、日本リウマチ財団の調査によれば、NSAIDを3ヶ月以上服用したリウマチ患者1008人の消化器官を調べたところ、胃炎を発症していた人が全体の38.5%、胃潰瘍が15.5%、胃潰瘍瘢痕が8.0%、十二指腸潰瘍が1.9%見られたということです。この原因は、NSAIDが胃の粘膜を保護するプロスタグランジンという生理活性物質の分泌を抑制するためといわれています。
 怖いのは、消化器官の潰瘍ばかりでなく、腎障害や肝障害、気管支喘息、骨髄の機能抑制、心不全、高血圧などの原因にもなることです。お年寄りに多い膝関節症にもNSAIDは使われますが、その場合は薬の多用を控え、グルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントで対応することも副作用の軽減につながることと思われます。

膝痛にクラゲのムチン
 東海大と理化学研究所がウサギを使った実験で、大量発生して漁業被害を出しているエチゼンクラゲから抽出したたんぱく質を、変形性関節症の治療に使われるヒアルロン酸に混ぜると治療効果が約2倍高まることが分かりました。このたんぱく質は「ムチン」と呼ばれ、関節では軟骨を保護、修復する役割があるとされています。
 研究グループは、膝関節の軟骨がすり減った変形性関節症と同じ症状のウサギを作り、関節の中にムチンを混ぜたヒアルロン酸を注射。10週後に観察すると、すり減った軟骨がほぼ正常に回復。またヒアルロン酸だけを注射したウサギに比べ、回復率は1・6〜2・6倍程高かったということです。

五十肩について
 五十肩は、今に始まった病気ではなく、江戸時代中期の辞書にも「五十腕」という項目があり、「五十腕とも五十肩ともいう。また長命病という」と説明されています。医学的には、「明らかな起因を証明しにくい初老期の疼痛性肩関節制動症」と定義され、海外では「フローズン・ショルダー(凍結肩)」と呼ばれています。初めに「痛みが強く動きにくくなる時期」があり、続いて「動きが制限される時期」、やがて「動きが回復する時期」へと推移します。
 なぜ起きるのか、原因となる生活習慣があるのか、なぜ回復するのか……など未解明部分が多い疾患ですが、「肩関節を包む袋(関節包)が厚く硬くなっており、結果として肩が動きにくく痛みが生じる」といわれています。
対処法として、「痛みがひどい時は安静に、痛みがやわらいだら肩を動かせる範囲で動かす」こと。放っておいても、多くの人は1〜2年で治ります。しかし、中には腱板断裂など別の障害が起きている可能性があるため、痛みがひどい場合には整形外科での診察が必要です。

骨折の治療にたんぱく質注射
 骨折した患部に「細胞増殖を促すたんぱく質」を注入すると、治癒を大幅に早める効果があることを東大病院のグループが、臨床試験で確認しました。同病院整形外科・中村耕三教授らは、骨や皮膚の細胞を増殖させる「FGF―2」というたんぱく質を利用。国内48施設の協力で、治療に時間がかかるとされる脛を骨折した直後の患者71人を対象に「FGF―2を患部に注射した47人」と「注射しなかった24人」とで効果を比較しました。
 その結果、FGF―2を注入した患者は、14週間で半数が治癒。24週間後に治りきらなかったのは、1人だけでした。一方、注入しなかった患者のうち、半数は治るまでに18週間かかり、24週間後も4人が完治しませんでした。
 実用化すれば、松葉づえが必要な期間を短くでき、糖尿病などが原因で骨折が治りにくくなっている人の治療にも役立つそうです。

骨粗鬆症と動脈硬化
 高齢女性に多い骨粗鬆症を引き起こすたんぱく質が、同時に血管を硬くする「石灰化」を引き起こしていることが、大阪大大学院・森下竜一教授らの研究で分かりました。
 骨粗鬆症の要因となる破骨細胞の増加は、たんぱく質の一種であるRANKLが活性化することが原因とされています。また女性ホルモンが減少すると、RANKLが活性化することも知られています。現在、この物質の働きを抑える骨粗鬆症治療薬が治験中で、成功すれば「動脈硬化の予防も期待できる」ということです。

レントゲン写真で骨密度診断
 老化と共に骨密度が低下すると、骨がもろく骨折しやすくなります。骨密度が正常値の70%以下の場合を骨粗しょう症といい、寝たきり老人の原因の第2位を占めています。進行すると背骨や腰の痛み、腰が曲がるなどの症状が次第に起こってきます。怖いのは、大腿骨頸部骨折が年間12万件を超え、うち1割は1年以内に死亡、3割は寝たきりの生活になることです。予防のためには、定期的に骨密度を検査することです。
 あごの骨のレントゲン写真から測定した骨密度を基に、高い確率で全身の骨粗しょう症を発見・予測することに大阪歯科大・高石佳知講師らの研究グループが成功しました。新たな検査法は、従来の精密検査を大幅に簡易化出来るそうです。一般の歯科にあるレントゲンを使い、1回5分以下、数百円の費用で可能。今後は、早期発見・早期治療に活用が期待されています。
 骨粗しょう症の予防には、カルシウムの摂取に心がけ、日光浴や適度の運動をすること。牛乳コップ1杯にきな粉大さじ2杯を混ぜたきな粉ドリンクは、予防に効果的な飲み物の一つです。

◆  肥満・ダイエット

肥満者の割合
 厚生労働省が発表した2010年国民健康・栄養調査によると、20歳以上でBMIが25以上の「肥満者」の割合は、男性が30.4%、女性が21.1%でした。
 20〜69歳の肥満者における都道府県別状況は、沖縄県が45.2%でトップ。かつては長寿県として知られた沖縄は、今では洋食文化の普及と車社会による運動不足に悩まされているようです。以下、宮崎県、栃木県、福島県、徳島県と続きます。一方、肥満者が最も少なかった県は、山口県の22.1%でした。

減量の基本は摂取カロリー
 米国立衛生研究所(NIH)の研究チームは、「豊富な食物繊維など心臓に良い食事ならば、体重の減量は摂取カロリー次第で、炭水化物が多くても脂肪が多くても変わらない」という実験結果を米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表しました。
 実験方法は、30〜70歳の男女の肥満者811人に4種類の減量法のいずれかを試してもらうというもの。4種類は脂肪、たんぱく質、炭水化物の3大栄養素の割合を変えたもので、どれも食物繊維が多く、心臓に悪いといわれる飽和脂肪酸とコレステロールが少ない食事。
 摂取カロリーや運動の目標を各自設けて取り組んだ結果、2年間にわたって平均4キログラムの減量効果を持続。結果は、3要素の割合には関係なく、カロリーの摂取量と消費量の差に左右されたそうです。

睡眠不足と肥満
 最近の研究で、「睡眠不足が肥満に深く関与している」ことがわかってきました。それは、食欲を調整する二つのホルモン、グレリンとレプチンの働きによるものです。グレリンは、お腹が空いた時に胃から分泌されるホルモンで、脳の食欲中枢を刺激して食欲を感じさせます。一方、レプチンは脂肪細胞から分泌され、脳の満腹中枢を刺激して食欲を抑える働きを持ちます。つまり、食欲はグレリンとレプチンがうまくバランスを取ることで調整されているのです。
 宮崎大学・中里雅光教授らは、血液中の食欲調整ホルモン値と平均睡眠時間、体格指数(BMI)との関係を分析したところ、睡眠時間が短い人ほどグレリンが高い一方、レプチンが低く、BMIが高い傾向にあったそうです。米国の研究でも、睡眠時間が短い人ほどグレリンが多く、逆にレプチンが少なく太っていることが確認されています。
 睡眠不足は、寝ている間に分泌される成長ホルモンを抑制して、脂肪の分解や筋肉・骨の形成といった体の代謝を悪くします。その意味でも1日7時間、出来れば8時間は眠った方が健康にはよさそうです。


夏はヤセにくい
 食欲の秋に比べ、夏バテで食欲不振だというのになぜか体重が落ちない夏。その理由は、「夏は1年中で最も基礎代謝が低い季節」ということにあります。
「基礎代謝とは、呼吸や内臓機能の維持、体温調節に使う生きるために最低限必要なエネルギーのこと。外気温が体温に近い夏は、体温維持にあまり力を使う必要がなく、基礎代謝は下がるのが自然。またクーラーの使い過ぎで自律神経が乱れ基礎代謝が下がる人は、夏バテで体調を崩しやすいので注意が必要」です。
 基礎代謝は、人が使う総エネルギーの70%を占めます。何もしなくても消費される基礎代謝量を上げれば、無理せずに太りにくくなりますが、季節的には気温の低い冬場が最適。逆に夏は基礎代謝が減り太りやすいので、ジュースやアイスクリームなど糖分の取り過ぎに注意が必要です。


別腹の仕組み
 もうこれ以上食べられないと言いながら、「食後のデザートは別腹」といってケーキを食べることがあります。実は、人がおいしそうだと感じた時に「脳の視床下部からオレキシンが分泌される」ために起こる現象なのです。オレキシンが分泌されると、胃などの消化管の運動が活発になり、蠕動運動によって胃の内容物を十二指腸へと送り出します。そうすることで、胃の上部に新しく余裕が生まれる仕組みなのです。
 因みにラットを使った動物実験では、甘いものに対しての反応はオスよりもメスの方が高いという結果が出ました。人は甘いものを見たり食べたりすると、快楽物質であるβエンドルフィンが脳内で分泌されます。これによって「おいしい」とか「もっと食べたい」などの反応が出るのですが、オスよりもメスの方がβエンドルフィンに高く反応します。男性よりも女性の方が「甘いものを食べたい」と欲する力が、本能的に強いのかもしれません。


唐辛子とダイエット

 代謝には、基礎代謝、生活活動代謝、食事誘導性体熱産生の3つがありますが、中でも基礎代謝は1日に消費するエネルギーの6〜7割を占めています。この基礎代謝を左右するのは「筋肉量」で、基礎代謝量の3割を筋肉が消費しています。つまり、筋トレは体内のエネルギー消費を促進させ、ダイエットにつながるわけです。
 とはいっても、もっと楽に出来ることはないのか。そこで注目されているのが唐辛子に含まれる成分のカプサイシン。カプサイシンには「アドレナリンの分泌を高め、脂肪分解を促進させる働き」があるからです。
 京都大学農学部・河田照雄教授らの実験によれば、ネズミ約20匹を2群に分け、1組にはカプサイシンを0.014%混ぜた高脂肪食のえさを、もう1組には混ぜていない高脂肪食のえさを2週間与えて実験したところ、混ぜたグループでは「食後すぐに酸素消費量が2割以上増え、腹部の脂肪量が3割以上も少なかった」という結果が得られました。
 しかし、カプサイシンが0.014%含まれている食事といえば、トムヤンクンなどのタイ料理。食べ過ぎれば、胃をやられかねません。イギリスでは、同じカロリーの朝食をチリソースとマスタード各3g一緒に食べたグループの方が「食後の基礎代謝が1.2倍アップし、それが3時間も続いた」というデータがありますので、無理しない程度に激辛食品を食べることは、多少なりともダイエットにつながる可能性はありそうです。

ダイエットによる体臭
 体臭にも様々な種類があります。有名なのが加齢臭ですが、『疲労臭』や『ダイエット臭』などもあります。疲労臭とダイエット臭は、体内でエネルギーを作り出す際の不完全燃焼が原因。本来、完全燃焼出来ればニオイ物質は発生しませんが、疲労のせいで酸素が不足していたり、摂取カロリーの減少で基礎代謝が低下していると「副産物として乳酸が生成」されます。乳酸はアンモニアと結合して汗の中に排出され、これによって体臭が強くなるわけです。
 予防や対策としては、クエン酸を多く含む酢や梅、レモンなどの柑橘類を多く摂取すること。酢にはアンモニア臭を抑える力もあるので、お風呂に入れるのもお勧め。180リットルのお湯に50〜100CCほどの酢を入れて入浴すると良いでしょう。

BMAL1の生産と肥満
 同じカロリーの食事を取っても、それがどれだけ体脂肪になるかは食事した時刻によって異なります。そのカギを握るのは、「BMAL1(ビーマルワン)」というたんぱく質です。BMAL1は、脂肪細胞が血中の脂肪分を取り込む際に働くたんぱく質で、体中のほぼすべての細胞で作られています。
 BMAL1の生産量は、時刻によって変動することが知られています。夜中の2時頃をピークに午前中は減り、昼の2時頃は最低に。しかし、夜に向かってまた増え始めます。その差は、最大で20倍。同じカロリーの食事でもBMAL1が少ない時間帯に食べれば、それだけ脂肪になりにくいと考えられています。

遅ご飯にカツオ節
 遅めの夕食を取ると、朝起きた時に胃がもたれたり、体が重かったりします。最も注意したいのは、脂質の多い食事です。脂質が多いと太りやすいうえ、消化に時間がかかるので、夜遅く食べると胃がもたれる原因になるからです。揚げ物は避け、肉は脂身の少ない部位を選ぶといった工夫が大切。しかし、脂質が少ないと満足感が得られず、つい夕食後にお菓子に手が出てしまうという経験はないでしょうか。
 そこで、遅ご飯の食材にお薦めしたいのがカツオ節です。カツオ節には、ヒスチジンというアミノ酸が多く含まれています。このヒスチジンは、脳内でヒスタミンに変化し、満腹中枢の一つであるヒスタミンニューロンを刺激して「満腹感を与える効果がある」ことが、最近の実験で明らかになってきているからです。

サーチェイン遺伝子とダイエット
 長寿のカギを握るとされるサーチュイン遺伝子。サーチュイン遺伝子は、酵母等の単細胞生物から哺乳動物までほとんどの生物が持っていますが、ヒトでは7種類のサーチュイン遺伝子が存在します。動物実験では、カロリー制限したエサを30〜60日摂り続けるとサーチュイン遺伝子が働き始めることが分かっています。
 海外の研究では、サーチュイン遺伝子をオンにしてテロメアを長持ちさせるには「肥満と喫煙を避ける」ことだそうです。英国ロンドン在住の18〜76歳の女性1122名のテロメアを調べたところ、肥満の人はそうでない人に比べてテロメアが平均8.8年分も短く、またタバコを1日1箱・40年間吸い続けた人はテロメアが7.4年分短かったそうです。
 金沢医科大学・古家大祐教授は、メタボ気味の30代〜60代の男性に「通常の必要摂取カロリーから25%制限した食事」を7週間続けてもらいました。サーチュイン遺伝子が活性化したかどうかは血液検査によって分かりますが、その結果、早ければ3週間で活性化、つまりオンになったサーチュインの数値が約2倍から多い人で4倍に増えたそうです。

炭水化物ダイエットの危険性
 炭水化物を制限する食事を長期間続けると、心筋梗塞や脳卒中になる危険性が高まることをハーバード大などの研究グループが発表しました。
 同研究グループは、スウェーデンの30〜49歳の女性4万3396人の食生活を調査し、その後平均約16年間、心筋梗塞や脳卒中などの発症を追跡調査。そして、1270例の発症例を炭水化物とたんぱく質の摂取量によって10段階に分けて分析しました。
 その結果、炭水化物の摂取量が1段階減り、たんぱく質の摂取量が1段階増えるごとに発症の危険が4%ずつ増加。その理由として、一般的に炭水化物を制限する食事では「高たんぱく質になる傾向」があるためで、低炭水化物・高たんぱく質のグループでは他のグループに比べ危険度が最大1・6倍高まったということです。

▲up

◆  脳の病気

くも膜下出血の見落とし率
 日本脳神経外科学会の調査によって、くも膜下出血の患者のうち「脳神経外科医以外が初診した6.7%が風邪などと診断され、事実上、病気を見落とされていたこと」が分かりました。また患者が軽い頭痛しか訴えなかったことなどから、「くも膜下出血を発見できるCTを実施していなかったこと」も判明しました。
 同学会学術委員会の嘉山孝正・山形大教授らが、宮城県と山形県の2病院で、脳神経外科のカルテ全491例を調査したところ、宮城県では、198例中37例が脳神経外科医以外で初診を受け、うち10例(5.1%)が風邪、高血圧、片頭痛などと診断され、CTを受けずに見落とされたケース。さらに10例すべてが再発し、2例が死亡していました。
 山形県では、専門医以外の初診は293例中48例で、23例(7.8%)が見落とされ、すべてが再発し2例が死亡していました
 見落とされた33例のうち、17例は「くも膜下出血の常識に反し、発症時に軽い頭痛しか起きてなかった」ため、同委員会は「専門医以外では他の頭痛と区別できない」と指摘。他の16例も「診断が難しい例がある」としました。
 米国では、5〜12%の見落とし率があるという報告もあります。嘉山教授は「くも膜下出血の診断は難しく、パーフェクトな診断は不可能。現代の医療でも見落としは不可避という現実を周知し、脳ドックの普及など社会全体で対策を考えるべき」と語っています。

カルシウム摂取と脳卒中
 牛乳やチーズなどの乳製品からカルシウムを多く取る人は、ほとんど取らない人に比べて「脳卒中の発症率が約3割少ない」ことが、厚生労働省研究班の大規模調査で明らかになりました。また牛乳なら1日130ミリリットル前後、スライスチーズなら1〜1.5枚で効果が期待出来るということもわかりました。
 研究班は、岩手、秋田、長野、沖縄の4県在住の40〜59歳の男女約4万人を12年間追跡調査し、食事などの生活習慣と発病の関係を分析。1日に乳製品から取るカルシウムの量を5グループに分けると、1日の摂取量が平均116ミリグラムのグループは、ほぼゼロのグループに比べて脳卒中の発症率が0.69倍と低水準に。しかし、大豆製品や野菜、魚などの乳製品以外から摂取したカルシウムでは、効果はみられなかったそうです。
 研究班の磯博康・大阪大教授は、「カルシウム摂取が多いと血圧が低くなるため、脳卒中予防につながったのではないか。乳製品のカルシウムは、他の食品よりも腸での吸収率が数倍高いことが影響しているのでは」と説明。
 ただし、心筋梗塞などの発症率は、カルシウム摂取との関連が見られませんでした。乳製品に多く含まれる飽和脂肪酸によって「心疾患の発症率が高まり、カルシウムの効果が打ち消された結果」かもしれません。

速足の女性は脳卒中になりにくい
 1分間に80メートル以上という速足の女性は、普段歩かない女性と比べ「脳卒中を発症する危険性が約4割低い」ことが米国ハーバード大などの大規模調査で分かりました。また速さに関係なく、こまめに歩く女性も同様の効果があったそうです。
 調査は、米国在住の健康な女性3万9315人(平均年齢54歳)を対象に約12年間、歩行距離やその速度などを2〜3年おきに申告してもらい行ないました。その結果、歩く頻度を問わず、分速80メートル以上の人が脳卒中になる危険性は「普段歩かない人と比べて37%低い」ことが分かりました。また週に2時間以上歩く人は、速度に関係なく「歩かない人に比べ30%低い」ことも判明しました。
 ただし男性の場合は、別チームの分析で明確な関係は得られなかったと報告されているのが気がかりです。

記憶障害にカフェイン
 記憶や学習に重要な役割を果たす「海馬」の神経細胞が、コーヒーなどに含まれるカフェインによって増強されることを北海道大の神谷温之教授らが明らかにしました。
 神谷教授らは、マウスの海馬の切片にカフェインを加えたところ、細胞内のカルシウムの濃度が高まって神経回路の信号伝達が良くなったということです。カルシウム濃度が高まった理由としては、「2型リアノジン受容体」と呼ばれるたんぱく質の働きが高まったためと考えられます。このたんぱく質は心筋細胞に多く存在し、細胞内の「小胞体」に蓄えられたカルシウムイオンを放出させて心筋を収縮させますが、同様の仕組みで「海馬における記憶形成が増強された」と推測しています。

認知症患者が増加の一途
 世界の認知症患者は、現在3560万人。世界人口70億人の約0.5%、200人に1人の割合です。WHOの予測では、毎年770万人ずつ新たな患者が発症し、2030年に6570万人、2050年には1億1540万人に達する見通しです。これは、新興国で急激に高齢化が進んでいくためで、特に中国、インド、中南米諸国で急激に増えると見られるからです。
 認知症対策にかかる世界全体のコストは、2010年の推計で約6040億ドル(約50兆円)。うち医療費は16%だけで、低所得国ではコストの大半が家族など無報酬の介助に依存している現状です。
 国連の人口推計に当てはめると、2050年の人類は100人に1人以上が認知症患者という時代を迎えることになり、WHOは今後、認知症対策が多額の予算を必要とする大きな政治的課題になると警告しています。

認知症の改善に運動を
 東京大学・久恒辰博准教授らの研究グループは、加齢で減少する脳の神経細胞の基が「運動によって再び活発に作られる」ことを動物実験で突き止めました。同チームは、記憶や学習など認知機能を司る「海馬」に注目。人間ならば高齢者に相当する2歳以上のマウスを使い、海馬の神経細胞の基になる幹細胞を調べました。その結果、自由に走ることが出来る環境で飼育したマウスは、十分運動出来なかったマウスに比べ「幹細胞の増殖率が2.4倍高い」ことが分かりました。また運動する代わりに認知症治療薬アリセプトを投与すると、未投与のマウスに比べて3倍以上活発になることも突き止めました。
 アリセプトには、神経伝達物質のアセチルコリンを保護する働きがあります。同チームは、アセチルコリンが運動により活発に分泌され「幹細胞の増殖を促している」と結論付けました。久恒准教授は「運動が認知症治療薬と同様の役割を果たしている。人にも同じ仕組みがあると考えられるため、認知症対策に運動を取り入れる有効性が示されたのではないか」と語っています。

クルクミン化合物とアルツハイマー
 武蔵野大学と米国ソーク研究所は、カレーのスパイスである「ターメリック」に含まれるクルクミン化合物が「アルツハイマー病の原因とされるベータアミロイドが脳内に蓄積するのを防ぐ作用を持つこと」を発見しました。
 これまで、クルクミンは神経細胞の損傷を抑えられるが記憶力向上までの効果は確認できませんでした。そこで、クルクミンの化学構造を変えた様々な化合物を合成し、ラットの「海馬」を摘出、薄くスライスして組織が生きた状態が保たれたままにして実験を行ったところ、「CNB−001」と名付けた化合物が細胞間の情報伝達の効率を高めることが分かり、クルクミン化合物が「記憶を作るスイッチとして働く酵素を活性化している」ことが判明しました。
 武蔵野大の阿部和穂教授は、「この化合物は、海馬の働きを直接的に活性化している。さらに研究し、新薬の開発を目指したい」と話しています。

アルツハイマーに漢方薬
 幻覚や妄想などアルツハイマー病の周辺症状に漢方薬の「抑肝散」が効果的であることが、大阪大・遠山正彌教授、松崎伸介助教らの研究でわかりました。
 松崎助教らが着目したのは、細胞内のたんぱく質の形を整える小胞体にある遺伝子で、遺伝性のアルツハイマー病患者に変異が多いプレセニリン1(PS1)。PS1が変異した小胞体は、神経伝達に重要なカルシウムの濃度変化に対応できずに機能が低下し、不完全なたんぱく質が蓄積して細胞死が起きるとされています。
 実験では、PS1を変異させた実験用の神経細胞を使い、小胞体内のカルシウム濃度を変化させる薬剤を投与。約60%が死滅したが、抑肝散を加えると死滅率は約25%に減ったということです。
 元来、抑肝散は子供の夜泣きや疳の虫などを抑えるために使われてきた漢方薬で、遠山教授は「老年性アルツハイマー病は、小胞体の機能低下が関係しており、今回の結果と同様の仕組みで周辺症状を抑えている可能性が高い」と語っています。

睡眠不足でアルツハイマーに
 睡眠不足がアルツハイマー病を引き起こす可能性があることを、米国ワシントン大などの研究チームが発表しました。
 アルツハイマー病の原因として、これまで脳内にアミロイドベータ(Aβ)という異常なたんぱく質が蓄積することが考えられてきました。研究チームは、遺伝子操作でアルツハイマー病にかかりやすくしたマウスの脳内を観察したところ、Aβは「起きている時に増え、睡眠中に減る」ことを発見。また西野精治・スタンフォード大教授らは、起きている時間が長いマウスではAβの蓄積が進行し、不眠症の治療薬を与えるとAβの蓄積が大幅に減少しました。
 研究チームは、「十分な睡眠を取れば、アルツハイマーの発症が遅れるかもしれない。慢性的な睡眠障害のある人が、高齢になって発症しやすいかどうかも調べる必要がある」と話しています。

アルツハイマーにビタミンB群
 軽症期のアルツハイマー患者に「葉酸とビタミンB12を投与すると症状が改善する」ことを、見立病院(福岡県田川市)・佐藤能啓副院長が発表しました。
 佐藤副院長は、同病院の軽症期の患者を「葉酸を1日1錠投与する第1群(90人)」「1日に葉酸1錠とビタミンB12を3錠投与する第2群(92人)」「アルツハイマー病の薬であるアリセプトを投与する第3群(40人)」に分け、1年間観察して重症度を示すミニメンタルテスト(30点満点で、値が低いほど重症)で効果を調べました。その結果、観察前は第1〜3群とも平均20点でしたが、1年後には第1群は23点、第2群25点と改善。一方、第3群は18点にまで悪化していました。また第1、2群は血中ホルシステイン濃度も下がっていました。さらに、第1群より第2群の方が改善していたことから、葉酸とビタミンB12を併用した方がより効果が大きいことも分かりました。
 葉酸とビタミンB12が、アルツハイマー病の危険因子とされる「ホモシステインの血中濃度を下げる」ことはこれまでの研究で明らかになっていますが、集団投与して実証されたのは初めてのことです。
 またアルツハイマー病の前触れとなる軽度認知障害(MCI)の高齢者が、毎日ビタミンB群を摂取すれば「脳萎縮を抑制出来るかもしれない」とする実験結果を、英国オックスフォード大学の研究チームが発表しました。
 研究チームは、軽度の記憶障害がある168人を被験者として半数に「ビタミンB群の錠剤」を、残り半数には「偽薬」を2年間に渡り服用してもらい、MRIを使って脳萎縮の程度を調べました。その結果、葉酸、ビタミンB6、B12を含む錠剤を飲んでいたグループの脳萎縮率は年間0.76%だったのに対し、偽薬を飲んでいたグループは1.08%と萎縮が進行していました。
 これまで軽度認知障害からアルツハイマーを発症する人は、脳が急速に萎縮することが分かっており、研究チームは「ビタミンB群にはアルツハイマーの発症を遅らせる効果があるかもしれない」と指摘しています。

青魚がボケ予防に良い
 島根大医学部・橋本道男准教授らのグループは、青魚に多く含まれるDHAやEPAを毎日摂取することで「認知症予防に効果がある」ことを高齢者108人に行った試験で実証しました。100人規模の高齢者を対象に、実際に毎日食べさせるなどの「介入試験」で実証したのは国内初です。
 試験は、同県在住で65歳以上の健常な高齢者108人(平均年齢73歳)を二つのグループに分け、一方にDHA850ミリグラム・EPA200ミリグラムを含む魚肉ソーセージ、もう一方にほとんど含まない魚肉ソーセージを1年間、毎日2本ずつ食べさせました。その後、一度見た図形を模写するテストや予め決められたルールに沿って指を動かすテストを行ったところ、DHA・EPA入りを食べていたグループは成績が改善、短期記憶や運動能力などの機能低下が抑制されたとのことです。

アラキドン酸と脳の働き
 卵や海藻などに多く含まれる脂肪酸の一種・アラキドン酸が、脳の神経細胞の生成を促すことを東北大学などが動物実験で突き止めました。
 実験は、全脂肪酸中に4%のアラキドン酸を含む餌を母ラットに与え、その母乳を生後直後の子ラットに飲ませたところ、神経細胞の生成数が「アラキドン酸なしの場合に比べ、30%も増加」。また生まれつき神経生成が少ないラットに同じ餌を与えると、それまで見られた不要な音に反応しやすい状態が改善しました。この状態は、統合失調症患者における反応でも見られます。
 神経細胞の生成の減少は、精神疾患に関係しているとの説もあり、食品が精神疾患の予防や治療に役立つ可能性を示したことは、今後の研究に期待が持てそうです。

海馬形成に重要な遺伝子
 名古屋大学・高橋雅英教授と榎本篤講師らのグループは、記憶や学習にかかわる脳の一部「海馬」の形成に重要な役割を果たしている遺伝子を発見したと発表しました。
 海馬形成への関与が見つかった遺伝子は、「ガーディン」と呼ばれるたんぱく質。高橋教授らは、ガーディンのないマウスを作成して海馬を観察したところ、通常一列に並ぶはずの未熟な神経細胞が位置に異常を起こしたことから、ガーディンが「神経細胞の位置決定を制御している」ことを解明。さらに、同様の位置異常が統合失調症の原因遺伝子とされる「DISC1」の量を低下させた場合でも報告されることから、ガーディンとDISC1が協調的に働いている可能性を示唆すると結論付けました。
 海馬は、てんかんや統合失調症などとの関連性が指摘されており、高橋教授は「精神・神経疾患が発症する仕組みの解明に役立つのでは」と話しています。

様々な頭痛に注意
 頭痛が起こった場合、診療科名は内科……ではなく神経内科。注意が必要なのは、今までに経験したことがないような頭痛。市販薬で時間をムダにする前に、専門医にぜひ診てもらいましょう。
 中高年が気をつけたい急性頭痛のナンバーワンは、高血圧性頭痛。血圧の上昇に伴い生じる頭痛で、一般に収縮期血圧が200を超えると両側頭部に脈拍に同調したズキンズキンという痛みが生じます。そして拡張期血圧が110を超えると、今度は頭の後ろに板を張ったような重い頭痛を感じたりします。
 気をつけたい急性頭痛の2番目は、くも膜下出血に伴う頭痛。激しい頭痛が突発し、安静にしていても激痛が続きます。吐き気や嘔吐、意識障害などを伴います。くも膜下出血は、喫煙で3倍リスクが上昇するので注意が必要です
 見過ごしやすいのが、急性副鼻腔炎に伴う頭痛。鼻づまりや熱など風邪に似た症状に続き、前頭部の片側に重い痛みと頭が膨張するような感覚が生じます。原因は、鼻周囲の副鼻腔に膿が溜まって内圧が上がること。放置すると炎症が眼窩に拡がり、数日で失明する危険性もあります。
 慢性頭痛の代表は、片頭痛。軽度〜中等度の痛みならば、トリプタン系薬剤の内服や点鼻薬が効果的です。場合によっては、抗てんかん薬が功を奏することもあります。

頭痛薬の飲み過ぎに注意
日本人の4人に1人が持っているという慢性頭痛には、緊張型頭痛と片頭痛、まれに片目の奥が痛くなる群発頭痛があります。年末が近づき仕事が多忙になると、慢性頭痛は起こりやすくなります。
緊張型頭痛は、首や肩の筋肉の緊張が原因となるため、血行がよくなる運動、お酒、入浴などで痛みが和らぎます。一方、片頭痛の原因は三叉神経の末端から出る"痛み物質"が引き金となり、脳の血管の拡張と炎症が起こるというのが一般的な説です。
片頭痛の持続時間は、4時間から長くても3日以内。注意したいのは、月に数回や年に1−2回起こる激しい片頭痛を恐れ、あまりひどくない頭痛でも頻繁に頭痛薬を飲むこと。これは、薬物乱用頭痛を引き起こす原因となります。薬物乱用頭痛は、頭痛薬を月に10日以上、3カ月服用すると起こる頭痛で、薬が効きにくく連日つらい頭痛に悩まされます。対処法は、市販の頭痛薬を飲み過ぎないこと。そして、時々起こる片頭痛には、医療機関で処方している特効薬のトリプタン製剤を頓服します。服用が早ければ、2時間以内に約85%の人は痛みが取れます。

統合失調症の原因遺伝子
 岐阜薬科大・原英彰教授らの研究グループは、人が持つ細胞増殖遺伝子「HB−EGF」の欠如が統合失調症の発症原因の一つであることを突き止めました。原教授らは、前脳のHB−EGFを別の遺伝子に取り換えて8週間が経過したマウスと、正常なマウスとを比較。遺伝子取り換えでHB−EGFが欠損したマウスは、落ち着きなく動き回り、コミュニケーション能力や記憶力の低下が見られました。これらの行動は、統合失調症に特徴的な行動でもあります。
 また欠損したマウスは、樹状突起につながっている細胞の一部「スパイン」が正常なマウスの半分程度に減少。神経伝達物質であるモノアミンの分泌量も正常なマウスより約20%減少していました。スパインやモノアミンが減少する病態も統合失調症患者に多く見られます。原教授は、「今回の発見は、統合失調症を本質的に治す新薬開発につながる」と語っています。

自閉症の原因とセロトニン
 浜松医科大などの研究チームは、陽電子放射断層撮影(PET)を使い「自閉症患者の脳では、感情などを司る神経が十分に機能していない」ことを明らかにしました。自閉症は発達障害の一つで、「相手の気持ちが読めない」「自分の気持ちをうまく伝えられない」「強いこだわりを持つ」など、コミュニケーションや社会性の低下を特徴とするもので、小学生以下では50〜100人に1人の割合で患者がいると推定されます。
 研究チームは、18〜26歳の男性自閉症患者20人と健康な男性20人の脳を専用のPETで撮影。その結果、感情などを伝えるセロトニン神経内部でセロトニンを取り込むたんぱく質の働きが、「健康な人より平均で3割低くなっていた」ことを解明しました。なお自閉症の原因については、関連する遺伝子が複数指摘されており、これらの遺伝子の異常が神経障害を引き起こしている可能性があると考えられます。


◆  タバコ

ニコチン置換療法
 タバコに含まれるニコチンは、脳内のα4β2受容体に結合します。ニコチンが受容体に結合するとドーパミンが放出され、これによりイライラ感やストレス解消が得られます。喫煙者がタバコを吸うと爽快になるのは、このような働きによるものです。しかし、やがて血中のニコチン濃度が下がるとイライラ感を感じ始め、不安な状態となり、またタバコを欲しがります。このようにタバコにはヘロインやコカイン並みの依存症があることが知られています。
 ニコチン依存症の治療としては、タバコを吸う代わりにニコチン製剤を使用する「ニコチン置換療法」があります。タバコを吸いたくなったら、ニコチン入りのガム(ニコレット)を噛んだり、ニコチンパッチ(ニコチネルパッチ)を貼ることで喫煙本数を次第に減らしていくことが出来ます。

ニコチンのないタバコ
 ニコチンは、タバコの葉に2〜8%ほど含まれ、根で作られて葉に蓄えられます。今回、京都大学生存圏研究所の矢崎一史教授らは、タバコの葉にニコチンを蓄積させる働きを持つ遺伝子を世界で初めて突き止めました。この遺伝子の働きを抑えることで、ニコチンのないタバコの葉を栽培することも可能だということです。
 まず研究チームは、ニコチンが蓄積される細胞内の液胞の膜に存在する「Nt−JAT1」という遺伝子に注目。この遺伝子を酵母に組み込むなどの実験を行ったところ、酵母がニコチンを運び、ニコチンが植物細胞内の液胞に蓄えられることが判明したため、この遺伝子がニコチンの輸送・蓄積に関わることを突き止めました。同研究チームは「ニコチンを含まないタバコの葉ができれば、喫煙しながらニコチン中毒から抜け出せるし、タバコを嫌う周囲の人にとっても、煙にニコチンが含まれないのは朗報」と語っています。

低タールタバコでも有害度は同じ
 低タール、低ニコチンのタバコを吸っている人ほど吸煙量が多く、タールやニコチンが多いタバコを吸っている人と同程度の有害な化学物質に曝されていることが、厚生労働省研究班の調査でわかりました。
 調査対象は、1日約19本を吸う20〜65歳の約100人。いつも吸っているタバコの種類に合わせ、「タール1ミリ・グラム表示(ニコチン量はタール表示の約10分の1)」「同3〜6ミリ・グラム」「同8〜10ミリ・グラム」「同14ミリ・グラム」の4グループに分類し、ニコチン摂取を示すコチニン量、呼気に含まれる一酸化炭素量などを調査。その結果、タール6ミリ以下のグループは、1回で吸い込む平均吸煙量が58・4ミリ・リットルで、それより高いタールのタバコを吸っている人(50ミリ・リットル)よりも多い傾向が見られました。また1日当たりの平均吸煙量では、高タールグループより、約4500ミリ・リットルも多くなっていたそうです。
 パッケージに表示されているニコチン量が10分の1になっても、摂取量は3分の1程度にしかならず、表示通りには煙害が減らないことが明らかになりました。

メタボよりタバコ
 アメリカでは、1970代から上昇し続けていたがん死亡率が、1994年以降減少しています。その理由の一つとして取り上げられているのが「喫煙率の低下」です。1970年代には50%を超えていた成人男性の喫煙率は、23%にまで低下し、それに伴い肺がん、喉頭がん、食道がん、膀胱がんの死亡率が下がっています。その上、心筋梗塞の死亡率も3分の2にまで減少しました。
 1970年代、フィンランドにおける成人男性の喫煙率は76%もありましたが、今では25%にまで減少。アメリカ同様、フィンランドにおける肺がんの死亡率は2分の1に、心筋梗塞の死亡率は3分の1に減少しました。
 現在の日本では、健康維持と医療費節約には「メタボの解消」が叫ばれていますが、それよりも「禁煙」の方が確実に効果があるように思えます。

サードハンドスモークとは
 喫煙の害について、米国で「サードハンドスモーク」という概念が提唱されて話題となっています。サードハンドスモークとは、たばこを吸った室内に煙が吸着して有害物質が残ってその場が汚染されるというもので、「セカンドハンドスモーク」(受動喫煙)に続く害と考えられています。
 「サードハンドスモーク」は、米国小児科学会誌に掲載された米マサチューセッツ総合病院の小児科医らが執筆した論文で用いられた言葉。2004年に報告された米サンディエゴ州立大学の研究で、「家族の中に喫煙者がいない家庭」「母親は喫煙者だが子どもと同じ部屋では吸わない家庭」「子どもに配慮せず吸う家庭」で、家具の表面や空気中などのニコチン濃度を比べたところ、ニコチン濃度が「配慮せず吸う家庭は、同じ部屋で吸わない家庭の3〜8倍、同じ部屋では吸わない家庭でも、喫煙者がいない家庭に比べ5〜7倍」でした。
 小児科医らで作る「子どもをタバコの害から守る合同委員会」の原田正平医師は、「小さい子どもは床や家具に顔が近く、有害物質を摂取しやすい。日本でもサードハンドスモークに関するキャンペーンを企画して、認識を広めていきたい」と話しています。

喫煙と大腸がん
 喫煙者が、果物や野菜を食べると「大腸がんになるリスクが減少どころか増加の恐れ」……こんな意外な結果が、オランダ国立公衆衛生・環境研究所により発表されました。
 今回の研究は、欧州10カ国の約50万人を対象に、その食生活や喫煙の有無などを8年半にわたり調査。その結果は、1日に600グラム以上の野菜や果物を食べる人は、220グラム以下の人より20〜25%ほど大腸がんになる率が低いとみられますが、喫煙者の場合は、野菜や果物の摂取は逆に発症率を増加させたということです。
 2009年、「米臨床栄養学ジャーナル」に掲載された内容ですが、「果物や野菜に含まれる成分が、たばこの煙の発がん性を増加させる可能性がある」と示唆しています。

受動喫煙で肺がんや心筋梗塞死
 厚生労働省の研究班は、受動喫煙が原因の肺がんや心筋梗塞で年間約6800人が死亡していると発表しました。うち職場での受動喫煙が原因とみられるのは、約3600人と半数以上を占めました。
 本研究は、喫煙との因果関係が明らかな肺がんと心筋梗塞に絞って実施。国際的な研究や国内の統計に基づき、日本女性の肺がん死亡の8.1%が受動喫煙によると算出。同様に女性の心筋梗塞の9.1%、男性の肺がんの1.3%、男性の心筋梗塞の3.7%が受動喫煙によると推計し、これを実際の死者数に当てはめると「女性4582人、男性2221人」となりました。
 喫煙による死者は、年間約13万人と推計されていますが、受動喫煙に関する推計は初めてだそうです。
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◆  免疫力 

好中球がオゾンを生産
 京都大学医学研究科の山下浩平助教らは、「水道水の浄水などで行われているオゾン(O3)殺菌が人の体内でも行われている」という研究内容を米国科学アカデミー紀要に発表しました。
 山下助教らは、スーパーオキシドを体内で作ることが出来ない病気の患者の好中球の働きを調べたところ、好中球がオゾンを作っていることを発見。またバクテリアが増えて殺菌が追いつかなくなると、活性酸素に加えてオゾンを作って武器を増やしていることもわかりました。
 好中球にアミノ酸の一つであるトリプトファンを投与すると、オゾンを沢山生産することもわかったため、将来は「白血病などで好中球が減っている患者にアミノ酸を使って免疫力を向上させる治療法」の可能性が出てきたということです。

免疫ブレーキとは
 細菌などに対して抗体を作りにくくしている「免疫のブレーキ」の仕組みを、筑波大大学院・本多伸一郎講師と渋谷彰教授らが発見しました。
 細菌などが人体に入ると、体内のリンパ球が「IgG抗体」を作って攻撃します。しかし、表面を「多糖類」という物質で覆われた肺炎球菌などには、IgG抗体が出来にくくワクチンも効きにくい。これまでそのメカニズムは謎でしたが、本多講師らは「IgM抗体」に注目し、リンパ球からIgM抗体と結びつく受容体を無くしたマウスを遺伝子操作で作りました。そして、そのマウスに肺炎球菌などと構造が似た化学物質を注射したところ、普通のマウスの約10倍のIgG抗体が出来、化学物質を攻撃しました。こうした実験から、「多糖類に覆われた菌などへのIgG抗体の生産」をIgMが抑えていると結論づけました。

腸管免疫とM細胞
 腸の中には大腸菌など無数の細菌が生息していますが、通常は免疫が適切に働いて粘膜から侵入してくることはありません。理化学研究所などの共同研究チームは、腸の粘膜で細菌を取り込み、免疫細胞に提示する「M細胞」でどのようなたんぱく質が作られているかを解析。その結果、「GP2」と呼ばれるたんぱく質がM細胞内に集中して現れることを発見しました。
 さらに遺伝的にGP2を持たないマウスを使って調べたところ、大腸菌やサルモネラ菌がM細胞に取り込まれず、免疫が作られないことが分かりました。またGP2は、大腸菌などの表面にある特定のべん毛に結合することが判明。このべん毛を持たない種類の細菌は、取り込めないことも解明されました。
 GP2による細菌の取り込みと免疫獲得の仕組みはヒトにも共通するといい、GP2に結合する分子を見つけ、これをワクチンの元となるものに混ぜてあげれば、抗原をM細胞に効率よく渡して免疫を作れる。このことは、口から摂取する経口ワクチンの開発に役立つものと期待されています。

免疫を制御する遺伝子
 東京医科歯科大や大阪大などの共同研究グループは、多発性硬化症や関節リウマチなどの原因となる免疫細胞を制御する遺伝子を突き止めました。これらの病気は、本来ウイルスなどの異物を攻撃するはずの免疫細胞が異常反応して組織に障害を与えるため、自己免疫疾患とも呼ばれています。またこれまでの研究により、自己免疫疾患を引き起こすのは「Th17」というT細胞であることが分かっています。
 研究グループは、特定のたんぱく質がTh17細胞の中に多く存在することを発見。T細胞をTh17細胞に分化させる刺激が「このたんぱく質を作る遺伝子の働きを活性化」し、それによってTh17細胞による炎症物質の生成が促進されることが分かりました。この遺伝子をなくしたマウスのT細胞は、刺激を与えてもTh17細胞への分化が進まず、また実験的に多発性硬化症を誘発しても発症しませんでした。
 研究グループは、この遺伝子がTh17細胞を制御しており、自己免疫疾患の治療法開発の有望なターゲットになると見ています。  

◆  環境問題

海水の酸性度が上昇
 シカゴ大学・海洋生物学者ティモシー・ウートン氏らの研究によれば、米国ワシントン州沖にあるタトゥーシュ島周辺で、2000年以降の海水を観測した結果、気候モデルに基づく予測値の10倍の速さでの「海水の酸性度が上昇していること」が明らかになりました。心配なことは、海水が酸性に傾くとその腐食作用で沿岸部の生物に劇的な変化が生じ、貝や甲殻類などの漁獲資源が危機にさらされる恐れがあることです。
 現在、人間が放出した二酸化炭素量の増加により、海洋の酸性度は過去200年間で30%上昇しており、大気中に放出された二酸化炭素は海水に溶けると炭酸を生じ、海洋に生息する生物に悪影響を与えます。実験では、海水の酸性化につれて、炭酸カルシウムでできた貝殻や、造礁サンゴ、ウニなど数多くの海洋生物の骨格に被害が及ぶことが確かめられており、今後の行方が心配されています。

瀬戸内海の温暖化現象
 水産総合研究センター・瀬戸内海区水産研究所(広島県廿日市市)の話では、瀬戸内海にはこれまでいなかった熱帯性の魚が姿を見せる機会が多くなっているとのことです。サツマカサゴもそうだし、ナルトビエイにいたっては大群を作って遊泳しています。
 事実、広島湾の海水温は1980年代に比べて0.5度ほど上昇しているそうで、また日本海の水温は100年間で1.7度高くなっているとのこと。
 ゴマサバとマサバの増減の関係もその一例で、マサバの資源量は横ばいか減少傾向であるのに対し、やや南方系のゴマサバは増加。また日本海のスルメイカは、水温が高い年に漁獲が多くなる傾向があるが、1990年代以降、以前より多く獲れるようになっているそうです。
 天然のブリも近年、好調。80年代の少ない時には4万トンほどだったのが、近年は2倍の漁獲量に増加。これも日本海の水温の高さが関係していると見られています。
 しかし、地球の温暖化に安心してばかりもいられません。二酸化炭素がさらに増えれば海水の酸性度が上がり、貝類や生態系を支えるプランクトンに危機を与えるとのことです。

環境と病気に関する疫学調査
 アトピーやぜんそくなど、近年増えている子どもの病気と化学物質との関係を解明するため、環境省は2010年度から国内約6万組の母子を対象に「子どもの出生前から12歳までの健康状態を追跡する疫学調査」を開始すると発表しました。
 同省によると、日本では過去20年間で小児ぜんそくの患者の割合が2〜3倍に増加。ダウン症の発生頻度も過去25年間で倍増しているほか、小児肥満や小児糖尿病など代謝・内分泌系の異常の増加も目立つ。増加の背景には子どもをめぐる環境の変化があると推定されるが、どんな環境要因がどうかかわっているかは不明。
 環境省の調査は、化学物質を子どもが体内に取り込む量と免疫系の異常、発育障害などとの関係を解明するため、出産時にさい帯血を採取するほか、出産前後から子どもが12歳になるまで定期的に調査して健康状態を把握する。なお結果がまとまるのは、2025年頃の見通しだそうです。

地球温暖化の大問題
 米国ワシントン大学とスタンフォード大学の研究チームは、「世界の熱帯や亜熱帯地域において農作物の生産期の平均気温が、今世紀末までに1900〜2006年に記録した最高気温を上回る可能性が90%以上」あり、熱帯ではトウモロコシやコメなどの生産量が20〜40%減少する恐れがあることを発表しました。
 この内容は、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2007年に発表した地球温暖化の予測に基づくものを分析したもので、世界人口の半分に近い「約30億人が食料危機に直面する」という厳しい内容になっています。
 一方、温帯でも、2003年に西欧を襲った熱波で約5万2000人が死亡したような酷暑が「今世紀末までに常態化する可能性が高い」と指摘。フランスやイタリアでは、小麦や家畜飼料の生産量が3分の1に減少すると予測しました。なお同研究チームは、高温や乾燥に強い農作物の品種開発や灌漑の整備投資を増やし、食料生産体制を強化する必要があると訴えています。

北極の氷と地球温暖化
 米航空宇宙局(NASA)は、観測衛星「ICESat」のデータを分析した結果、北極の海氷の厚さが2004年から08年までの4年間に「約67センチ薄くなったこと」が分かったと発表しました。
 調査は、ワシントン大学と合同で実施。北極の氷は、2004年から毎年約17センチずつ薄くなるとともに、夏場を乗り切った古く分厚い氷の比率も減少。古い氷は、アラスカ州に相当する面積が縮小したということです。
 NASAは、「近年、夏場に消失した氷を冬場に補うことが出来なくなっている。海を覆う氷が減少すると、太陽の光は益々海に吸収され、海水温の上昇を招いて氷を溶かす悪循環に陥っている」と警告しています。

オゾン層を破壊する物質
 肥料の使用や化学物質の製造過程で出る「亜酸化窒素(N2O)」が、現時点でオゾン層を最も破壊する物質であることを米海洋大気局の研究チームが突き止め、米国の科学誌「サイエンス」に発表されました。亜酸化窒素(N2O)は窒素酸化物の一種で、自然界に存在するほか、化石燃料の燃焼や肥料の使用、硝酸など化学物質の製造過程で発生します。大気中のN2Oが成層圏で光によって分解される際、酸化窒素(NO)が生成し、これがオゾンを分解します。
 研究チームは、フロンや四塩化炭素など9物質について、排出量を基にオゾン層への影響を比較しました。その結果、1987年はフロンの一種「CFC−12」が最も高かったが、2008年にはN2Oが最大となり、影響は2位の物質の2倍以上。
 N2Oには二酸化炭素の310倍の温室効果があり、地球温暖化防止のため、「京都議定書」で先進国に削減を義務付けた温室効果ガスの一つ。環境省によると、日本の排出量(実重量)は1990年度の10万3000トンから、2007年度は7万7000トンまで減少しているとのことです。

スズメの数が激減
 国内のスズメの生息数は1800万羽にとどまることが、立教大理学部の三上修・特別研究員の調査で分かりました。餌場の田畑と巣を作る木造家屋の減少などにより、ここ20年足らずで最大80%、半世紀前との比較では90%も減少したとみられています。
 調査は、2008年5〜6月に実施。気候の偏りなどを考慮して秋田、埼玉、熊本の3県を調査地に選び、住宅地・農村・森林など五つの生息環境について巣の平均密度を算出。国土交通省が持つ建物用地や森林などの面積データとの比率を基に計算すると、巣は全国に約900万個あり、個体数はつがいで約1800万羽と推定。
 一方の減少率は、農作物の被害面積や有害鳥獣駆除数の推移などから推定。個体数は1990年以降80〜50%程度減り、1960年ごろとの比較では10分の1になった可能性もあると結論付けられました。

飢餓人口10億人突破
 世界の食糧支援規模が最低水準となる一方で、飢餓人口は2009年、過去最高の水準の10億人を突破することを国連世界食糧計画(WFP)が明らかにしました。
 しかし、WFPは深刻な予算不足に直面しており、2009年度予算67億ドル(約6090億円)のうち、26億ドル(約2360億円)しか確定していません。WFPは声明で、「多くの人が世界的な金融危機に巻き込まれている。食品価格の高止まりが影響して、購買力が制限されている。そうした状況に加えて、予測のつかない天候が起因する飢餓をさらに生み出している」と述べています。
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◆  カゼ・インフルエンザ

新型インフルエンザの脅威
 新型インフルエンザが国内で発生すると、最悪の場合「2500万人が病院にかかり、64万人が死亡する」というだけに事前の対策が不可欠です。
 インフルエンザについておさらいしてみると、種類はA型、B型、C型の3種類。A型は、さらに144種類の亜型に分かれ、そのうち人が免疫を持っているのはH1N1やH3N2などごく一部で、免疫がない亜型はいずれも新型候補となります。現在、H5N1が候補に挙げられていますが、感染力は"鳥から人""人から人"ともに限定的。それが強く"人から人に感染"を起こすように変異したのが新型と呼ばれるものです。
 もしH5N1に感染したとしたら?
 38度以上の高熱や咳、そして呼吸困難や多臓器不全などを起こし、60%以上が死亡してしまうというから恐ろしい話です。
 では、感染者に接触したら?
 中国やベトナムなどで人に感染したH5N1ウイルスは、肺で増殖しています。肺で増殖するうちはウイルスが体外に出にくいので、人には感染しにくい。しかし、喉で増殖するようになると、咳やくしゃみとして移り、危険性が増します。
 新型に薬は効くのか?
 従来のインフルエンザも"新型"も、タミフルやリレンザが効果的。どちらの薬も、発症から48時間以内に投与することが大切。しかし、タミフルにはすでに耐性ウイルスが見つかっています。さらに問題は、インフルエンザウイルスが感染する可能性のある人や鳥、豚などの体内で耐性ウイルスと"新型"とが出合い、遺伝的な交雑が起こって耐性化するとタミフルが使えなくなります。リレンザについては、まだ耐性ウイルスは見つかっていません。タミフルの耐性ウイルスに感染しても、リレンザがあることが唯一の救いです。
 従来のインフルエンザ予防接種は効果的か?
 新型の感染は防げないが、重症化を防ぐことができます。
 日本で新型が生まれる可能性はあるのか?
 十和田湖の白鳥の死骸からH5N1ウイルスが見つかっています。可能性はゼロではないが、今のところその確率は低いとのことです。

新型インフルエンザの構造
 科学技術振興機構の西浦博研究員らは、新型インフルエンザが人に感染するかどうかを左右するウイルスの構造が「スペイン風邪など20世紀前半に流行したウイルスと同じだった」ことを発表しました。また日本で1人の感染者から広がるのは1.21〜1.35人で、感染力は季節性インフルエンザと同じか弱いことも判明しました。
 ウイルスの表面には「ヘマグルチニン」という突起があり、この突起を使ってウイルスはヒトの細胞に侵入します。研究チームは、新型と同じH1N1型の過去のウイルスでヘマグルチニンの先端構造を比較しました。その結果、1918〜40年代前半に流行したスペイン風邪や同時期の季節性インフルエンザのウイルスは、先端の構造が同じだったことが判明。これに対し、77年以降は同じ構造を持つウイルスが、ほぼなくなっていました。このため、60歳代以上では新型に免疫を持つようになったと考えられます。さらに確定患者約3500人を対象に、感染のしやすさを調査。20〜39歳を1とした場合、19歳以下は2.7倍、40〜59歳が0.56倍、60歳以上は0.17倍となったそうです。

インフルエンザワクチンの回数
 2009年10月に開催された日本ウイルス学会学術集会において、「新型インフルエンザに対し、成人の多くが基礎的な免疫を持っている可能性が高い」ことが報告されました。これは、季節性のソ連型インフルエンザへの感染歴によるもので、新型への感染を防ぐのは難しいものの、大半の人は軽症で済むとのことです。
 国立病院機構が成人約200人を対象に始めた臨床試験では、ワクチンを1回接種すれば、免疫の基となる抗体の値が十分上昇することが分かっています。発症を予防するレベルではないが、1回のワクチン接種で十分な効果を得ることが出来るとのこと。そのため、大人のワクチン接種回数は1回で済むというわけです。しかし、子供の場合は基礎免疫がなく、まったく新しいウイルスであるため、2回接種しなければ抗体価が上昇しないのです。

万能インフルエンザワクチンの開発
 厚生労働省は、国立感染症研究所、北海道大、埼玉医科大、日油の研究チームによる「いろいろなタイプのインフルエンザウイルスに効くワクチン」を開発したと発表しました。従来のワクチンと違って「ウイルスが変異しても効果が続く」のが特徴で、動物実験で確認されたとのこと。
 通常のワクチンは、ウイルス表面をトゲのように覆うたんぱく質を元に作成します。接種後、ウイルスが体内に侵入すると「抗体がトゲを認識して増殖を阻止」します。しかし、インフルエンザはトゲの形が異なる複数のウイルスが流行することが多い上に、頻繁にトゲの形が変異するため、毎年のようにワクチンを作り直す必要がありました。そこで研究チームは、表面に比べて変異しにくいウイルス内部のたんぱく質を人工合成。それに特殊な脂質膜を付けてワクチンを製造。このワクチンを接種すると、免疫細胞がウイルスに感染した細胞を攻撃します。
 実験では、新型インフルエンザウイルスに変異する可能性が高い高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1、Aソ連型、A香港型の3種共通の内部たんぱく質を調べてワクチンを作製。免疫に関与する人間の遺伝子を組み入れたマウスに接種した後、ウイルス3種をマウスに感染させても症状が表れず、効果が確認されました。実用化までには数年かかるとみられますが、新型インフルエンザの予防に役立つと期待されています。

フコイダンがワクチン効果を高める
 メカブに含まれる粘り成分「フコイダン」が、インフルエンザワクチンの効果を高めることを理研ビタミン、豊中愛和会、武庫川女子大国際健康開発研究所の共同研究で分かりました。
 フコイダンは、メカブのほかワカメやコンブなどに含まれる粘り成分の一つ。特有のヌルヌルで海草本体を守り、海中から引き揚げられた際などに乾燥を防ぐ働きがあります。生体に対しては、抗酸化作用や抗がん作用、抗ウイルス作用などが動物実験で確認されています。
 今回の研究では、67〜102歳(平均年齢87歳)の男女67人を2グループに分け、一方のグループにメカブフコダインを、他方に疑似粉末を1日当たりそれぞれ300ミリグラム摂取。1カ月後、3種混合季節性インフルエンザワクチンを接種し、さらにその1カ月後には、感染予防に重要な役割を果たす抗体がどの程度出来ているかを測定。その結果、メカブフコイダンを摂取したグループは、疑似粉末のグループに比べA香港型(H3N2)、B型、Aソ連型(H1N1)の3種ともに抗体の増加が見られたということです。

インフルエンザの脅威
 インフルエンザウイルスは、直径が1万分の1ミリほどの大きさで、タンパク質の殻の中に8本のRNAを遺伝子として持っています。殻の表面は、HA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)という2種類の突起状のタンパク質で覆われていて、H1N1などのウイルスの型は、突起状タンパク質の違いを示しています。
 ウイルスが人に感染する時は、HAが人の細胞表面の糖タンパクに結合して細胞内に入り込みます。一方のNAは、ウイルスが別の細胞に移る時にウイルスと細胞を切り離す働きを持っています。
 人類にとってやっかいなのは、HAとNAがともに変異を起こしやすいことです。HAは16種類、NAは9種類が存在するので、その組み合わせだけで144の型に分けられます。その上、同じ型のウイルスでもHAやNAを構成するアミノ酸に変異が生じます。感染を予防するワクチンや増殖を阻害する抗インフルエンザ薬タミフルは、ウイルスの型に合わせて作用しますが、型が違ったり、HAやNAが新たな変異を起こした場合には効果がなくなってしまいます。
 例えば、今回の豚インフルエンザはソ連かぜなどと同じH1N1型ですが、従来のワクチンでは効果なし。また1997年に人への感染が確認された強毒性のH5N1型では、タミフルが効かない耐性ウイルスが現れています。
 致死率が0・1%程度の弱毒性でも、1000万人が感染すれば死者は1万人に達しますので注意が必要です。

新型インフルエンザにたんぱく質
 アレルギー抑制などの分野で、研究が進められてきたタンパク質「チオレドキシン」。粘膜の炎症抑制に優れた効果を発揮する上、副作用の心配がなく、劇症化防止や症状緩和に役立つものと新薬開発が期待されています。
 チオレドキシンは、アレルギーや薬による副作用の抑制に役立つタンパク質を探していた京都大学ウイルス研究所が、平成2年に人の細胞内から発見したもので、研究を進める中、のどや胃の粘膜に起こる炎症を抑える効果があることが判明しました。
 同研究所と国立感染症研究所の共同実験では、インフルエンザウイルスに対し、チオレドキシンを多く発現させたマウスは「通常のマウスに比べて約8倍の耐性を持つ」ことがわかり、新型インフルエンザに対しても効能が発揮される可能性は高いと期待されています。

カゼを引きやすい体質とは
 私たちの体は、カゼの原因となるウイルスなどが侵入すると免疫機能が働いて排除しようとします。この体の抵抗力、いわゆる免疫力が弱い人はカゼを引きやすい体質とも言えます。免疫細胞の中でも、カゼに関してはNK(ナチュラルキラー)細胞の活性が大きく左右しています。
 NK細胞はリンパ球の1つで、ウイルスなどを破壊する免疫細胞です。NK活性は自律神経の働きとの関連が強く、就寝、起床時間が不規則であったり、精神的ストレスがあると活性が弱まってしまいます。また体質的に10人に1人くらいの割合で、NK活性が弱い人がいます。
 NK活性を促すには、良質のたんぱく質の他、ビタミンやミネラルをしっかり取ることが必要です。またβ‐グルカンを多く含むキノコ類や乳酸菌を含むヨーグルトなどにも免疫細胞を活性化させる働きがあることが知られています。

ヨーグルトとインフルエンザ
 乳酸菌「1073R−1」を使ったヨーグルトを摂取すると、インフルエンザウイルスの増殖を抑えることが北里大・山田陽城教授らの研究でわかりました。
 研究チームは、1073R−1のヨーグルトをマウスに4週間与えたところ、NK細胞の働きがより活発になり、この乳酸菌が作る多糖体(EPS)を与えても同様の結果を得ました。またヨーグルトやEPSを食べさせたマウスにインフルエンザウイルスを感染させたところ、感染力のある肺の中のウイルス量が減少。さらに60歳以上の72人にこのヨーグルトを8〜12週間食べてもらい、食べなかった70人と比較したところ、「食べた人は、風邪をひく危険度が半減」したそうです。

インフルエンザ対策に多糖体
 インフルエンザが猛威を振るう中、注目を集めているのが乳酸菌食品です。例えば、EPS(Exopolusaccharide)という成分。EPSとは、乳酸菌などの微生物が菌体外に産生する多糖体のことです。多糖体は、小腸にあるパイエル板などを刺激することで免疫力を高める成分ですが、この多糖体がブルガリア菌の中の「1073R-1」という乳酸菌によって多く作り出されることがわかりました。
 ヨーグルト以外にも、キノコ、メカブ、モズクなどに多糖体が含まれています。普段から、これらの食品を意識して取ることもよいでしょう。ただし、一番の基本は、バランスの取れた食事と適度の運動、そして睡眠です。

インフルエンザ対策に多糖類と乳酸菌
 多糖類のβグルカンと乳酸菌の摂取は、インフルエンザウイルスの感染を防いだり、感染後の重症化を抑える可能性があることを北海道大人獣共通感染症リサーチセンター・宮崎忠昭教授の研究グループが発表しました。
 宮崎教授らは、βグルカンと乳酸菌が生体防御機能を高めることに注目。マウスによる実験で、酵母由来のβグルカンと乳酸菌、新型インフルエンザに近いH1N1亜型のウイルスを使用。
 3分の1のマウスが死ぬ量のウイルスに感染させた場合、βグルカンを感染の前後2週間摂取させたマウスの生存率は100%で、感染直後のタミフル投与と同等の結果でした。さらに全滅する量のウイルスに感染させた場合、タミフル投与では50%の生存率でしたが、βグルカンと乳酸菌を併用すると生存率は75%まで上昇。これは、タミフルとβグルカンの併用と同等でした。またβグルカンと乳酸菌の場合、タミフル投与と比べて体重の減少が少ないという効果もあったそうです。

新型インフルエンザに緑茶
 緑茶成分のカテキンが、新型インフルエンザウイルスに直接作用して増殖を抑えることを徳島文理大学の葛原隆教授らが突き止めました。新型やAソ連型などのA型ウイルスは、増殖に不可欠なRNAポリメラーゼという酵素を持ち、人間や豚の細胞中のRNAを切断して新しいウイルスの材料にしています。
 葛原教授らは、A型ウイルスからこの酵素を取り出し、緑茶に多い5種類のカテキンを一つずつ加えていったところ、「2種類のカテキン」で酵素が働かなくなりました。この2種類のカテキンと酵素分子の立体構造をコンピューターで計算し、重ね合わせたところ、酵素分子の表面にある窪みにカテキン分子がすっぽりと入り込むことがわかりました。この窪みの中にはRNAを切断する「刃」が存在しますが、カテキンがそれに蓋をすることで作用を阻害したわけです。
 しかし、カテキンは腸で分解されるため、緑茶を飲むだけでは抗ウイルス効果は弱い。今後は、カテキンの構造を少し変えて腸で分解されないようにするか、吸引式にすれば、効果的な新薬にもなり得るとのことです。

塩水でのうがい効果
 風邪予防のために「塩水でうがい」をする。これに類似した方法は、江戸時代の貝原益軒著「養生訓」でも紹介されています。単なる民間伝承なのか、それとも科学的な根拠があるのか……。
 実は、口腔は、経口感染や経気道感染などの感染経路によって引き起こされる疾病を予防し、生体の恒常性を維持する上で重要な働きを持っています。例えば、唾液中に含まれる免疫物質S-IgA。ある研究によれば、ナトリウム45%濃度の塩水、マグネシウム30%濃度のにがり水でS-IgA量が増加することが確認されました。
 インフルエンザウイルスは、30分程で侵入すると言われています。それを阻止するには、うがいも30分ごと。これでは、かなり小まめなうがいが必要となります。すでに天然にがり水を商品化したスプレータイプの「うがい液」が発売中とか。これであれば、外出先でもこまめにプッシュして予防することが可能ですね。

インフルエンザ予防に口腔ケア
 インフルエンザ対策に口腔ケアが有効との認識が広まったのは、平成18年、東京歯科大・奥田克爾教授らが発表した論文「口腔ケアによる細菌性酵素活性の減少とインフルエンザの感染予防」によるものです。介護施設の高齢者を対象に口内ケアを実施した98人と、実施しない92人のインフルエンザ発症を調査。後者の発症が9人だったのに対し、前者の発症は1人だけだったという内容のもの。
 そもそも口や喉に存在する細菌は、プロテアーゼやノイラミニダーゼなどの酵素を生産します。プロテアーゼは口や喉の粘膜を守る層を破壊し、ウイルス感染をしやすくし、ノイラミニダーゼはウイルスの細胞から細胞への感染を助長します。しかし、口内ケアで、これらの酵素を生産する細菌を減らすことが出来るというものです。
 また伊藤園の中央研究所は、緑茶に含まれるカテキンとテアニンがインフルエンザの発症率を抑えることを発表しました。この臨床試験は、静岡県立大・山田浩教授と社会福祉法人白十字会・田熊規方博士との共同研究として実施されたものです。試験は、成人200人を2グループに分け、片方のグループだけにカテキン378ミリグラム、テアニン210ミリグラムを毎日3回に分けて摂取させ、インフルエンザ発症の人数を比較しました。その結果、カテキンとテアニンを摂取したグループで発症したのは4人で、摂取しないグループの13人と比べ、3倍以上も発症数が抑えられたというものです。

乾布摩擦でカゼ予防
 昔の人は、カゼやインフルエンザ予防に乾布摩擦を推奨していました。一体どのような効果があるのでしょうか?
 人間の体は、寒い場所に行くと体を冷やさないようにするため、毛細血管がギュっと縮まります。逆に暖かい場所に行けば緩みます。このように人の体は、血管をコントロールしながら血液循環をよくしています。しかし現代人は、エアコンに頼り過ぎてしまっているため、体温調節がうまく出来なくなっている傾向にあります。
 例えば「寒い」と思って、上着を着たとします。すると下半身や手足は温まっていないのに、脳が「全身が温まった」と勘違いを起こしてしまいます。そうなると下半身の冷えからカゼを引き起こしやすくなります。大切なことは、全身に刺激を与えて血行を良くすること。例えば、毎日適度な運動をするのが一番ですが、それが難しい場合は「乾布摩擦で肌に直接刺激を与える」のが効果的です。
 乾布摩擦は、毎日10分ほど続けるとカゼを引きにくくなるといわれています。また皮膚を鍛える意味では、普段からプールなどに通っているとカゼを引きにくくなるともいわれています。


◆  胃腸の病気

ネアンデルタール人は乳糖不耐症
 ネアンデルタール人は、約3万年前に絶滅したとされていますが、ドイツのライプチヒにあるマックス・プランク進化人類学研究所らのグループは、ネアンデルタール人のゲノム解析の結果について次のように発表しています。
 まず今回解読された塩基配列から、現生人類とネアンデルタール人のゲノムが99.5%同じであることが示唆されました。またこれまでの研究によれば、ネアンデルタール人のDNAと現生人類との間では、FOXP2と呼ばれる"言語遺伝子"の同じバージョンが共有されており、この遺伝子は言語能力の発達に関与しているため、ネアンデルタール人は会話が可能だったことも考えられるそうです。
 さらにゲノム解読により、成人のネアンデルタール人が乳糖を消化できなかったという証拠も積み上げられました。なお今後は、脳の発達に関する遺伝子で比較検証を行う予定だそうです。

男性に多い過敏性腸症候群
 国内の20〜79歳の男性のうち、過敏性腸症候群(IBS)にかかっている人が1割近くいることが、島根大医学部・木下芳一教授の調べで分かりました。調査は全国20〜79歳の男性2万人を対象にインターネット上で実施。その結果、下痢系IBS患者は全体の8.9%。年齢別に見ると、20歳代が11.2%で最も多く、次いで40歳代10.4%、30歳代10.0%、50歳代7.8%、60歳以上5.3%の順でした。
 IBSは、大腸や小腸に原因となる異常は見られないが、腹痛など腹部症状に下痢や便秘といった便通異常を伴う疾患。医療機関の受診については、74%が「受診なし」だったほか、他の疾患で医療機関を受診する機会があっても、54.7%が腹部症状を医師に相談したことがないと回答。
 下痢の症状があったときの対処法としては、「食べ物や飲み物に気を付ける」(53%)、「トイレを見つけたらすぐに行く」(37%)、「市販の薬を飲む」(36%)、「外出先等でトイレの場所を意識するようにする」(33%)などが多かったそうです。

日本人の胃
 穀物を主食とする日本人に多い胃の形は、縦に長い「鉤状型(フック型)」です。穀物は、長時間胃に留まるため、胃がその重みで下がってしまったと考えられています。鉤状型では、胃角部に歪みが出来て血流が悪くなるため、その部分に潰瘍ができやすくなります。日本人に胃潰瘍が多いのは、そのような理由からです。
 一方、肉食中心の欧米人に多いのは「牛角型」で、胃全体は小さいのですが、胃壁が厚いのが特徴です。牛角型の胃の運動は、非常に活発です。胃酸の分泌も多く、それが十二指腸に流れ込みやすいので、欧米人は胃潰瘍よりも十二指腸潰瘍の方が多いのはそのためです。このように病気が出来る場所も、胃の形や運動の違いなど体質に大きな影響を受けているのです。

O型は十二指腸潰瘍になりやすい
 
血液型がO型の人は、十二指腸潰瘍の出来やすさが他の血液型に比べて1.4倍であることを、東京大学医科学研究所などのチームが明らかにしました。
 研究チームは、十二指腸潰瘍患者と健常者計約3万3000人の遺伝子の違いを調査。その結果、血液型を決める遺伝子がこの潰瘍の出来やすさに関係していることを突き止めました。O型の遺伝子を持つ人は、日本人に最も多いA型に比べて1.43倍、十二指腸潰瘍になりやすいことが分かり、B型やAB型はA型とほぼ同程度だったということです。
 血液型は、赤血球の表面にある物質の違いで決まります。共通の遺伝子で作られる同じ物質が腸の粘膜にもあり、潰瘍の原因となるピロリ菌が付着する目印になっている可能性があるとのことです。
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◆  医療費問題

医療費の実態と予防医学
 2008年、75歳以上の人を年齢差で区別する医療保険「後期高齢者医療制度」が導入されましたが、そのネーミングやお年寄りの負担増などで不満の声が強く、これを廃止して2013年度から新たな医療制度に移行しようと検討が続けられています。
 大事なことは、健康保険の現状を知ること。とにかく大赤字なのである。2009年度について見ると、中小企業が入る「協会けんぽ」の赤字は4830億円。保険料率が労使折半で9.34%。このうち3.5%が後期高齢者医療の支援金に充てられています。大企業のサラリーマンが加入している「健保組合」の赤字は5235億円。「市町村国保」の赤字は約2300億円で、いずれもこのままでは何年ももたない状況に陥っています。
 一方、介護問題に関しても決して無視は出来ません。「いざ介護が始まっても"介護保険"があるから安心」という人がいますが、介護にかかるお金はそんなに甘くはありません。例えば、要介護5の人なら、介護保険のサービスを35万8300円まで利用出来るので、実費負担は1割で月3万円ぐらい。しかし、介護保険でまかなえるのは、訪問介護や訪問看護、デイサービス、介護用品のレンタル代などに限られます。
 医療費、おむつ代、送迎費、バリアフリーのためのリフォーム代など+αのお金がかかり、年間で計算するとその費用だけでも100万〜150万円。5年間の介護期間があるとすると、総額700万〜800万円ほどかかります。また介護のために離職する人が年間およそ10万人いるという現実も無視できません。
 病気になってからではなく、ならないように「予防すること」をもっと多くの人が意識して欲しいと思います。

疾病による経済的損失
 私は、長年に渡って予防医学の重要性について主張してきました。予防医学は、日本の経済的なコスト面(損失)からみても、絶対に推進すべき課題であると思っています。
 「病気のコスト」に関しては、東北大学大学院・濃沼信夫教授らの試算があります。「病気のコスト」とは、医療費や介護費用などの「直接費用」、本来得られるはずの生産性(賃金嫁得額)という経済的損失の「間接費用」を合わせたものです。
 まずがんのコスト(経済的損失)は、9兆4182億円(2005年度)。内訳は、直接医療費2兆5748億円、入院費用4182億円、通院1275億円、早期死亡による経済的損失6兆5617億円。同様に、心疾患のコストは3兆5797億円、脳血管疾患のコストは1兆7954億円、糖尿病のコストは1兆1166億円となります。 その他では、自殺が1兆6451億円、また認知症は4兆円〜5.6兆円という試算が出ています。

糖尿病よりも高血圧

 平成18年国民健康・栄養調査によれば、高血圧症有病者は3970万人で、予備軍を含めた高血圧患者は5490万人に上ると推定されました。そのうち、病院での治療を受けている人は800万人。また国民医療費32兆1千億円のうち、高血圧性疾患は2兆8千億円に上り、生活習慣病の中ではがん、脳血管疾患、糖尿病を抑えてトップとなっています。
 医療関係者は、「医療費を削減するには、糖尿病よりも高血圧対策が先決である」と指摘しているそうです。

◆  疲労感

慢性疲労症候群の原因
 原因不明の強い疲労が続く慢性疲労症候群の患者は、マウスの白血病ウイルスに近い「XMRV」に極めて高率で感染していることが米国立がん研究所などの分析で分かりました。同症候群は1980年代に米国で確認され、世界に約1700万人の患者がいると推定されます。これまでの研究で、様々なストレスにさらされ続けると「免疫や神経の働きが乱れて発症する」ことが分かっています。
 血液検査の結果では、米国の患者のうち、67%でXMRVが陽性反応を示しました(健康な人の陽性は、3.7%)。
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◆  代替医療

日本学術会議「ホメオパシー」を否定
 日本学術会議は、最近広まっているホメオパシー療法について、「科学的に明確に否定されている。治療に使用することは厳に慎むべき行為」との談話を発表しました。
 ホメオパシーは、健康な人間に投与するとある症状を引き起こす物質を希釈し、ごく少量投与することによって似た症状の病気を治すという療法。植物や鉱物などを混ぜた水を薄く希釈し、砂糖玉に染み込ませて与えたりするものです。しかし、最近、頭蓋内出血防止用のビタミンK2シロップを与えず、その代わりとしてホメオパシーを受けた乳児が死亡し、親と助産師の間で訴訟に発展したケースがありました。
 日本学術会議では、ホメオパシーについて「科学的根拠がなく、荒唐無稽。今のうちに排除しなければ、『自然に近い安全で有効な治療』という誤解が広がり、深刻な事態に陥ることが懸念される」と発表しています。 

◆  感染症

肺炎球菌ワクチンの実用化
 インフルエンザと並んで重い感染症の原因となっている肺炎球菌ワクチンが、実用化されました。肺炎球菌は、人の鼻やのどの粘膜に定着し、せきなどによって他の人に次々と広がるもので、小児の細菌感染症の原因としては最も多いとされています。またヒブ(インフルエンザ菌b型)ワクチンと両方接種することで、急性中耳炎のほか、肺炎、髄膜炎、菌血症など重症の細菌感染症を予防出来るそうです。
 米英など35カ国では、既に定期接種化。中国などのアジア、東欧、南米など93の国でも導入が進み、これまで実用化されていないのは日本とアフリカや中東の国々となっていました。今回、実用化された小児用ワクチンは、生後2カ月以上9歳以下が対象で任意接種。接種の時期は、できるだけ早い方がよいとされています。

マイコプラズマ肺炎患者が増加

 国立感染症研究所の報告によれば、インフルエンザが流行する一方で、高熱や激しいせきが長く続く「マイコプラズマ肺炎」にかかる人が増加中とのこと。市販薬は効かず、治療が遅れると重症化する恐れもあることから、注意を呼びかけています。
 病原体は、肺炎マイコプラズマと呼ばれる細菌の一種で、気管支で増殖して炎症を引き起こします。感染すると高熱が出て、乾いた激しいせきが長く続くのが特徴で、季節では「晩秋から春にかけて流行する特徴」があります。

レジオネラ菌感染者が急増
 重い肺炎の原因となるレジオネラ菌感染者数が、「この5年間で5倍近く増えた」ことが国立感染症研究所の調査で分かりました。菌を含んだ水滴を吸うと感染するため、ジャグジーや打たせ湯などを備えた施設の普及が背景にあると見られます。
 同研究所が全国の医療機関からの報告を統計として取り始めた2000年以降、毎年ほぼ150人前後で推移していましたが、2007年には668人が確認、2008年度も9月末で686人を記録しました。このうち、感染源が判明したのは半数で、いずれも大半は入浴施設の利用者といいます。
 レジオネラ菌は、肺炎球菌に次ぐ重症肺炎の原因菌で、抵抗力の落ちた人は意識障害や四肢の震えなど重症化します。菌は日常生活のどこにでも存在し、水温が36度前後で最も繁殖します。「入浴施設の利用者は、疑わしい症状が出たら早めに受診してほしい」とのことです。

結核患者が増加している
 2009年4月、女性お笑いコンビ・ハリセンボンの箕輪はるかさん(29)が「肺結核に感染」との話題が大きく報じられました。報道によると、箕輪さんは2008年12月頃からせきや微熱などの症状がみられたものの、そのまま仕事を続け、ようやく4ヶ月経ってから肺結核を発症していたことが判明したとのこと。
 結核は、けっして「過去の病気」ではなく、2008年度でも2万5311人もが患者として新規登録されています。年代別では、80歳以上が一番多く25.5%。次いで70歳代が22.4%、60歳代が14.6%と、年齢が高くなるほど発症者が多くなる傾向が見られます。
 2週間以上もせきが止まらなければ要注意、単なる風邪だと自己判断せずに病院で検査して下さい。感染していても、発症するのは1割程度ですが、発症した場合は即入院が必要で、入院期間は順調にいった場合で約2カ月。症状が重い場合は、さらに長期間の入院生活が強いられます。結核は早めに見つけ、しっかり治療すれば完治する病気です。

輸入魚介類にノロウイルス
 海外から輸入された生鮮魚介類の14.8%が、食中毒の原因となるノロウイルスに汚染されていたことが厚生労働省研究班の調査で分かりました。
 調査は、2006年4月から09年2月にかけて実施。市販された貝類など723検体を調べたところ、107検体(14.8%)からノロウイルスが検出。種類別では、ハマグリ20.2%、タイラギ19.0%、アカガイ16.8%の順で、カキは加熱用14.6%に対し、生食用は2.1%でした。時期別の汚染率は、2月(34.0%)、5月(24.7%)が高く、その他は20%以下。最も汚染率が高かった産地は、ベトナム42.9%で、2位は中国17.4%でした。
 西尾治・国立感染症研究所客員研究員は、「ノロウイルスは熱に弱いため、85度で1分以上の加熱調理を心掛けてほしい」と語っています。

食中毒菌の繁殖力
 食中毒を引き起こす原因菌は、栄養素、温度、水分などの条件が揃えばどこでも繁殖します。繁殖のスピードは菌の種類や環境によっても違いますが、最適な条件下の場合で一番早いといわれているのは、腸炎ビブリオ。1個から2個になるのに約8分。大腸菌は約20分、パン酵母菌だと約40分。
 腸炎ビブリオの場合、単純計算すると2時間で最大3万2768倍にまで増殖します。この菌は、10の5乗(10万)個以上で食中毒を起こすといわれているので、仮に4個入ってしまっただけで2時間後にはアウトとなります。特にお茶は菌が好む栄養が豊富なので、他の飲料と比較しても菌が繁殖しやすいといえます。冷蔵庫での保管ですが、多くの菌は10度以下でほとんど活動しなくなりますが、それでも死滅するわけではなく、冷凍庫の中でもいくつかの菌はゆっくりと繁殖するので安心は出来ません。
 食中毒を防ぐには、やはり食材の加熱調理や調理器具の熱湯消毒が効果的。まな板は、使ったあと熱湯をかけてよく乾燥させること。人が保持している菌もいますから、トイレ後の手洗いも大事です。

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